アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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帝国歴1000年 皇子ジェラール編(ソーモン後編)

 Side 名も無き帝国兵

 

 アバロンは騒然の渦中にあった。

 

 先日の七英雄クジンシーを名乗る者の手によってヴィクトール様が命を奪われ、我が国(アバロン)は窮地に立たされてしまった。

 

 城下の方も恐怖と不安に煽られ、民の声も後が絶たずにいる。

 

 レオン陛下率いる精鋭部隊が占領されたソーモンの町を奪還すべく、クジンシー及びモンスターの討伐に赴いたのが二日前。

 

 一途な希望に縋った我々を地に堕とすかの様に、火急の一報がアバロン中に舞い込んだ。

 

 レオン陛下までもがクジンシーの術によって生命力を削り取られ、危篤状態に陥ったという。

 

 ジェラール様達によって運ばれたものの、陛下の顔色は青白く染まり、最早その命は風前の灯も同然。

 

 何故こんな事になってしまったのか、誰もが心が絶望の淵に追いやられた危機的状況にあった。

 

 ガチャ、という扉の開閉音と聞き慣れた足音に顔を上げた。

 

「ジェラール様!……陛下のご容態は?」

 

「………父上は、旅立たれた」

 

 その場の全員が全員、ジェラール様が告げられた悲報に更なる絶望の重圧が掛かる。

 

「陛下……!」

「そんな……」

「ジェラール様……お(いたわ)しや……!」

 

 ベア殿等御三方の悲痛な声が反響する。

 

 陛下付きの文官殿は不安が感極まり、狼狽と憔悴が入り混じった声を上げる。

 

 彼はジェラール様の学問の先生であるが為、ジェラール様を庇護する側面があった。

 

 帝国は終わりだとばかりに絶望する彼に追い討ちを掛ける様に、玉座の間に一人の兵が駆け込むなり傅き、我々に一報を報せてきた。

 

 ゴブリンの群れが徒党を組み、アバロンに攻め込んできた。

 

 アバロンが手薄となったこの状況を狙ってかは知らないが、隙を突いてきた様だ。

 

 益々不安がのし掛かり、文官殿が更に顔色を青褪めて狼狽する中──

 

「──落ち着け!」

 

 と言うジェラール様の一声が掛かる。

 

「状況を伝えよ。モンスターの数は、門を破られる程か?」

 

「え…?い、いいえ。今はまだ町で暴れ回り、略奪を重ねている程度です」

 

 ジェラール様の言葉に兵は戸惑いながら、状況を伝えていく。

 

 無理もないだろう。あの優し過ぎるジェラール様が、いつにもなく勇ましい口調で語り掛けてきたのだから。

 

 口調だけじゃない。目つきも雰囲気も、今までのジェラール様とは全く違っている。一体何があったと言うのだ?

 

 私も含めてベア殿等が困惑する中、ジェラール様はモンスター殲滅を決断した。

 

 彼の変化に唯一気付いてない様子の文官殿は相変わらず狼狽していて、護衛にフリーファイターのヘクター殿を付ける事を勧める。

 

 しかしヘクター殿はその命令を一蹴した。

 

「俺達は傭兵だ。自分が信じる将にのみ命を預ける。これまで帝国の為に働いていたのは、レオン様がいたからだ!ジェラール様なんぞについていく理由はねえな…!」

 

 温室育ちの皇族についていく気はないとヘクター殿は一蹴。この後に及んでまだジェラール様を侮っている上、命を預ける気はない様だ。

 それは恐らくアンドロマケー殿も同じ腹積り、憤慨する文官殿が捲し立てるもジェラール様はそれを制した。

 

 彼の言葉もまた理に適っていると自負しており、ジェラール様はベア殿達に目線を合わせる。

 

「テレーズ」

 

「は、はい!」

 

「ジェイムズ」

 

「はい…!」

 

「ベア……戦闘の準備を」

 

「……私はジェラール様の盾、レオン様の意志を受け継ぐおつもりならばこの命、誠心誠意を持ってお使い下され」

 

 彼等の御心は既に定まっていた。不安はあるものの、新たな主君に仕える事に揺るぎはなかった。

 

