アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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武装商船団編を書き上げましたので、投稿します。


帝国歴1246年 帝国軽装歩兵皇帝ジェシカ編(武装商船団編)

 Side ジョン

 

 自分の名はジョン。

 

 帝国(アバロン)に仕える軽装歩兵の隊長を務めるちっぽけな男だ。

 

 大剣と槍を主な得物とし、日々帝国の為に研鑽を重ねる。

 

「ジョン!少し走り込みをするか!?」

 

 訓練の最中、帝国猟兵のルイの声が訓練所に響く。

 

 どういうわけか龍の穴の格闘家達を尊敬、それに付け加えて彼等の筋骨隆々の肉体に強い憧れを抱いている。

 

 何故そうなったと言う疑問が浮かぶも、彼は至って本気である為に無下に出来ない。

 

 彼の大声を気にせず「いや、別にいい」と自分は返す。

 

 ルイは「そうか!」と声を高らかに叫び、そのまま腕立て伏せを始めた。

 

 汗を流しながら…。

 

「そう言えば!ジェシカ様は新たに!帝国を豊かにするべく!アバロンの木を植えるそうだ!」

 

「嗚呼、伝え聞いている」

 

 帝国の新たな発展には施設の増設や武具や装具の開発だけではなく、土地の保全と水源の確保が必要不可欠だ。

 

 ジェシカ様は頭はアレだが、きちんと帝国の為にと奔走しておられるからな……偶には素っ頓狂な言動や奇抜な行動が目立つが、皇帝に選ばれてからは雰囲気が落ち着いた……多分。

 

「そう言えば陛下は何方に?」

 

 いつもであれば前触れもなく突然現れては「ちょっと特訓に付き合って!」やら、食堂にいらしては給事係を追い出しては一人で料理を独自に作り「私直々の自信作よ、ゆっくり食べてみなさい」とマズ……ではなくて独特な手料理を出してきたりと破天荒な行動が度々あるのだが…。

 

「陛下は!北ロンギットのモーベルムに向かわれたらしい!例の商船団と交渉するつもりだそうだ!」

 

 ロンギット海は大海原を夢見る海の男達が船に乗り、航海を続けている武装商船団が名を広めている。

 

 三つの港町を中心に海を渡り、商いを行っているんだとか。

 

 三つの港町とはミラマーの町の先にあるモーベルム、ナゼール地方にあるサイゴ族の村と交易のあるトバ、そして人魚伝説の残るマーメイドの町の事である。

 

 それにしても…。

 

「ジェシカ様に交渉など務まるのか?突然交渉決裂になってしまえば、益々収入が得られなくなる可能性が」

 

「確かにそうだが!メアリーにリリィ女史、サジタリウス氏とオライオンが付いているのだ!我々の不安が杞憂に終わる事を、願うべきだ!それともジョン、君はジェシカ陛下に恋慕されているのではあるまいな…!?」

 

「な、何を根拠にそんな事を…!?」

 

「ぬ!?本当に脈があるとは!だがジョン、皇帝陛下に対しての粗相は決して許されるものでは──」

 

「飛躍し過ぎだ…!確かに陛下に対してこの様な想いを抱いているが、君が考えている様な疚しい事など…!」

 

「では!さっさと!陛下に想いを伝えるがいい!私は勿論!他の皆も応援しているぞ!」

 

 余計なお世話だ!

 

 皇帝になってしまったとはいえ、陛下の──ジェシカの本質は変わってなどいない。

 

 だがあの性格で恋愛にも無頓着である為、知識も乏しいから伝わるかどうかも些か怪しい。

 

 メアリーがその話題を出しても「鯉って……確かヤウダ王国に生息する魚よね?何でその話題が?」「意味が違う!」と言うやり取りが度々繰り広げられる。

 

 あれでは当分お見合いなど無理だろうな、と私は遠方にいる主君に遠い目を送るのだった。

 

 SIde out

 


 

 Side オライオン

 

「はっくしゅん!!」

 

