朝、家を出て近くの安い早い旨いと有名な丼ものチェーン店で朝食を食べる。
あんなことがあったのに腹が減ったこと、店でこんなに大盛りにした朝定食をよく食べられるなと改めて自分の異常さを再認識する。
カウンター席、正面が窓のため今から出勤したり学校へ登校する人達が見える。店内でも急いで朝食を食べ進める人達は少なくはない、そんな人たちを他所にゆっくりと朝食を口に運び自由な時間を過ごしているのは、少しだけ優越感を感じる。
トリニティでの一人暮らしは常に自炊だった、トリニティ地区が全体的にお嬢様学校という事もあり全体的に裕福層への商品や店が多い。故に、食事をするのに外食した場合は他の自治区よりかなりの高額な支払いになってしまうために極力節約してきたからだ。
まぁ、それももうどうでも良い。
私は自由で生きると決めた、好きなときに好きなことをして、好きなものを食べる。そうすると決めて、全部を捨てた。
先生も、友達だったと思う人たちも……親も、全てを裏切ったのだから今さら引き返すなんて出来ない。まぁ、あんな場所に引き返したいだなんて思わないけど。
「今日、どうしよう……」
正直な話、自由な生き方をしたいと決めたがやることが決まってない。そんななにもない自由で空白なこの後をどうしようかと思っていると、店の入り口に見覚えのある姿が見えて、思わず思考を停止した。
店の入り口、そこにある券売機の前で片手を口許に起き悩んだ様子を見せる小柄な生徒。特徴的なのはその頭に生えた狐の耳と尻尾、そして肩に乗せた
「うそでしょ……」
トリニティ総合学園、トリニティ三大分派の一つであるサンクトゥス分派のリーダー百合園セイアがそこにいた。
まだ療養中で、学園の外に出ているなんてありえない。もう歩き回れるまで回復しているだなんて……そもそもなんでこんなとこに!?
メニューを選び終わったのか、発券機から目を離したセイアさんと目が会いそうになり即座に目線を正面に戻して震える手で味噌汁を口に運ぶ。
か、関わらないよう急いで食べて何処かに……空いていた隣の席にトスっと誰かが座る音が聞こえ、恐る恐る視線を横に向ける。
何処か満足げに笑う百合園セイアさんがそこにいた。
「ふぅ、ようやくここまで来た。まったく、ナギサは少し過保護がすぎると思うんだ……君もそう思うだろう?」
「ナゼ、ワタシニソレヲ?」
そう微笑みながら言うセイアさんに、思わず片言で返事した私を許して欲しい。
元連邦生徒会で先生と行動する事柄、様々な自治区の様々な学園権力者と出会い話してきたが、こうも不意打ちで相手から話を振られたことなど少ないのだ。
「君なら、こうした愚痴を言っても問題ないだろう?今の君はトリニティでも連邦生徒会でもないのだから」
「……確かに、私はもうトリニティでも連邦生徒会でもないですけど」
そう言いながらもスプーンで丼から温泉卵が絡まったご飯と牛肉、玉ねぎを掬い口に運ぶ。うん、やっぱりこの組み合わせが旨い、テーブルの焼き肉ソースを掛けるのも良い。
「トリニティで最も面倒見が良いと言われていた君ならば、私の愚痴を受け止めてくれるかもしれないと思ってね」
結局、何処まで逃げても過去の私は私を逃がさないみたいだ。
セイアさんの注文したメニューであろう朝食セット、それも私とは違う基本的な牛丼と味噌汁のセットが店員さんの「お待たせしました」の一言でセイアさんの前に置かれた。
注文したメニューが届いた瞬間に耳をピンとさせ、店員さんの「お待たせしました」の言葉に「え?」と間の抜けた声を漏らす。
そのままごゆっくりと、といつも通りの接客口上の言葉を告げて戻っていく店員さんを見送るセイアさんは困惑した様子で私を見ると口を開いた。
「その、注文が届くの早くないかい?」
「……普通、ですけど」
「ぜんぜん待っていないのに、お待たせしましたと言われたんだが」
「…普通です」
「トリニティでは15分くらい待つんだが、座ってからまだ2分もたって───」
「普通です」
「そうか……凄いな」
「安い旨い早いがうたい文句です、から」
そう返して私は自分の注文した丼の米を掬い口に運ぶ。もう話すことはないだろうとひたすら自分の分を食べていると、何故か私の肩を何かがつついた。
見れば、何故かセイアさんの肩に乗っていた筈のシマエナガが私の肩をつついていた。そして私が視線を向けたことを確認したシマエナガはセイアさんの肩へと飛んで戻る。
鳥のいたずらかと思うが、見ればセイアさんの前に置かれたメニューが全く減っていない。
見ればセイアさんは何処か困ったような顔で私を見ると、若干頬を染め恥ずかしそうに口を開いた。
「立て続けて申し訳ないのだが、今の私は見ての通り両手が動かせなくてね」
「食べさせろ、と?」
「困ったことに、ナギサや他の監視の目を抜けてここまで逃げだして来たのでね。くったくたに疲れてしまったんだ」
そう言ってわざとらしく両肩を竦めてみせるセイアさんに思わずため息が出そうなのを耐える。そんなことをすれば後ろ楯のない私がサンクトゥス分派からどのようなことをされるか、想像するのは簡単だ。
「……もし、断ったらどうするんですか」
「そうだね、今ごろはトリニティは私が居なくなって大慌て。果たしてそんな私と一緒にいる君は、彼女たちからどう思われてしまうか」
断るのは簡単だ、でもこれを断ってサンクトゥス分派と戦うことになるのが面倒だし、もうそう言う事には巻き込まれたくない。どうせ、この後やることにも困っていた所だし。
私は自分のスプーンをおいて、セイアさんのメニューが乗ったお盆に乗せられたスプーンを取り、反対の手で牛丼の肉と米をちょうど良い感じに乗せてセイアさんに向ける。
セイアさんは向けられたスプーンをハムりと口に含むと先ほどまでの羞恥心はどこへやら、両目を光り輝かせ出した。尻尾も何処かにパタパタと揺れている……いぬ?
