ダイナマイト帝編は次回で完結とし、次世代へ移ります。
Side シャーリー
「えェ!? 陛下はもう出立されたのですか!?」
コムルーン島が我が帝国の領土となり、それから数ヶ月が過ぎたと言うのに陛下は行動力があって全く捕まえられませんわ。
帝国の叡智を培う帝国大学が設立したものの、中々入学者が来ず講義すら集まらない。
其処で学長や教授達は陛下を大学に入学すればいいのではと提案、御本人は潔く承諾した上、筆記試験を軽々と紐解く様に合格したとライブラさんが仰っていましたわ。
他にもミラマーの町にあるヴィクトール運河に橋をかける事を提案、発案者であるソーモンの(自称)天才発明家・ヒラガさんは陛下の御依頼に承って橋を数ヶ月かけて完成。
完成したその橋をあの高名なレオン陛下の名から肖り、レオンブリッジと命名したそうですわ。
……因みに陛下はマッスルブリッジだとか、ドラゴンブリッジだとか命名しようとしましたが、立ち会った私達は揃って真っ先に否定しました。
「そ、そうだ、サバンナの荒野を駆け巡る、と仰っていた……」
「虚弱体質なのですから無理に喋らないの方がよろしいかと」
「そうはいかん!陛下の臣下たる者、休むなどありえn……ぶほぉ!?」
「きゃっ!?唾を飛ばさないで下さいまし!」
咳き込むこの御方は意地を張ってまで訓練に励んでいます、私は尊敬よりも呆れる事が多い。
それよりもサバンナの荒野ですか……聞き及んだ話をメディアさんから聞いていますけど、獰猛なモンスターが多く生息しているそうですわね。
ウォーラスさんによると此度の陛下の随行にメディアさん、ピーターさん、私と同じ軽装歩兵のリチャードさん、フリーメイジのデイジーさんが加わっているとの事。
誰も連れて行かないよりはマシですけれど、陛下は極度の虫嫌いですからどうしても不安があります。
陛下御自身は平常を装っていますけれど、昆虫モンスターに出会した際に声にならぬ奇声と共に容赦なく攻撃を加える御姿に私達臣下は察し、誰も知らないフリを一貫しておりますわ。
まあいつまでも続くとは思えませんし、何れは周囲に知られるのも時間の問題でしょう。
遠い地に赴かれた陛下の無事を祈りつつ、私は町の巡回に行くのでした。
Side out
Side ???
本日は快晴、その下でサバンナの大地は変わらずモンスター達が集落の外で徘徊している。
サバンナに生きる者として当然の義務であり、この荒野で生きる為に必要な事だ。
石で短剣を研ぎ、黙々と私は作業を続ける。
世界は今、七英雄によって混乱の渦中にあり、私もこのサバンナを守る為に出来る限りの事をするつもりだ。
「──頼もう!」
そんな時だった、
※
外から訪ねてくる者は極めて少なく、多くは獰猛なモンスターから追われて避難が主目的で訪れる事だろう。
しかしこの来訪者は少々、いやかなり奇抜な顔触れだった。
顔を面で隠した筋骨隆々の御仁を中心に、テンガロンハットを被った女性と兵士の装いの男性、騎士然とした浅黒い肌を持つ青髪の男性と貴婦人らしい女性。
どうにも統一性がない面々だが、わざわざ外からいらしたのだから丁重にもてなすしかあるまい。
「ようこそ、旅の方々」
「我が名はダイナマイト、龍の穴の格闘家にして今代の
「私はハムバ…。この集落の戦士です」
私は目を見開いて驚いた、まさか噂の皇帝陛下がこのサバンナに足を運んでくるとは。
七英雄の打倒を心掛け、数百年前にはカンバーランドの内乱を未然に防ぎ、つい最近では火山で有名なコムルーン島も属領化したと聞く。
何故皇帝陛下の様な大物がこの地にやってきたのかは分からないが、何のおもてなしをしないのは失礼に値する。
一先ずゆっくりしていって欲しいと勧め、陛下や付き添いの方々は和やかに微笑んでいる。
「この地での暮らしを聞かせてはもらえぬか?」
「はい……私達はこのサバンナで居を構え、動物を狩って家族を養う
「ほう……其方はハンターの中でも最も優れた戦士の様だな。しかしこの集落の外は多数のモンスター共が徘徊しておるが、奴等を仕留めるのは一苦労ではないか?」
「いえ……サバンナのモンスターは大した事ありません、我々が警戒しているのは──地下に巣食う悪魔共です」
「その悪魔とは…?」
「人間と変わらぬ大きさの……アリのモンスターです。奴等によって、幾つもの集落と人々が犠牲になった事か…!!」
無意識に怒りが込み上げ、拳を握り締める。
陛下が「アリ、だと…?」と何故か引き攣った声を上げるが、私は気にもせず奴等の悍ましさと非道な所業を語っていく。
「余所者の貴方方には分かる筈もない!ある者は地下へと拉致され、またある者はその場で捕食されて理不尽に命を奪われ、罪なき者達が次々と…!」
「──落ち着くのだ!」
「!! も、申し訳ありません…」
我ながら理性を失う所だった。陛下に一喝され、冷静ではなかった己を恥じる。
「アリのモンスター……ひょっとしたらそれがタームかも知れない」
「ターム…?」
「君の言うアリのモンスターの事だ、我々は各地に点在するある装置を介してそれを知った」
「と言っても、陛下が装置を介して情報を共有して下さっているんだけどね」