 突然ジェシカ様が鼻を押さえ、盛大にクシャミをした。

 

「どうされましたか、陛下?気分が優れないのでは…」

 

「あー……大丈夫よ、単なる鼻詰まりよ。きっと」

 

 サジタリウス先生の言葉にジェシカ陛下は鼻を啜り、それはないときっぱり否定されている。

 

 大方ジョン辺りが噂してるんだろうけど、彼女は細かい事を一切気にしない(タチ)だから風邪だと解釈してんだろう。

 

 それはさておき、彼女が率いる親衛隊としてオイラ達はロンギット海の港町──モーベルムに赴いた。

 

 海の香りがする潮風が吹き、波の音が若干聞こえてくる。

 

 出立して徒歩で五日、ミラマーの町で一泊してからこの町を訪れた。

 

 ミラマーって言うのはヴィクトール運河に建てられている町で、対岸で挟まれた小さな町並みだ。

 

 200年以上前は町などなくて、小さな酒場しかなかったらしく、七英雄の手先によって要塞が建造されていた。

 

 だが先帝ジェラール様の手により解放、彼の意向によってかの地は開拓されて──長い年月を経て、ミラマーの町が興されたと聞いている。

 

 っと、話が逸れた。

 

 今現在、このモーベルム含めたロンギット海の海路の通行料を、この海域を取り締まる海のならず者達──武装商船団が徴収を行っているとの事。

 

 勿論これは帝国(オイラ達)も無関係でいられず、ジェシカ陛下は連中と交渉する事を決断された……というのが此処に至るまでの経緯。

 

 このロンギットの何処かに商船団の連中のアジトがあるらしい、主にこのモーベルムにはその隠れ家があるらしいが、他に別に存在する。ヌオノと言う場所に奴等のアジトがあって船で行くには洞窟内の水路を通らないといけないんだが、モンスターが生息している。

 

 水路以外で行くにはハリア半島からヌオノへ向かうと言う陸路からのルートが存在するが、其方にもモンスターが生息していて却って危険な道のりになっている。

 

 陸路もモンスター、水路にもモンスター。何方か一つの道を選ばねえといけねえ、選択肢次第でオイラ達の道が定められるってわけだ。

 

 ……それを決めるのがジェシカ陛下だって言うのが、幸先不安要素なんだよなァ。

 

 情報収集の際に酒場に赴いた時、陛下の美貌に見惚れて男の客共が鼻の下を伸ばしてたからな。

 

「あの娘、可愛いじゃねーか」

 

「嗚呼、かなりの上玉だぜ。隣の娘と合わせて可憐だよな」

 

彼方(あっち)のは……年増だからアウトだな」

 

 さりげなくリリィの姐さんをシカトし、陛下とメアリーに見惚れていた。

 

 彼奴等……姐さんの耳に入ったら最後、命がねえかもな。

 

 情報収集が終わり、港の前で立ち往生しているオイラ達。

 

 どうしたものかと思考を張り巡らし、どうやって商船団の提督の下へと向かうべきか。

 

「簡単な事なのに何で皆、かた〜く考えているのよ。方法は至ってシンプルでしょ?」

 

 頭で考えるのが苦手なジェシカ陛下は笑みを浮かべる。オイラ達にとっちゃ、悪どい事を考えた表情だから妙に恐怖を覚える。

 

「陛下、何かお考えが?」

 

「方法なんてたった一つじゃない」

 

 ジェシカ陛下の目線は一隻の船──商船団の船に向けられた。

 

 へ、陛下、まさか…!?

