アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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サバンナ後編、基、ダイナマイト編はこれにて閉幕です。


帝国歴1439年 格闘家皇帝ダイナマイト編(サバンナ後編)

 Side ピーター

 

 我々は飛び込んだダイナマイト陛下を追い、サバンナの地下に巣を作るタームの縄張りに侵入する。

 

 巣穴は迷路の様に入り組んでいて、徘徊のつもりかタームが何匹と確認される。

 

 ターム以外にも他の昆虫型のモンスターが徘徊していて、タームに恭順する様子が見受けられる。

 

 この巣穴の奥にいるとされる大元──タームの女王(クイーン)を対処しない限り、サバンナは永久にタームの脅威に晒され続けていくだろう。

 

 そんなハムバ殿が語った通りの悪魔共を討伐すべく、皇帝陛下によって選定された我々が動かねばならない。

 

「うがああああああ!わふうううううううん!!」

 

 ……肝心のダイナマイト陛下は妙な奇声を上げ、次々とタームを討伐している。

 

 メディア殿が「貴方は犬ですか!?」と突っ込みを入れ、誰もがその奇行に息を吐くしかない。

 

「陛下……もう観念しては如何でしょうか」

 

「うぐっ…!否、吾輩は──」

 

「言い訳が苦しければ全て吐き出して下さい、此処にいない者達を含めて全員が存じております。陛下が虫が苦手だと」

 

「………え゛

 

 仮面越しで表情を窺い知れないが、確実に陛下は顔色を青褪めておられるだろう。

 

 まさか……本当に気付いていないと思っていたのか?

 

 私も初めて聞いた時はアガタ共々耳を疑ったが、陛下も一人の人間……苦手な物が一つや二つあってもおかしくないと踏んでいた、だがその対象が意外過ぎて言葉に出ない。

 

「意外と女々しいですね、陛下」

 

「うふふ、お可愛い一面を拝見出来ましたわ」

 

「ぬぬぬ……!」

 

 揶揄い気味に述べてくる女性二人に陛下は頭を抱え、確実に仮面の下は顔を赤くしておられるだろう。

 

 知ってはならない秘密が暴露され、その場で蹲る様子は何とも言えない。

 

「お言葉ですが陛下、こうなっては背に腹は変えられないでしょう」

 

「確かに……荒療治という形ですが、タームを克服していくしかありません」

 

「だ、だが、吾輩はどうにも虫共に好かれる気にはなれん──」

 

「──喝ッ!!!」

 

「うひい!?」

 

 陛下の口から女々しい声が上がるが、この後に及んでまだ弱音を吐く様子に、私は我慢ならず声を張り上げる。

 

「その様な弱腰では皇帝として民を導く事も、帝国を繁栄させる事も不可能!ましてや七英雄打倒も夢のまた夢!貴方は民草の信頼を裏切るおつもりか!?」

 

 いかん、つい説教になってしまったか。

 

 ネラック城の兵達も時々「言葉が過ぎる」と愚痴を零すと言う声があり、ついつい厳しくなってしまう。

 

 しかし私の叱責が胸の奥に響いたのか定かではないが、陛下は「……そうであるな、ターム()に怯えている様では吾輩は臆病者。出来れば虫に怯える皇帝などと言う、後世の者に不名誉な汚名を残すわけにいくまい…!」と語り、軽く息を吐いて片腕を天に掲げる。

 

「──吾輩は誓おう!タームを駆逐し、サバンナ(この地)に安息を齎す事を!タームだろうと、七英雄だろうと、吾輩がこの拳で打ち倒してくれよう!!」

 

 意気揚々と宣言する陛下、これで漸く先に進められるな。

 

 

 

 ※

 

 

 

「でぃやああああ!!」

 

 陛下の勇んだ声と共に繰り出される拳、それが叩き込まれてタームの一体が地面に倒れ伏す。

 

 此処までどれだけのターム──それに恭順する昆虫共を屠ったかを依然として知れない。

 

 メディア殿の水術とデイジー殿の地術、リチャード殿の大剣、そして私の槍捌き。

 

 各々が得意とする得物を駆使し、モンスター共を屠った。

 

 しかしそれでも無尽蔵にタームは繁殖を続け、拉致した人間の数だけ無限に増加するだろう。

 

