七月下旬、夏休みに入ったIS学園スクランブルシティから物語を始めよう。
「暇だな」
「だな」
IS学園学生寮、織斑一夏とリワインドの二人は共にベッドの上に寝転がっていた。
臨海学校の戦いの後、一夏はリワインドとの二人部屋となり、騒動はあったものの平和に時間は過ぎていた。
「何て言うか、何も無いな・・・・・・」
「サイバトロン軍は夏休みなんて無いって言ってたけど、それでもいつも以上に仕事無いみたいだしなあ・・・・・・」
「おーい!二人共ー!」
「うん?」
「誰だ?」
ベッドの上で暇を持て余していた二人の耳に、ドア越しに声が届いた。
「やーやー!元気?」
「ラットル!」
一夏達の部屋に訪れたのは、ビースト戦士にしてサイバトロン軍の開発員となった友人。ラットルだった。
「どうしたんだよ、急に」
「いやー、夏休みに入ってからこっちも暇でさ!開発ったってすること無いし、ホイルジャックからもどっか暇潰しに行って良いってさ!」
「それで来たのは良いが、ここにもなんかあるって訳じゃないぞ?」
「あーそれなんだけどさ、これ!」
「これ、テレビゲーム!」
「持ってきたんだ!サイバトロン軍に入ってからお給料も貰えるようになってね~・・・・・・買っちゃった!」
「おおおー!」
「さ!やろうやろう!」
メトロフレックス司令室。総司令官ブレードコンボイは副官であるマイスター、部下であるオクトーン、ワーパス、バルクヘッドと共にメインモニターを前に会議を開いていた。
「ラットルからもたらされた、バイオメガトロン一派に潜入しているというラナマック。そしてオンスロートから渡されたデータ。照らし合わせてみましたが、確かに以前より行動が激化しています」
「俯瞰で見ると、バイオメガトロンの行動指針の変化が見てとれる。演説や交渉をした上での戦闘や、評判の悪い施設への襲撃。義賊のような行動から段々と理由の無い襲撃が増えている」
「数えるほどだけんど、こりゃあ確かに何かあったことがわかるな」
「サンドストームから聞いたが、サウンドウェーブは組織内部の変化をきっかけに抜けたらしい。それに、その変化自体にバイオメガトロンは気付いていない、そう言ってたってな」
「なるほど。ラナマックは暗躍するタイプか・・・・・・」
「ええ。徐々に侵食していくタイプでしょう。バイオメガトロンも強大ですが、ラナマックが部下を大量に引き連れて離反など・・・・・・なんだ!?」
会議の最中、突如警報が鳴り響く。
「メインモニター切り替えろ!」
「これは・・・・・・上空に落下物確認!落下予想地点は・・・・・・メトロフレックス!」
「全サイバトロンに通信を!」
「繋ぎました!」
「こちら総司令官ブレードコンボイ!飛行できる者はメトロフレックス上空の落下物に対応せよ!繰り返す!飛行できる者はメトロフレックス上空の落下物に対応せよ!」
「解析ができた!あれは、救命ポッドだ!」
「わかった!私もスーパーモードで向かい、現場で指揮を執る!行くぞ!オクトーン!」
「了解!」
司令室を飛び出し、飛行できるサイバトロン戦士達は続々と空へ集う。
「ブレードコンボイ!スーパーモード!」
サイバトロン達は救命ポッドの下に集い、ブレードコンボイが指示を出す。
「救命ポッドは頑丈に作られているが力加減を間違えては破壊してしまう!サンドストーム、上空よりワイヤーで救命ポッドの速度を落とせるか!?」
「やってみます!」
「スカイファイアー!オクトーン!君達二人はサンドストームの補助を!」
「「了解!」」
「そのようなことをせずとも」
「我等に任せるぅがいい!」
「なに!?」
突如メトロフレックス横の神殿から飛び出してきたライガージャックとフレイムスカージが落下する救命ポッドを挟むようにし、緑色の光で包み込み停止させた。
「な、なんと・・・・・・」
「防御フィィルドの生成など、久しく行ったわ・・・・・・」
「腕は落ちてなかったな」
