SIde ジェシカ
私の名前はジェシカ……帝国に仕える軽装歩兵にして、伝承法によって皇帝になってしまった女よ。
私が皇帝としてやり遂げるめんどくさ……じゃなくて、最初の仕事は──ルドン地方にある宝石鉱山の町・ティファールを帝国領に収める事。
ルドン地方は南バレンヌを南下した位置にある地方、帝国の財政面をどうにかしようと思ってこの町を訪れた。
町の人によると此処は鉱山で宝石が採掘される事で有名
お陰様で町の鉱員の人数が減り、宝石採掘もまともに出来ない状態。町の人達はみんな、この状況下で挫折状態に陥っているみたいね。
幾ら帝国統一が面倒くさいとはいえ、困っている人間を見殺しする程落ちぶれちゃいないのよね。
「それじゃあ皆、聞き込み開始よ」
此処まで付き添ってくれた四人の親衛隊の面々──メアリー、バイソン、アメジスト先生、クロウに振り返る。
「分かりましたわ、ジェシカ様」
「調査はシティシーフの基本だ。任しといて下さいよっと」
「うん、町や鉱員の人達が困っている以上はね」
「鉱山が帝国の領土となれば帝国の財政に良い影響が出ましょう。領地となれば後々我が国の財政の助力となり、武器や防具の生産と強化、雑貨の購入にも役立ち、そして都市建設にも──」
「ちょっとバイソン、今はそう言う話をしているんじゃないでしょう?今は鉱山をモンスター達から解放して、町の人達を安心させる為じゃない」
ペラペラとバイソンが長々と話し出したので直ぐに静止し、私達は町の人達から情報を聞く事に。
皆が皆……モンスターがいつ鉱山から出てくるか不安の声が上がっていて、男達も採掘作業が出来ず深く塞ぎ込んでいるのが窺える。
不安と恐怖、憔悴を募らせて皆は不安で仕方ないのよね。
「はあああぁぁぁ……」
宿泊酒場に行ってみれば一人の男性が深い息を吐いていた。その服装は民族衣装のそれであって、独特の雰囲気を感じて私は少し興味を覚えた。
どうやらこの人は故郷を飛び出してこのティファールで一攫千金を狙っていたそうだけど、モンスターが跋扈するこの状況の中で訪れてしまい、自暴自棄になって心が折れている様子。
「そんなに溜息を吐いてたら幸せが逃げちゃうわよ、気持ちは分からないでもないけど」
「え…」
「私がモンスターを退治して上げる。そうすれば鉱山の宝石採掘も再開出来るし、町に平和が戻って貴方もお金を稼ぐ事が出来る。それで結果オーライじゃない」
「……ええ!?」
男性は滅茶苦茶驚き、明らかに私を見て「出来るわけがない」みたいな表情をしている。
まあ気持ちは分かるけども今の私は伝承法で選ばれた皇帝、人々の安寧の為にもやらなくてどうするのよ。
そう告げて酒場を出ていく私。外に出ると既にメアリー達がいて、私が此処にいる事が分かっていたみたい。
「
「モンスターを退治してこのティファールを苦しみから解放し、帝国領とする……でしょ?」
「我々は陛下の盾であると共に矛、貴女とならば何処までも」
「陛下の考えている事ならばお見通しですわ、困っている民草を放っておけないですわよね」
「陛下は普段は馬鹿だけど、やる時はやる馬鹿だから俺らはやる気になれるんスよ」
皆は俄然と熱意を持って私に語ってきたので、つい笑みを浮かべた。後クロウ、馬鹿はないんじゃない?自分が馬鹿だって言う自覚はあるけど。
「じゃあ行きましょう、宝石鉱山へ」
Side out
Side メアリー
鉱山の出入口で見張りの方々に勅命書を見せ、彼等の許可を得て私達は鉱山の中へと進んだ(見張りの方々は勅命書に書かれた帝国のシンボル、そしてジェシカの顔を交互に見やって吃驚してた)。
鉱山の内部はカンテラが括り付けられている事で明るく灯され、昇降機で地下にある採掘場へと進む。
採掘場には獣人系のモンスターにスライム、アンデッドや両生類のモンスターなどが棲みつき、我が物顔で鉱山の内部を徘徊する始末。
この鉱山は皆の豊かな生活の為にも必要な源泉とも言える場所、彼等が棲みついたのも七英雄が関係しているのかな…?
