アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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今回でジェシカ編は終了です。


帝国歴1246年 帝国軽装歩兵皇帝ジェシカ編(カンバーランド後編)

 Side ジョン

 

 薄暗い酒場に火が灯される中、後に七英雄と呼ばれる者達の深刻な会話。

 

 ワグナスにノエル、スービエ、既に合流を果たしている荒くれ者のダンターグ。

 

 彼等四人は──アリのモンスター……タームの巣穴の奇襲作戦の会議を行っている。

 

 作戦の概要としてはスービエとダンターグが囮としてターム達を掻き回し、その隙にノエルが率いる赤竜隊が巣穴深部にいるとされるターム達の親玉──女王(クイーン)を討伐すると言うものであった。

 

 比較的シンプルな作戦であるが、簡単ではないだろう。

 

 この奇襲作戦に関して評議会から明確な容認は難しいもの、ターム達の激昂と逆襲を恐れているからだ。

 

 我が身可愛さからタームを恐れ、安全圏にいる彼等の判断を待っていれば王都から離れた町は犠牲になっていく。

 

 ターム達は女王(クイーン)の為に従順し、町を襲っては人を攫い、女王(クイーン)を成長させようとする。

 

 攫った人間の数だけ女王(クイーン)は成長、更に多くのタームを産み出す。

 

 その成長スピードで何れ王都の地下にも巣を作っていけば、例えワグナス達でも抗う術はない。

 

 一刻も早くタームを全て殲滅するべきだと考えるワグナス達、その彼等に「無理でしょうね」と外野の声が届く。

 

 慇懃無礼な口調で語るその人物はワグナスの知人であり、彼は何故その奇襲作戦に自分に声を掛けないのかと苦言を齎す。

 

 ノエルはその人物が荒事に興味を持たないと思っての事だが、前線に向いていないその人物は策略に長けている。

 

 後一手、駒を一つ動かす事で戦況を優位に導く事が出来る。

 

 それこそが後の七英雄で知将とも呼ばれるボクオーンの指摘。

 

 スービエは終始面白くなさそうだったが、ワグナスはその指摘についての説明を受ける事にした。

 

 ……それがダグラス城にあった七英雄の記憶の内容。

 

 それを説明しながら語ったジェシカ陛下は難しそうに頭を抱え、情報許容範囲が超えそうであった。

 

 陛下の奇行や知識が欠如しているのはいつもの事だから流すとして、少しずつ分かってきた事がある。

 

 今回の件、サイフリートによる独断専行とは思えなかった。

 

 先帝ジェラール様の時代において、ヴィクトール運河に築かれた要塞はボクオーンの部下が築いたものだと伝え聞く。

 

 城に点在された七英雄の記憶の内容、ハロルド王暗殺に使用されたという毒。

 

 サイフリートを唆して裏で糸を引き、カンバーランドの支配を促した黒幕とは紛れもなく──

 

 ……いや、今は止すとしよう。根拠のない憶測を並べても、陛下を更に混乱させるだけ。

 

 我々の目的はカンバーランドの支配を目論み、何処かへと雲隠れした彼奴の拘束及び討伐。

 

 状況によっては生死の与奪の判断をせねばならないが、其方に関しては陛下の判断に任せるしかないだろう。

 

 それで奴の居場所はトーマ王子曰く、北の岬にて砦を構えているとの事。

 

 我々によって計画は破綻、最早逃げ道はなし。

 

 だがカンバーランドから逃げるようであれば手の打ちようもない、逃げられる前に討たねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 ダグラスを発ち、街の北へと我々は行軍を続ける。

 

「うっわ、なんか不気味〜」

 

 ビーバーが視線の先にある、薄気味悪い砦の姿を見て苦言を零す。

 

 彼女の言う通り、その砦は薄気味悪い独特の雰囲気を放っていた。

 

 彼方此方にはモンスターが徘徊しており、此方に近付けさせまいと殺気を放っている。

 

 と言う事は、あれが王子の仰っていたサイフリートがいるとされるアジトとやらか。

 

