アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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お待たせしました、最新話です。今回でジェラール編は終了して、次回から第二世代編です。
原作にないオリジナル戦闘描写もありますので、どうぞ!


帝国歴1001年 皇帝ジェラール編(運河要塞後編)

 Side ヴァイカー

 

 ヴィクトール運河──帝国領であったこのオレオン海を面するこの地を眺め、私──ヴァイカーは深く息を吐いた。

 

 帝国がどの位の脅威と警戒していたが、赴けばとんだ見掛け倒しだ。

 

 ()()()と名を轟かせる七英雄クジンシーが攻め入ったと聞き及んでいたものの、クジンシーは七英雄の中で最も矮小な俗物だと(あざけ)()()()は仰った。

 

 確かに帝国如きに斃される様では()()()と同様七英雄を名乗るなど、恥知らずも良い所だな。

 

 その反面、()()()──ボクオーン様は違う。

 

 七英雄の中で叡智に長けた知将、如何なる局面に於いて冷酷無比。

 

 そして必要とあらば外道に身を落とす事も辞さない、躊躇いもなく非情にもなりえる。

 

 嘗て唯の不躾者の賊として私は彼が何者かを理解せず、愚かにも棍棒(メイス)を振り上げた──しかし、同時に浅はかだと思い知らされた。

 

『なっ……!』

 

『愚かな人間風情が。不意打ちだけで私を討ち取ろうとは、片腹痛いわ…!』

 

 棍棒(メイス)が後頭部に届こうとした一歩手前、私は手を止めた──否、自分の意志と関係なく静止させられたのだ。

 

 ボクオーン様は知将であると共に人形使い(パペットマスター)

 十本の指先から魔術が付与された糸が施され、私は彼の人形(マリオネット)にされる。

 

 ボクオーン様の指が巧みに動くと私の手が棍棒(メイス)を手放し、代わりに短剣を持たせる。

 

『……!』

 

『どうする?抵抗するがいい、抵抗したとしても一瞬であの世行きだがな』

 

 私の手が私自身の喉笛を切り裂こうとするも、ギリギリで寸止めされる。

 

 これが七英雄、これが絶対的強者…。最早、私の中に抵抗と言う選択など消え去っていた。

 

『貴方に……』

 

『ん?』

 

『貴方に忠誠を誓います…!私の事を()として何なりと使って下さい…!』

 

 それこそ私が、ボクオーン様に絶対的な忠誠を誓った瞬間だった。

 

 

 ※

 

 

 在し日の己を自嘲気味に嘲笑、脳裏にその時の記憶が回想される。

 

 あの頃は若かったと自問自答していると、部下の一人が駆け寄ってきた。

 

「ヴァイカー様!御報告があります!!」

 

「何だ」

 

「帝国の一隊が此方へ向けて進軍しております!」

 

「来たか」

 

 無謀にも挑んでくるとは身の程知らずの様だな、アバロン(帝国)の皇帝とやらは。

 

 ボクオーン様を始めとする七英雄に挑む事こそ愚かだと言う事を、私が徹底的に刻み込む必要があるようだ。

 

 ガン、ガン、と檻に閉じ込めている此奴等も久方ぶりの獲物の存在を察知したのか、唸り声を上げて牢の中で暴れているのが窺える。

 

 此奴等は部下共の調教である程度は従順になっている為、此方に牙を向く事はないだろう。

 

「そう殺気立つな、もうすぐ極上のディナーが向こうからやってくる」

 

 皇帝と言う名の…な。

 


 

 Side ジェラール

 

 アバロンを出立し行軍から五日。

 

「では、作戦の概要を伝える」

 

 要塞から離れた地域に設置された天幕の中にて、ベアが机の上に紙を広げる。

 

 あの泥棒の少女──キャットが偵察の間に送ってきた文と共に添付された運河要塞の図面だ。

 

「我々は外部からの突入作戦を仕掛ける。正面から突入し、ヴィクトール運河を解放する。だがこの作戦はあくまで囮、本命は──陛下率いる親衛隊が敵側の将を討ち取る事にある」

 

