アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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第三世代編ことダイナマイト帝編の導入部を投稿します、キャラ設定の方も執筆完了次第投稿します。


帝国歴1439年 格闘家皇帝ダイナマイト編(導入編)

 Side ???

 

 吾輩の一日は全て、己を鍛える為にある。

 

 未だに慣れぬ煌びやかな雰囲気の天井が目に入り、吾輩は身に着けている龍を模る面を被り、勢いを着けて背筋を伸ばす。

 

 日々精進を続けておる故に、吾輩の人生は日々鍛錬に明け暮れ、そして人生を終える──それが吾輩の常と思われておった。

 

 数日前、吾輩に天命が訪れた。

 

 黄金色に輝く光の光沢が頭上に舞い降り、吾輩に天命を伝えてきたのだ。

 

 帝国(アバロン)へと馳せ参じ、己が使命を果たせと。

 

 弟子の一人を伴い、吾輩は帝国へと出立──そして皇帝の座す玉座に恐れ多くも座し、より濃厚な黄金色の光の柱が吾輩に降り注ぐ。

 

 その時に流れ込んできたのは知らぬ筈の記憶と力、その脳裏に浮かび上がるは歴々の皇帝が歩んだ記憶と軌跡。

 

 438年前に心優しくも父帝(レオン様)兄皇子(ヴィクトール様)を手に掛けた七英雄・クジンシーを討ち、ヴィクトール運河を敵の魔の手から解放したジェラール帝。

 

 193年前に自由奔放にして気分屋、武装商船団と協定を結び、国家転覆を目論んだ逆賊からカンバーランドを救ったジェシカ帝。

 

 御二方が歩んだ軌跡と記憶と力が吾輩の中に流れ込んでいき、そして己が成し遂げねばならぬ使命を知った。

 

 吾輩──龍の穴の総師"ザ・ドラゴン"ことダイナマイト、この拳に帝国繁栄と七英雄打倒を誓い、己が成すべき事を掲げる事を。

 

 

 

 

 

 

 吾輩は豪華な食事を振る舞われ、戸惑いつつもそれを咀嚼して味覚を直接堪能する。

 

 見窄らしく育った故に、中々テーブルマナー?とやらに悪戦苦闘してしまう。

 

 何せ数日前まではこの様な温室とは無縁の世界で過ごした故、この様にもてなされるのは少々複雑な傾向ではある。

 

 そして吾輩を皇帝として立派な(おとこ)にすべく、宮殿からお目付役を派遣されたのだ。

 

「御機嫌よう、ダイナマイト陛下」

 

「う、うむ」

 

 貴婦人の様な佇まいの美しい女がスカートの端を摘み、礼儀よく挨拶するので戸惑いながらその挨拶に返事する。

 

 彼女の名はデイジー……帝国(アバロン)に仕える臣下の一人にして術法を駆使するフリーメイジ、そして術法研究所の副所長の任に就いている。

 

 火術と地術を得意とし、如何なる男であろうとも決して靡く事はないある意味においては恐ろしい女傑だ。

 

「お味は如何でしょうか?」

 

「むう……悪くはない、肉は絶妙な焼き加減であり、野菜も充分に炒めておる。デザートのケーキも美味であったぞ」

 

 美味しければそれでいいのだが、適当に言ってしまえば彼女から何を言われるか見当もつかん。先日にまるでゴミを見る様な眼差しを向けられ、吾輩はそんなに信用がないのかと勘繰ってしまう。

 

 おっと、それよりもすべき事がある。

 

「むんっ」

 

「…?何をなさっているのですか?」

 

「ふふ……ガラスに映る我が筋肉は本日も素晴らしい…!」

 

 凡人には分かるまいよ、我が筋肉の美しさなど。

 

 この筋骨隆々の肉体は三十年間、日々鍛錬に励んだ末に手に入れた力よ!