「んじゃ行きましょうか、この国を滅茶苦茶にしようとした狼藉者に天誅を下しに」

 

「そうだね」

 

「国王暗殺、国家転覆……余罪は幾つもあるかも知れんが、許されざる事だ」

 

「その通り!悪者宰相はぶっとばーす!」

 

 ジェシカ様を含めて全員がその気になっていて、自分も奴の行った所業を許す余地などない為に同意する。

 

 全員が決意表明を表して、砦の中へと入り込む。

 

 砦の内部は入り組んだ造りではないが、奴の部下である兵やモンスター達が立ち塞がり手を焼いた。

 

 他にも金銀財宝が入った宝箱にビーバーが過剰に反応したり、手当たり次第に陛下が宝箱を開け続けた結果、ミミックなるモンスターと戦わざるを得ない状況を作ってしまったりもした。

 

 罠らしい罠は他にはなく、通路の突き当たりに扉を発見する。

 

「これは……外に繋がっているわね」

 

 と言う事はこの先にサイフリートがいる、決意を新たにして我々は扉を開けるのだった。

 

 Side out

 


 

 Side ジェシカ

 

 扉を開けた先は小さな波止場になっていて、潮風が吹いて髪が靡く。

 

 波止場には小さな小舟が海に浮かび、その近くにはこの事件の犯人が立っていた。

 

「クソッ…!何故失敗した…!?たかが皇帝の力があるとはいえ、此処まで覆されるとは…!」

 

 最初に会った時と違って粗暴な口調で舌打ちし、サイフリートは忌々しげに独り言を呟いていた。

 

「其処までよ、反逆者さん」

 

「!こ、皇帝…!!」

 

「残念だったわね、折角企てた計画が見事に滅茶苦茶になっちゃって」

 

 やって来た私達を見て後退りするけど、「忌々しい皇帝め…!!」と激情に駆られて睨んでくる。

 

「カンバーランドを支配してそれをネタに七英雄に取り入り、永遠の命を手に入れる計画が──貴様のお陰で台無しだァ!!」

 

 八つ当たり気味に私に向けて激昂するサイフリート、やっぱりこの一件……七英雄が絡んでたのね。

 

「貴様…!!そんな下らん理由で自国の王を…!」

 

「あっきれた。幾ら永遠の命を授かっても、命あるものは必ず滅ぶもんでしょ」

 

「永遠の命なんてものは歪んだ夢、そんなものに縋り付くなんて可哀想」

 

「最早これまでだ!自らの罪を悔い改め、大人しく裁きを受けるといい!」

 

「きちんと罪を認めたら?トーマ君達に向かってちゃんと謝った方がいいわよ」

 

 降伏を進めるけど、「ハッ!貴様等の説教など聞きたくもないわ!!」と耳を傾ける気など一切ない様子。

 

「七英雄の中には貴様が目障りな者が多いらしいからな……皇帝!貴様の命を手土産に、もう一度出直しだァ!!

 

「出直し…?そんな事、私が許すと思う?」

 

 此方はね、心底怒りで頭の中がいっぱいなのよ。

 

 貴方がハロルド王を手に掛けたお陰でね。

 

 トーマ君を本人の意思を汲むことなく王に据えて監禁し、ゲオルグさんを自身の兵とモンスターの挟み撃ちで殺そうとし、二人の命を奪おうとした。

 

 貴方みたいな下衆野郎を許す気なんて、私はこれっぽっちもない。

 

 トーマ君達には悪いけど、私は此奴を全身に至るまで斬り刻みたい。

 

「者共!皇帝の命を奪うのだ、その臣下共々だ!」

 

 控えていた残存兵と赤い装束を纏った存在が現れ、私達に襲い掛かる。

 

「……皆、あの赤い装束の奴に気をつけて。恐らく奴がサイフリートの命でハロルド王を──」

 

「了解です!」

 

「陛下もお気をつけて」

 

「無茶しちゃダメですからね!」

 

 メアリー以外の言葉に私は頷き、私はサイフリートと向かい合わせになる。

 