「流石・・・・・・アニマトロスの神・・・・・・」
「お、俺達が来た意味は・・・・・・?」
「あー・・・・・・解散!」
メトロフレックス内の医務室に運ばれた救命ポッドは、ラチェットの手によって開かれた。
「おお!」
「所属はわかりません。しかし、トランスフォーマーであることは確かです」
ブレードコンボイ、マイスター、バルクヘッドの三人とラチェットは、中にいたトランスフォーマーを救護台に移し、ラチェットが意識回復の為の処置を行う。
「っ!」
「意識が!」
目を覚ましたトランスフォーマーは、上体を起こし周囲をキョロキョロと見回す。
「こ、ここは、一体?貴方達は?」
「落ち着いて。私は医者のラチェット。私のことがわかるかい?ラチェットだ。繰り返して」
「ラ、ラチェット・・・・・・」
「感覚回路等に問題は無さそうだ。ここはメトロフレックス。サイバトロン軍の地球基地だ」
「サイバトロン・・・・・・セイバートロン星の、サイバトロン軍か・・・・・・」
「そうさ。君は、自分のことが分かるかい?」
「自分の、こと?」
「自分の名前とかさ」
「名前・・・・・・俺の、名前は・・・・・・パンチ、パンチだ」
「そうか、ではパンチ君。君は、どうして救命ポッドに乗っていたのか、覚えているかい?」
「救命ポッド?・・・・・・すまない。名前以外、さっぱりだ」
「そうか・・・・・・」
「ラチェット、もしかして彼は・・・・・・」
「ええ。おそらく記憶回路に異常があるのでしょう。生まれたばかりだとも考えられますが、関節系の使用感や名前といった自己認識回路が大方設定済みなのを鑑みると、その可能性はゼロに等しい」
「うむ・・・・・・パンチ。君は、これからどうしたい?」
「どうしたいって・・・・・・?」
「君はおそらくサイバトロン軍に所属しているわけでもないだろう。このまま君の記憶回路が直るまでここにいても良いが、医務室だけというのは窮屈だろう?」
「そう、かもしれない・・・・・・だが、俺は、自分がわからない。一人になってしまえば、まるで、良くない何かに支配されるような気が、心の中にある・・・・・・」
「なるほど。記憶回路の異常は厄介なタイプのやつですね。意識と結び付いてこんがらがっている。完全に直すには時間がかかりそうだ」
「そうか・・・・・・」
「・・・・・・まるで、自分が二人いるような感覚があるんだ。表には出てこないが、常に頭の中に塊がある・・・・・・ただ、生きるならどうにか・・・・・・」
「・・・・・・わかった。君を縛るつもりはない。だが、他ならぬ君が不安を覚えているようなら、一つ案がある」
「案?」
「ああ。マイスター、彼を一夏君達に紹介してきてくれないか」
「スカウトチームにですか?」
「押し付けるように聞こえるかもしれないが、多様な関わりというのも精神には大切だろう」
「・・・・・・わかりました。ついてきてくれ。パンチ」
「あ、ああ。わかった」
少し考えてからマイスターはパンチを連れて司令室を出た。
「司令官、ちょっと」
「なんだ?バルクヘッド?」
「救命ポッドに、見てくれ」
救命ポッドを裏返し、バルクヘッドはある場所を指差した。
「このマークは・・・・・・!」
そこには、緑色の塗料で顔のマークが書かれていた。
「ポッドの裏に、それもこの乱雑に押し着けられた感じ・・・・・・司令官、こいつはやっぱり」
「・・・・・・トキシトロン」
「ですよね・・・・・・」
「なぜ救命ポッドに入っていたのかはわからない。だが、なぜ落ちてきたのかはわかった。トキシトロンめ・・・・・・この星にまで来るか・・・・・・!」
「司令官、そのトキシトロンというのは?」
「ああ、奴のことは戦闘職にしか知らせていなかったな。ラチェット。簡潔に言おう」
一呼吸置き、ブレードコンボイは酷く冷えた目をして言い放った。
「奴は、悪魔だ」
「いやー集まってもらって悪いね」