 そう……これはブラフ、真の目的は運河要塞への潜入と奪還にある。

 

 数多の兵力を突入作戦に導入させてモンスターや敵兵を足止め、その隙に私を含める潜入部隊がキャットの誘導で密かに要塞内へと潜入。

 

 そして待ち構えているであろう敵将を討ち、運河要塞の攻略を果たす。

 

 最前線にベア、ジェイムズ、ライーザ。後方支援にエメラルド、ヘンリー、アンドロマケーが配備。そして回復班にアリエスとレグルス殿を配備する事に。

 

 テレーズ、ヘクター、ローズ、カール殿が私と共に潜入部隊に編成され、これ以上ない潜入部隊が結成された。

 

「では皆。互いの健闘を祈る」

 

「ほっほっほっ。この老耄も帝国の為、死ぬ気で尽力しましょうぞ」

 

「台詞と表情が一致してないわよレグルスさん……しかし彼の言う通り、この命に賭けて作戦を成功に導くのが我々の務め。陽動はお任せ下さい」

 

 レグルス殿とアンドロマケーを皮切りに、各々が決意を固めていく。

 

「その通りです!ヴィクトール様の名の由来にもなったこの地、必ずや奪還しましょう!」

 

「亡きレオン陛下やヴィクトール様、歴々の皇帝とアバロンに誓って」

 

(わたくし)達宮廷魔術師も励まなければですわね、アリエスさん」

 

「その通りですね、エメラルドさん」

 

「帝国に仇なす蛮族、ましてや七英雄に与する者ならば尚更です」

 

「陛下はお進み下さい。必ず帝国統一の為にも」

 

 皆の決意は強固なものであり、それはテレーズ達も同じ事。

 

 各々が皆賛同してくれており、我々は作戦を決行。

 

「作戦開始!」

 

「帝国の力を──要塞に陣取る愚か者共に見せつける時!出陣だ!」

 

 ベアとジェイムズの号令の下、我が国の精鋭達が要塞の真正面へと進軍。

 

 ──ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!

 

 剣戟の音が聞こえてくる。両陣営が激突し、嘗ての帝国の領地を巡る戦いが幕を開けた。

 

 遠目で拝見するとベアが剣で相手の斬撃を受け流し、ジェイムズとライーザがその援護に入っている。

 

 ヘンリーとアンドロマケーの放つ弓矢に紛れて、エメラルドの火術が炸裂し、負傷者の治療をアリエスとレグルス殿が水術で回復しつつ迫ってくる敵兵とモンスターを牽制する。

 

 善戦する彼等が門前の敵を引き受けている間、我々は彼女(キャット)の待ち合わせ場所である要塞から離れた酒場へと赴く。

 

「…!皇帝さ──陛下……!」

 

「キャット、それで文にあった隠し通路とは」

 

 私達の来訪に気付いたキャットは店内を見渡し、私の手を引いて「此処では話せません、付いてきて下さい」と酒場を飛び出して手を引かれる。

 

 確かに人目があっては話しづらいだろう。彼女は私を連れ出して外に出ていく、テレーズ達もその後に続く。

 

「あの娘、気安くジェラール様と手を…!」

 

 テレーズが何故か妬んだ眼差しをキャットに向けているが、私は気に掛ける暇もなく手を引かれる(ヘクター達が深い息を吐いていた気がするが、それさえ気にする余裕もなかった)。

 

 連れ出されて行き着いた先には涸れ井戸があり、彼女(キャット)曰くこの井戸は要塞内部へと通じているとの事。

 

 内部は迷路の様に入り組んでいて、予めキャットは私達の為に目印を描いておいたらしい……良く気付かれずに済んだと、内心に安堵した。

 

「あの時のみたいに子猫を追って下さいね♪」

 

 ウインクしてキャットは告げ、私は正直に礼を述べる。

 

「嗚呼。感謝する」

 

「ありがとうね」

 

「は〜〜?何で()()()()が口を挟むのよ?(あたし)は皇帝さんに言ったんですけどぉ!?」

 

「貴女が陛下に馴れ馴れしいからよ!後、口の聞き方に気を付けなさい!」

 

 またしてもテレーズとキャットが口論を始める。私達で言うヘクターとジェイムズの様に犬猿の仲になりつつあるのだろうか?