「キラーマシンよ、貴様の暗殺術……奴等に見せつけるのだ」

 

 サイフリートにそう言われた赤装束は頷き、短剣を手にしてメアリー達に斬り掛かる。

 

 音を立てる事もなく素早く走り、赤装束はジョンの懐に入った。

 

「!?はあああ!」

 

 瞬時にジョンは槍術のカウンターとも言える技、風車を駆使して剣技を受け流してカウンター攻撃を放つ。

 

 赤装束はカウンター攻撃に怯み、距離を取った。

 

「でえい!」

 

「やあ!」

 

 フリッツさんとビーバーは彼に付いた王国兵達の相手をし、どうにか苦戦する様子ではないみたいね。

 

 メアリーは小剣のプラズマスラストで牽制、怯んだ隙に他の三人が攻撃に転ずる。

 

 兵達は直撃を受けるけど、赤装束は簡単に避けていく。

 

「……」

 

「ああっ!」

 

 短冊の様に短剣を振り翳し、防御したビーバーの身体を斬りつける。

 

 指先が切り傷だらけの彼女を尻目にし、次はフリッツさんに向けて私と同じつむじ風を放つ。

 

「かあああぁぁぁ!!」

 

 だけどフリッツさんは俄然に飛び込む、身体の節々から血が噴出しながらも赤装束に向かっていく。

 

 彼の拳から気弾が放たれ、赤装束は驚いた様子で気弾をまともに食らう。

 

 王国兵達は既に倒れ、残るはサイフリートと赤装束の二人だけ。

 

「ふん、余所見をするとは……家来が心配か?」

 

「まさか……私は皇帝、自分が信じているものを信じるだけ」

 

 それとメアリー達は家来じゃなくて仲間、訂正して欲しい所だけど此奴には言っても無駄よね。

 

「貴方は心が痛まなかったの?敬愛する王族の信頼を裏切り、ハロルド王の命と永遠の命を天秤に掛けた結果、貴方は永遠の命を選択した。貴方は何とも思わなかったの?」

 

 奴は私に向けてウォーターガンを連発してくるけど、私はそれを素早く避けていきながら問い掛ける。

 

「そんなもの、とっくの昔に捨て去ったわ!耄碌した爺が治めるよりも、この私が実権を握った方が手っ取り早かったのだ!」

 

「へ〜〜……だからトーマ君を利用して国王にさせた、用済みとなれば衰弱死させようとしたと?」

 

「そうだ!蛮勇なゲオルグよりも、余計な知恵が働く賢しいソフィアよりも、あの幼い何も出来ん小童の方が扱い安かったのでな…!あの小童は私に感謝するべきなのだ!所詮は唯の小童、身分などなければ幾らでも利用価値があるからな!」

 

 此奴……本当に救いようのない馬鹿ね、私利私欲の為ならば媚び諂い、その果てに野心の為に王族だろうが使い潰す。

 

「ぐっ…!」

 

 考えていたら横腹に痛みが走った。何事だと思って視線を向けると──横腹に短剣が刺し貫いていた。

 

 横腹から血が流れていく、もしかしてこの短剣はあの赤装束の…?

 

「ジェシカ!!」

 

『陛下!!』

 

 後ろからメアリー達が駆け寄る、あの赤装束は倒したんだ。でも…!

 

「ごめんなさい陛下…!あの赤装束、息絶える寸前に短剣を投げて……」

 

 イタチの最後っ屁って奴かしら、それが私に刺さったわけね……それも的確に。

 

「ヒャハハハハハ…!貴様の様ないい女を失うのは惜しいが、これも我が願望を実現させる為……悪く思うなよ!」

 

 サイフリートは術を発動、魔法陣から巨大な氷柱が顕現した。

 

「天術と水術で合成された攻撃術、ダイヤモンドダストだ。その身を以て受けるがいい…!!」

 

 巨大な氷柱は私達に向かって着弾していく、特に私は傷口が凍っていくのでかなり沁みる。

 

「陛下!」

 

