顔に鋭い痛みと衝撃を感じて、私は目を覚ました。
目蓋を開けて最初に目にしたのは、体の各所を鎖で椅子に縛り付けられた私の体だった。
「ここ、は……」
あれ、どうして私はここに?確かにお風呂に入って、そのあとベッドで横になって───。
『起きたか、運の良い奴だ』
聞こえてきた声、そしてキヴォトスでは聞きなれた銃を構える際に聞こえる金属音に思わず顔をあげると、私の頬の横を一発の銃弾が掠めた。
見ればサブマシンガンのVector、
『まぁいい、その体を寄越せ』
「っ、なんで」
『抵抗するか?いまの貴様に、その鎖を破壊するような事、出来ないだろう』
言われて体を動かそうと鎖に縛られた手足に力を入れるが、何故か力を込めた瞬間に力が抜けていき、体を椅子に縛り付けている鎖を解くことは出来なかった。
「な、なんで……」
『それ程、今の貴様が弱いというだけだ。そんな貴様よりオレが使ってやったほうが有意義だ。』
私が体を動かそうと足掻いていると、目の前の私は
このままだと最悪なことになる、それだけが感じられ私は必死に四肢を動かすが、体は全く動いてくれなかった。
『時間切れだ……貰うぞ、その体』
目の前まで来た私は、私の額に
悪くて気絶のはずだ、その筈なのに……怖い。体が震えて、口からガチガチと音が鳴る。
「い、いやだ……」
『貴様の肉体は、このオレの方が上手く使ってやる。
目の前の私は、その口に歪んだ笑みを浮かべゆっくりと銃の引き金を引いていく。
いやだ、いやだ……いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
ベッドから飛び起きた私は、荒い呼吸を繰り返しながらゆっくりと自分の体を見下ろす。
「あっ!?はぁ!?はぁ!は……はぁ」
冷や汗でびっしょりと濡れた肌着に、視界に時おり映る毛先に金髪が少し残る桃色の髪に私は安堵する。
だが、体の奥……正確には喉を何かが上がってくる感覚がして私は急いでトイレへと走った。
色々な場所を生きて色々な人を見てきた。
幼い頃から、転園に転校を繰り返して生きてきた。
幼い頃から、続く友情も友人もいなかった。
どうせ、どれだけ仲良くなったとしてもどうせすぐに私はその場から離れる。
悲しくはない、元から私は学校より家にいる方が好きだった。
友人と遊ぶより、家で好きなゲームをしたりテレビや動画を見る方が好きだったし誰にも文句を言われず、好きなことをしていられる時間が好きだった。
両親は、鉄道系列の事業を職にしているからか転勤が多かったし家にいる時間も少なかった。
『いつも、遅くまで仕事でごめんね。今日のご飯だけど今から』
大丈夫、自分で作って食べたから。
ママの分もあるよ、ゆっくり休んでね。
『ごめんね、ごめんね……カリナ』
目の前で両手で涙を流して膝を突くスーツ姿のママの頭を大事に包み込むように抱き締めて頭を撫でる。
そんな悲しい顔しないで、泣かないで、私は大丈夫だから。
『ごめんな、約束してた日なんだが急な仕事が入って』
大丈夫だよパパ、頑張ってお仕事してくれるから私は楽しく過ごせてる。だから私のことは気にしないで、頑張ってね。
『絶対!絶対!絶対に埋め合わせするよ!ママも一緒にミレニアムの遊園地にでもいくか!?それとも新しく出来るっていう水族館でもいいぞ!』
絶対と強く話し、行き先を伝えるパパに笑って答える。
無理しないで、お休みくらいパパもお家でゆっくりして良いんだよ。だから、私は大丈夫。
両親の申し訳なさそうな表情が嫌だった、私のせいでそんな顔をしていると思うと泣きそうになるから、だから私は大丈夫だと笑って気にしないでと伝える。
幼い頃から私は世間が言うところの
パパとママが私のせいで悲しまないように。
学校の寮には入らないようにした。
『ねぇ、なんで君は寮に入らないの?』
あはは、家庭の事情で。ごめんね。
『こんど、寮でクリスマスパーティーが……あ、ごめん。カリちゃん、カリちゃんは家からだったよね……良ければカリちゃんも!』
ありがとう、気持ちだけ貰うね。
どうせ手続きをしても引っ越しの準備をしてもすぐに転勤するから、引っ越しする費用も寮に住む手続きも無駄になる、なら家に住んでいた方が良い。
私を心配してくれるクラスメイトとのやり取りも、どうせすぐに無くなる。
誕生日やクリスマス、両親は必ず休みを取ろうと頑張るけど仕事だったり転勤が決まったりして、いつも家に一番いるのは私だった。
ママとパパが休めるように、家事は私がやる。
ママもパパも、転勤先がすぐ変わるからいつも疲れて帰ってくるし、家事までしていたら倒れちゃうかと思ったから。