「…おい、何をしている!ジェラール様自らが兵を挙げられるのだ!城門を開けよ!」

 

「は、はっ!」

 

 伝令の兵が我に返って慌てふためき、急いで玉座の間を出る。

 

「さあ!声高く、(とき)の声を上げよ!」

 

「か、開門!開門せよ!」

 

「ジェラール様の────皇帝陛下の御出陣!御出陣ンンンンン!!」

 

 門兵はすぐさま城門を開き、それを潜ってジェラール様達は戦場へと赴く。

 

 ゴブリンは少数ながら民草を脅かし、逃げ惑う者達を容赦なく追撃している。

 

 町中でも既に被害が出ており、誰もが恐怖に怯えて逃げ回り悲鳴を上げる。

 

「ジェラール様が御出陣だと…!?」

 

 驚愕に染まった声が背後から聞こえてきた。

 

「ヘンリー殿!ライーザ殿!」

 

「まだ安静にしてなくては!」

 

 術師達の声を振り切り、腕や額に包帯を巻く御二方が覚束ない動作でやってくる。

 

「ジェラール様は戦闘経験が浅い上、まだ実力が伴っていないのよ!?早く止めに行かないと…!」

 

 傷だらけの身体を押してでも御二方はジェラール様を止めようとするが、術師達は必死にそれを阻んでいる。

 

 彼等が口論する一方、一匹のゴブリンがゆっくり足音を立て、ジェラール様に向かって得物の剣を突き立て、勢いよく飛び掛かる。

 

 多くの民は目を瞑り、ジェラール様が殺されてしまう、と言う一抹の不安と恐怖に駆り立てられる。

 

 目を開ければジェラール様が殺されて、血溜まりの上に沈む光景──

 

 

 

 

 

 ──にはならなかった。

 

『っ!?』

 

 ゴブリンの剣をジェラール様は剣で防ぎ、一気に懐に飛び込むと袈裟斬りにする。

 

 緑色の血飛沫が飛び散り、刀身に付着した血を一振りで床に落とす。

 

「ジェラール様、ご無事で?」

 

「嗚呼、心配要らない」

 

 続けてジェラール様は剣を取ってゴブリン退治に精を出し、襲い掛かる敵を捩じ伏せていく。

 

「な、何が起こった…?」

 

「ジェラール様の剣の腕が上がっている……それも飛躍的に」

 

 あの心優しくて未熟なジェラール様が、達人の域のある剣の腕でモンスター達を屠ってる。

 

 どう言う事だ?幾らレオン陛下と共にモンスター退治に勤しんでいたとはいえ、彼処までの剣術を会得出来るものなのか?

 

 そんな疑問点が浮かび上がるも、目の前で起こっている事は紛う事なき現実。

 

 あの一般兵から一本も取れなかったジェラール様の剣筋、まるであれは──レオン陛下を彷彿とさせる感覚がある。

 

 何故レオン陛下の剣術がジェラール様に出来るのだ。あれはとても模倣で出来る芸当ではない筈だが…。

 

 それは兎も角、ジェラール様の剣捌きに我々は呆然としてしまう。

 

 ヘンリー殿やライーザ殿、エメラルド殿にアリエス殿、ヘクター殿とアンドロマケー殿もジェラール様の恐ろしい程の成長に驚くしかなかった。

 

「どう言う事なの…?あれは本当にジェラール様…?」

 

「俺が知るかよ!一体何があったってんだ…!?」

 

「失礼だぞお前達!そんな事は関係あるまい!ジェラール様、ご無理をなさらず!」

 

 ヘンリー殿の頭の中は疑問とかそう言う思考とは無縁なんだろうなと思いつつ、ジェラール様の獅子奮迅の活躍に皆が彼を激励していく。

 

 ゴブリン達のリーダーに行き着き、ジェラール様達は臆することなくゴブリン達を相手取る。

 

 浅知恵を働かせて挑むゴブリン達であったが、()()ジェラール様の敵ではなかった。

 

 勢いが段々と衰えて心が挫折して畏怖するゴブリン達に慈悲はなく、ジェラール様達によって次々と討ち取られていく。

 

 ゴブリンのリーダー格も討ち取られ、力なく倒れ伏して霧散していった。

 

 

 ──オオオオオオオオォォォォォォッ!!