 

 

 

 

 

 

「貴方が船長さんね?」

 

「あんたの(ツラ)は知っているぜ、皇帝陛下殿」

 

 予想通り、商船団の船に乗り込んでその船長と面を向かって相対しちまった皇帝陛下。

 

 オイラ達はジェシカ陛下の大胆不敵と言うか、無策にも程がある潜入に揃って頭を押さえた(メアリーに関しちゃ遠い目をしてる)。

 

 船長は堂々と入ってきたオイラ達……と言うか陛下に「一体何の用で来やがった」と問う、その問いに対してジェシカ陛下は笑みを浮かべて答えた。

 

「悪いんだけど、貴方達武装商船団には帝国の勢力下に下って欲しいのよ」

 

「……あ゛ァ?!」

 

 向こうは気に障った様子で眉間に皺を寄せて青筋が浮かび上がり、「良い顔しているからって舐めてんのか…!?巫山戯た女だぜ!」と立ち上がって近くにある樽を蹴飛ばす。

 

「やれるもんならやってみやがれ!──テメェら、遊んでやれ!」

 

 剣を手にして船内の仲間達に呼び掛け、船長の声を聞いて商船団員が四人駆けつけ、陣形を組む。

 

「商船団の古くから伝わる陣形──ラピッドストリーム!俺らの陣形、そう易々と破れると思うなよ!」

 

「へへへ……皇帝は上玉だと聞いていたが、実物は弓使いと合わせてかなりいい女だな!」

 

「皇帝だろうと関係ねえ!女以外はご退場願うぜ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべ、商船団員は陛下やメアリー……後ついでに姐さんに邪な目線を向ける。

 

「野郎共!この女皇帝を痛い目に遭わせてやれェェェェェ!!」

 

 

 

 

 

 

「……で?何か言う事はある?」

 

「ヒ、ヒィ……ハヒィ、ずびばぜんでじだ!」

 

「調子に乗っでばじだ!はい!」

 

 痛い目に遭ったのは商船団の方だった。

 

 原形が留めなくなるぐらいに顔が腫れ上がるまでボロボロ、実力差が分からないこのアホ共は見事に無力化……と言うか陛下やオイラ達によって完膚なきまでにボコボコにされた。

 

「ちょ、この女皇帝強過ぎだろ!」

 

「頭悪いくせになんて強さだよ!」

 

「化け物か!?」

 

 此奴等陛下に向かって好き放題言っているなぁ、ボロボロなのに口が回りやがるぜ。

 

 海賊を相手にする武装商船団だが、七英雄を相手にする陛下やオイラ達と歴然に差がある……なんか逆に居た堪れなくなってきた、って言うか良心が痛む。

 

「じゃあこの船、使わせてもらうわよ」

 

 ジェシカ陛下はその場から去る、暫くすると船内が揺れ始めた。舵を取り、ヌオノに向けて進路を決めたって事か。

 

「はああぁぁ……これじゃ私達、海賊そのものだよぉ」

 

 溜息を吐いて腹部を摩り、哀愁漂うメアリー。無言でオイラ達は彼女の肩に手を置く。

 

 なんて言うか、大変だよな、陛下のお守り。遠い目をしながら武装商船団の船はヌオノへ進路を取るのだった。

 

 Side out

 


 

 Side ???

 

「──頭領(カシラ)ァ!エンリケの頭領(カシラ)ァ!」

 

 この俺──武装商船団の提督を務めるエンリケはヌオノの隠れ家で海図を眺めていた。

 

 七英雄の出現と共にこのロンギット海は妙に嵐が続いていて、俺は胸騒ぎを感じざるを得なかった。

 

 安全な海路を確保しておこうと見ていたら、子分の一人が駆け込んできた。

 

「何だ!騒々しいぞ、一体何事だ!?」

 

「た、大変です!今さっき、モーベルムから船が水路を通って停泊してきたんス!」

 

「別に騒ぐ事でもねェだろうが!何だってんだ!?」

 

 何も宴でも開こうと言うわけでもねェ、だが青褪める其奴の言葉にその理由が判明した。

 

「停泊した船から──帝国(アバロン)の皇帝が下船してきたんです!」

 

「んな……っ!?」

 

 皇帝、だと…?

 

 今じゃその二つ名を知らない奴は誰もいねえ、皇帝と言ったら七英雄と戦っている奴じゃねェか!