 そして拉致された者達は捕食され、産卵の為の養分に……何とも悍ましい末路だろう。

 

 想像するだけで惨いという言葉では形容し難い光景、メディア殿とデイジー殿は若干顔色を青褪めている。

 

 二人程ではないがリチャード殿も思わず目を覆う、本当にそれを垣間見ればこの世の地獄に等しい、七英雄が蔓延る今の世界情勢が可愛く思える。

 

 七英雄と言えば……この迷宮の中にも例の装置──七英雄の記憶が点在しているのを確認した。

 

 鍛治職人のフロスティ嬢が欲する純鉄石を回収しつつ、その装置を陛下が起動させた。

 

 起動させるなり陛下は例によって沈黙し、一定時間が経過すると「はっ…!」と言葉を発し、意識が覚醒する。

 

 しかも「うおおおおん!」と咽び泣き、何故か感涙の涙を流す。

 

 一体何を見たのかを問い、陛下は体感した記憶を涙声で語り出す。

 

 茜色の空の下、森林の中を進むワグナス、ノエル、スービエ、ダンターグ、ボクオーンの後の七英雄の五人。

 

 彼等五人はタームを掃滅すべく、奴等の巣穴を一箇所に限定し殆どの巣穴を岩で塞ぎ、残る一箇所からタームを迎え撃つ。

 

 評議会から容認を得られない以上、決死の電撃作戦で奴等を討つしかあるまいと判断したのだろう。

 

 陽が落ちようとする中で敵地へと向かおうとするワグナス達、そんな彼等の前に一人の美しい女性が現れる。

 

 その女性の名はロックブーケ……後の七英雄の一人で、ノエルの妹だ。

 

 彼女は属する部隊を離れ、先回りして彼等を待っていたのだ。

 

 しかしワグナスとノエルは彼女の同行を拒んだ。

 

 経緯は不明だが人ならざる者へと変貌するとされる、禁忌の術を編み出した為、その道へと巻き込むわけにいかないと語った。

 

 だがロックブーケは折れなかった。

 

 親愛なる兄と、恋慕するワグナスと共に行きたいと必死になって下がろうとしない。

 

 目的を優先するボクオーンを尻目に、ノエルは妹が涙を溜めて睨む姿を知っている為か、迂闊に邪険に出来なかった。

 

 その姿に時に厳しく当たる事もあったそうだが、それも妹である彼女の安否を考えての事。

 

 その沈黙の果て、折れたのはノエルの方だった。

 

 美しい兄妹愛を見届けた後、ロックブーケを加えた六人はそのままタームの巣穴へと駆ける……その姿を後方から一人の男が見ていた。

 

 残りの七英雄の面々を考えると、順調にいけば察するのは容易……あれこそが当時の──

 

 レオン陛下とヴィクトール皇子の命を奪い去り、帝国と七英雄の対立のきっかけを作ったあの悪鬼にも、青い時代があったという事か。

 

 それは兎も角、ダイナマイト陛下はノエルとロックブーケの兄妹愛を体感し、あの様に感激しているわけか。

 

 確かに美しい兄妹愛ではある、だが…。

 

「陛下、お忘れにならないで下さいな?ノエルもロックブーケも七英雄の一角、世界に仇なす脅威に過ぎませんのよ?」

 

「分かっておる!分かってはおるが、あの様な光景を見せられては涙が止まらぬわ!!」

 

「本当に陛下って面倒くさいですね……気持ちは分からなくもないですけど」

 

 デイジー殿とメディア殿の言葉に涙を拭い、陛下は改めて行軍──我々はその後に続いていく。

 

 Side out

 


 

 Side メディア

 

 あたい等はタームを掃滅しつつ、巣穴の空洞を進んでいった。

 

 暫く進んでいくと扉を発見、それを潜ると何やら開けた空間が広がっていた。

 

 岩で出来た住居らしきものが点々とあり、思わず人が住んでいるのか?と疑問が浮かぶ。

 

「た、助けてー!!」

 

 助けを乞う悲鳴が聞こえ、空間の中心部に円形の岩がある。

 

 岩を囲ってタームが群がっていて、その上には住民らしき灰色の体色の生物が降りられなくなっている。

 

「モ……モンスター!?」

 