 

 嘗て起こったニーベルの事件を解決し、皇帝ジェラール様と協定を結んだカール殿。

 

 ジェシカ様と共にカンバーランドに巣喰う逆賊を討ち、内乱を未然に防いだフリッツ殿。

 

 偉大な歴々の"ザ・ドラゴン"を襲名された御二人、尊敬する彼等を見習って吾輩は後世に残る様な偉業を成そう。

 

「……陛下、今は朝食時ですのでさっさと召し上がって下さいな」

 

「……うむ」

 

 早く完食しろと催促してくるデイジーの冷淡な言葉、確かにそうだと納得して吾輩は再びテーブルに着いて咀嚼を繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

「へ、陛下、宜しいので?」

 

「遠慮など皆無!やれい!!」

 

 表情が引き攣った兵達が吾輩に向け、困惑に満ちた声音を上げる。

 

 訓練所にて吾輩は無防備に腕を組み、立ち往生する。

 

 困惑顔の兵達は覚悟を決めて、己の得物たる剣を振り翳す。

 

 我が筋肉に向けて斬り付けるが、その箇所に斬り傷はおろか血の一滴も出ておらず。

 

 流石我が筋肉、相変わらず傷一つなく我が身ながら惚れ惚れするわ。

 

 兵達が口を開けて呆然とし、吾輩が我が筋肉に恍惚とする中、「いやおかしいでしょう!?」という抗議の声が上がる。

 

 其方に目線を向けるとフリーファイターの女傭兵、メディアが近付いてくる。

 

「何か不服か?」

 

「どうなっているんですか、陛下の肉体は!?斬り傷一つなければ、鈍器で殴られても動じない!巨大な石が頭上に強打しても軽く済ます石頭だし、もう意味が分からない!!」

 

 阿鼻叫喚の如く困惑して叫ぶメディア、そこまで大袈裟な事でもなかろうに。

 

「大袈裟にもなりますってそりゃ」と横から彼女と同じフリーファイターのジェイスンが同意する、解せぬ。

 

 他にも軽装歩兵のリチャード、重装歩兵のウォーラスまでもが頷く。

 

「ウォーラス殿ばりに前に出て身体一つで攻撃を受け切り、更に自身の筋肉を陶酔する始末」

 

「状態異常に掛かっても呼吸法で浄化してしまいますからな」

 

 はあ……と隅で三角座りで落ち込むウォーラスはいつもの事だとして、そう易々と後方に下がるわけにもいかん。

 

「兎に角、陛下!陛下の肉体は常軌を逸脱しております故、少しは御身を大事に、基、己を制御して頂けると!」

 

「本心がそれか」

 

「分かっているじゃないッスか」

 

「だが断るッ!!我が筋肉と拳は帝国に捧げている!臣下を守れぬようでは皇帝失格である!!」

 

『何故そうなるんですか(ッスか)!?』

 

 メディア達の声を聞いても吾輩は己を制御出来ん、帝国の為ならばこの命も賭する覚悟だからな!

 

 朝の特訓はこれぐらいにするとして、吾輩は町に繰り出すとしよう。

 

 途中で宮廷魔術師のライブラとオニキスにすれ違いざまに挨拶を交わす。

 

「って……陛下?ま、まさか」

 

「も、もしやその格好で町へ赴くおつもりで!?」

 

 ライブラ達が何やら言っているが、特に気にせず吾輩は城門の扉を開くのだった。

 

 Side out

 


 

 Side ???

 

「うええ……にっが〜」

 

 (あたし)──シティシーフの一員、バジャーは口の中に広がるコーヒーの味に苦悶の表情を浮かべた。

 

「あらあら、一気に飲み干すのはいけませんわよバジャーちゃん」

 

「折角淑女としての嗜みを覚えてもらおうとしているのに、そんな事じゃ夢のまた夢よ」

 

 目の前にいる二人のお姉さん達が呆れた様子で私を見ている、まあ頼んだ私の為に時間を割いて付き合ってくれるから余計に申し訳なくなってくる。

 

 丁寧な言葉遣いをしているのは軽装歩兵のシャーリーお姉さん、気安い口調で話すのは猟兵のアグネスお姉さん。

 

 真面目だけど気さくなアグネスお姉さんの弓術は神童とも言われる程の腕前で、狙った獲物を百発百中で仕留めている。

 

 貴族のお嬢様みたいな口調のシャーリーお姉さんは剣術に長けていて、剣は勿論、小剣や大剣……剣なら全般扱える万能的な実力者。

 

 そんな二人から私は淑女の嗜みを習おうとしている、苦かったので匙に砂糖を入れようとしたらシャーリーお姉さんが。

 

「塩分量はなるべく控えめに、コーヒーの味が損なわれますわよ?」

 

「は、はい……」

 

 相変わらずルールに厳しいよね、シャーリーお姉さんって。

 

 横でアグネスお姉さんが呆れた様子で見つつ、コーヒーを啜る……ちょっとは助けてよ。

 

 因みに今私達がいるのはアバロンの木が見える丘の上、一説だと先帝ジェシカ様の意向でこのアバロンの園が増設されたらしいんだって。

 

 カンバーランドのアガタお姉さんとピーターお兄さんも訪問した際に見惚れていて、向こうのトーマ国王も喜んでくれたんだとか。

 

 他にも偶にポラリスお爺ちゃんが日向ぼっこしてて、老後の楽しみだと呟いていたっけ。

 

「ねえあれ見て!」

 

「うわぁ……」

 

 異国から来たと思われるお姉さん二人が声を上げる、アバロンの木を見て感慨深くなってくれるなら嬉しいなぁ。

 

「本当凄いよね、彼処で木に登っている筋骨隆々の人!