 

「お嬢ちゃん、少しお話しましょうか?」

 

 埒が明かないと察したのかローズが()()()()()()を浮かべて、キャットを連れて近くの木々へと姿を消す。

 

 五分程経過し、ローズは何故か顔が青いキャットを伴って戻ってくる。

 

「お時間を掛けて申し訳ありません陛下」

 

「いや……それは構わないが、彼女はどうしたのだ?」

 

「いえ、単にお話ししただけですわ。そうよね、お嬢ちゃん?」

 

「………ハイ、オ姉様」

 

 テレーズ、ヘクター、カール殿が顔を引き攣らせる。

 

 まあ気にはなるが、今は時間が惜しい。

 

「では行ってくる」

 

「イッテラッシャイマセ、皇帝陛下」

 

(本当に何があったのだ!?)

 

(言葉が片言な上、凄く震え上がっているわよ!?)

 

(さっきの暴言でキレたんだと思うぜ)

 

 Side out

 


 

 Side ライーザ

 

 要塞を眼前に展開されている戦闘。

 

 此処を占拠する連中は七英雄を余程心酔しているのか勢いが衰える様子もないし、それどころか更に強まっている様にも思える。

 

 後方では傷付いた兵をアリエスやアンドロマケーを中心とした生命の水や元気の水を扱う術師で回復を施し、そんな彼等をヘンリー達帝国猟兵やエメラルド達火属性の宮廷術師が援護に回っている。

 

 私とジェイムズが率いる軽装兵部隊、ベアさん率いる重装歩兵部隊が中心に敵の守りを崩していっているけど、余程敵さんは私達に要塞を入れさせないつもりみたいね。

 

 だけど残念、既にジェラール様率いる親衛隊が攻略すべく潜入しているのよ。

 

 無理に力押しする必要はない、ジェラール様達が要塞の指揮官を討つまで時間稼ぎするのが私達の役目。

 

 かと言って手を抜く気はないし、陛下が考案した作戦も真面目なつもりだから!

 

「ライーザ、伏せろ!」

 

 ジェイムズの声に身を屈め、背後から飛んできた大剣の一撃──切り落としが敵兵の胸部を一閃。

 

 悲鳴を上げている敵の隙を突き、小剣の一撃を私は敵にお見舞いする。

 

「さっさと終わらせて、盛大に宴でもしましょうか」

 

「全く……貴族の御令嬢だと言うのにそんなに酒が飲みたいのか」

 

「いいじゃない、好きな物を好んで何が悪いって言うのよ」

 

「酒癖が酷いから注意深く伝えているのだ。大体君は絡み酒が酷くて──」

 

 あーあ、またジェイムズの説教が始まったわ。

 

 だって泥棒猫の娘位の年の頃、いつもお屋敷でお嬢様として振る舞うのすっごい窮屈だったもの。

 

 気品あるお嬢様って言うのは私には似合わないし、国に縛られるよりも自由に生きるのが一番合っているのよ。

 

 同じ貴族の御令嬢や令息であるジェイムズにエメラルド、平民の出のテレーズとアリエスとヘンリーもそれぞれの自由や未来の為に帝国に仕えているんだから。

 

「二人共、戦闘中だぞ!気を引き締めよ!」

 

「はい!」

 

「ええ、勿論です」

 

 後方でヘンリー達や兵士達も徐々に勢いを増して敵兵を蹴散らし、援護に向かっているのが見えてくる。

 

 さぁてと、ジェラール様達は今頃要塞の中かしら?早く終わらせて欲しいわね。

 

 帝国と陛下の為、何より世界の為に頑張りましょうか…!!