IS 学園学生寮前。一夏達スカウトチームと箒が集められていた。
「集まってくれてありがとう。鈴音君とセシリア君は帰省でいないんだったね」
「ここに来てほしいって言うのは良いんですけど、スカウトチームが集まるのですよね?箒って加入してましたっけ?」
「彼女も専用機が出来たからね。加入したわけだ」
「それは良いが、そちらは?」
ラウラが意識を向けたのは、青い体を持つトランスフォーマー。
「彼はパンチ。訳あってサイバトロンで治療を受けている。これが記憶回路に関わる厄介な故障でね。君達と関わってみよう!ということさ」
「はあ・・・・・・」
「そう、ですか」
いきなりのことで状況が呑み込めていないのか、一夏達は生返事を返した。
「まあ、いきなり言われてもあれだろうね。要は一緒に遊んだりしてくれれば良いのさ。ゲームとかスポーツとかね」
「あー、ちょっと良いか?」
「なんだい?ラウラ君?」
「すまないが、私は少し用事があってな。ドイツの隊員達との連絡とか報告とかがあってな・・・・・・」
「そうか・・・・・・では、一夏君、シャルロット君、箒君、リワインド、君達に頼めるかな?」
「わかりました!うまくできるかは、わかりませんけど」
「なに、そう気負わないでくれ。それでは、私はこれで。パンチ、君に良いことがあることを祈っているよ」
戸惑い気味のパンチの肩に手を置き、マイスターはメトロフレックスへ戻った。
「え、ええと・・・・・・よろしく」
「あ、ああ!よろしくな!」
ぎこちなく手を差し出したパンチ、一夏は握手で返した。大きさの違いから指を触る程度だったが、それでもパンチの緊張を解すには効果があった。
「それで・・・・・・どう、なにをするんだ?」
「そうだな・・・・・・アリーナを借りてサッカーでもするか!」
「サッ、カー?」
「二チームに別れてボールを蹴ってゴールに入れるスポーツだよ。やってみたらわかるさ!」
一夏の提案により、五人は空いているアリーナへ向かった。
「ほら、これボール!」
「なんか・・・・・・でかくない?」
一夏が持ってきたサッカーボールは通常の物より大きく、バランスボール程だった。
「トランスフォーマー用に新しく作ってもらったのさ。ワーパスやスキッズがよくスポーツをやってるからな」
「でも、リワインドから見ても大きくない?」
「まあここにマイクロンは俺しかいないし、ビースト戦士は警備で真面目なスカルと機械系のラットルや普段ピラミッドにいるアニマトロスの連中くらいだし、それに普通の大きさでも問題ないしな。そこは人と一緒」
「身長もちょっとしか変わらないしな。あ、そういえばラットル置いてきちゃったけど・・・・・・」
「ああ、あいつはそういうの気にしないタイプだよ。今も腕を磨いてるだろうぜ」
「それもそうだな。・・・・・・よしっ!この人数だし、とりあえずパス回しでもするか!」
「パス?」
「ボールを蹴って相手に渡し合うんだ。一夏、手本を」
「ああ」
箒の言葉に返し、一夏はボールを箒に向かって蹴った。
「おっ、とと・・・・・・大きいが、勝手は同じだな。それじゃあ、パンチ。君に」
「お、おお・・・・・・」
転がったボールを両手で包んだ。
「あー違う違う。サッカーは足を使うんだ」
「足?」
「そう。パンチくらいの大きさなら、こう、上から軽く踏むくらいで。蹴ってみて。返すから」
「あ、ああ」
シャルロットに促され、パンチは手の中にあったボールを足の前に置き、軽く蹴り上げた。
「うわっ!とと・・・・・・」
力加減ができず、高く上がったボールをシャルロットは一度地面に落とし、胸に当てて足に戻した。
「それじゃ、いくよ!」
「こう、か・・・・・・?」
転がってきたボールをしっかりと受け止める。
「そう!そんな感じ!」
「じゃあ、次は俺に!」
「あ、ああ・・・・・・!」
その後も一夏達はパンチと共に夜までアリーナで過ごした。出来ることは少なかったが、それでも出来ることを思い切り、いつしかパンチに遠慮や緊張は無くなっていた。
