アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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と言う事で第二世代編、基、ジェシカ編の導入編です。


帝国歴1246年 帝国軽装歩兵皇帝ジェシカ編(導入編)

 Side メアリー

 

 帝国歴1246年……あのジェラール陛下の統治から245年あまりの月日が流れた。

 

 七英雄はもう英雄じゃなくなっている事は帝国だけじゃなく、世界中に知れ渡っていて、世界は混迷の時代と化している。

 

 その影響かは分からないけど、モンスター達が昔よりも活発と言うか凶暴性が増していって世界中の人はモンスターや七英雄の存在に恐怖を覚えている。

 

 数千年も昔は人々にとって希望の光だったのかも知れないけど、今となってはそんな姿さえも恐怖の象徴そのもの。

 

 嘗てのレオン陛下に告げた女魔道士の警告通り、彼等は私達人間に牙を向けているのだから。

 

 謎の女魔道士がレオン陛下に伝えた術法──伝承法。

 

 その術法はジェラール陛下に受け継ぎ伝えられ、帝国を襲った七英雄クジンシーを倒した力にもなった。

 

 200年以上昔の人物でもジェラール陛下の統治と御活躍、その功績は現代にも伝えられている伝記として語り継がれている。

 

 その死後も彼の存在は帝国中の老若男女問わず、熱烈な人気を誇っていて偉大なものになっているの。

 

 勿論私もその一人だけど……あ、そ、そう言えば私の事をちゃんと伝えてなかった。

 

 私の名前はメアリー、帝国(アバロン)に仕える帝国猟兵だよ。

 

 年は21歳で自分で言うのもなんだけど、貴族で……ちょっと内気な性格なんだ。

 

 貴族のお嬢様のくせに臆病だなって思うかもだけど、昔からこんな感じで育ちゃって。

 

 得意とするのは役職の通り弓矢と小剣、それから裁縫と家事全般。

 

 苦手なのは知らない人とお化け、それと昆虫系のモンスターかな?

 

 女の子が嫌いな要素があるけど、それでも自分を変えたくて皇帝陛下の臣下になったんだ。

 

 ………まあ、その皇帝陛下が一番の大親友なんだけどね。

 

 そして今現在、私は陛下の寝室の前にいる。

 

 本来なら侍女の皆さんの役目なんだけど、厄介な事に一度寝ると中々起きない。

 

 だから時々私がこうやって寝室に訪れて起こしにいく……それが昔からの習慣なの。

 

「……陛下、起きて下さい」

 

 扉を叩いていくけど、その向こうから物音が聞こえない。

 

「陛下……起きて下さい、朝ですよ」

 

 強く叩くけど物音が聞こえない、いや……起きているけど寝てるフリしてるよねこれ。

 

 ちょっとイラッとしたから問答無用で入り、キングサイズのベッドを勢いよく引き剥がした。

 

「──起きなさい!()()()()!!」

 

「きゃああああああ!?」

 

 シーツから滑り落ちる様に、ベッドに潜り込んでいた張本人が姿を現す。

 

 金髪のショートヘアで空色の双眼を持ち、何処か気怠るそうな顔立ちで豊満なスタイルを維持している。

 

 彼女こそ伝承法によって選ばれたこの帝国(アバロン)の現皇帝にして帝国軽装歩兵、そして私の親友・ジェシカ。

 

 あのジェラール陛下は聡明な性格で知識豊富、お父上のレオン陛下の経験と記憶を継承してからは彼の力も得て勇敢な青年だったと伝え聞く。

 

 数日前、文官さんから彼の力と記憶がジェシカに伝承されたと聞いた時、何かの間違いだと絶望した。

 

 性格は大雑把で手先も適当、細かい事も気にしない単純な思考。しかも国の政治にも向いてない上、時々訓練をサボっては町中で遊び回る。

 

 とてもじゃないけど、皇帝には向いていないどうしようもない人物。

 

「いった〜〜。何するのよ」

 

「何するのよ……じゃないでしょ!?今の貴女は皇帝で、帝国を平和に導く存在なんだよ!?何で普通にサボってるのかな!?」

 

「眠たいんだからしょうがないじゃない。私ってさ、宮殿にいるよりも広い世界で自由にしている方がいいと思うのよね。メアリーもどう?」

 

「〜〜〜!!兎に角、早く着替えて支度して!」

 

 朝一番の大声が宮殿内に響いた。

 

 

 

 

 

 

「良いですか陛下?国を統べる者として、常に知識を得なくてはなりません」

 

「は〜い」

 

「何ですかその弛んだ声は?返事はハッキリと!」

 

「は、はい」

 

 朝食を終えて書斎へ移動させられ、ジェシカは二人の宮廷魔術師から厳しい学問の授業を受けていた。

 

 水術を扱うサジタリウス先生、火術を扱うアメジストさん。

 

 温厚なサジタリウス先生はやんわりと教えている一方、アメジストさんは何から何まで苛烈な傾向でジェシカに知識を叩き込んでいる。

 

 まさに飴と鞭の様な関係性だよね、これって。

 

 魔術だけじゃなくて政治の関する知識を叩き込んでいて、ジェシカは弱音を吐きながらも覚えようと必死に励んでいる。

 