発言の意味が理解出来かねるが、彼等は至極当然とばかりに紡いでいる。
少なくとも虚偽ではない事は確かであるが、私はどうにも信じられない。
「話が変わるがハムバ殿、それ以外に何か話題はないか?」
「話題……そう言えば集落の者が仰っていました、喋る土竜を見たと」
「土竜?」
ある夜、その者は言っていた。用を足して家へ戻る際、衣服を纏う二足歩行で歩く土竜に声を掛けられたらしい。
彼は気が動転して慌てて戻り、その体験談を我々に語った。
私を含めたその場の全員が失笑、夢でも見ていたのだろうと片付けた。
信憑性が低いが、もしかしたら地底に住むモール族かも知れない。
「モール族……か」
「ええ……長い事サバンナで暮らしていますが、モールは滅多に人前に姿を現さない。私でさえその姿を見た事がないのです、夢物語と捉えてよろしいかと」
「一応耳に入れておくとしよう」
それだけ言って陛下は了承して下さった、すると私の身体を触れ出した。
「……うむ!吾輩程ではないが、よく鍛えているではないか!」
「は?」
何故か筋肉を評価して下さったが、私は唯々困惑するだけだった。
※
すっかり陽が落ち、真夜中の月の下で私は軽く仮眠を取る。
幾ら集落内が安全とはいえ警戒は怠ることなく、交代制で集落の巡回を行っている。
日中は集落の皆はあっという間に皇帝陛下や臣下の方々と和睦を深めていき、帝都の話を聞かせてくれた。
その最中で陛下は子供達に身体を鍛える事を勧めたり、兵士の者が若い娘を口説いたりしていたが、何方も女傭兵が必死に制止した。
気を和ませているのか、そうでないのか理解出来ないが、悪くない気分だと言うのは人柄に触れて分かる。
このまま何事も無ければいいのに……そう心中で呟きつつ、寝息を立てていると何やら崩れた音が耳に響いた。
「…! 何だ…!?」
嫌な胸騒ぎを覚え、慌てて得物である弓を手に外に出る。
「アリだー!!」
「…!?」
私は目を疑った。
集落の中心に大きな穴が掘り起こされ、其処から悍ましいアリ共──否、タームと呼ばれる存在が次々と穴から姿を現し、集落を蹂躙していった。
「た、助けてー!」
「は、離せ! 子供達を離せ──ぎゃあ!?」
「ママー!」
「来るなぁ!!」
集落に群がったタームは愛する者や家族を守ろうとする
他の集落もこの様に蹂躙され、やがて全ての命が一人残らず喰い尽くされる。
その様な地獄絵図にさせまいと私もタームに攻撃していき、戦えない者達に「早く集落の外へ!」と避難を指示する。
「これって…!」
私と同じ様に物音を聞いてか、皇帝陛下とその臣下達が宿から顔を出し、外の惨状に驚愕する。
「ハムバ殿!」
「奴等が、穴を掘って集落に…!」
臣下の方々がそれぞれの得物を構え、村人を外へ逃そうと奔走する。
「………」
「陛下…?」
皇帝陛下だけは何故か立直状態でその場で佇んでいる、声を掛けてみるが微動だにしない。
陛下は一体どうしたんだ?
「ハムバ、後ろだ!」
「…!」
仲間のハンターの声に慌てて振り返るが、兵隊アリの手にする槍の矛先が私の胸を突き刺さんとする寸前だった。
最早これまでか、そう思った瞬間であった。
「──きえええええええい!」
「!?」
突然ダイナマイト陛下が奇声を上げたかと思うと、右手の鉄拳が兵隊アリの顔面に突き刺さった。
「ちょわあああああ!!」
陛下の突然の奇声と攻撃に呆気に取られる中、そのアリは倒れ伏す。
他にもアリを関節技で上半身を地面に埋めたり…。
「ぬえりゃあああああ!!」
力技で身体を真っ二つに引き裂いたり…。
「わたあああああああ!!」
下に屈んでアリの顎に拳を叩き込み、そのアリを空高く打ち上げ、夜空の星にしたりと次々に討伐していく。
まるで人が変わった様に……いや違うな、毛嫌いする様にタームを攻撃していっている。
「陛下! やっぱり虫が大嫌いじゃないですか!?」
女傭兵の確信を得た様な声が上がる。成程……それであの様に、しかしあの様な屈強な体躯で虫が苦手とは意外だ。
「粗方片付けたけど、これじゃあキリがない! …やっぱりこの穴を塞ぐしか──」
「いや……それでは根本的な解決にならない。やはり直接地下へと赴き、大元を叩くしかあるまい」
「このままタームを放置すれば奴等はまたこの村を襲う! 人々の為にも、全ての女性達にもタームは此処で叩くべきだ!」
一部含みがあるが、タームを粗方片付けた陛下の耳にも届いた様子で「どりゃああああああ!!」勇んだ声と共に穴の中へと消えていった。
「へ、陛下!?」
「あっちゃー……やっぱりこうなったか」
「まあ陛下らしいと言えばらしいが」
「ええ……陛下のお可愛い一面を垣間見る事が出来て何よりですわ♪」
「それはそれでどうかと思うが…」
臣下の方々も後を追う様に穴の中へと降りていき、私は彼等の姿が見えなくなった穴の中を覗き込む。
底が見えぬ闇が広がり……私も後を追いたい所だが、却って彼等の足手纏いになるのは確実。
己の無力感に内心怒りに打ち震え、彼等の無事を祈りつつ仲間達と共に残った村人達の避難誘導を行うのだった。
次回はモールのイベント、そしてクイーン戦を執筆します。