「私の事はいい…!貴方達は自分の心配をしなさい…!!」

 

「しかし!」

 

 ジョンとフリッツさんが悲痛な声を上げるけど、私はどうなっても構わない。

 

 それに思いついた、あの下衆に一矢報いる方法が。

 

 私は馬鹿だから、こんな方法しか思いつかないけどね。

 

 私は勢いよく駆け出し、サイフリートに向かっていく。

 

「馬鹿め!家来を守る為、自ら犠牲になるとでも言うのか?望み通りにしてやる!」

 

 ダイヤモンドダストが次々に命中していき、私の身体は次々に凍てつく。

 

「さらばだ皇帝!この異国の地を貴様の墓場にしてやろう──」

 

 私は止まらない、否、止まる事を許されない。

 

「な…何故だ?何故倒れな──」

 

 狼狽するサイフリートに隙が出来、私はすかさず奴の腹部を剣で刺し貫いた。

 

「ぎゃあああああ!!?」

 

 腹部や口端から血を流し、奴は悲痛な悲鳴を上げた。

 

「皆、今よ!」

 

 腹部から剣を抜き、活路を開いた事を私は皆に伝える。

 

 運良くそれは届き、皆はそれを聞いてそれぞれの渾身の一撃をサイフリートに放つ。

 

 メアリーの瞬速の矢。

 

「ごぶっ!?」

 

 ジョンの強撃。

 

「あくっ!?」

 

 フリッツさんのマシンガンジャブ。

 

「ほぎぎぎっ!?」

 

 ビーバーのスネークショット。

 

「ぴゃあああっ!?」

 

 次々に放たれる技に奴は段々とボロボロになっていき、先程とは打って変わり何とも言えない見窄らしい姿になった。

 

 我ながら見事な特攻が上手くいったわ、メアリー達は深〜い溜息を吐いてるけど。

 

「さーて、もう貴方は終わりよ」

 

「…!?い、嫌だ……来るな、私に近付くんじゃない…!!」

 

 これから訪れる末路を想像してか、奴は酷く怯えて悲痛な声を上げる。

 

「や、止めろ!もう痛い思いをするのは…!」

 

「ハロルド王の受けた痛みはそんなもんじゃなかったわよ」

 

 トーマ君やソフィアさん、ゲオルグさんが受けた心の傷は私が受けたものと比べたら深いもの、父親を失った三人は深く傷付いたのよ?

 

 なのに見苦しく命乞いをしてくる此奴を見てると、怒りを通り越して哀れに思えてくる。

 

 だからね、永遠の命に執着し続ける此奴はもう()()()()()()()()()()()

 

「た、助け──」

 

「さようなら、カンバーランドのダニ。この国に貴方の様な下衆は必要ない」

 

 私は剣を振るった。

 

 胴体から離れた首は海に落ち、首のなくなった胴体も後を追う様に沈んでいった。

 

 その後ろで「本当のおバカって、命が関わると強いんだね」ってメアリーが呟く。

 

 Side out

 


 

 Side メアリー

 

 逆賊サイフリートが討たれ、カンバーランド王国に平穏が訪れた。

 

 私達は首都の復興支援、反乱分子達の拘束、砦の解体作業と事後処理に追われて一週間が経過した。

 

 皇帝であるジェシカはまともに奴の攻撃を浴びたお陰で凍傷の重体で、王国側の術士達や衛生兵から治療を受け、五日間病床の上で過ごしていた。

 

 トーマ君達三兄弟が時々陣中見舞い品としてフォーファーの海の幸の野菜や果物を届けたり、子供達や兵士の人達が感謝の言葉を送ってくれた。

 

 それとサイフリートの断罪に関してはゲオルグさんが「気になさらないで下さい、何れにしても奴は罪を犯し過ぎたのです」と言葉にしてくれた。

 

 そしてジェシカの傷も完治し、私達は王城の玉座の間に招かれ、トーマ君から感謝の言葉を送られる。

 

 さて、次の王は誰なのかと言う問題なんだけど……トーマ君はゲオルグさんが務めるべきだと考えている。

 

