Side エメラルド
ルドン地方への道を確保、そしてヴィクトール運河奪還の為、私達は南バレンヌのニーベルの町へと訪れました。
町の方々によると七英雄の出現の影響か、町の西にある洞穴にモンスターが住み着いてしまったのだとか。
そのモンスター達は強力な存在であるらしく、町を統治する格闘家の方々でさえも匙を投げる程だそうです。
体術で敵を捩じ伏せる噂の名高い、龍の穴の格闘家の殿方達……そんな彼等が町の方々の信用が失墜するまでに敵わないとはどう言う事でしょうか…?
あ……因みに。
「あんた、旅の人か?」
「まあ……そのようなもの──」
「此処に座すのは!アバロンの皇帝であらせられるジェラール陛下だ!!」
『こ……皇帝陛下!?』
一応目立たぬ様に行動していたのですけれど、ヘンリーさんが馬鹿正直にバラしてしまうという一幕がありましたわ。
宿酒場の皆様は大層驚かれまして、中には腰を抜かして倒れられる方もいらっしゃいました。
あまりに正直に言ってしまうヘンリーさんにライーザさんは「あんた……馬鹿でしょ?」と哀れみの目線を向けられ、「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!?」と軽い口論に。
悪目立ちしない様に心がけていましたのに私もアリエスさんも、そしてジェラール様も呆れて苦笑いするしかありませんでした。
……っと、話が脱線する所でしたわ。
ニーベルを統治する格闘家の方々が常に日々修行を行う龍の穴は地図を見る限り、町の西南に位置する洞窟を内装された格闘家の修行場。
その名の通り、龍の頭部を模した巨大な岩が洞窟の入口なのですけれど、端から見ると本当に龍に喰われる様な心地で生きた気がしない……と言うのが初見の方の見解。
まあ確かに本当に喰われてしまいそうな外見ですし、恐れを抱くのも無理もないかと。
いざ赴いてみると圧倒的な存在感を放っていますし、これは相当な覚悟が必要ですわね。
ですが我々は皇帝陛下の──ジェラール様に仕える臣下、これぐらいの事で臆しては帝国統一はおろか七英雄打倒も叶わなくてよ。
洞窟内は広々とした空間で入ってみれば格闘家と思われる方々が全身から脂汗を流し、身体を鍛えていました。
汗臭い匂いが充満していて、鼻を刺激して咽せてしまいそうですわ…!
アリエスさんも微妙な顔をされております。私達魔術師は非力な存在な為、身体を鍛えるなどと言う苦行は向いてないのです。
ヘンリーさんやライーザさん、ヘクターさんからそれを指摘されたり、訓練場で鍛える事を勧められたりと多々あるので、私達は恐らく心底嫌そうな顔をされているのでしょう。
彼等は私達の存在に気付くなり狼狽しておりますが、気にする事なく修行場の最奥──此処の総帥である"ザ・ドラゴン"さんとの面会を果たします。
「……その精悍な顔立ち、獅子を冠した鎧に勇ましい雰囲気……皇帝だな」
銀色の長髪に顔を龍を模した仮面で覆い、筋骨隆々の逞しいお身体。
この方が"ザ・ドラゴン"……この龍の穴で最も強い御方、汗臭い匂いとむさ苦しい空気が漂ってますわね。
「如何にも……我々が此処を訪れた件だが」
「皇帝……お前の目的は分かっている。ニーベルの町の件であろう?」
「話が早くて助かる」
私達の来訪をある程度察していた御様子の"ザ・ドラゴン"さんは仮面越しであるものの、不服そうな声音を放ちます。
「だが手出しは無用!これは我等龍の穴の問題、帝国の……玉座で胡座をかく皇帝の出る幕ではない!」
「貴様!陛下に何たる無礼な!!」
ヘンリーさん、少し黙っていて下さいますか?