途中でジェシカが地盤が脆い落とし穴に落ちて蛇のモンスターに囲まれたり、アメジストさんが術法の古文書を見つけて歓喜したり、襲い掛かるモンスターを退けながら私達は最奥に進んでいく。
道中、光の軌道を辿っていくと──変わった装置が鎮座しているのを見つける。
これは確か……七英雄の記憶だっけ?七英雄の過去を拝見する事が出来るって、ジェラール陛下の伝記に記されていた気がする。
しかもこれは皇帝にしか閲覧出来ないらしい。ジェラール陛下がそうだった様に、もしかしたら…!
「なんか面白そう」って言う理由で装置を動かし、ジェシカはそのまま動かなくなった。
そのまま数分意識が飛んでいたジェシカだけど、暫くして意識が戻った。
普段は頭が弱い彼女だけど、知る限りで体験した記憶の情報を共有していく。
彼女が垣間見たのは後の七英雄のリーダー・ワグナス、そして同じ七英雄にして彼の従兄弟でもある槍術の戦士……スービエの会話だった。
当時嘗て存在していた王国を含めた世界が大災厄によって滅びを迎えようとする中、スービエはワグナスからある話を持ち掛けられた。
ワグナスは暴虐なまでに町を滅ぼし、数え切れない程の人々の命を喰らい尽くすタームの軍勢の猛威に対して、決死の覚悟のある少数精鋭部隊を掻き集めるべく奔走していた。
そして彼は揺るぎない覚悟を決めた恐れを知らない剛勇、窮地に陥った時に発揮する非凡な知恵を持つスービエに声を掛けた。
だがスービエは明日以降他国に渡るつもりらしく、例の次元転移には興味を示す様子もない。それどころか命が尽きるその時まで、自らの生を謳歌する気概があった。
しかしワグナスが声を掛ける事があるならば、思い止まり話を聞こうとしていた。
間一髪の所で間に合った事をワグナスが安堵する中、スービエは語り続けた。
「後も先もない、同じ波は二度と来ない。今この瞬間を捕まえられるか否か、それだけだ。波に乗れるか、呑まれるか。運命に乗るか、反るか」
それが他国に渡る寸前、スービエがワグナスに伝えた言葉。もしも自身が大波を乗り越えられる事が出来たのなら、彼に付く事を自負した。
その先の話は記録されてなかった。でも察するにスービエはワグナスの部隊に入り、他の面々──後の七英雄達と共にタームに立ち向かったんだ。
「何と勇敢な…!」
「七英雄スービエ、カッコ良すぎだろ…!」
バイソンさんとクロウ君は男心が擽られたみたいで、噴水の如く感涙している。
確かに聞けば聞く程、彼と言う人物と魅力に惹かれるのも分かるし、でも男の人ってよく分からないや。
「ですが……そんな彼もクジンシー同様邪道に堕ち、我々人間に牙を向けているのですものね」
「ええ……どうしてそうなったのか、この記憶だけじゃ分からないのよね」
私もジェシカやアメジストさんの同意見だよ。この七英雄の記憶を辿っていけたら、彼等の身に何があったのか分かるかも知れない。
「まあ今は兎に角、この宝石鉱山を陣取っているモンスター達を片っ端から片付けていこう」
ジェシカの命令に私達は了承、そのまま鉱山の奥まで足を運んでいった。
……まあその先で、地獄絵図を作っていくんだけど。
Side out
No Side
「グギャ!ギャアアアアアァァァァ!」
助けてくれ!そう言わんばかりに鉱山を占拠したリザードマンの一体は叫び、追い掛けてくる追撃者を恐れる。