 

 アバロン中に大歓声が轟き、民の誰もがジェラール様の勝利を讃えた。

 

 皆が傷だらけなどと言うのを忘れ、嬉々として彼の勝利に騒然と騒ぎ続け、夕刻にまで至った。

 


 

 明朝、玉座の間。

 

 戦闘後の事後処理で瓦礫の撤去、負傷者の治療などに追われて夜分まで対応したが為に休息がなかった。

 

 そして朝──玉座の間に来客が参った。

 

 その人物達はずっとレオン陛下に命を預けていた為、ジェラール様の前で傅く姿はあまりにも意外だった。

 

「ジェラール様……数々の無礼な失言、改めて謝罪をさせて下さい」

「本当に申し訳ありませんでした」

 

 ヘクター殿とアンドロマケー殿は深々と頭を下げ、これまでのジェラール様に対する無礼を謝罪している。

 本人は頭を上げる様に言うもそれだけでは気がすまないらしく、その通りにしている。

 ずっとジェラール様を侮り、見下し……そして軽んじていた為、これまでの自分を恥じているのだろう。

 

 ゴブリン討伐での勇姿、その姿に最早頼りない軟弱皇子のイメージが完全に払拭された。

 皇族に対する無礼な発言をした以上、どんな処罰──最悪晒し首を覚悟していると見た。

 しかしジェラール様はそんな御二方を赦した。

 

「私にはやるべき事がある……それを成し遂げるには二人の力が必要だ。ヘクター、アンドロマケー、君達の力を私に貸して欲しい」

 

「…!ありがとう、御座います…!」

「勿論です…!」

 

 二人の瞼から雫が滴り落ち、レオン様に代わる新たな皇帝(あるじ)に誓いを立てた瞬間である。

 私を含め、誰もがジェラール様を新たなる皇帝と認めた。

 

「ジェラール様……」

 

「何と雄々しく、勇敢な御姿…!」

 

「レオン様、ヴィクトール様も彼方よりお喜びになられている筈です」

 

 テレーズ殿、ジェイムズ殿、ベア殿。

 

「あの二人をこうも赦すとは…!」

 

「ええ……これはもう未熟とは呼べないわね」

 

 ヘンリー殿、ライーザ殿。

 

「ふふっ、(わたくし)達術師もこの御方の力にならねばなりませんわね」

「一時は危ういと懸念していましたが、最早心配する必要はないでしょう」

 

 エメラルド殿、アリエス殿。

 

 誰もがジェラール様の事を褒め称え、決意を新たに固めるのであった。

 

 Side out

 


 

 Side テレーズ

 

 ジェラール様は勇ましくなり、私達は新たな一歩を踏み出す事が出来た。

 

 手始めに昨日の様な事が起きない様、後顧の憂いを断つ為にゴブリンの巣窟へ向かい反抗の意思のあるゴブリンを討つ。

 

 アリエスさんとアンドロマケー、まだ病み上がりのヘンリーとライーザが立候補して討伐隊に志願、これを討滅したと報告があったわ。

 

 心配だったけど四人共五体満足で帰還してくれた事に安堵し、再びソーモンへと赴いた。

 

 現地に赴くと既に先遣隊がクジンシー配下のモンスターとの戦闘を展開していて、私達の屋敷への道を切り開いている渦中にあった。

 

 伝令の兵が私達に屋敷へ向かう様に催促しジェラール様、私、ジェイムズ、ベアさん、ヘクターの五人の少数部隊で屋敷へと進む。

 

 中に入ると兵の一人がモンスター達に苦戦を強いられている光景が目に入り、私達はそれに加勢してモンスターを討滅する。

 

「大丈夫か?」

 

「はい……ありがとう御座います!陛下のご加勢がなければ、どうなっていたことか……」

 

 先行していた彼は助けられた事に感謝し、「そう言えば」と懐から一つの鍵を取り出す。

 

「この鍵は?」

 

「ええ……モンスター達が持っていた物です。恐らく彼方の扉を開ける為に必要なものかと」

 

「扉……そう言えば最初に訪れた際、彼処だけが施錠されていたな」

 

 ベアさんが西側の扉を指差し、施錠されていた事を私達に示した……彼はジェラール様の為に活路を開こうとしてくれたのね。

 

「もしかしたらクジンシーの間への近道になるかも知れません、此処から進めば戦力を温存する事が出来るでしょう……御武運を」

 

「ありがとう……君は身体を休め、皆の加勢に」

 

「はっ!」

 

 彼に見送られて私達は扉の鍵を開け、最上階を目指す。

 

「これは…?」

 

 その道中、不思議な光を発見する……何かしら?