あくまでも帝国の力を頼らず、モンスター達を拳で制圧すると豪語する"ザ・ドラゴン"さん、門下の方々も賛同して譲れない御様子。
確かに彼等の自らの手でモンスターを討伐し、町の方々の信頼の回復に意気込む気概は理解出来ます。ですが話によればモンスターの中に柔軟性のあるスライムやジェルの様に術でしか攻撃の通らない存在がいる為か、格闘家の彼等とは相性が悪い。
「……ならば協力は出来ないだろうか?」
どうしたものかと考えこまねいていると、ジェラール様が彼等に協力を申して来ました。
「其方はモンスターを討伐し、ニーベルの信頼回復に力を注ぐ。我々はその活路を見出すべく協定を結び、帝国の領土を拡大する。目的は違えど、このままではいられない筈。……違うか?」
「ぐっ……!」
"ザ・ドラゴン"さんから苦悩の声が零れる。
つまり雑魚は私達が引き受けますが、本命は其方に譲る……と言う事です。
ニーベルの信頼回復と引き換えに、この地を帝国の帰属下にするわけですわね。
「……いいだろう。ではモンスターの巣にいる"ブヨブヨ"を倒してくれ」
予想通り"ブヨブヨ"はやはりスライムなどに当該するモンスター達、それを倒せばどうにかなると言う事。
しかし最奥のモンスターは我々が倒すと宣言、反故にする事は許さんと宣って来ます。
「それと……我々もお前達に同行するとしよう」
「は!?」
「いやいやいやいや……どうしてそうなるのよ」
「しかし……我々にとっては未知の領域、現地に詳しい者がいれば或いは」
「確かにそうだな……」
此処まで話を進めて待っている様に進言すると無理にでもついて来そうですし、致し方ありませんわね。
「さあお前達!出陣だぁ!!」
『はい!!』
両脇に控えていた格闘家のお二人も彼に伴って出立、私達は揃って乾いた笑みしか浮かべませんでした。
Side out
Side アリエス
ニーベルの町より西に位置する洞窟内──今はモンスターの巣窟となるこの地は、薄暗くはあるものの自然界の様な独特の雰囲気があります。
"ザ・ドラゴン"さん達格闘家が殿を務め、私達は元凶たるモンスターの下へと歩を進めていきます。
「ほう……その伝承法なる術でジェラール皇帝は七英雄の一角を討ったのか」
「まあ種明かしはその伝承法のお陰と言うべきかな」
「ふむ……だがその術を授けたと言う魔道士とやら、真に信用に値するのか?」
私達全員、彼の指摘は最もで言葉を詰まらせました。
「分からない……だが帝国が七英雄の脅威に晒されている今、甘んじてこの術法を受け入れるしかないんだ」
「……詮なき事を言った」
それ以上は失礼だと察した"ザ・ドラゴン"さんは謝罪、お弟子さん達も倣って頭を下げています。
道中強力なモンスター……主にスライム系のモンスター達は術師である私とエメラルドさんが術を駆使して討伐、ジェラール様、ライーザさん、ヘンリーさんの剣技や弓によって他のモンスターが討滅されていきます。
やがて洞窟の開けた空間に訪れ、我々の前に数匹のスライムが立ち塞がります。
まだ中間地点ではありますが、油断は出来ません…!!
我々が武器を身構えた瞬間、何処からともなく電撃が落ちてスライム達が消滅、代わりに2mはある巨大なスライム型のモンスターが降って来ました。
「な…!?」
「此奴は……!」
「スライム……!?でもデカ過ぎるわ!」
「此奴もスライム等の亜種か!?」
「過去の文献に記録が残っていますわ……確か名前は──ゼラチナスマター」
「え?ゼラチナマスター?」
「ゼラチナスマターですよ、ライーザさん」
唯鎮座するだけでも存在感を放つこのモンスター、「現れたか…!」と"ザ・ドラゴン"さんが身構えて威嚇している。
まさかこれが皆さんの仰っていた"ブヨブヨ"なる存在?私は論理的に察し、ジェラール様達も武器を身構えます。
「下がってくれ!此奴は我々が引き受ける!」
「露払いは任せてちょうだい…!」
「ぬう……!分かった、此処はお前達に譲ろう!」
相性を理解して悔やんだ表情の"ザ・ドラゴン"さんはお弟子さん達と共に後方へと下がり、私達は"ブヨブヨ"……基、ゼラチナスマターとの戦闘に移行する事に。