その追撃者は獅子のシンボルの入った甲冑を纏った人間の女、まだ若くて肉付きの良い美しい女だった。
輝く様な金色の短髪を持つそんな女は周りの人間から"ヘイカ"と呼ばれていて、黙っていれば見目麗しい容姿を持っている。
大方この女とその仲間はこの町の人間達に頼まれ、鉱山を取り返そうとわざわざ我々を討ち滅ぼそうとしているに違いない。
鉱員共では歯が立たないから、情けなくも奴等は他所の連中を頼ったと言う所だろう。
何と滑稽だろうと町の人間達を見下して嘲笑、他所から人間が来ようとも結果は目に見えている。
リザードマンが二体、そしてリザードレディも二体。爬虫類系のモンスターが計四体揃っている、この布陣が崩される事は決して有り得ないだろう。
絶好の獲物が向こうから食われに来た、久々の人間の肉にしゃぶり付こうと飛び掛かったリザードマン達。
だが彼等は見誤ったのだ、目の前にいる人間達の力量を。
"ヘイカ"と呼ばれていた女はリザードマン達よりも瞬足に間合いに入るや否や、剣先から放った
奇襲を掛けるつもりが逆に奇襲され、慌てて立ち上がるリザードマン達。体勢を立て直そうとするが、大柄の男の持つ
他には術士の女と弓使いの女が放つウィンドカッター、盗賊の少年の小剣から放つ円月を思わせるプラズマスラストに翻弄される。
「ほらほらほらほらァ!唯やられてるんじゃ面白くないわよ!?」
狂った様に微笑んでヘイカとやらは挑発してくるが、リザードマン達は戦々恐々とした様子で目の前にいる人間達の戦闘力に畏怖する。
何なんだろうかこの人間達は。特にあのヘイカと呼ばれている女は普通じゃない、気付けば彼等は後退りして逃げ出していた。
今更ながらとんでもない存在に喧嘩を売ってしまった、生存本能からか死に物狂いで駆ける。
「つむじ風!」
逃げ出した彼等にヘイカは慈悲もなく追撃とばかりに突風を剣先から再び放つ、そして同時に巻き込まれたリザードマン達の断末魔の叫びが鉱山内に木霊していった。
Side out
Side ジェシカ
ふう〜、いい汗かいたわね!
鉱山の最奥で爬虫類のモンスター四匹を討ち取り、鉱山に活気が戻ってきた。
鉱員達も町や鉱山に平和が戻り、生気が溢れた様子で私達に感謝を述べてくれた。
町の人達の顔色も嬉しそうで、何度も頭を下げていた……まあ帝国の領地を拡大するついでのつもりだったんだけど、感謝されるのも良い事をするのも悪い気はしないわね。
あ、ついでにあのお金目的でティファールに来ていた男性も私達に感謝の言葉を送っていた。
彼も一攫千金を目指す様で、故郷のナゼール地方から出て来た甲斐があったと意気揚々としていた。
「貴方、ナゼールから来たの?」
「ええ。ナゼール地方は此処から南にあるルドン高原を越えた先にあります」
道筋も中々険しくて生息するモンスターも凶暴な上に強く、越えるには相応の覚悟を決めて挑まないといけない…と親切に説明してくれた。
他にもムーと言う生物を家畜としている遊牧民、サイゴ族の事も話してくれて私達はその日の明朝、帝国へと凱旋した。
あ、因みに魔除けとして爬虫類四匹の首を持ち帰り、町の各所に晒し首及び丸太に括り付けておいたわ。
ちゃんと木札に「私達は鉱山を乗っ取り町の人達に迷惑を掛けました」と書いて、それは後々町の名物にもなったけど他所の人からは全く受けなかったとか…。
次回は武装商船団編を投稿します、ちょっとしたギャグ回となります。