Side ダイナマイト
此処──コムルーン火山の在るコムルーン島はバレンヌより遠く離れた島である。
ソーモンの港からカンバーランドの南にある港町マイルズに下船後、過酷な道程であった。
地上を走る船が蔓延り、ノーマッドなる遊牧民がいるステップの草原。
猛獣達が吼え上がり、狩人が奔走するサバンナの荒野。
凶暴な昆虫共と食人植物が徘徊し、男女差別がより顕著であるサラマットの大森林。
険しくもとても長く、過酷な道程であった事に吾輩は胸を撫で下ろしておる。
悪戦苦闘の連続であったが、どうにかこの島まで行き着いた吾輩達であった。
「──いやなに嘘ついてんですか!?」
「む?」
思い出に浸っていると、メディアが抗議の声を上げてきおった。
「何が悪戦苦闘ですか!殆ど力技で薙倒した上、逃げる様に此処まで来ちゃったんじゃないですか!?植物達の触手は筋肉で引きちぎったりしてたでしょうが!他にもエイルネップの原住民の女戦士に恩を仇で返され、彼処での成果は石ころ一つだったって言うのに!」
「唯の石ではない!純鉄石だ!!」
捲し立てる様にメディアは喚き、最終的に止まる事を知らずに叫び続けた。
わ、吾輩も自身の行動を自制したいと思うのだが、敵にどうしても筋肉を教えておきたいのだ。
「後……気の所為だと思うんですけど、陛下って昆虫系のモンスターとの戦闘をやけに避けてましたよね?」
「うっ!?」
「あ、それは俺も思っていた」
ジェイスンが野次を言うが、吾輩は思わず強張ってしまう。
「地下水路の芋虫とかが近付くとやたらと雄叫びを上げて払ったり、容赦なく殆ど一撃で決めてますし」
「うぐっ」
「まさかと思うんですけど、陛下って昆虫が苦手なんじゃ」
「…………」
「…………」
「そ、そんなわけがなかろうて!思わず驚いてしまっただけのこと!」
つい反応に戸惑ってしまったが、吾輩にそんな軟弱な弱点があるわけがないのだ!
そして流れに沿ってムリエの村から船に乗って訪れたこのコムルーン島、この島の北に位置するコムルーン火山が荒れており、島民達は日々不安を募らせている。
火山噴火を防ぐ為に一人の魔道士が訪れ、噴火を止める方法を日々研究を続けているのだそうだ。
島民達の不安を取り除く為にも、これを利用する必要性があるようだ。
魔道士は島の西に砦を築いており、其処は如何にも怪しい雰囲気を放っているとのことだ。
出自不明な上に素性も分からぬ者を受け入れているのはどうかとは思うが、今は背に腹は変えられぬか。
「一度訪れるとしましょう、その魔道士が築く砦へ」
「うむ」
ピーターの言葉に吾輩は頷く。メディアやジェイスン、ポラリス老も同意した。
※
「ほほう、確かに胡乱な雰囲気がありますのう」
訪れた砦を前にしてポラリス老が顎髭を触り、モンスター共が徘徊するその様子に重々納得しておられる。
これは確かにその通りとしか言えんな、恐らく件の魔道士とやらが配置したとしか思えん。
邪魔なモンスター共は一通り片付けていき、周囲を観察する中で奇妙な物を確認した。
「これは…?」
「七英雄の記憶、だったな。先帝達も拝見したと吾輩に宿る記憶が、そう語っておる」
ジェラール帝、ジェシカ帝がそうであった様に、吾輩──と言うよりも皇帝に至った者のみが拝見出来る代物であったか。
なんらかの思惑があるにせよ、先達に倣って吾輩も装置を作動する事にした。
吾輩の脳裏に先帝達のとは全く別の記憶が流れ込んで来よる。
雷鳴が轟く王城の通路にて後の七英雄の長・ワグナスがある者にタームなる存在に関する事後報告を伝える。
その者は枢密院を束ねる大神官で、レオン帝に伝承法を授けた女魔道士の父君であるが、その性根は娘とは似て非なる俗物。
タームの襲撃や天変地異から逃れる術はたった一つ、開発中の次元転移装置で別世界へと渡る以外他ならぬ。
だがその範囲には限りがあり国民全員が別世界へ渡る事が不可能であり、遺憾ながら平民を見捨てざるを得ない状況にあった。
だがこの大神官、劣悪にもその者達を装置完成の為の時間稼ぎと称し、その命をタームの生贄にすると宣いおった。
そして鉄門を閉じ、彼等を奴等の餌にしていったのだ。
しかも自らは貴族にこそ祝福があるとワグナスに伝え、その場を去っていった。
これはワグナスでなくとも怒りを抱かずにいられん、自らの保身の為に国民をタームに差し出すなど…!!