そんな両親は、申し訳なさからか他の子が貰うより多いおこづかいをくれた。
私は買いたい服なんて無い、ファッションなんて興味がない。
流行ってる露天の店やお菓子なんて興味ない。
流行ってるゲームより、少し古いゲームや自分の好きな作品のシリーズを買う。
比較的に、使うお金は少なくて貯まっていった。
そんな時だった、私は転校したトリニティ地区の近くにあるミレニアムにあるゲームセンターにあるゲームが好きになった。
ほぼ毎日、学校の帰りや休日に通っては遊んで気が付けばゲームのランキングでもかなり高いランクへと上がっていた。
そんな時だった、好きだったゲームの大会。
参加したいと思った、何より自分が好きでずっと遊んできたゲームだから。
結果を残すことが出来て、嬉しくて記念写真も心から笑っている私が映っていた。いつもの優しそうな、笑うより微笑む感じの私じゃなくて、まるで幼児のように目をつむって、口を開けて楽しそうに笑う私が。
この時の私は思わなかった、参加したゲーム大会がきっかけで、あんなことになるなんて。
ゲーム大会の次の日、ネットにはゲームの対戦動画や配信の写真が上げられて私はちょっとした有名人になっていて少し恥ずかしかった。
そんな私を待っていたのは、学校の全員からの無視と一部生徒からの陰口だった。
やってもいないことを広められ、苛めが嫌で苦しくて、それでもすぐに転校するからと私は耐えた。
でも、どれだけ無視しても、頑張っても心は傷付いて、両親を心配させたくなくて私は学校の担任である教師に助けを求めた。
でも、その教師の答えは望むものとはかけはなれていた。
教員は言った『まず自分にそうなった原因があると思わないのか?』『教訓を破ったあなたが悪い』『トリニティの生徒として相応しい振る舞いをしなければならないのに、ゲームなんてものを』。
教訓なんて知らない、そもそも私はトリニティに生まれた訳でも、トリニティに住む訳でもない。
私の好きなものは私の自由だ、「ゲームなんか」なんて言わないで。
教員がなにもしてくれないのを理解したのか、トリニティの学校の生徒達からの陰口はだんだんと強くなり、そして私の物が隠されたり捨てられたりする事が始まった。
学校には行きたくなかった、休みたかった。でもパパとママが頑張って働いたお金で入れてくれた学校だから、休むなんて事したくなくて。
早く転勤になって欲しい、私はその時初めて心から転勤が決まることを祈った。
嬉しかった、ようやくこの学校に来なくてよくなる。
でも気付いた、このまま別の学校に転校しても同じことが起こるんじゃないかって。
そんな時だった、たまたまネットで見つけた言葉に、私はすがった。
『自分が変われば、世界は変わる』
だから私は、家の外でも誰にも悪口を言われないような良い子になれば良いと思った。
次に学校で皆から頼られ、仲良くなれるような人物は誰かを考えて、たどり着いた。
髪は金髪で、常に明るく前向きな性格と振る舞いをしていて休み時間や昼休みは必ず同じクラスの子達と話しているキャラ。
漫画や小説で陽キャと呼ばれる、ギャルに。
そうしてトリニティを転校した私は、こうしてギャルを演じて転校した先々の学校のクラスに溶け込んだ。ハイランダー、オデュッセイア、ワイルドハント、何処でも私は虐められることはなかった。
虐められることはなかった、でもそれ以上に私の心を苦しめたのは罪悪感だ。
私は自分が虐められないように周りを利用しているだけの最低な人間だ。自分が虐められないために、よい人だと思われるために周りをずっと騙し続けている。
その事実が、罪悪感が私を押し潰しているような気がした。でも耐えられた、もうあんな風に虐められないから。我慢すれば、もうあんな苦しい思いはしないと思ったから。
そうして、転校を続け完璧な陽キャなギャルを演じられるようになった私は両親の転勤でまたトリニティへと戻ってきた。
そしてトリニティ総合学園に入学することをきっかけに、両親から離れ一人暮らしをするため家を出た。
トリニティ総合学園に入学したけど、過去に私を虐めていた人たちも私の事を覚えていなかった。忘れた?いや、きっと私を同一人物だと思わなかったのだろう。
だからこそ、このままなら大丈夫だと感じた。
でも、駄目だった。
いくら性格が良くても、明るい雰囲気を持っていても、頼りになる人でも結局はまた虐められる。
そんなの、もういやだ。
悲しいのと苦しいのも、自分が助かるために周りを騙すのも嫌だ。演じるのは、悲しいし苦しいし辛い……もう演じるのは嫌だ。
だから、私は自分に正直に生きたいと思った。
そうして学校を辞めて、両親も今までの自分すらも裏切った私は、自由を掴んだ。