Side ???
幼き頃より、私は変わった子だと聞かされてきた。
この世に生を受けた頃より産声を一つも上げず、唯々黙々としていたそうだ。
そんな生まれて間もない私を、当時の大人達は不気味に感じたらしい。
泣き声を一つも上げず、気味悪くも黙々と静観的な子供時代だったと伺う。
不気味だったわけでなく、その行動力も突拍子なかった。
大人達の目を盗んでハイハイで勝手に集落の外に出て、しかもモンスターの住処に入り込んだらしい。
百獣王にコカトリス、バイロヒドラにキマイラと──凶暴な輩を前に物怖じせず、平然と眺めていたそうだ。
他にもモンスター達の背に乗って頭によじ登り、咆哮を真似て声を張り上げていた。
モンスター達は勿論、私を探しに来てくれたハンター達も赤子の私の奇行に引いていたんだとか。
そんなわけでサバンナのモンスター達と和睦を深めていき、気付けば狩猟の際の相方にもなっていた。
そして数日前、夜が更けてきた時に何かの言葉が私の脳裏に響いた。
アバロンに赴き、新たな皇帝としての使命を果たせ……と。
そして私──クワワはコカトリスに頼んで帝国へ向けて宮殿に入り、皇帝としての力と記憶を継承。
※
「……と言うわけだが、まだ未熟な皇帝故に配慮が足りないと思うが、よろしくお願いする」
宮殿内の酒場のテーブルにて、私は身の上話を語った際に眼前の臣下達に
「ず……随分と大胆な幼少期だったのですな」
「って言うか、モンスター達を手懐けるって……普通にあり得ない」
帝国重装歩兵のスネイル、軽装歩兵のオードリーの乾いた声が響く。
他にも猟兵のウィリアム、宮廷魔術師のタウラスも同席していて、若干引いている様子だ。
私は今、其処までおかしな事を口にしたのか…?
彼等の心境は伺い知れないが、テーブルを立ち酒場を後にしようと通路に出る。
「陛下…何方へ?」
「城下町の巡回だ」
「陛下自らがその様な事をなさらなくとも……」
「私は外の世界を知らないが故に、常識も疎い。だから世界を回って見聞を広げておく必要がある」
あくまで私的な見解だが、そんな私を伝承法は皇帝へと昇華したのだろうな。
サバンナと言う在野の荒野で育った上、故郷では見る事のない発見を求める事が出来る──唯の狩猟と言う井戸の中の世界に閉じ籠るよりは、幾分マシと考えるべきか。
戸惑うスネイル達の声を背に、私は城下町へと足を運ぶ。
※
「あら陛下、御機嫌よう」
「オーホッホッホッホッ!町の巡回でいらっしゃいますわね」
「まあそんな所だ」
町の巡回に赴く中、噴水の近くで二人の女性に声を掛けられる。
フリーファイターのヒッポリュテーと帝国猟兵のキャサリンだ。
ヒッポリュテーは普段名前が長い為、ヒポ姉……またはヒポさんと呼称されている……私は後者の呼称で呼んでいる。
キャサリンは良家の娘なのだが、どういうわけか高らかに笑うと言う高飛車なお嬢様?の様な振舞いをしているが、彼女の個性である為、誰しも咎めず受け入れている。此方もキャシーと言う愛称で呼称されている。
酒場に向かえばヒポさんと同じフリーファイターのシーシアス、軽装歩兵のハーバード、フリーメイジのカノープス御大の姿が見受けられる。
昼間から酒を飲んでいるのかと思い、三人の軽い談話を尻目にしつつ私も酒を一杯含む。
この三人の共通点は……酒に強くない事だな。
『ゔっ』
カノープス御大は老体故に、ハーバードとシーシアスは調子付いてテーブルに突っ伏す。
其処まで強くない三人は全く懲りず、いつも似たタイミングで泥酔状態に至る。
そんな三人をスネイルや御大と同じフリーメイジのアイリスが宮殿に運んで介抱する、そして国の資金で代金を支払うのが一連の流れである。
他にはシティシーフのピジョンとマウスが雑貨店や武具店で品揃えを見渡しており、
値段が高くて購入するかどうかを考えている様だな。本来ならば見守るべき立場、不干渉を一貫する立場だ。
気付けば私は彼等にクラウンを少々分け与えた、二人は目を丸くして私に視線を向ける。
「気にしなくていい。私が勝手にそう判断した事、些細な干渉してすまない」
『はあ……』
お節介だと向こうは判断しているのだろうが、私は未だ慣れぬ
狩猟せずとも食材や服が手に入り、富を与えるだけで欲する物が手元に収まる。
これまでの皇帝も皆、
だが同時に、富は時に人を堕落し……歪める。
私の様な野蛮な異邦人が皇帝に即位した、その事実は腐敗した重臣達の耳に届き、疎ましく思う者は少なくない。