拝見した記憶のありのままを臣下達に伝えると、メディアとジェイスン、ピーターは当然怒りを露わにした。
だが、彼等や吾輩以上に怒りを露わにしておられるのは…。
「………」
「……爺さん?」
「……ほっほっほっほ、これは確かに同じ人間の所業とは思えませんなぁ。もし私が七英雄達やその者と同じ時代に生きていれば、その者を諭していたかもしれませんのに」
(…な、何だかポラリスさんに聞かせたらいけない事だったんじゃ…?)
(私も同じ事を考えていた…)
いつもと変わらぬ表情ではあるが、ポラリス老の纏う雰囲気は怒りそのものであった。
この記憶は逆に彼の琴線に触れてしまったのではないのか、吾輩はそう思わずにいられんかった。
Side out
Side メディア
魔道士の砦の内部に入り、あたい達を待ち受けていたのはぎっしりと並べられた本棚。
難しく複雑な魔道書が幾つも並べられていて、読み漁ってみたけどとてもあたい達じゃ理解出来ないかもね。
こういうのはポラリスさんは勿論、デイジーやライブラやオニキスの専売特許だからねぇ、素人のあたい達には理解なんて到底無理だね。
「ふむ……」
そんなポラリスさんは1
って言うか件の魔道士がいないし、留守なのかな?
いや仮にも火山の噴火を防ごうと画策しているんだし、流石にないと思うけれど…。
「あ?」
「どうしたのジェイスン?」
「この人形……なんか変じゃねーか?」
「変……とは?」
ジェイスンが腕を組んで首を傾げている、あたい達は彼の方へ歩み寄ると目に入ったのは一つの甲冑の人形。
そう言えば砦の中に入ってからこれが最初に目に入った、最初は単に見事に出来ているなとは思ったけど…。
「ジェイスン……何かに気が付いたのだな?」
「ええ……その何かは分かりませんがね……すいません陛下、説明不足で」
「気にするな、どれ……吾輩が直接調べてみるとしよう」
陛下の了承を得てジェイスンは甲冑人形を調べる、調べる内に何やらカチッと言う音が響く。
まさか変な所を押したんじゃないだろうねェ、そんな事を考えているとピーターが「陛下、あれを」と二階にある左側の扉を指差した。
「あれ…?扉に青い光が……あんな光、さっきまであったっけ?」
「いや、光ってなかった気がするぜ」
「……どうやらあの光を灯しさえすれば、道が開くかも知れん」
この甲冑みたいに仕掛けを解けば魔道士に会う事が出来る、陛下の見解にあたい達は同意──怪しい物がないかこの書斎全てを見渡す事に。
そしてその最中、ポラリスさんはずっと書籍を読んでいた。
※
「おや、こんな所に客じゔぁっ!?」
「回りくどい仕掛けを作ってんじゃないよ」
書斎全てをくまなく調べた結果、やっと扉の仕掛けを解く事に成功した。
本棚の上に鳥の像を確認、陛下とピーターが本棚の上を足場にして転々と飛び移り、あっさりと解除。
最後の仕掛けは本棚に囲まれた隔離された一画、狭い本棚と壁の隙間を通り、あたいがそれを解除して扉が現れた。
こんな面倒くさくて回りくどい仕掛けを作った魔道士に怒りを覚えたので、扉を通っていくと仮面を被ったそれらしい奴がいたので早速ぶちかましておいた。
「き、急に邂逅して早々何を!?」
「あんな
「理由になっていませんが!?」
「それはそうと……貴公が件の魔道士か?」
すると今度は陛下が話に割って入り、魔道士の身体を触り出す。
「あの……何か?」
「ふむ……きちんと栄養を摂取しておるのか?その様な華奢な筋肉では、命取りになり得るぞ」
「は?」
魔道士は理解出来ずに困惑、まあ初見の人には分からないだろうね。
陛下って他人の筋肉を触っては評価する傾向があるから、自分の筋肉に自己陶酔するだけじゃなくて他人の筋肉にも興味をそそられるみたい。
獣型のモンスターにも「荒削りながら見事だが、やはり獣である故に仕方なしか」と残念な評価だったし、エイルネップの森林で会った女戦士にもスキンシップをしようとしたけど「気安く触るなァ!!」と激昂して槍を振り回して追い回されてたね。(それに関しては同情な余地は無し)
