序盤に人形イベント、サイゴ族の村のイベントが入りますが、まだナゼールを領地化しません。
Side ???
幻想的な夜空の下、木に焚べた火から煙が上がります。
野営地の高原の片隅にある芝生の上で広げられている夜食、リザード系や獣系のモンスターの肉を火で炙り、焼き上がった肉。
フォーファーではお目に掛かれない肉の数々、それを食する方々の豪胆さには感服してしまいます。
「ふむ……少し赤身があるな。シエロ、逸る気持ちは分かるが、じっくりと見て食すといい」
「成程〜……流石ケルートさん、もしかして食通だったりするんですか?」
赤い鱗で覆われている筋骨隆々の肉体のその御方は慌てて肉を取ろうとするシエロさんを止める、その傍らでクワワ陛下が咀嚼音を鳴らして黙々と食べています。
ふうっと息を吹き掛けて口に運び、闇夜の下で肉を食し続けます。
私と同じく息を吹き掛けている人がおります、帝国の宮廷魔術師のトパーズさんです。
「お隣、よろしいでしょうか」
「ええ、構いません」
そう言えば御紹介が遅れました。私はモニカ、帝国の属領下にあるカンバーランド王国の港町・フォーファーの領主を務めております。
現在フォーファーは私の代わりに王国の重鎮たる父が名代を引き受けていて、私は皇帝陛下たるクワワ様から此度の遠征に随行する事になりました。
※
事の始まりは五日前、それは起きたそうです。
嘗てあのジェラール陛下によって南バレンヌのヴィクトール運河に興された湖畔の町、ミラマー。
その名所たる大橋、レオンブリッジ……それが突然破壊されてしまったらしいのです。
丁度ミラマーの視察に参られたクワワ様は勿論、文官の皆様は驚かれていました。
その惨状は酷いもので、町の方々も驚く他なく困惑する程。
町の方々によれば真夜中に"何か"が追突したと思われる轟音が聞こえたそうで、その明朝に確認すると御覧の有り様。
他には海から巨大な魚影が見えたらしいと言う証言もあり、その魚影は遥か遠く──熱砂が続くメルー地方のビハラと言う村にあるワイリンガ湖に棲まう海の主ではないかと言う声もあります。
ワイリンガ湖……ビハラから船で赴く事が出来る湖で、魚類モンスターが多く生息すると聞いた事があります。
この話はダグラスの港町と交易がある北バレンヌの港町・ソーモンに居を構えるソーモンきっての発明家・ヒラガ様に伝わっていて、陛下に原因の究明を御依頼しました。
海の主様が何故この様な暴挙を行ったのか、その真意を判明するまでレオンブリッジを再建するわけにいかないそうです。
そしてその随行員にトパーズさんと私、コムルーン島からサラマンダー族の長であるケルートさん、サバンナから若きモール族のシエロさんが選ばれました。
……そう言えばヒラガ様はレオンブリッジを始めとする発明を行っていて、御先祖代々に渡りに渡って素晴らしい発明を完成されたそうです。
その叡智の結晶こそが、全自動式の人形。外見は人間の女の子ですが、歴とした人形で関節部分が作り物で陛下の声に反応する様に設計・製作されたとか。
コッペリアと名付けられたその人形は精巧な作りだと言うのは分かるのですが……何故か陛下に対してぞんざいな口調でした。
口を開けば不敬極まりないものでして、何故こうなったのかとヒラガ様に視線を向けましたが、不自然な冷や汗を流して彼は目が泳いでいました。
陛下もコッペリアちゃんの事を容認していて、役立つ時が来ると言葉にしていました。
さて、話を戻すとしましょう。海の主様の所在は判明したものの、このままワイリンガ湖に向かって良いのかと心配になってしまいます。
確かに海の主様はレオンブリッジを破壊していきましたけど、何故その様な暴挙を行ったのかと疑問が浮かび上がります。
何か思惑があるのだと私は感じ、誰しもが首を傾げます。
ですが海の主様は種族柄で海の生物、人語を話せないでしょう。
一体どうすればいいのかと考える中、ケルートさんが「……少し視野を広げてはどうだろうか」と呟きました。
言われてみればまだ世界には帝国でも行き届いていない場所がある。現地に赴けば私達も知らない世界があります。
ケルートさんの言葉を真摯に受けて「……ナゼールだ」と陛下がポツリと言葉を漏らします。