 

 Side out

 


 

 Side ジェラール

 

 要塞内部に描かれたキャットの愛らしい猫の目印、それを頼りに我々は要塞内部を上へと進んでいく。

 

 兵士だけでなくモンスターもあり、襲い掛かる彼等を我々は討ち取っていく。

 

 モンスターの死骸から薬の匂いが鼻腔に漂い、ローズが死骸の検証を行った結果──モンスターに薬が投与されている事が判明した。

 

「……確かなのか?」

 

「間違いありませんわ……微かに口内から麻薬の匂いが」

 

「……!」

 

「下郎め……!モンスターとはいえ、生きる命にこの様な所業を!」

 

「これが"七英雄"のする事なの…!?」

 

 罪のない命に対する所業は我々全員が憤るもので、拳に力が入り血が床に滴る程であった。

 

 他にも檻に入った個体もいて、全員が極めて異常な興奮状態にあった。

 

 モンスターもこの世界で生きる命の一部、子を成す為ならば狩猟する習慣もあるが、全ての命をも淘汰せんとするその所業はとても見過ごせるものではない。

 

 激しき激昂を胸の内に秘め、敵兵を打ちのめしつつ要塞の最上階へと足を運ぶ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 扉を開き、屋外へと足を進める。

 

 要塞前に繰り広げられる剣戟の音が聞こえてきており、ベア達がどうにか持ち堪えている事が伺える。

 

 彼等の奮闘を無駄にしない為、我々は臨戦態勢を維持する。

 

「……その精悍な顔と獅子の意匠を残した黄金色の鎧、貴様……皇帝だな?」

 

 指揮官であろうスキンヘッドの男は忌々しげに私を睨み、その問いに私は「この地は元々帝国の領地だったものだ、それを奪還すべく馳せ参じた」と返す。

 

 だが男はそれを失笑した。

 

「ソーモンのクジンシーを討ち、日の出の勢いだそうだがここまでだな」

 

「…………」

 

「クジンシーは"七英雄"の中でも小物!我が主──ボクオーン様こそ、真の英雄よ!」

 

 両脇に配置された檻が強引に壊される。中から爬虫類の類であるモンスターが二匹、唸り声を上げて我々を凝視する。

 

 片や寸胴体型で緑色の配色、片や蜥蜴に近しい存在──それぞれリザード、バイロレクスという学名が共通されている個体の一種だ。

 

「ふざけないで!何が英雄よ!」

 

「罪のねえ無関係な人間を嬲った上、今を生きる命を虫けらとしか思ってない奴等だぜ」

 

「崇拝するのは結構だけれど、盲信するのは違うと思いますわよ」

 

「最早彼奴等は英雄ではない!人の心を忘れ、邪道に堕ちた悪鬼そのものよ!」

 

 テレーズ達の論破に男は不快そうに舌を打ち、得物であるメイスを天に掲げる。

 

「昇った日は必ず沈む!ボクオーン様の片腕であり、この要塞を預かる私が沈めてくれよう!」

 

「そういうわけにはいかない…!私にはやるべき宿命がある、それを為すまで死ねないのだから」

 

「皇帝…!貴様のその首、ボクオーン様に献上してやろうか!?」

 

 男は私に向かって棍棒(メイス)を振りかぶって迫るが、寸前でカール殿の拳が防いだ。

 

「────陛下の首を取りたくば、先ずは我々を退けてみせるがいい!」

 

「フン……邪魔が入ったか。モンスター共、雑兵共の肉を喰らうがいい!」

 

 リザードとバイロレクスの唸り声を上げ、彼等に襲い掛かった。

 

「させない!ウォーターガン!」

 

「オラァ!!」

 

 水術の攻撃術・ウォーターガンをテレーズはバイロレクスに放ち、隙を突いてヘクターが大剣で切り付ける。

 

「はああ!」

 

 リザードはローズが地術・ロッククラッシュで対処、カール殿が牽制行う形で。

 

 私も風術の攻撃術・ウィンドカッターで彼等を援護しようとするが、男が棍棒(メイス)を振るって妨害してくる。

 

「クッ…!」

 

「そう易々と攻撃を許すと思うか?甘いぞ、皇帝!」

 

 棍棒(メイス)による打撃を剣で防ぐが、大柄な体躯の割に妙に素早い。

 

 奴から狂信的な執念が伝わってきており、一つ一つの打撃が重く感じる。

 

「どうしたどうしたァ!防御ばかりではこのヴァイカーを討ち取ろうなど、不可能に近いわ!」

 