 

………え?

 

 何だか聞き捨てならない言葉が聞こえたので私達三人は耳を疑い、そのお姉さん達の視線を追ってみた。

 

 よく見ると確かに人が登っている、よく目を凝らして見ると……筋骨隆々で仮面を被ったこの国の皇帝陛下の姿が──

 

ブウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

 勢いよくコーヒーを吹き出し、その場で咽せるアグネスお姉さんとシャーリーお姉さん。

 

 勿論私も驚いたけど、今に始まった事じゃないからすっかり慣れちゃった。

 

「陛下、またですか!?」

 

 シャーリーお姉さんが顔を真っ赤にして叫ぶ、確かに驚くけど着眼点は其処じゃないんだよね。

 

「しかもあの様なお召し物をまたされて…!」

 

「せめて(ふんどし)って言おうよ」

 

「バジャーちゃん、ハッキリ言わないで下さいまし!!」

 

 そう、今の陛下は褌姿で木を登っているのよ……確かヤウダ王国にある布状の下着だっけ?

 

 ヤウダからの行商人が帝国(アバロン)に訪れた事があったけど……もしかして陛下、その時に…?

 

 有り得るだろう可能性を考える中、アグネスお姉さんが弓を構えてその矛先を木に向けていた。

 

 弦を今にも弾かんとする様子にシャーリーお姉さんが顔色を青くし、慌てて彼女を羽交締めにして止める。

 

「何をなさるおつもりですの!?流石に度が過ぎますわよ!?」

 

「いいのよ!あのバカ皇帝は頭から落ちても死なないんだから、思いっ切りやってもケロッとしてるわよ!」

 

「とても皇帝に忠誠を誓う家臣の言葉とは思えませんわね!?」

 

 堂々と皇帝に対する不敬罪とも取れるアグネスお姉さんの言動と態度は今更だけど、何ていうか様式美と言える。

 

「ふん!ぬん!るあぁ!」

 

 何かやっている間にダイナマイト陛下は木の天辺に登っていて、民衆の目を気にしないで筋肉を強調するポージングを取っていた。

 

 褌姿で。褌姿で。

 

「瞬足の──」

 

「おやめなさい!」

 

 眉間に青筋を浮かべて射抜こうとするアグネスお姉さんを必死に抑えるシャーリーお姉さん、その間に同じシティシーフのロビンが戸惑う観光客の人達を「我が国の一種の名物です!」と言いくるめてくれた。

 

 その後、陛下は「我が筋肉を知らしめる事の何が悪い!」と言うけど、アグネスお姉さんが「そんなもん知らしめられれば帝国は世界の恥ですよ!」と口論。

 

 こんな調子で帝国は大丈夫かなぁ、一時期はそう思っていた。

 

 後の人は言った、ダイナマイト陛下は唯の筋肉バカじゃなかった…と。

 


 

 Side ダイナマイト

 

 アグネスといつもと変わらぬ口論を繰り広げ、我が筋肉を国民に知らしめておる日々が続く。

 

 そんな最中、武装商船団が帝国から独立し収入の取り下げておるとの一報が入る。

 

 あの義理堅いマゼランがその様な愚行を行うとは考えにくいが、今は置いておくとしよう。

 

 文官から新たに帝国に教育機関を設立してはどうかと提示され、吾輩は躊躇なくそれ承諾した。

 

 それよりも懸念すべき事がある……ジェラール帝、ジェシカ帝が拝見した七英雄の記憶なるもの。

 

 その記録にある()()()なる存在が気掛かりとなり、それは何なのかを探る事を可決した。

 

 吾輩はその部隊にメディア、ポラリス、ジェイスン、カンバーランドのピーターを加えて新天地へと向かう事にした。

 

 その新天地にて、我々は悍しい存在と邂逅を果たす事となるが、それはこの(まなこ)で垣間見るとしよう。

 

 出立の際、チャールズから盛大に何処で仕入れたかは知らんが桜吹雪を降らして見送られた。

 

 

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