「さて……改めまして、この様な場所に客人とは珍しい」
「吾輩はダイナマイト、龍の穴の格闘家にして今代の皇帝である」
「…ほう、噂の皇帝陛下でしたか」
さっきまでのやり取りは置いといて、魔道士は淡々と語り出す。
「島の者達から聞き及んだが、貴公は火山の観測を続けているそうだな」
「ええ……私は彼等を被害に遭われないよう、コムルーン火山の観測と研究を続けているのです」
(怪しい)
(怪しいな)
(胡散臭え)
(ほっほっほっほ)
建前はそうだろうけど、どうせ醜い本心を隠してるんだろうね。
陛下には悪いけど、此奴の言葉は全然信用出来ない。
そして度重なる観測と研究の結果、火山噴火を防ぐ方法があると判明した。
それはコムルーン火山の火口にこの氷の結晶──アイスシードを投げ込み、火口を凍結させるという事らしい。
別の目的はあるんだろうけど、今は島の人達の為にこの事態収束するのが先決。
陛下はこの条件を承諾、魔道士からアイスシードを受け取りあたい達は火山へと向かう事になった。
Side out
Side ポラリス
人間の体温を遥かに超える熱気、そしてその下で静かに泡立つ溶岩の海。
火山を鎮静すべく、我等はコムルーン火山を山道を歩く。
「はーッ!はーッ!はーッ!はーッ!」
「ほっほっほっ……陛下、我慢は身体に毒ですぞ。本音を吐露すれば楽になりますぞ」
「いいえ、吾輩は龍の穴の格闘家!決して弱音を吐露はしない、ポラリス老も御辛いのでは!?」
「ほっほっほっ……まだ若い者に心配される程、老いてはおりませぬよ」
前方を私とダイナマイト陛下が歩き、脂汗を流しつつも我々は山道を歩く。
後方ではピーター殿が殿を務め、ジェイスンとメディア嬢が続く。
「陛下と爺さん……無駄に元気だな」
「陛下は兎も角、ポラリスさんも我慢強いからねェ。あの老体でよく粘るね、ホントに」
何やら後ろからこの老骨に対してぞんざいな小言が聞こえておりますが、今は放置するとしましょうか。
途中で陛下はエイルネップの森林でも拾った純鉄石なる物を拾っており、一応気になっていた私は問い掛け、陛下は答えられつつ説明して下さった。
鍛冶屋を営む帝国から代々、腕のある鍛治職人を輩出しているファブリ家、その跡取りであるフロスティ嬢は先日──家宝とも言える小槌を誤って破損してしまったとの事。
小槌を修理する為、この純鉄石が必要である事を陛下は話して下さった。
当然陛下は彼女の話を聞き純鉄石の捜索を潔く承諾、
フロスティ嬢曰く、純鉄石があるとされる場所は何れもモンスターが徘徊しておられる。
エイルネップとこのコムルーン火山のは回収しており、残りは三個。
残りはティファールの町とナゼール地方の境目にあるルドン高原、通り過ぎてしまったがサバンナの荒野、そして熱砂が続くメルー地方の砂漠にあるらしい。
ダイナマイト陛下は民草が困り果てる姿を見ていられない性分ですからな、まあ我々臣下もその枠に入るので他人事とは言えますまい。
登山していく内に段々と熱気が凄まじくなっており、近くにいるだけでも汗が全身から流れてきますのう。
襲い掛かって来るモンスターも殆どが火属性、水術を扱う私とメディア嬢の見せ場があって、思わず私は年甲斐もなく意気揚々と昂り、次々とモンスターを蹴散らして行きましたわい。
術が尽きれば集落の雑貨屋で調達した術酒を含み、再びモンスター共を屠っていき、さりげなく陛下が火の精霊やマーリドと称されるモンスターと筋肉美の張り合いを見せておりましたが、我々は一貫して無視しておきました。
こうしてモンスター共を屠り、我々は火山の頂上──所謂火口付近に行き着きました。
近付くだけで凄まじい熱気が上がり、泡立つマグマの音が聞こえて来ます。
私の様な老骨が溶岩に入ってしまえば、一瞬にして骨も残さず溶解されてしまいそうですのう。
そう口走ると陛下達は引かれてしまい、ジェイスンは「爺さん……冗談でも笑えねえぜ」と零す始末。
勿論老耄の戯言、まだまだ天に召される程耄碌しておりませんぞ?