「今、失礼なことを考えなかったかい?」
「いえ」
「次はそっちのスープを」
その後もひたすらにセイアさんに料理を運ぶことを続けた。なんだか、トリニティで甘えてきた一年生や同学年の子を思い出した。膝枕したりハグしたり、頭を撫でたりと色々なことをせがまれていたことがあった。
演じてきたとはいえ裏切った私は、きっとどうしようもない最低な人間なのだろう。
「む、手が止まっているよ」
「あ、はい」
止まっていた腕を動かして丼の中身を掬ったスプーンをセイアさんの口に運ぶ行動を続ける。それに満足そうにしながら食事を続けるセイアさん、当然だがカウンター席なのにこのような行動だ。店内の周りのお客さんや店員さんからの視線が少しだけ痛い。
暫くは羞恥心を誤魔化してセイアさんに食事を与え続け、セイアさんが全てを食べきった。
セイアさんが食べている間に自分の分も食べきってあるので、これ以上店に長居することは無いだろう。
食べ終わったセイアさんと自分の分のお盆を返却口に置き、そのまま店を出る。セイアさんがこの後どうするのかは分からないがもうこれで私の役目は終わっただろう。
そう思いながら特に予定もなく町を歩く、朝だからか通勤や通学に向け急いでいる生徒達が多い。
歩きながら、ふと今までの戦闘について考えた。今の私は、サブマシンガンとピストルの二丁持ちだ。その私に足りないもの、それは防御面だ。
今の私は自分の運動神経や体力を使った回避優先で、所謂「当たらなければどうということはない」を実践している感じだろう。まだ少ししかこのスタイルで戦闘はしてないけど。
演じていた頃はずっと後方支援が主だから、自分への被弾が少なかったし特に防御面で補強するところは特にないと思っていた。
だが、前のように気に入らない奴らがいた時に乱入して戦っても大丈夫な盾が……ゲームの使用キャラのような全方位を守りつつ内側から外側に向けた射撃が通過する防御手段が欲しい。
「バリアが欲しいな……ミレニアムなら」
「ミレニアムへ行くのかい?」
背後から聞こえてきた声に、慌てて振り向けば私の後ろをついてきたのか百合園セイアが立っていた。なぜ、そんなさもついてきて当然な顔をしている?
「その、なぜ」
「君について来たからに決まっているだろう?」
「なんで、ついてくるんですか」
「そうだね、一言で説明するならば………その方が、面白そうだからかな」
そうキメ顔を決めるこのティーパーティー、自分がトリニティを抜け出してきてること覚えてるの?私がもし誘拐犯とか思われてたらどうしてくれようか。
「おお、これは凄いな」
「そうですか」
「む、少し反応が素っ気なくないかい?
「やめてよね……」
モッズコートのフードを深く被った私は、同じようにフード付きの安い上着を着て頭のキツネミミと顔を隠したセイアさんと共にミレニアムサイエンススクールへと来ていた。何故か、私が姉でセイアさんが妹と言う設定で手まで繋いでいる。
本当に、どうしてこうなったのだろうか。
自由を選んだはずが、ここまで胃が痛い状況になっているのは何でだ?
