アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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帝国歴1001年 皇帝ジェラール編(運河要塞前編)

 Side ヘクター

 

「ねえライーザ、貴女最近ジェラール様に夜這いを掛けたりした?」

 

「朝から早々何言ってんのよ!?」

 

 宮殿酒場で酒を嗜む中、真顔でそう言い放ちやがったテレーズの言葉に俺を含めた酒場の全員が吹き出した。

 

 突然問われたライーザは眉間に青筋を浮かべて怒鳴り返し、何でそんな事を言い出すのかと疑問をぶつける。

 

「昨夜、ジェラール様が城下町に繰り出すのを見かけたのよ」

 

「へー……」

 

「最近城下町で泥棒が現れるって話、持ち切りじゃない?もしもその泥棒が女で、ジェラール様を好きになっていたらって思うと気が気じゃなくて……」

 

「……で、私を疑った理由は?」

 

「ライーザって意外と酒豪じゃない?酔った勢いでジェラール様を襲ったんじゃないかと──」

 

「そんな命知らずな事出来るか!?あんた人をなんだと思っているわけ!?」

 

 酒豪の方は認めんだな。

 

 まあ事実そうだしな。

 

 飲めば酒癖が相当悪く、とんでもなく酒に強えからな。

 

 顔を真っ赤にして絡んでくる上、酒を飲み水の如く飲んでるからな。

 

 ……因みに昨夜の一件に関しては、陛下本人から伺った。

 

 ジェラール様はその泥棒の小娘を武具屋の宝物庫から財宝を盗む現場を目撃、小娘はジェラール様の存在に気付くと虚を突いて逃げ出すも、待ち構えていたかは知らねえがモンスターに襲われる。

 

 盗みを働いた盗賊の小娘をジェラール様は助けた、助けられた見返りとして「用がある時は酒場のマスターに小猫の事を尋ねるといい」と助言した。

 

 そんな盗みを働いた盗賊を許して良かったのかと聞いた所……「もし彼女が恩知らずな人間であったら、アバロンのダニとして裁判に掛けていたよ」と笑顔で言及した時は思わずドン引きしちまった。

 

 それと先日のニーベルの一件に関する報告書に、気になる文があった。

 

 クジンシーが根城にしていたソーモンの屋敷にあったあの装置──七英雄の記憶がモンスターの巣で発見したと言うもの。

 

 あれは一つだけじゃなかったと共有していき、モンスターの巣で装置を起動してジェラール様は語った。

 

 その記録には七英雄最強の剣士、ノエルと……レオン様に伝承法を授けた女魔道士の姿が映っていたと。

 

 聞いた時、俺達全員は驚いた。七英雄ノエルと親しい様子なのもそうだが、レオン様に謁見された時と変わらねえ容姿と美貌であったと陛下は仰られた。

 

 女魔道士がレオン様に謁見されたと聞いていたが、どう考えてもその魔道士は20代ぐらいの年齢。七英雄と同じ時代にいた人間なら、とっくに死んでてもおかしくねえ筈だ!?

 

 現場に居合わせたアリエスとエメラルドの見解で、その魔道士は古代人ではないかと言う推測の話が出た。

 

 七英雄と同じ時代に生きた遥か昔の人間で、その寿命はとても長いものだと聞く。

 

 そして一説では俺達人間は、古代人の召使いだった人種の末裔ではないのかと推測される。

 

 あくまでも推測の段階だから確実じゃねえが、女魔道士もその古代人の可能性があるって事か。

 

 同じく同伴していたライーザもヘンリーも信じられねえ様子だったそうだが、話を聞いて半信半疑ながらも受け入れたらしい。

 

 その記憶の内容はによるとノエルと魔道士──オアイーブ、研究者のサグザーは幼馴染だったと言う話。

 

 幼い頃からノエルとサグザーは自由に外に駆け回り、ノエルの妹である後の七英雄──ロックブーケも付いていったんだとか。

 

 だが……オアイーブは違う。彼女は教会の最高権力者の娘である為に、ノエル達程自由ではなく、彼等の姿を羨ましく思っていた。

 

 そしてワグナスが編成したターム討伐部隊──名は赤竜隊──の隊長に任命され、ノエルは自ら戦場へと赴いた。

 

 そんなノエルをオアイーブは……っと、これ以上は憚れるな。

 

 ……そういやニーベルの一件で帝国に協力する事になった龍の穴の"ザ・ドラゴン"……本名はカールとか言うオッさん、定期的に帝国の兵士に体術を教える講師になったんだっけ。

 

 最初は見知らぬ筋肉ダルマのオッさんがジェラール様に同伴して驚いたが、戸惑いつつも俺達も指南を受ける事に。

 