「さて……陛下、如何なされますかな」
「当然火口にこれを投げ入れる、島の者達の為にもな」
「ずえりゃあ!!」と勇んだ声と共に、陛下は火口に向けてアイスシードを大きく振りかぶって投擲。
アイスシードはそのまま溶岩の中にボチャンと沈む、暫くすると溶岩が忽ち凍て付き始めました。
溶岩は段々と固まっていき、先刻まで凄まじい熱気に包まれていた火山はあっという間に鎮静化された。
「これは……」
「あの結晶一つで……本当に溶岩が固まっている」
ジェイスンも信じ難い様子で足下の固まった溶岩を軽く叩く、どうやら完全に固まっているようですな。
メディア嬢やピーター殿も同様の動作を行い、驚きを隠せない御様子。
さて…いつまでも此処に屯せず、ツキジマの町長殿に報告するとしますかのう。
※
下山して戻ってくると空は茜色に染まり、町は火山の火口が鎮静化された事を知って人々の表情は活気に満ち溢れておりますな。
少々複雑な気分ではありますが、彼等の笑顔を見てると毒気が抜けるので今は良しとしましょう。
町長殿の御自宅を訪ねると、彼だけでなく魔道士殿も同席されていた。
町長殿は形式上島の平和を取り戻した我々に感謝を述べており、その見返りにこの島を帝国の領地に収める事を検討して下さる。
確かに領土を拡大するのは我々にとっても嬉しい限りですが、今回は其処の魔道士殿の(一応)助力があっての事……信頼は皆無ですがな。
件の彼はそろそろ失礼すると告げて転移で砦に帰っていく、相変わらず胡乱な雰囲気を放っているので我々は疑惑を向けている。
町長殿は平和を記念して宴を開こうと提案、陛下もそれに同意しておられる。
あの魔道士殿の思惑は推察程度ですが後に手記に纏めておくとして、我々もその提案については同意と受けるとしましょう。
一時的な平和を享受し、その日──ツキジマは宴で盛り上がったのでした。
Side ???
「
私の下に一人の若者が訪れる。
彼は溶岩の海の舟番、先程溶岩が固まった件についての報告だろうな。
このゼミオは我々サラマンダーの町、炎と共に生き、そして炎と運命を共にする。
だが火山が突然活動を止め、その上…溶岩が凍結した。
この者がわざわざ私の下を訪れたという事は即ち、人為的な事象が起こったという事。
「先程、人間の手によって火山が鎮静されました」
「成程……だがその顔、他にも報告すべき事があると見た」
「そ……それが、その火山を鎮静化した者は……世俗では"皇帝"と呼ばれる者らしく」
ほう……噂程度だが、"七英雄"に無謀、否、勇敢に挑む者か。
だがその皇帝が、故意に火山の活動を止めたとは思えんな。
「覚えておりますか…?先日、胡乱な魔道士なる人間がゼミオを訪れたのを」
あの者か。確かにあの者、この島の者に害が及ばぬように観測していると宣った。
その際、石版を調べていたな。あの石版には忌々しくも、我々サラマンダーの未来をなぞったような文献が書かれていた。
島全体を揺るがす局地的な地震、火山の大噴火、海底に沈む島の浮上、そして…その眠るであろう古代の魔導書。
もし魔道士が魔導書を狙っているとするのならば、この島で観測を続けている目的は──
私の主観の入った推察を聞き、舟番は「あの者…!」と拳を握り締め怒りに打ち震える。
「如何なさいますか?場合によってはツキジマの者達に忠告を……いや、彼等はあの下郎を信頼している上、逆に此方が非難されるのが目に見えているか」
「事を荒立てる必要はない」
「しかし!」
「今は時を待ち、静観すべき事だ」
悪戯に諍いを起こせばかの者の掌で踊らされるだけ、ましてや"七英雄"によって世界が混乱の渦中にある情勢だ。
我々が生き残るには皇帝と言うかの者に、委ねる他ない。
「失礼します」
「…?」
「ケルートか」
私が次期族長と据える若きサラマンダー、常に情に乱されず冷静沈着。
「お呼びでしょうか」
「うむ……急な問いだが、答えを聞かせてもらおう。──其方に
「……この命、我が部族の為ならば」
淡々と告げる其奴に次代を託したくなり、静かに笑みを浮かべてしまった。
最後に登場したサラマンダー族長はケルートの前の族長ですので、此処だけの登場です。