 更には棍棒(メイス)を床に叩き付け、隆起した地面と共に衝撃波が伝わってくる。

 

 男──ヴァイカーは狂った様に高らかに笑い、私に向けて棍棒(メイス)を振り上げて嬲っていく。

 

「陛下!」

 

「ジェラール様!」

 

「私の事はいい!相手の戦力を削る事に専念……がはっ!」

 

他人(ひと)の心配とは余裕があるな皇帝!貴様の様な若僧が七英雄の一角を討ったというのはやはり信じられんが、若い芽を摘む必要がある様だな!」

 

 血反吐を吐き出しながら奴の猛攻を受け続ける、鎧に亀裂が入る音が耳元に響いてくる。

 

 まだ私は獅子の後を追う小さな子獅子だ。まだ父上の様に聡明な判断が出来ず、兄上の様に剛気な強さには至っていない。

 

 こんな所で立ち往生していては二人に呆れてしまうし、私と共に苦難の道を歩もうとする臣下達に失礼に値する。

 

 志半ばに斃れて七英雄を野放しにすれば帝国──否、世界は奴等の思うがままに蹂躙されていくだろう。

 

 それだけは防がねばならない、父や兄の様な犠牲者が増える前に。

 

「──皇帝、その首貰い受ける!」

 

 気付けばヴァイカーは棍棒(メイス)を天に掲げ、勢いよく振り下ろそうとしていた。

 

 Side out

 


 

 Side キャット

 

 (あたし)──キャットは運河要塞の中を走り抜けていく。

 

 やっぱり皇帝さんの事が気になっちゃって涸れ井戸を通って要塞に潜入、そのまま皇帝さんの後を追う様に駆け出す(勿論お宝の所在地も把握しながら)。

 

 幾ら皇帝さんが強いからって、敵がそう易々と倒れるなんて思えない。

 

 あのがさつなフリーファイターのお兄さんや格闘家の筋肉ダルマ、弓使いのおb……お姉さんとフリーメイジのローズ()()()が頼りになるとはいえ、敵はそう簡単に弱いわけじゃない。

 

 私はシティシーフの端くれ、如何なる時でも感情を押し込み、金銀財宝をこの手中に収めるのが私達の流儀(ルール)

 

 貴族のお屋敷や裕福な成金共の所から盗み、魔物(モンスター)による被害で貧困に喘ぐ子供達の為、お金や食料を与える事もある。

 

 だけどちょっとしたドジを踏んだ上、モンスターに襲われた際に皇帝さんに助けられたわ。

 

 あの瞬間、盗みを繰り返してきた私はあの優しい皇帝さんに心を奪われちゃった。

 

 弓使いのお姉さんの皇帝さんに対する目線は恋する乙女そのものだったから、負けられないと本能で察した。

 

 絶対振り向かせてやると思う中、最上階の──屋外に通じる扉を小さく開けて覗いてみた。

 

 此処の指揮官らしいハゲ頭の持つ棍棒(メイス)が、ボロボロの彼に向かって振り下ろそうとしていた。

 

 嫌だ、このままだと皇帝さんが殺される。

 

 持参していた弓を手にして、とても矢じゃ決定打にならない事を考えて周囲を確認する。

 

 丁度足下に質の良さそうな石が転がっていた。

 

 石を手にして弓の弦をギリギリまで引き、狙いを定めた。

 

「そこぉ!」

 

 指から弦を離すと石は飛んでいき、見事にハゲ頭の持つ棍棒(メイス)を弾き飛ばした。

 

「なっ…!?」

 

「皇帝さん、今よ!」

 

 扉から顔を出して彼に向かって大声を掛ける。

 

 皇帝さんは私の存在に驚く暇もなく、小剣をハゲ頭の胴体に突き立てた。

 

「感電衝!」

 

「あがっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

 

 人体に突き刺さった剣先から稲妻が流れ込み、直に電流を浴びてハゲ頭は絶叫。

 

 そしてモンスター二匹の方も…。

 

「ウォーターガン!」

 

「切り落とし!」

 

『ロッククラッシュ!』

 