 オッさんはルールに厳しく、起床時間も鍛錬の時間を取り決めて来やがった。

 

 まあ俺らは別にいいんだけどよ、真っ直ぐ過ぎるヘンリーや堅物のベアの旦那、優等生なテレーズ、身体能力の低いアリエスとエメラルドも真摯に受け止めた。

 

 そしたらジェイムズが「赤の他人が口出しするのは止めてもらえるか!?」と異論を唱えるも、「貴様の様な軟弱者は、徹底的に鍛え直す必要がありそうだな!?」と度々口論する始末。

 

 まあ他所者に色々と口出しされて反論したくなる気持ちは分かるが、帝国を守る為なら必要な事だろうよ。

 

 アンドロマケーも面白くない感じだったが、ジェイムズの様に反論せずに黙々と受け入れたらしい。

 

 時々あのオッさん、ベアの旦那やレグルスのオッさんと酒の席で一緒になる事が多いらしく、今じゃあすっかり意気投合しているんだとか。

 

 まあそんな話はいいとして、ジェラール様は俺とテレーズ、ローズにカールのオッさんに声を掛けて親衛隊へと組み込み、酒場へと向かう。

 

 昨夜に会ったって言う泥棒の小娘の言う事が確かなら、酒場のマスターがそれを知っているんだったな。

 

「おや陛下、こんな陽も出ている時間に何か御用で…?」

 

「子猫は元気か」

 

「……陛下の様な御方が何故()()の事を?」

 

 ある程度予想していたのか、マスターは驚くことなく淡々とした様子で俺らを品定めしてくる。

 

 だがマスターは胡乱な目を向けたまま特に気にする事なく、"子猫"の居場所をすんなり教えた。

 

 何か裏があるんじゃねえのかと勘繰っちまうが、今は"子猫"の方が最優先だ。

 

 その場所とは墓場で、墓守がその場所を知ってるんだとか。

 

 墓場に赴いてジェラール様が問い掛け、墓守の爺さんは「生きてる内に墓に入りたいとは、今代の皇帝は物好きなこった」と皮肉を込めて吐露する。

 

 不敬罪に問われてもおかしくねえ言動だが、ジェラール様は気にする様子もなかった。

 

 墓守の爺さんは近くの墓石に近付いて何かを施す、すると墓石の下に梯子が現れた。

 

「まあ……」

 

「隠し通路…!こんな仕掛けが墓場にあったなんて…」

 

 驚く俺らに爺さんは「子猫はこの下だ」と伝えていく。

 

「どうされます陛下……罠の可能性も否めませんが」

 

「……行こう」

 

 陛下が手始めに降りていく。そしてカールのオッさん、俺、ローズ、テレーズの順で降りていく。

 

(女二人から「上見たら殺す」と圧を掛けられたが、別にどうでもいい)

 

 

 

 

 

 

「……珍しい客が来たもんだな」

 

 降りた先は酒場になっていて、周りの連中は全員盗賊……此処は盗賊共の溜まり場って所か?

 

 んでその盗賊──基、シティシーフの纏め役を買っているスパローって言う小僧、まだ餓鬼だって言うのに年不相応に達観した雰囲気を持ってやがる。

 

 シティシーフの連中は陛下を見て胡乱な目で見ていた。まあ連中からすれば上流階級、それも皇族だからな……俺もアンドロマケーもその枠に当て嵌まるから人の事を言えねえ。

 

 そういやヴィクトール運河に築かれた例の要塞、内部に偵察を送るべきかどうかと重臣共が愚痴っていたな。

 

「陛下……もしかすると」

 

「嗚呼……私も同じ事を考えていた」

 

 俺の予想通り、陛下は「運河要塞の内情を探って欲しい」とスパローに伝える、だがこの小僧は「それは受けられねーな」と返した。

 

 更には此処を潰す為の罠だなんて宣う。何っつーか、一年前の自分を見ているようだぜ、あの時の俺はジェラール様の事を見下していたからな。

 

 恥ずい黒歴史を振り返っている俺の思考は「どうすれば信用を得られる?」と言う陛下のスパローへの問いで払拭された。

 

 スパロー曰く、奥にある扉は地下水路に繋がっていて、水路の最奥──地下墓地の入口をタコ型のモンスターが塞いでいて邪魔になっている。

 

 シティシーフとしても仕事に影響が出ているらしく、其奴を倒してくれたら協力すると条件付けるスパロー。

 

 盗みは褒められるもんじゃねーが、ヴィクトール運河を奪還するにゃ願ってもない事。

 

 陛下はそれを承諾、スパローも「精々期待してるぜ〜」と後方に下がる。

 

 地下水路への扉は……あれか。

 

「よし……行くぞ」

 

『了解』

 