 

 光の軌跡を辿り、やがて謎の装置が設置されているのを発見する。

 

 明らかに怪しい雰囲気のある装置だけれど、ジェラール様は「起動してみる」と提案する。

 

 確かにこのまま放置していたらこれが何なのか分からず、永久に残された謎のまま。

 

 ジェラール様はそのまま装置を動かし、突然動かなくなった。

 

「ジェ、ジェラール様?」

 

 ヘクターが声を掛けるも無反応、もどかしくなるけれど今は待つしかなかった。

 

「はっ…!」

 

「ジェラール様!……一体何を()たのです?」

 

 ジェイムズが意識が覚醒したジェラール様に声を掛ける、あれは何かを記録した映写機と言う物……と言う事かしら?

 

 それを目視したジェラール様は「……七英雄の過去だ」と答える。

 

 目視した本人曰く、嘗て起きたとされる大災厄以前の記録。

 

 それを語っていたのは二人の人物──片方は研究者、もう片方はワグナス──七英雄のリーダーである男だった。

 

 大災厄──大地が厚い氷に覆われ、空は毒を帯びた灰を降らすと言う物。

 

 それによって人類の殆どが死滅、この世界は死の星と化すと示唆されるものだった。

 

 当時の人類はそれから回避する為、次元転移と言う理論に至った。

 

 だけど次元転移の範囲には限りがあって、範囲外の人間は見捨てざるを得ないと言うデメリットがあるらしい。

 少しでも人々の不安を取り除く為、ワグナスは評議会の信任を得ようと奔走。

 そして研究者──サグザーは術学開発主査の任を承り、新たな術の開発に入れ込む。

 

 ……それがジェラール様の()た記録……所謂これは、七英雄の記憶──と言うべきね。

 

「ターム……確か学問で習った事がある。バレンヌから離れた東の大陸中部に位置するサバンナ地帯に生息するアリのモンスターだった筈」

 

「七英雄が嘗て戦った脅威と言うのがそれだと…?」

 

「断定は出来ないが、可能性はある。しかし今はクジンシーを討つ事が先決だ」

 

 そう……今私達は立ち止まっている時ではない、アバロンに仇なす敵を討つ為に来たのだから。

 

 Side out

 


 

 Side ベア

 

「漸く城を差し出す気になったか」

 

 館の最奥で玉座に座し、相も変わらずクジンシーは不躾な言動を取り態度を崩さない。

 

 あろう事かジェラール様に対し門番に取り立てようなどと、傲岸不遜もいい所だ。

 

 私は勿論、ヘクターでさえも怒りに打ち震え、今にも飛び出しかねない所だ。

 

 しかしその態度にジェラール様は「お前を討つ為に来た…!」と一蹴、奴は呆れているがジェラール様は本気である。

 

 奴の指摘通り、あのソウルスティールなる術は受けた相手の生命力を奪い尽くし、死に至らしめる……と言うのが宮廷魔術師であるエメラルドとアリエスの見解。

 

 勝算は限りなく低く、まともに立ち向かい受ければレオン様、ヴィクトール様の二の舞であろう。

 

 だが何故かジェラール様の背中を見れば見る程、レオン様がそこにいるかの様な頼もしさを感じる。

 

 そしてその御姿に敗北の二文字が薄れていく。それが気に障ったクジンシーは立ち上がり、剣を手にして悍ましい殺気と闘気を放ってくる。

 

 性根は腐っているとはいえ、この気迫は本物と言う事か…!