「じゃあ、僕達はここで」
「一夏、二人とも、また明日」
学生寮前でシャルロットと箒と別れ、一夏とリワインドはパンチに向き直る。
「俺達もここで、になるか?」
「折角だしさ、ゲームでもしていかないか?」
「ゲーム?」
一夏の提案に、リワインドとパンチは首を傾げた。
「ゲームたって、パンチが使えるくらいのコントローラーなんて無いだろ?」
「察するに、そのゲーム?というのはこの寮内にあるのだろう?俺では入れない」
「あ・・・・・・」
そこまで考えていなかったのか、一夏は口を半開きにして固まってしまった。
「おーい!一夏ー!リワインドー!」
「この声は」
メトロフレックスから大手を振ってラットルが走ってきた。
「いやーこんなところにいたんだね!見せたいものがあってさ!・・・・・・て、この、青いトランスフォーマーは?」
「パンチって言うんだ。今日知り合った、友達だよ」
「一、夏・・・・・・」
「そっか!オイラ、ラットルってんだ。よろしくね!」
「あ、ああ。よろしく・・・・・・!」
「それで、見せたいものって?」
「ああそうだった。一夏達が出ていった後にさ、ちょっとホイルジャックの研究室に行ったんだ。そしたらさ・・・・・・まあ来てみてよ!」
「お、俺は」
「パンチも良いよ!さ、早く早く!」
ラットルに連れられ、案内されたホイルジャックの研究室には巨大なゲームのコントローラーがあった。
「デカッ!?」
「おおー連れてきたかねラットル君!」
「ホイルジャック、これって・・・・・・!」
「そうとも!我々トランスフォーマーでも使うことの出来るコントローラーさ!」
「へへへ・・・・・・オイラがゲームを買ったって言ったらな~んかハリキリだして、気がついたらこんなの作っちゃって、ホント天才だよホイルジャック~!」
「ハッハッハ!もっと言いたまえラットル君!さ、私は司令官に提出する書類を作成するから、後は若い衆で好きにしたまえ!ハッハッハ!」
そう言い残しホイルジャックは研究室を後にした。
「じゃ、やろっか!」
「おう!」
「四人いるし、レースゲームが良いんじゃないか?」
「あ、あ・・・・・・」
戸惑うパンチをよそに、一夏達はゲームの準備を進める。
「よし!できた~・・・・・・ほら、これ!」
「え・・・・・・あ、ああ」
指差されたコントローラーを持ち、パンチは腰を下ろした。
「よぅしこれで四人プレイ!オイラ負けないからね!」
「朝でわかったが、俺はレースゲームが得意らしいからな!全部一位だ!」
「じゃ、俺とリワインドの一位争いになるかな?パンチ、操作方法は最初に画面に出るけど、わからなかったら言ってくれ!」
「ああ、ありがとう」
時刻は夜の7時を越え、IS学園の消灯時間が迫るまで一夏達はゲームに興じた。
パンチも遊んでいる中で上達し、ゲームはより白熱していった。
「こんなところにいたんだな、パンチ」
「?」
「あれ?ラチェットさん?」
盛り上がるホイルジャックの研究室に顔を出したのは、医者であるラチェット。
「もう夕食の時間のはずだろう、織斑一夏君。それに、君達もだ。リワインドにラットル」
「あらもーそんな時間」
「時間を忘れてたな・・・・・・」
「終わり、なのか・・・・・・?」
「今日のところはね。ま、明日があるさ。それで、私は君に用があるんだよ、パンチ」
「俺に?」
「ああ。君も知ってのことだと思うが、君は今日ここに落ちてきた。それで機能の所々に不調があるだろう?それにまだ君の個室も出来ていないから今日は病室で寝てもらうことになるか、構わないかい?」
「病室、まあ構わないが・・・・・・」
「それは良かった。さ、もう寮に戻りたまえ。片付けはホイルジャックに任せておけば良いだろう。ラットル、私の名前を出してくれて構わないからな。それじゃあパンチ、病室の場所を案内しよう」