 二匹のモンスターは断末魔の叫びを上げて斃れ、他の四人も皇帝さん同様ハゲ頭に狙いを定めた。

 

「お、おのれェ…!!七英雄に楯突く、愚か者共がァァ…!!」

 

 鼻腔や口端から血を流し、身体の節々から焦げ付いた臭いを漂わせてハゲ頭は激昂している。

 

 血管を浮かばせて棍棒(メイス)を掲げると潤った水が彼奴の周りを覆った。

 

「これで貴様達の攻撃は半減されたァ!幾ら攻撃しようとも、水舞いの前では無意味──」

 

 血走った目で皇帝さん達を睨むハゲ頭だけど、皇帝さんは「それがどうした」と剣を向ける。

 

「其方が対策を施そうが、我々は己が道を貫き通す……過酷な荊の道であっても!」

 

「……!?」

 

「皆、行くぞ!十文字斬り!」

 

 皇帝さんの攻撃を皮切りに皆が追撃していく。弓のお姉さんのでたらめな弓矢、フリーファイターのお兄さんの戦斧投擲、ローズお姉様のファイアボール、筋肉ダルマの蹴り。

 

 攻撃が半減されているにも関わらず、強烈な連携にハゲ頭は血反吐を吐きまくる。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 でも傷だらけの身体に鞭を打って飛び上がり、棍棒(メイス)を振り下ろす。

 

 皇帝さんの前に出て筋肉ダルマが肘で防ぐ。

 

「受けるがいい!これこそが、帝国の忠誠による鉄拳である!!」

 

 強烈な重い拳は鎧を砕き、衝撃を受けてハゲ頭は後退る。

 

 息を切らしてハゲ頭は皇帝さん達を睨む。

 

「はあ……はあ……!七英雄に仇なす存在であればここで始末しておきたかったが、まさか帝国の力がここまでだったとは…!!」

 

 要するに帝国の──皇帝さんの事を見縊っていたって事ね。

 

「ボクオーン様…。不甲斐ない私を、おゆるし、く…だ…さ…い…」

 

 と言って倒れるハゲ頭。フリーファイターのお兄さんが脈を取って皇帝さんに向けて首を振る、既に息絶えたってわけか。

 

 弓のお姉さんに支えられて皇帝さんは剣を天に掲げた。同時に要塞前から凄い熱気のある声が響いた、彼方の戦闘も終わったみたい。

 

「終わったわね、皇帝さん」

 

「ありがとうキャット……君の助力がなければ、この戦に勝利を収める事は叶わなかった」

 

「偶然よ偶然、皇帝さんが死んじゃったら帝国は七英雄に滅ぼされる可能性だってあるわけだし」

 

「素直じゃねえな」

 

「ありがとうね、キャット。陛下を助けてくれて」

 

「フッ……陛下の命を救った事には変わらぬ筈だ」

 

「うふふ……」

 

 ちょっと揃って褒めるの止めなさいよ!しかも大人の余裕なのか、弓のお姉さんは感謝を述べてくるし!

 

 

 

 

 

 ともあれこれで運河要塞もといヴィクトール運河は七英雄の手から解放されて、帝国はかつての領地を取り戻したのよね。

 

 後日、要塞は皇帝さんの指揮の下、数ヶ月で解体されていった。

 

 更地となったその地に町を興す事を決定された。

 

 ちなみに私達シティシーフは皇帝さん──ううん、ジェラール様から褒美を与える事を勧められたけど、私達はそれを蹴った。

 

 要塞攻略に手を貸したとはいえ、私達は所詮泥棒。太陽の下よりも影の中で生きる方が性にあっているし、なんて言うかむず痒いもん。

 

 今回の件についてはシティシーフとの協力関係は公にはしないで欲しいと交渉したら、陛下は裏表もなく承諾してくれた。

 

 見返りにこの一件の事を伝記として書籍にしておきたいんだとか……まあそれだったら別にいいかな。

 

 要塞で見つけたお宝はスパローや他の皆と山分けし、私は終始ニヤけた顔が収まらなかった。

 

 財宝の事は勿論だけど、ジェラール様との時間も心温まるものだって事。

 

 弓のお姉さん……否、テレーズお姉さんといがみ合うくらいに陛下を巡る恋のライバルになったり、他の臣下の人達と一緒にスパロー共々訓練に励んだり、宮殿のパーティに忍び込んだりと。

 

 そんな日々が長らく続き、皇帝さんが──ジェラール様が生涯を終えるまで続いた。

 

 ジェラール様との時間は私にとってかけがえのない日々、それは一日一日がお宝の様な物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 Side out

 


 

 SIde ???