 

 だがこの戦を乗り越えねばならぬ、レオン様達の遺志を受け継ぐ為に。

 

 代々帝国に伝えられる戦闘陣形──インペリアルクロスで我々はクジンシーに挑む。

 

 ジェラール様を中心に盾として私が前方、左右にジェイムズとヘクター、後方にテレーズと言う並びとなって陣形を組む。

 

「ハハハハハハハッ!さあ、何奴から死にたい!?」

 

「ハッ、そのでけえ口を叩けるのは今日までだ!」

 

「ん…!?あァ、あの時アバロンにいた傭兵風情か……よくもまあ無謀に挑めるものだ」

 

()かせ!」

 

 奴の剣とヘクターの大剣が競り合う、ジェイムズの槍と私の剣技、テレーズの弓が虚を突いて攻撃を与える。

 

「ほう、少しは腕を上げたか。だが、その程度でこの俺に挑もうとは片腹痛いわ!」

 

「ぐうっ!」

 

「うあ!?」

 

「があ!?」

 

「きゃあ!」

 

 我々四人は大剣一振りで吹き飛ばされる。追い打ちとばかりにクジンシーは大剣を天に掲げると、紫色の嵐が起こり我々を包む。

 

 これは冥術の技……イルストームか!?

 

 我々の身体が毒に蝕まれていくが、一歩として引き下げるわけにいかない。

 

「巻き打ち!」

 

 毒の嵐が晴れるが否や、奴の剣が迫る。ジェラール様、私、ジェイムズ、ヘクターがそれぞれの得物で防ぐ。

 

 だが体格差がある故に、押し飛ばされてしまう。

 

「食らいなさい──イド・ブレイク!」

 

「ぐぅ!?」

 

 テレーズの弓から放たれた矢が射抜く、これでも多少のダメージを負っている。それでもクジンシーは余裕綽々とした様子だった。

 

「ふん……腕を上げたな。だが──これは躱せまい!!」

 

「ジェラール様!」

 

 私は思わず叫ぶ。

 

 奴の得意とする忌々しき技、ソウルスティールが放たれる。

 

 それがジェラール様に対し向けられ、レオン様と同様の末路を迎えると言うのか……!?

 

 

 

 

「………は?

 

 

 クジンシーの口から呆けた声が零れる。

 

 奴の表情から笑みが消え、今起こった光景に信じがたい目を向ける。

 

 それは私も、テレーズも、ジェイムズも、ヘクターも同じ心境にある。

 

 回避不可能である筈のソウルスティール──それをジェラール様は、軽々と回避したのだから。

 

 クジンシーが「何ィ!?」と驚愕の声を零すも、我々は唯々ジェラール様の行動に驚くばかりだった。

 

「い…今、ジェラール様……避けたよな…?」

 

「あ、ああ……」

 

「回避不可能だった筈のあの技を……いとも簡単に」

 

 そうか…!これがレオン様が申していた事か!

 

 ソーモンへと赴く出立前、レオン様は仰っていた。

 

『ベア……クジンシーと対峙した際、私の行動を見逃して欲しい』

 

『…!?陛下、それは聞けぬ命令に御座います!もしも御身に何かあれば、ジェラール様はお一人に…!』

 

『分かっている……だがこの命に代えても、ジェラールの為、帝国の為に成し遂げねばならぬ時がある。もしも私に何かあった時、ジェラールを支えてやってくれ』

 

『陛下……』

 

『そしてこの賭けに勝ち、ジェラールが再びクジンシーと相対した時、七英雄打倒の一歩となるだろう』

 

 分かっていたと言うのか、レオン様は。御身が朽ち果てた後、ジェラール様が奴と対峙した際、ソウルスティールを見極める事を…!

 

 一方のクジンシーは余裕綽々だった自信が揺らぎ始め、再びソウルスティールを放つ──しかしやはりジェラール様に避けられる。

 

 その表情に憔悴の色が見え始め、信じられぬ様子でジェラール様を瞠目する。

 

「ば、馬鹿な!私の技が、ソウルスティールが躱された……だと!?」

 

「父上の想い……私が受け継いだ」

 

「想い、だと?そんなもので…!」

 

 貴様には分かるまいよ、クジンシー。

 

 レオン様がどのような覚悟で命を賭し、ジェラール様に継承したのかを!