Side out
Side カール
「頑張れー!」
「負けるなー!」
我が弟子二人が皇帝達に激励を送る中、皇帝達は"フリーファイト"なる陣形で戦闘を開始した。
奴は纏った陣形では圧倒的に有利、悉く魔術で殲滅する戦法を取る。
それでは奴にとって恰好の餌食、だから我は助言したのだ。
「エアスクリーン!」
「ファイアーボール!」
男の魔術師は風の防御魔術を皇帝に施し、女の方は火術を奴に放って撃ち当てる。
「ふっ、はあっ!!」
堅物な帝国猟兵の男は弓の鉉を引いて放った無数の矢──敢えて名付けるならばでたらめ矢──で奴を牽制、その隙に左右から皇帝と女剣士が挟撃する。
「ライーザ、合わせてくれ! ──十文字斬り!!」
「了解です! 感電衝!!」
光を帯びた剣と雷を帯びた小剣の一撃が決まる、だが"ブヨブヨ"は意外とタフだった。
その連携攻撃に奴は再び電撃を放とうとする、だが──既に勝敗は決まっている。
「まだ終わりじゃないわよ……ロブオーメンよ、その眠れる力を解き放ちなさい!」
女剣士は"ブヨブヨ"に一気に接近、その剣先を天に突き立て──
「──マッドバイター!!」
理力を纏う一撃で斬り付ける。
武具の中にその武具に宿る力が眠っていると風の噂で聞いた事があった。まさか、この目で垣間見る事になろうとは!
そしてその属性は冥術、奴には効果覿面の一撃となった。
「うおおおおおおっ!!」
「我々でも歯が立たなかったあの"ブヨブヨ"が……!」
「ふん……見事だ」
霧散していく"ブヨブヨ"の散り様に内心ほっこりとしてしまう自分がいる。
帝国の力を借りたのは業腹ではあるが、最早面子の事など関係なくなっていた。
あの様に連携の取れた阿吽の呼吸、そして研鑽されし戦闘技術と経験。
あれらを見せられては、小さなプライドに拘った自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
対して皇帝とその臣下達は七英雄という、強大な脅威を前に死をも恐れぬ様子。
認めねばなるまいな……七英雄に果敢に立ち向かう彼等を。
※
最奥のモンスターは我々格闘家が討伐し、ニーベルの町に以前の活気が戻った。
町の者達はモンスター討伐は我々の手柄と宣っているが、全ては皇帝……否、ジェラール陛下のお陰である。
「いいのか?其方は町の信頼を回復し、面子は保たれた。それなのに、真実を伝えるなとは」
「……町の者からすれば我々を英雄視する声が上がっておりますが、殆どは貴方方の手柄。彼等の為にも、真実を伏せて頂きたい」
事実を嘯けば我々の風評が地の底に落ち、信用を失う事となるだろう。
私はどうなろうと構わないが、龍の穴の者達が風評被害が出るのは我慢ならなかった。
そんな姿を民衆は滑稽だと嘲笑するだろう……しかし陛下は「それが貴方の選んだ道か」と肯定して下さった。
「では今後、龍の穴は我々に手を貸すという事でいいのか?」
「ええ…!陛下やその臣下の方々の勇姿を見て、面子に拘った己の器の力量を理解しました。今後とも宜しくお願い致す!」
これで我々は全面的に帝国の麾下となる事を証明された、その証明として契約書に記入した。
「そう言えば陛下はナゼール地方を御存知ですかな?ナゼールはこの南バレンヌを更に南下した先にあるルドン高原を越えた先になりますが、ルドン地方の宝石鉱山があるティファールを経由するといいでしょう」
「情報提供感謝する……だが先ずはヴィクトール運河を奪還しなければならない」
「ヴィクトール運河……もしや運河要塞の事を指しているのですか?」
「! 何か御存知なのか?」
食い付きの良い御方の様だ。私は運河要塞に関する情報を提供する。
「飽くまで噂なのですが……あの運河要塞なる堅牢な砦、あれは七英雄の一人が築いたとの事です」
「七英雄の一人が……」
「ですが七英雄の一人がいるとは限りませんが、十分注意して攻略に取り掛かるべきでしょう。それに我々龍の穴も帝国の麾下に入った以上、攻略に手を貸しましょうぞ!」
「重ね重ね助かる……」
帝国の敵は我々の敵も同意義!七英雄よ、我が鉄拳を見せてつけてやろうぞ!!