 

 宮殿内にある一冊の書籍を読み終え、私は感慨に耽る。

 

 七英雄クジンシーのアバロン襲撃、ヴィクトール様とレオン皇帝の死没。

 

 謎の女魔道士が伝えた伝承法と言う術法、志を継承したジェラール様のクジンシー打倒。

 

 龍の穴の武道家達とのモンスター討伐、ヴィクトール運河の解放──今じゃあミラマーの町になっているけど。

 

 ジェラール様の武勇伝が記されたこの伝記はもう200年以上の時が経ってもなお、未だに人気が絶えなくて貸本とする事も多々ある。

 

 既に時の人たるジェラール様の存在はそれ程に大きく、街の子供達や一兵卒、侍女に何故か盗賊に至るまでに人気がある。

 

 フリーファイターであるオライオンやシーデー、時折臨時講師で来てくれる龍の穴のフリッツさんまでも……人気あり過ぎでしょ。

 

 ちょっと気になるけどジェラール様の女性関係だって伝記にある限り、当時弓兵部隊の隊長のテレーズさん、それとシティシーフのキャットって娘が主に張り合っていたそうだけど……そこら辺の事情は記されてないのよねえ。

 

 キャットって確か、良く宮殿に遊びに来るビーバーが話していた伝説の女盗賊だったかしら?

 

 もう亡くなってるけど、ジェラール様を口説き落としたって言う伝説があるらしい。

 

 伝記には運河要塞攻略の際、ジェラール様の命を救った事があると言う一説が伝記に記されている。

 

 確かにジェラール様をお救いしたって言うのは凄い事みたいだけど、私にとっては彼は時の人──死んだ人間なのだから。

 

 さて、そろそろ仕事に戻りましょう。

 

 今頃メアリーが私を探して街中を走り回っているだろうし、と本を元の本棚に戻して通路に出た。

 

「……?」

 

 微かに脳内に何かが響く。まるで脳が何か私に直接、何かを伝えようとしている──そんな感覚だった。

 

 何かに導かれ、私は足を運ぶ。ゆったりとした足取りで玉座の間に入り、段差を登る。

 

 皇帝が座るべき玉座は鎖で固定されていた。先代皇帝が崩御されて以来、その玉座に誰も座る事を許されなかった。

 

 だけど……だけど、もしあの伝記が記された事が本当ならば……!!

 

 帯刀した剣を抜き、気付けば私は鎖を、縄を切るかの如く斬った。

 

 同時に私の中に何かが流れ込んでくるのを理解した。

 

「あ……」

 

 知らない筈の記憶が頭の中に入ってくる。

 

 先程まで読んでいた亡き皇帝の体感した記憶、培った知識と力、そして成し遂げるべき使命。

 

「──おい!貴様、玉座で何をしている!」

 

 文官の激昂した声が響く。

 

 私の姿を見かけて入ってきたんだろうけど、もう全て分かっているから。

 

「今すぐこの部屋から出て行くのだ!其処に座する事を許されるのは──」

 

「最も志の強い者、でしょう?」

 

 自分でも驚く程の冷淡な声を発する、文官は一気に怒りが収まって吃驚しているけど、私は冷静に振り返る。

 

「貴様が……い、いえ、貴方様が新たな──」

 

「ええ、そうよ」

 

 笑みを浮かべて私は告げる。

 

「私こそがジェラール様の志を継承した皇帝──元・軽装歩兵のジェシカよ」

 

 何で私なんかが皇帝に選ばれちゃったのか、呆然としながら立ち尽くす文官を見て内心息を吐く私であった。

 

 

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