 

「お前の敗けだ!クジンシー!!」

 

 剣を構えてジェラール様は目の前の脅威を破らんと駆ける。

 

「全員、ジェラール様を援護せよ!活路を作るのだ!」

 

 私の剣術、テレーズの弓矢、ジェイムズの槍、ヘクターの戦斧……各々が得意とする技が蓄積され、隙が出来上がる。

 

 最早クジンシーには先程までの絶対的な自信が欠如され、それ程にソウルスティールに自信を持っていたのだろう。

 

 奴の敗因……ソウルスティールを過信していた事、そして──アバロンに手を出した事。

 

 その想いに反映したかは定かではないが、ジェラール様は新たな剣技を閃く。

 

「──十文字斬り!!」

 

「ぐあああああァァァァッ!!!!」

 

 レオン様の得意とする二段斬りを上回る剣技、十字の斬撃がクジンシーの胴体に切り刻まれる。

 

 黒い血飛沫がカーペットを汚し、目の前の悪鬼は玉座に背中を強打して倒れる。

 

 腕を伸ばそうとするが、力が入らない。最早限界だろうか、奴の身体が徐々に崩れ始めている。

 

「くっ……くそぉぉぉ……!この俺が敗れるとは……何故だ、何故俺の必殺技が……!?」

 

 自身の敗北が信じられない様子か、クジンシーは我々を醜悪な形相で睨んでいる。

 

 先述した様にクジンシー、貴様には分かるまいよ。人の心を捨てた貴様には。

 

「今……ハッキリ分かった。父上は自らの命を犠牲にして、私に力を伝承した。父上は私の中で、生きて……」

 

 たとえ側におらずともその魂はジェラール様と共にある、と言う事か。

 

 私にはハッキリ分かりますぞ、ジェラール様……貴方様のお背中がレオン様と重なり合っている御姿が。

 

「──ハ……ハハハハハハハッ!」

 

「…!?」

 

「貴様、何がおかしい!」

 

 狂った様にクジンシーは高笑いする、死が近付く故に気が動転したのか?

 

「お気楽なものだな…!確かに俺は死ぬ……だが、それは一時的なものに過ぎない」

 

「どう言う……」

 

「さあなァ……力を蓄える為、眠りにつく必要があるが、その時──お前達は既にこの世にはいないだろう…!何百年、何千年も掛かるかも知れない…!だが、俺は戻ってくるぞ!貴様等帝国への復讐にィィィィィィィィィ!!」

 

 狂気的な嘲笑を最期に、クジンシーの身体は完全に朽ち果て──風土となりて塵となった。

 

 帝国(アバロン)を我が物にしようと画策した悪鬼の最期、ジェラール様は「父上……兄さん、仇は討ちました」と天に向けて告げる。

 

 だが同時に、不可解な懸念が示唆されてしまった。

 

「クジンシーめ……最期に妙な世迷言を残していったな」

 

「俺は戻ってくる……と言ったわよね」

 

「馬鹿言うな。死人がそう簡単に蘇る筈がない、気にする必要ないですよジェラール様」

 

 ジェイムズ、テレーズ、ヘクターの言葉に「……そうだな」と返すジェラール様。

 

 負け惜しみかも知れないし、或いはブラフかも知れん。

 

 兎にも角にも──漸くアバロンに一時の平穏が訪れた。

 

 Side out

 


 

 Side ジェラール

 

 クジンシーが斃れ、ソーモンの町は恐怖から解放された。

 

 奴の死によってモンスター達はソーモンから敗走、人々は喜びの声を上げる。

 

 町を代表してヒラガと言う(自称)発明家が町長共々感謝を述べられ、私はつい気恥ずかしくなった。

 

 二日で帝都へ帰還、それから十日後……私の戴冠式、及び父上や兄上達の国を挙げての国葬が執り行われた。

 

 家族や恋人、友人を亡くした彼等の思いを汲み、私は躊躇なく帝位を継いだ。

 

『ジェラール……』

 

 父上の声が聞こえた気がした。願わくば父上にこの戴冠式を見届けて欲しかったのもあり、私はつい笑みを綻ばせる。

 

 私は戦う。父上の悲願、世界統一を為す為に。

 

 例え私の命が尽きても、後の時代の皇帝が志を受け継ぐ事を信じ、このアバロンの空に誓う。

 

 

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