 

 それに今の皇帝は頭のネジが外れた様な女で、やる事が何もかも滅茶苦茶だって噂を聞く。

 

 予想外の名前が出て俺は「見間違いじゃないのか…?」と返すが、其奴はそれを否定して俺にヌオノの脱出を慌てて促してくる。

 

 その直後、扉を蹴破る音が響いた。扉が見事に破砕され、その先から綺麗ないい女が仲間を率いて入ってきた。

 

 その扉、何十万クラウンすると思ってんだよ。ってか、足で蹴破るなんて訪問の仕方聞いた事ねェぞ。

 

「失礼するわね」

 

「マジで失礼する気があんなら、扉壊さんで欲しいんですがねェ……」

 

「貴方が商船団のリーダー?」

 

「ああ、提督のエンリケってもんです」

 

 ってか、ちったぁ扉の事に触れろよ。

 

「私が臣下を連れてこんな所まで来た理由、分からないわけじゃないわよね?」

 

「船の通行料の徴収の取り消し、だろう?あんたが俺らの所に来る理由つったらそれしか思い浮かばんさ」

 

 この女……平和ボケしている割には此処まで足を運ぶ度胸がありやがる、現に船の連中を叩きのめしてるからな。

 

「んで、皇帝陛下様は何をお求めで?」

 

「武装商船団、そしてこの北ロンギットを帝国の勢力下に据える事、それだけよ」

 

 やっぱりそう来たか、なら新たに俺らは"帝国武装商船団"としてスタートを切るってわけだな。

 

 その様に伝えると皇帝は「それから一つ、言っておくわ」と忠告してきた。

 

「確かにこれは形式上は帝国の支配下だけど、私個人は支配だと思っていない。言わばこれは協定よ、七英雄打倒の為のね」

 

 側に控えていた術士の男が勅命書を書き、皇帝がそれを受け取って俺に手渡す。

 

 さりげなく流れで俺に手渡すとか、やっぱりいい女だな……今の皇帝は。

 

 これで俺達は帝国の勢力下、帝国と協定を結んだわけだ。

 

 後日俺は客将として帝国に招かれ、改めて皇帝陛下に──ジェシカ様に忠誠を誓った。

 

 ロンギット以外で美味い酒を堪能したり、手強いモンスターを地下水路で討伐したりした。

 

 そして俺達武装商船団は未来永劫、帝国の為に手を貸していくのだった……でけえ国と未来を作る為にな。

 

 Side out

 


 

 Side ジェシカ

 

 北ロンギットでの武装商船団の問題を解決して、エンリケ達は今後帝国の力になると約束してくれた。

 

 一見強面なエンリケだけど、後に客将として招いてみたらやたらと気の良い男だったわ。

 

 オライオンやシーデー、フリッツさんやバイソンは感化されてあっと言う間に仲良くなっていたし。

 

 オライオンに勝るとも劣らない戦斧の扱い、海の男らしい豪気な気骨を合わせ持っていて何とも頼もしい事を理解出来た。

 

 まあ兵士達は「あの様な無粋な輩を招くとは……」って嫌そうな表情を終始していたけど、これから交流を深めていけば理解出来るでしょ。

 

 帝国にアバロンの木となる種を植え──アバロンの園と命名したその場所に植えた種は小さく発芽し、日が経てばきっと素晴らしい木に成長していく。

 

 確信となる根拠はないけど、私個人としてはそう強く願っているわ。

 

 私は次に領地拡大とするべく、カンバーランド王国に向かう事にした。

 

 前々から彼処の国王から招待されていたし、そろそろ頃合いだと思っていたしね。

 

 その随行にメアリー、ジョン、ビーバー、そしてフリッツさんを選定した。

 

 まだ見ぬ王国、その首都でもある港町ダグラス行きの船がソーモンから出ていたわね。

 

 それにしてもどうして急に私を招待するのかしら、文には相談したい事があると書いてあったけど。

 

 まあ兎に角一路カンバーランド、どんな場所なのか楽しみね。

 

 

 




次回からカンバーランド編を投稿します。カンバーランド編は三話投稿する予定となっています。
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