ラチェットの登場によってお開きとなり、次第に辺りが消えスクランブルシティを静寂が包んだ。
パンチは案内された病室のベッドに横になり、一日を思い返す。
「一夏や箒、シャルロット、リワインド、ラットル・・・・・・みんな、俺みたいなのに優しかった。俺は、ここに来て幸せだ。このまま俺はサイバトロンに入ろうかな。その方が良いかな」
(ああ、サイバトロンには入れない)
「!?」
突如頭の中に響いた、自分以外の声。
パンチは思わず飛び起きた。
「だ、誰だ!?」
(お前はサイバトロンには入れない。お前はデストロンなんだからな)
「違う!俺はまだサイバトロンでもデストロンでもない!これからサイバトロンになるんだ!」
(バカを言う。お前の役目は終わったと言うのに)
「俺の役目?そんなもの無い!これからできるんだ!」
(いいや、おしまいだ。あばよ。俺に戻らせてもらうぜ)
「な、なん」
「なに?パンチが消えた?」
時刻は朝の6時半。メトロフレックス司令室でブレードコンボイはラチェットから報告を受けていた。
「はい。朝病室に訪れたら、もぬけの殻で。今メトロフレックス中の防犯カメラを確認してもらっているんですが・・・・・・」
「パンチの映った映像、集められました」
司令室を訪れたバリケードは手にしているデータをメインモニターに出力した。
「朝の3時頃に部屋を出ていまして、その後は・・・・・・どこを探してもないんです。外に出た映像が。スカルと協力してメトロフレックスの外壁を確認しましたが、壊された形跡も無いときた。おそらくまだメトロフレックスの中にいるとは思うんですが・・・・・・」
「うむ・・・・・・ん?」
「どうしました?司令官?」
「バリケード、すまないが映像を巻き戻して、拡大できないか?」
「はい、できますが」
「では、病室を出た辺り・・・・・・そう、そこだ」
「ここですね」
「間違いない。パンチの姿が変わっている」
「パンチの胴体は黄色でした。ですが、この映像は・・・・・・」
「青くなっている。何かあったに違いない。通信を繋いでくれ」
「はい」
「全サイバトロン戦士に通達!パンチを捜索せよ!繰り返す!パンチを捜索せよ!」
「司令官、我々も」
「ああ。まずは司令室をひっくり返してから・・・・・・」
「ブレードコンボイさん!」
「なんだ!?・・・・・・一夏君?」
パンチ捜索に乗り出そうとしていた司令室に乗り込んできたのは、一夏とリワインド。
「なぜここに?」
「サイバトロン全員に通信をしたでしょう?だから俺達のところにも通信が来たんです」
「そのうち箒やシャルロット達も来るかと」
「そうか・・・・・・まあいい。人手は多い方がいいからな」
「では、私は他を当たります」
「ああ、分かったマイスター」
マイスターが司令室を後にしてすぐ、司令室にアラームが響く。
「何事だ!?」
「報告です!メトロフレックス前方で・・・・・・アニマトロスの彼等が、誰かを囲んで・・・・・・これは、パンチ!パンチです!防犯カメラに映っていた青いパンチです!」
「なに!?」
「行かないと!」
「よし!行くぞ!」
メトロフレックス前方、正面入口の前でサイドス、ファングウルフ、ダイノシャウト、テラシェーバーの四人が青いパンチを取り囲んでいた。
「怪しい奴め、名を名乗れ!」
「メトロフレックスから出てきたということはサイバトロン、だが、お前のような奴は知らん!」
「何者か、教えてもらおうか」
「さあ、白状しろ!」
「チィ・・・・・・」
「君達!」
メトロフレックスからファングウルフ達と合流したブレードコンボイと一夏達は、目の前の青いパンチに注目する。
「パンチ、なのか?」
「その声は・・・・・・ああ、記憶にあるぞ、しっかり記憶回路にある。そうだ、織斑一夏といったな」
「俺のこと覚えて」
「待て、なんか口調が変だぞ?」
「そっちのマイクロン、リワインドだったか?そいつはずいぶん感が良い。技術職か?」