 もしも逃げ出そうとすれば重装歩兵のバイソンさんが入口で待ち構え、「何方へ行かれるのですかな?」と威圧感たっぷりの声で道を塞ぐ。

 

 こう言う事があって逃げる事を諦め、泣く泣く勉学を受けるジェシカ……日頃の行いの所為だよ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 学問の授業を終わったら戦闘訓練、私は帝国猟兵として射的センスを磨いて的に向けて矢を射る。

 

 他にもう一人──ルイさんと言う人がいるんだけど、彼は日課の街の巡回と言う名のジョギングをしている。

 

 その傍らでフリーファイターのオライオンさん、シーデーさんが一兵卒に訓練を課している。

 

「ほら、踏み込みが甘いわよ!そんな事では帝国を、守るべき人を守れないよ?」

 

「シーデーの言う通りだ。お前等が死んだら、お前等が守る連中も死ぬ!そう言う世界で生きてんだよ、お前等は!しっかり死ぬ気でやれ!!」

 

 垢抜けしていない彼等を鼓舞して二人は訓練を課す、更にその傍らでは──ジェシカが帝国軽装歩兵のジョンさんと模擬戦を行っていた。

 

 器用に槍を扱いこなすジョンさんの攻撃をジェシカは素早く躱し、剣で斬り掛かるけど読んでいたのかジョンさんはそれを受け流す。

 

「やるじゃない」

 

「自分は相手の攻撃の軌道を予測したまでです。……陛下は()を頼りに攻撃の軌道が読みづらい上、寸前で対処するしかありません」

 

「あら?言うわね」

 

「不快と捉えたならば謝罪をします、今は訓練中です…!」

 

 ジェシカはお馬鹿だけど出来るお馬鹿だからね、こんな風に予測出来ない戦闘技術を発揮しているのだから。

 

 

 

 ※

 

 

 

 軽く汗を流した後、ジェシカが町へと繰り出そうとしているので私はそれに同伴する。

 

「何で着いてくるのよ」

 

「ジェシカが行く所に私ありって奴だよ」

 

「しょうがないわね……じゃあ、一緒に町中を回ろう」

 

「お供します、陛下」

 

 公私混同せず人前では私は彼女に敬意を払い、プライベートでは親友同士だから気安く話せられる。

 

 皇帝になってしまったけど、取り繕っていないその笑みは正しく昔から変わらない二つ上の親友のそれだった。

 

「あ、ジェシカ様だー!」

「こんにちは陛下ー!」

 

「ええ、こんにちは」

 

 子供達に笑顔で挨拶したり。

 

「おお、ジェシカ陛下!今日は新鮮な野菜や果物が揃っているんですよ、良ければ買っていって下さい!」

 

「そうなの?じゃあ後で買おうかしら?」

 

 商人と他愛ない会話をしたり。

 

「ああ……ジェシカ陛下、今日もお美しいわ」

「ええ……とても凛々しくて素敵ね」

「是非一度お茶会に御招待して差し上げたいわ」

「ね、願わくばお持ち帰りしたい」

 

 貴族平民問わず女性達から羨望の目を向けられたりしている……後、変な言葉が出て来た気がするんだけど気の所為だよね!?

 

「お持ち帰りって……何の事かしら?」

「……永遠に分からなくていいと思うよ」

 

 細かい事を全然気にしない性分だから首を傾げる始末、こんな調子だからお見合いの話が全く来ないんだよね。

 

 

 

 

 

 

 次に訪れたのは術法研究所、宮勤めになってから出入りには申請書を提出する必要があって難しかったけど、ジェシカが「申請なしで入所していい」って御達しを送ってくれたから自由に入れる様になった。

 

 まあ皇帝が来訪したら、無許可で入っていいと言うのは昔からあったそうだけど。

 

 研究員の皆さんはジェシカが来た事に吃驚して焦っていたけど、研究所の責任者であるこのお二人は別。

 

「おやおや陛下、今日はどの様な御用件で?」

 

「こんにちはアルゴルお爺ちゃん、リリィおb……お姉さん」

 

「御機嫌ようジェシカ様……何故私の事を別の呼称で呼ぼうとしたのかは追求しないでおきますわ

 

「は、はい」

 

 フリーメイジのアルゴルさんはジェシカを孫みたいに可愛がっていて、偶に飴を上げたりする事がある。

 

 同じくフリーメイジのリリィさんにはつい本音をぶちまける事があって、本人も年齢を気にしてか笑顔で威圧する事が稀にあったりする。

 

「相変わらず此処にいるのね、休憩したりしないの?」

 

「心配には及びませぬ。我々も人の子、休息も人間にとって最も重要な役割。陛下が心配されぬ様な事は決してない事を自負しております」

 

 顎の髭を撫でてアルゴルさんは飄々とした様子だった、それはリリィさんも悪しからずと言った感じがする。

 

「よーし!お次は水路の探検よ!メアリー、行くわよ!」

 

「え?ちょ、ちょっと、探検って、この建物の下から!?ジェシカ、まだ心の準備がああああぁぁぁぁ!!」

 

 生暖かい目で見送る二人を尻目にし、私はジェシカに引っ張られていく。

 

 地下水路は危ないから、本当に勘弁してえええええ〜〜〜!!