ルドン地方にあるティファールの南にあると言うサイゴ族なる遊牧民が暮らすナゼール地方、嘗ての先帝ジェシカ様の伝記には……ナゼールからわざわざティファールに訪れたサイゴ族の者に出会ったと記されていました。
そしてナゼール地方へ行くにはティファールとの境目にあるルドン高原を越えていかねばいけません。
ルドン高原は凶暴なモンスターが徘徊する危険地帯、興味本位で立ち寄った旅行者が迂闊に踏み入れたら最後、モンスター達との危険な追いかけっこを延々と繰り返す羽目に。
……ですが、私達は逆に果敢にモンスター達に挑み、それを殲滅していきます。
槍術を巧みに扱い、幼き頃より狩猟を行っていたクワワ陛下。
豪胆且つ勇猛……灼熱の地と隣り合わせで生き、強靭な肉体と戦斧を扱うケルートさん。
棍棒を扱いながら大地の恩恵を受けているシエロさん。
密かに陛下を恋慕し、火と風の魔術を得意とするトパーズさん。
水の魔術を得意とし、棍棒を使って敵を討伐する私……何故か周囲から鈍器聖女などと言う不名誉な渾名で呼ばれていますが。
兎に角そのままルドン高原を行軍、途中で日を跨いで野営していると言うのがこれまでの経緯。
「何かお悩みの御様子ですが……お伺いしても?」
「……それは……」
「言いたくないのであれば追求はしません。ですが……隠し事をしていては何も解決しませんよ?」
トパーズさんが何かを抱えている事はこの数日で共に過ごす中で察し、妙に陛下に対して後ろめたい様子で距離を取っていました。
彼女はお父上からの命で陛下に随行していると聞き及んでいますが、本当にそれだけでしょうか?
何か何処か罪悪感を抱くかの様な雰囲気を醸し出していて、私の核心を突いた問いに耐えきれなくなったのか、彼女は意を決して吐露してきました。
「そうですか……お父上が陛下の暗殺を貴女に」
「ええ……幾ら異種族差別が過ぎるとはいえ、肌の色が異なるというだけ──純粋な帝国の人間に帝位に就かせる為だけに」
トパーズさんの前だけあって発言は憚れますけど、大臣は大分極端な帝国人主義ですね。
帝国の為だと大義名分を公言していますが、御自分が唯異国の人間を忌々しく感じているだけの事。
そんな自己満足の為に使命を強制させられる彼女が不憫であり、とても度し難い愚かな行為に腹が煮えくり返りそうです。
もしも私がそんな立場であれば地裂撃で吹き飛ばした後、気の済むまで脳天割りで大臣の頭をかち割っている所です。
「そんな理不尽な命令、無視すればいいんですよ。気に入らないのであれば気の済むまで殴るなり、頭突きするなり、最終手段──陛下に直訴するべきでは?まあ無関係の私がこんな事を言うのはどうかと思いますけど」
「……そうですね、そうですわよね。もしそれが通りさえすれば……ありがとう御座いますモニカさん、少し気が楽になった気がしますわ」
僅かに微笑んでくれたトパーズさん、どうやら少し気負っていたみたいですね。
「二人共、そろそろ就寝にするとしよう。……どうした、トパーズ?」
「い、いいえ。何でも御座いません、軽い雑談ですわ」
頬を赤く染めて問い掛けてくる陛下を誤魔化し、そそくさと野営地に戻っていくトパーズさん。
「……何かあったのだろうか」
「さあ?良い事でもあったのでしょうね」
色恋に疎い陛下に呆れつつ、私達も野営地に戻るのでした……明日以降はこの高原を越える事を願うばかりです。
Side ケルート
陽の光が浴びると共に我等は野営地を畳み、モンスターの巣窟たる高原を駆け抜けた。
その最中に純鉄石なる代物を回収しつつ、我等は漸くルドン高原を踏破する。
その過程で我々は未開の地なるナゼール地方に踏み入れたのだが、我々を出迎えたのは手厚い歓迎ではなかった。
其処は小さな村ではあるのだが、その雰囲気は決して暖かいものではなく寂れたそれであった。
「ありゃ?」
「……思っていたのとは違いますね」
村の者達は随分と暗い様子であり、我々を認識するなり希望に縋り付く様な眼差しを向けている。
経緯は分からんが、このサイゴ族の村で何かが起こっているのは間違いない。
「あ、貴方方は…?」
「私はクワワ、サバンナ出身のハンターで帝国の皇帝を務めている」