 ジェラール様の言葉に俺達は首を縦に振り、扉を開ける。

 

 Side out

 


 

 Side ローズ

 

 (わたくし)──フリーメイジのローズはジェラール陛下や他の方々と共にアバロンの地下水路を歩いていますわ。

 

「オラァ!!」

 

「はああっ!」

 

「そこっ!」

 

 ジェラール陛下の剣技、弓兵のテレーズさんの弓捌き、豪傑なフリーファイターのヘクターさんの戦斧や大剣でモンスターは次々に駆逐されていきます。

 

 あの坊や──スパローの言う通り、タコ型のモンスターが住み着いた所為か生息するモンスターは手強いけれど、私達は連携して屠っているわ。

 

「ええい、何とももどかしい……!」

 

 格闘家のカールさんが仮面越しに苦言を零しているわね。確かに素手で戦う彼にとって此処のモンスター……()()()()()()()()とは相性最悪故に、ある意味では天敵ですものね。

 

 護身用として大剣を携えているけれども、彼等格闘家の真髄は体術……故に体術が無力化しているからこそ、常々武器に頼る事に苛んでいらっしゃるわね。

 

 仮面越しであるけれど苛立ちを隠し切れず、カールさんは「ぬおおおおおおおお!!」と怒号を上げた……品のない叫び声ね。

 

「かあああああああああっ!!!」

 

 怒り任せに拳を突き出す。拳の甲から光が放たれ、拳から放った光球はそのままスライムを消滅させた。

 

 あの輝き……天術特有の光ですわね。

 

 前衛の陛下達もさぞ驚かれていて、カールさん自身も信じられない御様子。

 

「これは……あの"ブヨブヨ"を倒したのか……?私一人の力で…?」

 

 あの技は気を一点集中にした技、敢えて言えば"気弾"と呼称すべきかしら。

 

 これには陛下は勿論、他のお二人も称賛していましたわ。

 

 そして…。

 

「ずりゃああああああっ!!」

 

 最奥──地下墓地の入口に陣取るタコ型のモンスターを前にし、獅子奮迅の活躍をされていましたわ。

 

 最早恐れる物はないと確信している御様子で、その眷属らしきモンスターにも引けを取らない……でも一々叫ぶ事かしら?暑苦しくてこの上ないのだけれど。

 

 兎に角私とテレーズさんが後方支援し、陛下、ヘクターさん、カールさんの前衛三名によってモンスター達は一片も残さず殲滅成功されました。

 

 

 

 ※

 

 

 

 戻ってきた私達を見て「厄介者を始末してくれたようだな?」とスパローの坊やが言う。

 

 陛下は「それで……要塞の偵察を引き受けてくれるな?」と仰っているけれど、坊やは「あ〜〜……」ととても複雑そうな表情で唸る。

 

 運河要塞は強硬な砦である為、引き受ける人材が少ない……そんな雰囲気ね。

 

「スパロー、私がやるわ!」

 

「!君は…」

 

「キャット、本気か…!?」

 

 カウンターから可愛らしい女の子が飛び出してきたわ。成程、彼女が陛下が仰っていた()()()ね。

 

「貴女が噂の泥棒ね?陛下に馴れ馴れしいわよ」

 

「私は皇帝さんに話してるの、おばさんには言ってないわよ」

 

「おば……!?なんですってぇ!?」

 

「何よ、事実じゃない」

 

 ……ちょ〜っと口が過ぎるけれど、可愛い子ね。

 

「まあ事実だろうな。その小娘の方がテレーズより断然わか「何か言った!?」……いや、別に」

 

 ヘクターさん、女の子に対して失礼ですわよ。

 

 カールさんや坊やもその威圧感に一歩下がっていて、私はつい溜息を吐露してしまうわ。

 

 陛下も陛下で「何故そんなに怒っているんだ…?」と当惑しているけれど、貴方には分かりませんものねぇ?

 

 テレーズさんが陛下に想いを寄せている事は明白ですけれど、陛下自身気付いておられない様子。

 

 彼女からすればキャットちゃんに取られてしまうのではないかと内心穏やかではなく、さっさと陛下に想いを伝えてしまえばいいのに。

 

 ライーザさんにエメラルドさん、アンドロマケーさんがやけに彼女を温かい目で見るのも分かる気がしますわ……同じ女の身として。

 

 キャットちゃんは助けられた恩を返すべく、運河要塞の偵察の任を引き受けて一目散に駆け出す。

 

 坊やは深い溜息を吐露、まだ若いのだからこれぐらいの事は許して上げなさい。

 

「……取り敢えず、宮殿に戻る。皆に報告する必要があるからな」

 

 さて、明日以降は運河要塞の攻略。陛下の御決断は如何に……と言う事かしら?

 

 

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