 しかし既に王は決まっている。

 

 武人であるゲオルグさんでも、叡智に長けているソフィアさんでもなく、まだ幼いトーマ君である。

 

 経緯は経緯だけど、彼にはゲオルグさんやソフィアさんとは違う王としての器を持っている。

 

 二人は今回の件を踏まえて自ら辞退し、トーマ君に王位を譲渡した。

 

 トーマ君は不安な表情を見せるけど、彼ならば良き王になれると信じているからだろうね。

 

 そう言えば二人はジェシカに聖騎士団を組織する事を相談したんだっけ。

 

 名前はホーリーオーダー、このカンバーランドを本拠地に編成される騎士団。

 

 その懇願に「別にいいけど」とジェシカはあっさり了承、少しは悩んでよ。

 

「……では、()は国王として陛下の戦いの手助けをします。皇帝陛下……この国の支配権を献上致します」

 

 思わぬ言葉に私達は目を丸くする。ジェシカは彼に「……いいの?私達は国を救う為に助けたわけじゃないのよ」と問い、トーマ君はそれを承知して肯定する。

 

「分かっています。しかし陛下のお力添えがなければ、この国はサイフリートに支配され……滅んでいました」

 

 トーマ君は若干頬を赤くしながら国王である自身が仕えるのは皇帝だと肯定する、もしかして……ジェシカの事を?

 

 もしもそうならばその恋の行方を応援しようと密かに思う中、ジェシカは「……あくまでも七英雄を倒すまでの一時的な支配よ」と答える。

 

 トーマ君……ううん、トーマ国王はゲオルグさん達と共にその場で傅き、ジェシカや私達もそれに倣う。

 

「皇帝の名代として、この国の平和を願っているわ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 こうしてカンバーランドは帝国の勢力下に入った。

 

 後日、帝国に戻った際はバイソンさんやルイさんから手熱い出迎えをされて私達は終始苦笑いするだけだった。

 

 後々トーマ国王達を帝国に招待、臣下の皆を含めた宮殿で盛大なパーティーを開催。

 

 ビーバーの手回しでサイフリートの討伐を私達ではなくトーマ国王達の手柄にしたと言う事が明かされたり、フリッツさんがソフィアさんを口説こうとするもゲオルグさんに阻止されたり、リリィさんが火術を扱う芸をしたりもした。

 

 他にもエンリケさんが大海原の航海の話をしたり、シーデーさんがゲオルグさんの剣を褒め称えたり、人生で一番忘れられないパーティーだった。

 

 トーマ国王はジェシカに告白したそうだけど、彼女から「恋愛対象としては見られない、せめて盟友として交流を深めていきましょ?それと大人を揶揄っちゃダメ、恋愛をするなら歳の近い子にしてね?」と優しく断られた。

 

 分かっちゃいたけれど、ストレート過ぎて何とも言えない。

 

 それを見ていた私は勿論、ゲオルグさんとソフィアさんもトーマ国王に密かに激励した。

 

 ジョンさんも勇気を出して彼女に告白したけど、その後進展があったかどうかは本人しか知らない。

 

 我が親友が皇帝になった時は胃が潰れそうな程に不安だったけど、ティファールから始まって武装商船団、そしてカンバーランド。

 

 それらを経験して彼女は皇帝としても、人としても成長したんじゃないかと思う。

 

 その統治を題材にした伝記を執筆し、私はこれを後世の人々に残したいと思う。

 

 嘗てのジェラール帝がそうした様に、現皇帝の武勇伝を世に広めていこうと考える。

 

 大部分のやらかしは省いておいて、誰も知らない中で私は筆を取った。

 

 きっとこの伝記がいつか後世に生きる誰かに届きます様に、そう願って私──メアリーはそれを執筆していった。

 

 

 

 

 

 

 Side out

 


 

 Side 名もなき格闘家

 

 南バレンヌにある格闘家達が集う修行の地、龍の穴。

 

 洞窟内にあるこの修行の地にて、一人の男……否、一人の(おとこ)が石の山を拳で砕いていく。

 