「いや……あれは亜人族だ!モンスターとは異なる存在であり、決してモンスターではない!」

 

 ピーターさんが言った様に、モンスターに見えるけど何処となく人間に近い様に見える。

 

「退けい!」

 

 ダイナマイト陛下が咄嗟に前に飛び出し、ターム共をあっという間に蹴散らした。

 

 流石に克服してきたのか、奇声を上げることなく次々と討ち倒している。

 

 上半身が壁に減り込んでいるターム達を放って、奴等に囲まれていた土竜(モグラ)の亜人族──モール族の人から話を聞く事に。

 

 モール族はタームに怯えながらもこの地下で暮らしていた、しかし仲間達の殆どは奴等に餌にされ、残っているのは彼を含めた少数の者だけ。

 

 他人事とはいえ、なんだか気の毒になってくるね。

 

 って言うか寧ろ可哀想だよ。

 

「モール族の者よ、気を落とすな」

 

「……?」

 

 涙を溜めている両眼を擦る中、彼は陛下に目線を向ける。

 

「吾輩達がタームを掃滅して見せよう!そしてこのサバンナは勿論、モール族の安寧を約束する!其方の同胞の無念を晴らす事で!」

 

「それで良いか!?」と豪語する陛下、彼はその言葉を聞いて涙声で「お願いします…!!」と頭を下げて懇願、同胞の敵討ちをあたい等に託してくれた。

 

 やらないとならないね。ハムバ達サバンナの人達の為、そして──モール族の為にも。

 

 

 

 

 モール族に見送ってもらい、あたい等は巣穴の最奥部を目指す。

 

 最奥部に近付くにつれて、ターム達はあたい等を近付けさせまいと必死になっているのか、兎に角襲い掛かってくる。

 

 タームの体表は硬く、剣では切り傷一つ与えられず、無闇に振るっても刃毀れするのが目に見えている。

 

「清流剣…!」

 

「食らいなさい、ストーンシャワー!」

 

「でりゃああああ!」

 

 ダイナマイト陛下の体術、大剣を扱うリチャード、地術に長けるデイジー。

 

 幸いにも三人の攻撃はタームの弱点にもなっていて、三人を中心にあたい等は先に進んでいく。

 

 連中の卵からは鼓動が響き渡り、それがあたい等の耳に嫌でも聞こえてくる。

 

 奴等はこれだけの巣を作るのにどれだけの時間を費やし、そして数多の人間を喰らい尽くしてきたのか。

 

 そう考えるだけで自然に手に力が入り、一刻も早くタームの侵攻を止めなければと言う責任感が強まる。

 

 肉壁を彷彿とさせる空洞内を歩き、肉膜と思しき狭まった箇所を潜る。

 

「……なっ!?」

 

 陛下の驚愕の声が上がり、あたい等も次々に潜り抜け、その先の光景を見て──言葉を失った。

 

 あたい等よりも何倍の背丈のある、異様な異形が其処に佇んでいるんだもの。

 

 その異形は背丈もそうだけど、特徴的な昆虫特有の臀部がある。

 

 まさか……此奴が地下に巣食う大元だって言うのかい!?

 

「で、でかい…!」

 

「何と巨大な虫…」

 

「これもタームなのか…!?」

 

 恐らくこれがタームの女王(クイーン)。嘗て七英雄達が挑み、そして死闘を繰り広げた怪物。

 

 獰猛な雰囲気を醸し出し、殺意が込められた眼光は獲物を欲して血に飢え、口から溢れる息は毒素を含んだ吐息と化す。

 

 ──GYAAAAAAAAAA!!

 

 洞窟内に響き渡る悍ましい咆哮、その眼光はあたい等を獲物として見定めて睨み付けている。

 

「──来るぞ!」

 

 陛下の一声であたい等は得物を構え、クイーンとの死闘に身を投じる。

 

「来るがいい、タームの女王(クイーン)よ!これ以上サバンナで人々の命を蹂躙するならば、このダイナマイトが正義の鉄拳で制裁を下そうぞ!」

 

 意気揚々と陛下は単身クイーンに向かっていく、その後をピーターさんとリチャードが続く。

 

 あたいとデイジーがその支援として、強化術法を陛下達に掛ける。

 

「せいや!」

 

「はあ!」

 

 リチャードの大剣から放たれる清流剣、ピーターさんの槍術から放たれる一文突き。

 

 クイーンは攻撃してくる二人を振り払おうとするけど、二人は伸びてくる両腕にウォーターガンやウインドカッターを放つ事で逃れる。

 

 更にダイナマイト陛下は普段使う事のない大剣を用い、クイーンの身体を斬り付ける。

 

 どうにか今は此方のペースに乗っているけど、そう易々と事が上手く運ぶわけがない。

 

 クイーンは何かの動作を行っていき、すると何とタームを産卵した!?