 

 

 

 

 

 

「やっほー!」

 

『うおおおおっ!?』

 

「こ、皇帝陛下!?」

 

「何で水路側から入って来てんだよ!普通に梯子から入って来いよ!?」

 

 モンスターからの追いかけっこからどうにか逃げ切り、シティシーフのアジトに逃げ込んだ。

 

 ジェシカは平気で危険地帯に踏み込むから全然気にしてなく、満面の笑みを向けるけど、此方は普通に命懸けでやり過ごしたんだよ?

 

「と、突然入って来てごめんね、クロウ君にビーバーちゃん……」

 

「うわっ、びしょ濡れじゃん」

 

「あんたっていつも貧乏くじばっかり引いているよな」

 

 同情の眼差しを向けてくるのはシティシーフのリーダー的存在のクロウ君、そしてその相方のビーバーちゃん。

 

 荒事であれば何でもござれと言うスタンスを貫く上、帝国と密かな盟約を提携している盗賊(シティシーフ)の代表的な少年少女二人。

 

 皇帝ジェラール様の時代において運河要塞攻略の功労者と言うべき存在、キャット女史の武勇伝はシティシーフ内でも伝説とも謳われる程の大活劇らしい。

 

 しかもタイミングが良いのか悪いのか、来客が来ていた。

 

「あら?フリッツさん、来ていたのね」

 

「ハハハハハ!相変わらず元気が良いですなぁ、陛下!」

 

 高らかに笑いながら酒を啜り、筋骨隆々の格闘家──フリッツさんが豪胆に言う。

 

 ニーベルの町を守る龍の穴の格闘家の総師で当代の"ザ・ドラゴン"であり、龍を模した面が印象的な暑苦……じゃなくて豪快な人。

 

 ジェラール様の時代にて彼と共に戦に身を投じた当時の"ザ・ドラゴン"──カールさんが質実剛健だったのに対し、このフリッツさんは剛気でありながら自由奔放の印象があって……色を好む傾向がある。

 

「実は先程良い出会いがありましてなぁ!その娘にお付き合いされないかと誘ったのです!」

 

「………それで?」

 

「澄まし顔でむさ苦しいのは無理と振られてしまったのです!ハハハハハ!!」

 

「会って早々デートとか有り得ないでしょ」

 

 ビーバーちゃんが冷めた目で毒吐くけど、常にポジティブ思考のフリッツさんには聞こえてない様子で豪快に笑い続けるだけ。

 

 ジェシカ以上のお馬鹿さんは無視し、クロウ君はジェシカに話し掛けてくる。

 

「所で陛下……耳寄りな情報があるんスけど、聞きたいッスか?」

 

「へ〜〜……幾ら?」

 

「ざっと2000クラウン」

 

 情報料としてクロウ君にお金を払うジェシカ、彼女は「それで情報って?」と問いを投げ掛ける。

 

「ロンギット海で活動する武装商船団を知ってますかい?大海原を航海する彼奴等は最近、帝国に対して通行料を取り立てているらしいですぜ」

 

 ヴィクトール運河が七英雄の手の者から解放されて200年以上経ち、近隣諸国への海路が確保されて交易船の入港も可能になった。

 

 でも商船団の人達が通行料に関して意見を述べていると言う事は帝国に収入源が入らないと言う事、それは確かに耳に入れておくべき情報だね。

 

「更にもう一つ、オレオン海の先にあるカンバーランドって国を知ってますかい?」

 

「ええ、ソーモンの港の交易ルートにもなっているダグラスって港町にある国だったわね」

 

「その国の国王にゃ三人の子供がいて、その子供達を軸に何やらキナ臭い事が起きる気がする……あくまで可能性ですよ」

 

 世界の情勢を把握する為にシティシーフは各地に密偵を送っていて、その密偵からの密書がアジトに集まり情報を共有している。

 

 流石だね、まだ子供だとは思えない頭脳と判断力が備わっている。だからビーバーちゃんを始めとする他のシティシーフは、皆彼に信頼を寄せているんだ。

 

 チラッと私はジェシカの方に目線を向ける。見てみると彼女は怖いくらいに期待に満ち溢れた目をしていて、まるで夢を追い求める子供の様だった。

 

「……宮殿に戻るわよ、メアリー」

 

「……方針が決まったんだね?」

 

「分かりきった事でしょ?さあ、帰るわよ」

 

「イエス・ユア・マジェスティ」

 

 彼女は底なしのお馬鹿だ。だからこそ私は彼女に尽くす、親友でもあり──まだ見えない未来を築こうとする皇帝陛下を。

 

 南ロンギット海のモーベルム、はたまたカンバーランド王国。何方かを選ぶかは彼女が選択する事──

 

「さあ!先ずは財力増加の為、ルドンのティファールの町の宝石山を領地に!」

 

「其方!?」

 

 枠に捉われない事は分かっていたけど、ちょっと不安だなぁ…。

 

 




次回はティファール編を投稿します。
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