「お前・・・・・・何者だ!?」
「あー・・・・・・ま、隠す必要も無いわな。俺はカウンターパンチ!またの名を、ロックダウンが誇る諜報員!ダブルスパイだ!」
「ロックダウンだと!?」
青いパンチ、ダブルスパイの言葉に真っ先に反応したのはブレードコンボイだった。ロックダウンとはかつてラットルが所属していたデストロンの一派であり、危険性の高い組織であるからだ。
「そう!ロックダウン様の命でアースに来たのさ!本当なら海に落ちて、居心地の良いデストロンに入り込むつもりだったが、よく分からん緑色に襲われてなぁ、なんと奇跡的にサイバトロン基地と来た!ま、それなりに引っ掻き回すつもりだったが、流石に隙だけはない。疑似人格と仲良くするなんて面白ぇ物も見れたし、満足したんで出てきたわけだ!」
「・・・・・・は?」
一瞬、ダブルスパイの言葉が衝撃となって走った。
「どういう、ことだ・・・・・・疑似人格って!?」
「あん?あー、それはなあ・・・・・・俺は今でこそダブルスパイだが、昔はカウンターパンチとしか名乗ってなかった。ロックダウン様に下った後、諜報員として活動するために色々やっててな。その中の一つが、疑似人格プログラム、"パンチ"ってわけさ。カウンターパンチからカウンターを取っただけのネーミングだが、これが使い勝手が良くてなあ!使い終わったらデータを消して再利用できるし、そうすりゃあ使うたんびに新しいパンチとして利用できる!俺も体を動かさずに組織に入り込める!いや~、俺も良いものを作ったもんだ!ハッハッハッハッハ!」
「な、なん、そんな・・・・・・」
絶望した顔の一夏を見て、ダブルスパイはさらに笑い声を上げる。
「ハッハッハ!その顔が生き甲斐だ・・・・・・もうこんなところに用はねえ。あばよ!トランスフォーム!」
エイリアンビークルに変形したダブルスパイは東、海の方へ走り出した。
「逃がすものか、サイバトロン戦士!追え!トランスフォーム!」
しかし、そこで見逃すサイバトロンではない。ビークルモードに変形し、この場にいた全員がダブルスパイを追う。
「ええいちょこまかと・・・・・・これでも、くらうど!」
「うわあっ!」
ダブルスパイを追っていたワーパスは、しびれを切らし砲弾を放った。放たれた砲弾はダブルスパイの左後輪に命中し、爆発の衝撃でダブルスパイはロボットモードに変形してしまった。
「く、うぅ・・・・・・だが、もう海はすぐそこ・・・・・・こんなところで」
「待て!ダブルスパイ!大人しくしてもらおうか!」
「チィッ!」
ロボットモードに変形したブレードコンボイ達と一夏は、立ち上がろうとするダブルスパイを高速しようと近づく。
「こ、こんなところで止まるダブルスパイ様じゃねえぜ。ヘッヘッヘ・・・・・・持ってて良かった隠し武器!」
「うわっ!」
高らかに叫び右腕を上げたダブルスパイだったが、なにも起こらない。
「っ!っ!っ!・・・・・・なぜだ、なぜ撃てない!?」
「撃っちゃ、いけない」
「誰だ!?」
「俺の、友達、仲間・・・・・・守る・・・・・・」
「ぐうぅ・・・・・・貴様、なぜだ!?ちゃんと記憶はデリート・・・・・・いや、意識はまだだったか!」
突如として苦しむように体を振るうダブルスパイ。その後頭部には、一夏達と絆を深めたパンチの顔があった。
「俺は、パンチ・・・・・・お前の疑似人格でも、確かに、パンチだ!」
「パンチ、その声、パンチなんだな!」
「一夏、ごめんな。ここで、お別れ・・・・・・!」
「は?・・・・・・な、なに言って」
「うおおおおおおっ!」
「うおっ!なにをする!?ぐわああああっ!?」
ダブルスパイの右腕が自身の胸に向き、ゼロ距離で胸を撃ち抜いた。
「ぐぅうぅ・・・・・・貴様ァ・・・・・・よくも!」
「俺はお前。おまえの体、動かせる!うおおおおおっ!」
「があっ!よせ!やめろ!」