 

 ちょ、自分の子供を兵士として生み出したって言うのかい!?

 

「ふん!幾ら数を増やそうと、我々には関係あるまい!!」

 

 豪語する陛下はリチャード達の援護を受けつつ、クイーンに攻撃を与えていく。

 

 だけどクイーンが攻撃を許す筈がない。そう思っているとダメージを蓄積していった結果、奴は突然狂ったかの様に咆哮を放った。

 

 何処からか得物であろう棍棒を顕現し、あたい達に向けて振るってくる。

 

 更には──

 

「は…!?」

 

「自らの子を喰らった、だと…!?」

 

 気が狂ったのか自ら産み出したタームを捕食、その身体は段々と陛下達が与えた傷が消えていく。

 

 まさか……自らの子を喰らう事で、身体のダメージを回復していってるって事!?

 

 幾ら回復の為とはいえ、自分の子供を捕食するなんて…!

 

 自分でも若干顔色が青く変わっているかも知れない、でもこんな化け物を放っていたらサバンナやモールと言った数ある命が此奴の贄にされる。

 

 犠牲を構わず次々にタームを産卵するクイーンの様子に自然と手に力が入る、今やらなければあたい達もタームの──クイーンの餌にされるだけ。

 

 クイーンは棍棒を振るいながら口から瘴気を放ち、ターム共は剣や槍を振るっていく。

 

 毒に蝕まれながらもあたい達は苦戦を強いられる、奴等の放つ技の数々に傷だらけになっていく。

 

 あたいは状態異常を回復する水属性の術法、元気の水や傷を癒す生命の水を駆使して陛下達を癒す。

 

 ダイナマイト陛下も毒に侵されながらも立ち向かい、その姿にあたい達臣下は後押しされる。

 

 そして身体に鞭を打ち、奮起するしかない。

 

 此処で折れたら帝国は守れないし、世界は七英雄の意のままにされる──それだけはあってはならないってねェ!

 

「──かあ!!」

 

 陛下は呼吸法で状態異常を回復、クイーンに向けて殴打を繰り返す。

 

「皆……陛下に続くよ!あたいも帝国に雇われた傭兵である以上、陛下を支える!」

 

「私も……軽装歩兵たる者、あの御方の矛であり続ける…!」

 

「ふふ……柄ではありませんけど、命を預ける身ですものね」

 

「私もまた……我がカンバーランドが先帝に救われた、その御恩に報いるまで!」

 

 体力バカで筋肉に絶対の自信を持っている自己陶酔(ナルシスト)だけど、それも含めて陛下の良い所。

 

 アグネスと度々口論して、兵士や重臣達を困らせて、アバロンの木に登って無駄に筋肉を強調した仕草(ポージング)を取って周囲を明るくしてくれる。

 

 普段はアレだけど、そう言う所も尊敬出来るんだよね。

 

「いくよ──ウォーターガン!」

 

 あたいの放った水属性の術法はターム共の体表を撃ち貫き、クイーンに命中。

 

 次はピーターの剣から放つ、つむじ風。その名の通りに剣先から旋風を起こし、クイーン達を巻き込んで明後日の方向へ飛んでいく。

 

 次にリチャードの放つ流し斬り。嘗て七英雄・クジンシーと刃を交え、無念の死を遂げたヴィクトール様が生前得意とされた剣技。それはクイーンの胴体を斬り付け、ターム達はクイーンの盾になろうとする。

 

 其処にデイジーの放つ広範囲の攻撃地術、ストーンシャワーが降下。降下してくる石の雨がターム共に落ち、次々に倒れる。

 

 これでもうクイーンを守るものはいない。

 

 見境なく暴れ出すクイーンは棍棒を何度も振り下ろし、その衝撃にあたい達は後方に転がり落ちる。

 

 そんな怪物を止められる者はいない──あの御方を除いては。

 

「眠れ──タームの女王(クイーン)よ」

 

 棍棒を受け流し、振り向きざまに放つカウンター攻撃──ジョルトカウンターがクイーンの胴体に突き刺さる。

 

「見たか、我が正義の鉄拳を──」

 

 ──GYAAAAAAAAA!!