必要とあらば刺客を差し向け、私を亡き者と考える者は存在するだろう。
七英雄然り、嘗てのカンバーランド陥落を目論んだ宰相然り、コムルーン島に座する正体不明の魔道士然り。
胡乱な輩が跋扈する世の中に疑惑を覚え、私にとって
だから私はそんな自己嫌悪しつつも周囲に目を光らせ、国内外の敵を探りを入れる。
帝国を繁栄する事を視野にも入れているし、国政に手を抜く気など毛頭ない。
「陛下」
術法研究所の方へ出向くと、私の伝承法継承を目の当たりにした彼女──宮廷魔術師のトパーズが研究所から出て来る。
臣下の中で唯一、私に心を許していない人物である。
己の人生を父君に縛られ、大臣である彼女の父君は皇帝たる私を亡き者にしようと企てているそうだが、大臣は人種主義を一貫としている。
当然ではあるか、肌の色が異なる私を蔑むのも分からなくもない。
だが大臣の思惑通りにもさせないし、みすみす死を受け入れるわけにもいかない。
何より彼女を──自身の娘を政治の道具としているならば、明るみになった際──相応の覚悟を以て裁かれる事だろう。
「トパーズ……今……術法研究所から出て来たみたいだが、何か術法を修得したのか?」
「ええ、火と風の合成術を少し。それと陛下」
「?」
「先程父……大臣からお達しを受けまして、陛下の親衛隊として同行するようにと命じられました」
「……そうか」
冷淡に私は納得し、色々な推測が過る。
恐らくそれは同行と言う名の監視、本当の意味で同行を許したわけではあるまい。
露骨に人種主義が此処まで酷いと、逆に怒りよりも呆れると言う感情が勝る。
そして最終的に私をこの手で──と言った密命を下されているのだろう、若干辛気臭い顔となっていて罪悪感を感じている様子だ。
「では今後とも宜しく頼む、共に帝国の為に統一を目指すとしよう」
慣れない笑顔を私は浮かべる。トパーズの顔は赤みを浮かべていき、軽く咳払いして「え、ええ、有難き幸せで御座います」と作り笑いを見せて去っていく。
やはり敵は何処に潜んでいるか分からないな。外側にも、そして内側にも。
Side out
Side トパーズ
私は父から陛下の──クワワ様暗殺の密命を下されている。
クワワ様が伝承法にて歴々の皇帝の記憶と力を得て即位した数日後、
お父様は酷く荒れ果て、眉間に青筋を浮かべていき陛下を口汚く罵っておりましたわ。
あの様な輩を皇帝とは認めん、純粋な帝国人が皇帝となるべきなのだと。
帝国臣民としてあるまじき言動の数々、それを報告すべきか迷っています。
そしてお父様は私に、一つの短剣を手渡しました。
更に帝国臣民として、あってはならない言葉を私に命じたのです。
皇帝の行動を監視し、最終的に一人となった瞬間に首を取れ…と。
帝国人至上主義たるお父様のその狂気じみた密命に言葉を失いますが、私にそれを咎める発言力はあまりに無力。
お父様にとって私は命じられるだけの人形、私は静かに短剣を手にして宣言してしまった。
「必ずやお父様の為、そして帝国の為、皇帝陛下の首をこの手で──」
吐き出したい感情を押し込み、私はその密命を背くなど出来ませんでした。
帝国臣民から慕われ、そして私にとって臣民としてではなく、一人の殿方として愛して止まないあの御方をこの手で──
使命感と陛下に対する想いの狭間で揺らぎ、私は心を押し殺してまで陛下の親衛隊の随行を宣言したのです。
陛下は私の事を疑うことなく、あっさりと許可して下さった。御自身の御命を狙う、私の使命など気付く事はないでしょう。
※
後日、陛下の膝下に火急の一報が届きました。
遥か遠方──コムルーン島の火山が再び活性化し、噴火しかねない状況にあるそうです。
嘗て先帝ダイナマイト様によって火山は一度活動を止めたそうですが、今回はかなりの危険が極まった事態にあるとの事。
それを知った陛下は親衛隊に私、シティシーフのマウスちゃん、龍の穴の格闘家のリーダー……テリーさんを抜擢されました。
ですが陣形を組むには五人必要であり、現地に赴くのはたった四人。
陛下によると残る一名は現地で合流するらしく、先ずはダイナマイト様の様にソーモンからマイルズの港町へ行き、其処からステップの草原、サバンナ、サラマットの森林を経由、そしてムリエの漁村からコムルーン島へと向かう道筋となります。
前途多難ではありますが、領地の危機とならば直接向かう事を決定付けられますわね。