気が付けば陛下は村の長らしき初老の男に声を掛けておった。
いつの間にと思うが、村の様子に我々が驚いた為に埒が開かないと判断しての行動だろう。
陛下が
だがトバに通ずる道にモンスターが住み着き、巣窟を作っているそうだ。
お陰でトバとの交易路が絶たれ、村の子らに貧しい思いをさせてしまっている。
悲しみに暮れる村長に対し、陛下は「ならばモンスターを討伐し、この村が抱える問題を解決するとしよう」と慈愛に満ちた澄んだ瞳を向けて宣う。
村長は陛下の御言葉に目を丸くし、瞼から雫が流れる。
もしもそのモンスター共を討伐し、交易ルートを確保さえすればこの村はトバとの交易を再開──子供達に貧しい思いをさせずに済むだろう。
モンスター共の巣窟はこの村の東にあり、我々はすぐさま村を発つ事となった。
村の者達が我等を見送る中、子供達が妙な話をしているのをつい聞き耳を立ててしまう。
巣窟の中に何やら途轍もない巨躯を持つモンスターが存在するらしく、其奴は尋常ならざる力を持っているとの事だ。
兎に角それに我等は耳を傾け、巣窟を目指す。
※
巣窟は時間を程なく掛けずに到着した。
周囲には昆虫や爬虫類系、特にスライム系のモンスターが多く徘徊していた。
生い茂った苔や蔦、岩が多く点在しており……これは巣窟と言うよりもサラマット程ではないが密林に近しい。
我等の行手を阻まんとモンスター達が殺気を剥き出しにし、その内の一体──ムドメインと呼称される存在が押し寄せてくる。
「──熱風!!」
トパーズ嬢が放つ火と風属性を合成した攻撃術、それはムドメインの柔らかな身体を一瞬にして蒸発していった。
此方も負けていられんと意気込み、我も蜂型のモンスター……ビーに拳を叩き込み、ゼラチナスマターには中級火術・フレイムウィップを放つ。更にはパイソンと言う名のモンスターには戦斧を投擲、切断された首と胴体が血飛沫を噴出して地に転がる。
「はいやー!」
ビーの亜種とも言うべき存在であるピアスの大群を前にシエロが棍棒を振るい、ピアス達を殴打して善戦している。
傍らではモニカ嬢が我等に回復術を施しつつ、小剣や棍棒……術を駆使して敵を翻弄。
「はあ!」
そしてクワワ陛下が槍を振るって敵を薙ぎ払い、弓を用いると的確に急所を見事に射抜く。
「熱風!熱風!熱風!!」
トパーズ嬢は熱風を乱発していき、周囲のモンスターは悉く倒れ伏していく。
「術が使えなくなったら大変です。ささ、どうぞ」
万が一に備えて携えていた霊酒を我々の下にシエロは配り、その厚意を汲んで我等は口に含む。
術が尽きれば我等はモンスターにとって格好の餌食、極力強大な術の使用は避けねばなるまい。
「陛下……こんな時になんですが」
「…?」
「少し手を繋いで宜しいでしょうか」
「……別に構わない」
トパーズ嬢の言葉を聞き陛下は了承を得て、二人はひっそりと手を繋ぐ。彼女の頬はほんのり赤くなり、両人は静かに足並みを揃えて歩く。
「……トパーズさん、何故陛下と手を繋ぎたいと仰ったのでしょう?」
「……トパーズ嬢も中々奥手だが、
シエロは純粋故に鈍いようだが、我は彼女が陛下に恋慕しておる事を勘付いた。
例の伝承法とやらで選出されたとはいえ、身分差もあってお門違いだと囁く声も多かろう。
しかし彼女が陛下に寄せる想いは紛れもなく本物、問題は陛下にその想いが届くかどうかだが。
暫し最奥を目指す中、光が軌跡を辿っているのが見えた。
それを辿ってみると、この場には不釣り合いな装置が点在していた。
「これは……」
「七英雄の記憶か」
話でしか知らないが、確か七英雄の過去を垣間見る装置であったか。
それを起動及び体感するのは陛下のみであり、陛下はそれに沿って装置を起動させる。
起動させると陛下は呆然とした表情で佇み、我等は暫しそれを待つ事とした。
そして暫し時間が経過すると陛下の意識が戻り、トパーズ嬢は「此処の装置は何を見せたのですか?」と問い掛け、陛下はその体感した記憶をありのままに語り出す。
此処と似た風景の洞窟で繰り広げられる後の七英雄・ノエル率いる赤竜隊とアリのモンスター……タームとの戦闘。
互いに拮抗し競り合っているようだが、赤竜隊は何としてもタームの討伐を専念しておる。