 

 クイーンは悲鳴に近い咆哮を上げ、あたい達に向けて緑色の液体を嘔吐した。

 

「ぶわっ!?」

 

「ひゃ!?」

 

「……!」

 

「くっ…!」

 

「う…!」

 

 汚いね、全く。

 

 あたい達の身体に嘔吐された液体が降り掛かり、全身が液体塗れになった。

 

 イタチの最後っ屁のつもりか知らないけど、汚い悪足掻きだね。

 

 そして断末魔の叫びと共にクイーンの身体は崩れていき、同時に周囲にあったタームの卵は石の様に硬化していった。

 

 念の為に確認してみたけど、石みたいに硬くなっていて……命の鼓動を感じなかった。

 

 クイーンが死んだと同時に、卵の中のタームも産まれる事なく死に絶えたわけだね。

 

「終わった……」

 

 ダイナマイト陛下が息を吐く。もうすっかり虫への抵抗がなくなったみたいだし、これで帝国の未来も安泰だね。

 

 クイーンが死んだ事で残ったタームも後退を余儀なくなるだろうし、当分は大人しくなるだろうね。

 

 さっさと地上に戻ってハムバ達やモール族に報告して、帝国に戻るだけだね。

 

 

 

 

 

 地上に戻ると陽はすっかり昇り、集落の方は大分落ち着いていた。

 

 満天の蒼穹の下、集落の人達から応急処置を施される中、ハムバ達に地下で起こった出来事を語った。

 

 彼等はクイーンの存在やモール族が実在した事に驚き、改めて警戒を強める事を志す。

 

 集落を代表してハムバが「有難う御座います、これでサバンナは恐怖から解放されました」と礼を述べてくる。

 

 別に感謝される為に戦ったわけじゃないし、何れにしても帝国の領土を拡大する為に必要だった。

 

「その……何のお返しも出来ませんが、何かの折には我々ハンターにも声を掛けて下さい」

 

「それはつまり……我々の世界統一に手を貸すと捉えていいのか?」

 

「ええ」

 

「相分かった、其方達の力を貸してもらうぞ」

 

「喜んで」

 

 これでサバンナも帝国の領土に収まり、ハムバ達ハンターも陛下の力になる事を誓約を交わした。

 

 地上へ戻る際、モール族も陛下の力になる事を約束してくれた上、仲間が増えたら協力すると言っていた。

 

 今宵はサバンナに平和が戻った事を記念して、宴を開く事となった。

 

 焚火から上がる煙が夜空に昇る中、あたい達は楽しく踊ったり、帝国じゃ食べれない料理を振る舞われ、大いに楽しんだ。

 

 陛下が仕草(ポージング)を取ったり、リチャードが現地の女性を口説いていたり、少し羽目を外してあたい達は眠気に襲われるまで平和を謳歌した。

 

 後日、傷だらけであたい達はアバロンに凱旋、ウォーラスを始めとして皆から苦労を労われた。

 

 コムルーン火山の噴火阻止にサバンナのクイーン討伐、レオンブリッジ建設、そして帝国大学設立。

 

 多大な功績を齎した陛下の偉業はきっと、何れ伝記として後世に伝わっていく。

 

 陛下と過ごす時間はあたいにとってかけがえのない日々、退屈から解放される唯一の潤い──筋肉を強調して高らかに笑う陛下を見てそう思う。

 

 そしてそれをあたいは、寿命を迎えても忘れないだろう。

 

 

 

 Side out

 


 

 Side ???

