彼の天職は“小説家”つまり、ただの物書きであった。
今日を生きるために、そしてクソ女に復讐するため、おじさんは今日も文字を書くのであった。
必死に生き足掻き、気がつけば世界最強……というありがちストーリーになったらいいなァ。テンプレを多分に含みます。
『面白くない。この小説』
PC画面の小説チャット板に表示される文字。
「うるせええええっ」
おじさんは机に台パンをかまします。
何故なら今回議論のネタにされているのは、おじさんの小説だからです。
「なにが悪いんだっと、送信っ」
『まず専門用語多すぎだし』
「いいだろ、ギャラクティック船団とか、カッコいいだろォ」
『全体的に話にまとまりがない』
「それはぁ、俺も思ってたよぉっ」
おじさんは心からの台パンを連打。
画面はガタガタ揺れ、机上の空き瓶は床に落ちます。
ですが10回を超えたあたりから、齢故か息が苦しくなってきます。
「はぁはぁ、水分を補給せねば」
プシュ。プルタップが開けられるはカフェイン3倍飲料。
よく見れば部屋の端には沢山の空き缶が置かれています。
「あああ、効くううううう」
染み渡る、カフェイン3倍飲料。
血流にのって運ばれていくそれらは、血管をこれでもかと広げ、脳をすっきりさせます。
「やっぱりコレなんだよな「プチっ」────えっ」
おじさんの視界は一瞬で真っ暗になります。
最後に感じたのは、いつもの床の感触でした。
◇◆◇
おじさん:「ここは? 白い空間?」
????:「あのー、語っている最中に勝手に死なないでいただけますか」
おじさん:「すみません、どちら様ですか?」
????:「かみさまです」
おじさん:「神様、ならば、ここはどこですか?」
かみさま:「地上と神域の間です」
おじさん:「美少女神様、謎の空間、俺の死────」
おじさん:「つまり、俺は選ばれたとっ」
かみさま:「いえ勝手に死んだだけです」
おじさん:「誤死からの異世界転生パターンですか」
かみさま:「このまま地獄行きのパターンです」
おじさん:「……話が違うじゃないですかっ」
かみさま:「別に何も話してもないんですが」
かみさま:「そんな哀れみを求める眼をしてもですねぇ」
おじさん:「神様サイコー、世界一の美少女、可愛さだけで世界を救えちゃうっ」
かみさま:「では、もう一声、お願いします」
おじさん:「世界のアイドル、毎日崇めちゃう、なんなら末代まで信仰しちゃうっ」
かみさま:「まあ、まあ、十分でしょう」
おじさん:「もしかして、もしかして────」
おじさん:「────異世界行けちゃうんですか」
かみさま:「なんと、異世界行けちゃいます」
おじさん:「設定は」
かみさま:「なろうマシマシ、雰囲気中世、チート有り」
おじさん:「グッドっ!!」
おじさん:「では行ってきますっ」
かみさま:「気をつけて―」
かみさま:「あっ、他転生者有り、ヘンテコ世界って言うのを忘れてました」
かみさま:「ま、まあ、いいでしょう。頑張ってください、私のマイフェイバレットさん」
◇◆◇
丘の上、草木が生い茂る木の下で、少女は叫びます。
「こんな急に書けませんわッ」
少女はかなりキレています。
異世界ですが、人間がキレると叫ぶのは同じようです。
「職業:小説家になったのはいいですが、こんな大変だとは聞いてませんこと」
遠くを見れば追手の数々。
草木をかき分けて、迫るのがここからでも見えます。
「こうなれば「ドスンッ」────なんですわッ」
木を葉っぱを突き破って来るは、一人のおじさんです。
先程よりも若返って少年になっていますが、魂は間違いなくおじさんです。
「誰ですわ、この男は……」
そんなおじさん、いや少年はつんつんとつつかれます。
ですが、深く気絶しているいるようで、起きる気配はありません。
「せっかく、囮にでも────いえ、背丈も私めと近いということは」
少女はガサゴソとした後、るんるんと鼻歌交じりに、その場から逃げることが出来るのでした。
◇◆◇
「起きてくださいッ、ライ先生」
青年はゆさゆさとゆらされます。
「へっ? へっ、誰」
「私ですよ、編集のエルですッ」
エルと自らを名乗ったエルフの少女は答えます。
ちなみに胸は豊満で、服は緑で統一された、旅人のような格好です。
「ならエルさん、ここはどこでしょうか?」
「呆けても〆切りは延びませんよ、ライ先生」
王国王都、宿屋の三階と、エルは教えてくれます。
狭い宿泊部屋には、木組みのベッドと机と椅子が置いてありました。
「いいですか、今日こそは原稿を貰いに来たんですからッ」
「やっぱり、君は俺を誰かと勘違いしてないか?」
青年は疑問そうに首をかしげます。
傾げた時に首元に髪の毛があたった気がしましたが、気のせいでしょう。
「そ”ん”な”ことはありません」
「いや、そんな大きな声を出さなくても」
「出したくもなりますよ────ライ・ライティング先生ッ」
ライ・ライティング。王都で小説家をやっている人間の女性です。
少なくとも、少年の名前ではありませんし、そもそも少年の性別は男です。
自分の大事なものが、股間についている感覚もあるので間違いはありません。
「いやだから俺は」
「そんなに言うのなら、鏡見てくださいッ」
鏡にうつるのは青年の顔のような、少女の顔のような。
つまることろ、ライ・ライティングと認識する顔がうつっています。
「俺なのに、俺じゃない」
「そんなことはどうでもいいんでしょッ」
エルフの女性は必死な形相です。
「先生を信用して、この仕事を受けたんですよっ」
「もし俺がソイツだとして、何か問題でも」
「締め切りがまじかなんですよォッ」
エルフの女性は顔が真っ青になります。
「いや、締め切りぐらい落としてもだな」
「いい訳ないでしょ、死にたいんですかッ?」
「うん? 死ぬ?」
「そうですよ、貴族からの小説の依頼ですよッ」
「もしかして落としたら斬首的な奴ですか」
「前金は貰っているので、斬首で済めば御の字です……」
ちなみにですが、前金は本人が全て使ったので一切残っておりません。
まあ返せないことがバレても、斬首の運命からは逃れれませんが。
「一つ聞こう、残りの執筆期間は何日だ」
「残り3日です」
ライに嫌な予感が奔ります。
「もし、書き終わらなければ?」
「────間違いなく死にます」
異世界に来て一日目。
おじさんこと、ライ・ライティングの輝かしい夢の第一歩は、自分の頭を抑えるところから始まるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
板のアイディアを思い付きで書き下ろしただけなので続きはないです、すまぬ。