そんな中で一匹のタームが穴の中へと逃げ込んでいき、一人の兵士がそれを追って続くように穴の中へ入っていく。
ノエルは戻るよう催促するが、最早手遅れであった。
誘い込まれるように穴へ入った兵士は
恐らく引きずり込まれた故に捕食されたのだろう。そして穴の中から足音が響き、ノエル達は警戒する。
穴から飛び出してきたのは一匹のターム。だが、その体表は禍々しい紫苑と漆黒が混ざり合った体色に染まっている上、通常のタームよりも一回り巨大な個体であった。
明らかに尋常な相手ではないと察知したノエルは兵士達を逃し、そのタームへと挑む。
だがそのタームは強大な上に知恵もあり、自身に挑んできたノエルを一蹴する程だった。
窮地に追い込まれ倒れ伏す彼に止めを刺そうとするターム、しかし其処に割り込んできた者がいた。
その者は筋骨隆々の鍛え抜かれた戦士で、身の丈よりも巨大な
タームを相手に引けを取ることなくその者はノエルを鼓舞、ノエルは剣を手にして立ち──そのまま剣を振るう。
意表を突かれたタームは対応出来ず縦から真っ二つに身体が分断され、毒々しい血飛沫を上げて倒れ伏す。
最後の力を振り絞ったノエルはその者に感謝を述べる。彼は助けはしたが、最後にあのタームを討ったのはノエルの実力によるもの。
高潔とは程遠いが荒くれ者として知れ渡る彼はノエルに勝負に挑もうとするも、当の本人は体力の限界だと知るなり踵を返して去っていく。
ノエルはその後、赤竜隊の隊員達に介抱される。そしてダンターグは経緯は不明だが、後にワグナスの部隊に勧誘される事となる。
陛下が装置を介して体感した内容を説明され、重々承知する事となった。
そして最奥まで残り僅かまで迫り、歩き出す事となった。
暫し進むと開けた区域に出た。此処が最奥ではないかと察するが、それよりも着目する存在が其処にあった。
「………!」
「ひえ…!?」
我等の前に佇むは強大な存在であった。見上げれば我等が虫の様に思える程に巨大な存在、獣人型を思わせる赤黒い肌の四足歩行、上半身の両手には強靭な円形状の盾と
頭部には二本の角があり、まさにそれは巨大な獣人そのもの。
「モ、モンスター…!?」
「ですがこのような巨大なモンスター、見た事がありません……」
我等はまだ世界を知り尽くしていない故、この様な存在がいるとは驚きだ。
「──何だ貴様等は?」
地を這う様な重々しい声音が響く。
「モ、モンスターが……喋りました…!」
「人語を理解しておるのか…!?」
巨大モンスターは意外にも人語を理解しており、我々は意表を突かれて驚愕を隠し切れない……陛下を除けば。
「私の名はクワワ……帝国の皇帝だ」
「ほう……貴様が噂の皇帝か」
「単刀直入に聞く……貴方は七英雄・ダンターグか?」
我を含めた全員が陛下の問いに驚き、巨大モンスターに信じ難い視線を向ける。
「如何にも……俺は七英雄の一人、ダンターグだ」
巨大モンスター──否、ダンターグはその問いに対して肯定の意を示す。再び姿を現した七英雄が異形の存在となっていると聞いてはいたが、まさかこれ程とは。
驚きを隠せぬ我等を余所に陛下のダンターグへの問答は続く。
「貴方はこのナゼールで何をしている」
「簡単な事だ。強いモンスターが多いこの
「吸収……それはつまりモンスターを喰らうと言う事か?」
「分かり易く言えばそうなるな。ワグナスやらノエルやらは復讐を考えているようだが、そんな事は俺には関係ない」
あの帝国を攻め入り、手中に収めようとしたクジンシーとは思想が異なるようだ。
ダンターグの望みは力への渇望。強者と戦う事、相手が強ければ強い程に強者を求めている。
分かり易く言うと純粋な戦闘狂──それも世界に災害を撒き散らす程の。
「……動機はどうであれ、貴方達七英雄は害を撒き散らす存在。世界の為、そして無垢な民草の為、此処で討たせてもらう」
「クククク…!威勢のいい事だ……さあ帝国の皇帝よ、俺を楽しませてくれよ!」
声を高らかにダンターグが叫ぶと、我等は一斉に己の得物を構える。
我等は目の前の脅威を叩く。貧困に喘ぐサイゴ族の者達、そして帝国への忠義の為に。
続く
次回はダンターグ戦+海の主イベント(ついでに帝国鍛治職人)をお送りしていきます。