 

 ──(わたくし)はアバロンと言う国家そのものが、大きな鳥籠と考えている。

 

 鳥籠の主──即ち実の父によって、自らの生き方を父に縛られています。

 

 父は帝国の重臣で大臣の地位に就いています。

 

 その性格は世間体を重視し、身分制度や人種主義を主張しております。

 

 中でも肌色が全く異なるステップのノーマッドの民やサバンナの原住民に対してはより顕著、帝国に仕える者として人種差別意識があります。

 

 娘の私から言わせれば、何とも馬鹿馬鹿しい…ですわね。

 

 この世に生を受けて二十年と四年、そろそろ身を固めろと父から宣告されました。

 

 有無を言わせず身勝手に政略結婚の相手を見初めろと指示を出し、家の為ならば娘の私の意志など殆ど無に等しい。

 

 端から見ればふざけていると思うようですが、父にとって私は唯の小さな小鳥なんですから。

 

 私は現在、皇帝の座す玉座の間のカーペットの段差に腰を下ろし、深い溜息を吐く。

 

 何と畏れ多いと思うようですが、この玉座に──と言うか現在この国に君主が存在しないのです。

 

 なので夜分遅くに一人になる時、見張りの目を盗んでひっそりと玉座の間に忍び込んでいるのです。

 

 この帝国は少々特殊であり、伝承法と言う古くから伝わる術法によって皇帝が選定されるのです。

 

 それは身分や人種など関係なく、志のある者で選定されて帝位を継承すると言う仕組みとなっています。

 

 数百年前の皇帝……レオン様が見ず知らずの女魔道士からそれを伝えられ、彼の没後に皇子たるジェラール様が継承。

 

 ジェラール様の没後、当時帝国軽装歩兵であったジェシカ様が継承。

 

 更にその没後、今度は南バレンヌの龍の穴の格闘家のリーダー……ダイナマイト様と、何百年の月日を経て伝承法は何人もの偉人達を皇帝へと選定してきました。

 

 そしてダイナマイト様の没後から二百数年……未だに伝承法は新たに次なる皇帝を選定しません。

 

 まさか次は私が……などと言う高望みをしますが、流石にないとすっぱりと諦観しております。

 

 それにしても今宵は月が綺麗ですわね。

 

 夜空を静かに照らし、星々が幾つも見えていて、鳥獣に掴まる影が見えて…。

 

「………え?」

 

 月夜に映る影に目を離せず、思わずそれを直視する。

 

 それは段々と此方に近付いてきて、その人影は鳥獣の足を離し……そのままステンドグラスを突き破り、堂々と玉座の間に降り立った。

 

「……此処が玉座か」

 

「貴方、何者ですの…!」

 

 右手を突き出し、私はファイアボールを撃とうとして目の前の不法侵入者を警戒する。

 

 月夜が照らされる事によって、その侵入者の全貌が明らかになっていく。

 

 私より背丈が高い長身の男性……色黒の肌で、とても澄んだ眼差しをしていらっしゃいます。

 

「その肌色……もしかして貴方はサバンナの」

 

「すまないが……その玉座へ通してくれないか」

 

「何を…?」

 

「信じられないのはよく分かる、しかし今は通して欲しい」

 

 その男性は虚言を放っているとは思えなかった。

 

 訝しみつつも道を開け、男性は段差を上り玉座の前に立つ。

 

 彼は得物である槍を手にし、玉座に向けて振り下ろし、最も簡単に鎖を突き破る。

 

 鎖が砕けると共に、彼の頭上に光が舞い降りる。

 

 この光は伝承法の…!

 

 書物に記されたその一文、その光景を目の当たりにして私はそれに目を奪われる。

 

 光は段々と収まり、彼は呆然と立ち尽くす私に振り返る。

 

 私は彼の前に傅き、自らの名を伝える。

 

「……私の名はトパーズ、帝国(アバロン)に仕える宮廷魔術師です。貴方様の名は…?」

 

「私はクワワ……サバンナで暮らすハンター。そして……たった今、皇帝となった者だ」

 

 彼の……クワワ陛下の御顔を見ると胸が高鳴り、心臓の鼓動が収まらない。

 

 私は……クワワ陛下に見惚れ、そして淡い想いを抱いてしまったようです。

 

 初対面のお相手……異国から舞い降りた新たな皇帝に傅く中、夜は更けていくのでした。

 

 




次回より第四世代編、基、ハンター皇帝クワワ編です。

恒例のキャラ設定と共に投稿致します。
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