ダブルスパイは両腕で穴の空いた胸から装甲を剥がし、内部回路に傷をつけていく。
「さよなら、さよなら一夏、さよならリワインド、さよならサイバトロン。さよなら、さよなら、さよなら」
「ま、待てよ・・・・・・待てよパンチ!」
「いかん!行っちゃあ!」
「離してくれ!」
海の方へ歩を進めるパンチを追いかけようとする一夏をホイルジャックは静止する。
「ありがとう・・・・・・ありがとう、今まで・・・・・・さよ、なら!」
「や、やめろ!こんな、こんな体で海なんか!死んじまう!」
「パンチイイイイイイイイイイイッ!」
「やめろおおおおおおおおおおおああああああっ!」
一夏の叫びも虚しく、パンチは海に身を投げた。鋭い雷鳴のやうな音が海から響き、僅かな黒煙が上がるもすぐに消えた。
「なんで、なんで・・・・・・」
「一夏君、君が追いかけていたら、感電して死んでしまっていた。許してくれ」
「う、うぅ・・・・・・」
「・・・・・・あれは、もう助かりませんね。海水には塩が含まれている。ただの水没ならまだしも、コーティング無しに海水は、流石に・・・・・・」
「・・・・・・」
その後の事は衝撃と半比例するように早かった。
ダブルスパイの遺体が引き上げられ、海への影響が確認され、いつしか一夏とリワインド、ブレードコンボイだけがその場に残った。
「・・・・・・一夏君」
「・・・・・・なんですか、ブレードコンボイさん」
「君を、君の心のためになる言葉を、私は知らない。・・・・・・ドライブに行こう。トランスフォーム」
ビークルモードのトラックに変形し、ドアを空ける。
「・・・・・・どういう、事ですか」
「深い意味は、残念ながら持ち合わせていなくてね。リワインドも一緒に。夏休みなんだ。外出に関することは私がやっておくとも」
「・・・・・・はい。わかりました」
流れていた涙を拭い、一夏はブレードコンボイに乗り込み、リワインドも続いた。
「さ、出発だ」
一夏とリワインドを乗せたブレードコンボイは連絡橋を渡り、海沿いの道を走り続ける。
「・・・・・・ブレードコンボイさん、俺、よくわからないんです」
走り続け、一夏が口を開いた。
「わからない、とは?」
「こんなことになるなら、初めから、関わらないほうが良かったのかなって、そんなこと、ないのかなって・・・・・・」
「・・・・・・難しいことだ。だが、私は決して、信じることをやめてはいけないと、そう思いたいよ」
「信じることを?」
「ああ。質問で返すようになってしまうが、君のとなりにいる彼を、君は信じられるだろう?」
「ええ!もちろんですよ!だって、リワインドは俺の親友で・・・・・・」
「ああ。だが、初めからそうだと言うわけではなかったはず」
「!」
「俺達の出会いも突然だったよな。俺が一夏の部屋に突入してさ」
「ああ・・・・・・ああ、そうだな」
「誰だって、何だって、可能性を秘めているんだ。だから、諦めてはいけない。私は、そう思いたいよ」
「・・・・・・そう、ですね。俺も、それが良いです」
「君達と彼、パンチとの間には、確かに友情があった。それは、決して嘘ではない。安っぽい言葉だが、前を向いて歩んでこそ、友のためになるだろう。私も、ターンが去った後、しばらくは気が沈んだものだ」
「はは・・・・・・ははは、そうですね。うん!俺、頑張ります。頑張りますよ!ブレードコンボイさん、いや、司令官!俺、明日から、ちゃんと・・・・・・!」
ポロポロと涙を落としながら、一夏は力強く答えた。
「ああ。・・・・・・バーウィップグラーナウィーピニボン」
「!・・・・・・その言葉って」
「未来への希望、明日への覚悟。セイバートロンの古い言葉だよ。意味は・・・・・・明るいことさ。色々あるからね。励ましや希望の言葉だよ」
「・・・・・・リワインド」
「なんだ?一夏?」
「これからも、よろしくな!」
「ああ!もちろんだ!」
夏の太陽が照りつける中、ブレードコンボイは走り続けていた。