「はあ!ずりゃ!ちぇああ!」

 

 正拳突き、踵落とし、肘打ち……次々に技を繰り出し、彼は石を破砕する。

 

「でいやあああああああ!!」

 

 最後は膝蹴りが決まり、石は全て破砕される。

 

 自分を含めた多くの同志が彼に……"ザ・ドラゴン"に拍手喝采を送る。

 

 誰もが我等武闘家は最強、この拳に砕けぬものなし!と豪語する。

 

 しかし"ザ・ドラゴン"は謙虚な御様子で「いや……これではまだ足りん」と語る。

 

「七英雄が跋扈する世の中、吾輩は力を欲する。絶対的な強さを挫き、弱き者達を守る矛……そして盾となろう」

 

「七英雄なんて帝国に任せればいいでしょう、帝国を治める皇帝は強いと聞きますし」

 

「……その皇帝の座は、今や空虚なのだぞ?空の玉座に収まっておるのは吾輩には性に合わん」

 

 "ザ・ドラゴン"は自他共に厳しい御方だ。毎日欠かさず訓練を怠らず、朝から夜まで汗を流しておられる。

 

 努力家にして現実主義、意外にも自室には大量の書物を購入する程の読書家。

 

 他には己の筋肉美に見惚れる自己陶酔な面もあり、この間はニーベルの町の川の水面に映る自分の筋肉に見惚れていた。

 

 その巨躯に似合わぬ優しさと厳しさを持つ我等が師。

 

 夜……偶然にも寝静まった頃、厠ヘと向かう所──同じく用を足そうと"ザ・ドラゴン"と遭遇する。

 

「修行が足らんぞ」と吐き捨てて厠ヘ向かい、用を足した瞬間だった。

 

「む…?」

 

「……"ザ・ドラゴン"?」

 

 急に静まったので自分は声を掛ける、しかし何処か上の空であったので軽く肩を叩く。

 

 それでも反応しないのでどうするかと考えていると、小さな声音で「行かねば……」と呟く。

 

「行かねばならない……帝国へ」

 

「ヘ…?」

 

 

 

 

 

 

 自分は彼と共に帝国(アバロン)の町を歩き、宮殿へと行き着く。

 

 宮殿の人間達は突然訪れた自分達に困惑しており、ひそひそと小さな会話をする。

 

 やはり場違いじゃないんだろうか、そう思ってレッドカーペットを伝って段差を登る。

 

「止まれ……この先は皇帝陛下の座す玉座だ」

 

「無断で通る事は許さぬ……何の用だ」

 

 兵士達が懐疑的な眼差しを向ける中、"ザ・ドラゴン"が口を開く。

 

「吾輩は……記憶と力を受け継ぐ者、通してはくれないか」

 

『…!?』

 

 兵士達は互いに顔を見合わせ、自分達に向けて『どうぞ』とすんなりと道を開ける。

 

 自分は"ザ・ドラゴン"の後に着いていき、門を潜った。

 

 中には神秘的な玉座が目に入り、"ザ・ドラゴン"は躊躇なくその玉座に巻かれた鎖を腕力で引き千切り、静かに座った。

 

「!ぬおおおおお!!」

 

 天から金の光の光沢が舞い降り、それは"ザ・ドラゴン"の全身に降り掛かる。

 

 一体何が起こっているのか自分は警戒する、暫くすると光沢は消えてゆっくり立ち上がる"ザ・ドラゴン"。

 

 そして彼は豪語する。

 

「──我が名はダイナマイト!龍の穴の格闘家の総師"ザ・ドラゴン"にして、たった今より伝承法にて皇帝ヘと至った者!!」

 

 突然の宣言に自分は驚き、口上を並べていく彼。

 

「絶対的な強さを挫き、弱き者を救うべく!吾輩は帝国の為、拳を振るおうぞ!!」

 

 そして終始、自分は唖然と口を開けるのであった。

 

 

 




次回より第三世代編ことダイナマイト編、例によってキャラ設定と共に投稿していきます。
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