あのあと、当然だがセイアさんの一緒に行きたいというお願いを断ろうとした。断ろうとしたのだが、結局は押しきられて一緒に来ることになってしまった。
流石にセイアさんの誘拐犯にはなりたくない、自由になってすぐに連邦矯正局送りはごめんだ。
エンジニア部の場所は覚えてるので学校の入り口でエンジニア部への依頼できた、妹と一緒で頼むと説明して許可証を貰い校舎にはいる。
トリニティでは珍しいものがあるためか、セイアさんは常に周りを見渡しては目を輝かせている。
ミレニアムサイエンススクールへ来るのは、凄く久しぶりだ。
エンジニア部の部室を見つけノックすると、少ししてガチャリと扉が開き部長である白石ウタハさんが出迎えてくれた。
「やぁ、話は聞いているよ。君達が依頼人と言うことで良いのかな」
頷けばウタハさんに部室に通され、セイアさん含めて用意して貰った椅子に座る。どうやら、今は彼女しか部室にいないようだ。
先程の反応から見て、私の事が晴崎カリナだと分かっている様子ではなさそうだ。まぁ、私がこの姿に戻ってからまだ1日だ。そんなにも早く私の情報が広まっていると考える方がおかしいだろう。
「それで、どんな物が欲しいんだい?」
「このキャラクターが持つバリアが欲しい、正確にはこのバリアを発生させる事が出来て身に付けていられるものを作れるか聞きたくて来た」
そう言いながら私の使用キャラクターについての解説とイラストが掲載されたサイトの画面を開いたスマホをテーブルの上に置く。ウタハさんはスマホを手に取るとそのサイトに記載された文章に目を通していく。
「ふむ、これは……周囲360度全方位を覆いつくす事ができ実弾とビームを問わずに防御出来る上に、展開中で有っても展開した内側からの攻撃はすり抜けさせることができるビームシールドか。Armure Lumiere……なるほど、名前と画像の通り装着者を守る、光り輝く鎧という訳だね」
顎に手を当ててそう呟くウタハさんは、そのまま少し考え込む様子をみせる。
「装備して動くことが可能な状態のものを開発可能なら作って貰いたい」
「なるほど、確かにこれはウチじゃないと難しいだろうね。ところで、この作品では連続稼働時間は5分らしいけどそこはどうする?ウチの新しいバッテリーなら5分以上は持たせられると思うよ」
「そこは貴方に任せます」
「わかったよ、こんなに面白そうな依頼は久しぶりだ。ちょっと近くの本屋に行って資料を漁ってくるよ」
そう言って何処か楽しそうに目を輝かせ先程見せたキャラの登場する作品の漫画をスマホで検索していたウタハさんはそうだと何かを思い出した様子で此方を見る。
「ところで完成したら引き取りに来るかい?それとも此方から配達しようかい?」
「配達をお願いします」
「分かったよ、ならここに住所を書いておいてくれ」
そう言って差し出された紙に住所を書く、そして先程から暇だと主張しているのか隣の椅子から私の膝に乗ってきたセイアさんはそのキツネミミで私の顔を挟むようにして頬をペシペシしている。
ウタハさんは何処か微笑ましいような表情で此方を見てくるが、可能な限り無視して住所を記入し終えた。
「ずいぶんと妹さんと仲が良いんだね」
「あ、その……」
「ふっ、キューティーフォックスですまない」
ミレニアムを出ると昼食時間を少し過ぎていたので遅めの昼食を取ることにした。セイアさんはまだトリニティへ帰る気はないらしい、今回は朝のように食べさせずに済んでいる。
「今ごろ、ナギサやミカ……上層部は大慌てだろうな」
「関係ない関係ない私は無関係無関係……」
器に盛られたクリームパスタをフォークで小さく巻いて口に運び少しして嚥下したセイアさんが呟いたその言葉に私は頭を抱えながらそう呟いた。
そう、改めて状況を説明するなら目の前でパスタを楽しんでいる百合園セイアはトリニティの監視を抜け出してここまで来ているのだ。
これ、本当に私誘拐犯とかならないよね?連邦矯正局いきとかならないよね?なるなら抵抗するよ本気で。
「それで、この後はどうするんだい?姉さん」
「それまだやるんですか……」
何処かワクワクした様子のセイアさんに、そう返事を返しながらフォークで適当に掬ったペペロンチーノを口に運び咀嚼する。
「姉さん、もう少し作法を気にした方がいい。ほら、口許が汚れているよ」
そう言ってセイアさんがテーブルに置かれた紙ナプキンを取り此方へと向けてを伸ばしてくるがまぁ、幼さの残るその体では届かないよね。
「……自分で拭きますから」
「クッ、ここで体の幼さが仇になるとは」
そう言って何処か悔しそうな表情をみせるセイアさんの持つナプキンを貰って口を拭う。
別に、トリニティのような高級なお店じゃないんだから作法なんて別に気にしなくていいと思いつつ、更にフォークで掬ったパスタを口に運ぶ。適当に選んで入った店だけど、美味しいし当たりのお店だ。その後も、デザートを頼んだりしてかなりゆっくりしてしまった。
その後はミレニアムで商品が安いスーパーで家で料理するために食材調達へ向かった、当然のようについてくるセイアさんと共に。
駄菓子コーナーやスナックコーナーで目を輝かせ、試食コーナーの存在に目を見開き、炭酸のジュースは酷く気になったのか一緒に買って飲むこととなったりした。最初はなれなかったのか、舌がビリビリしていたがやがて喉をコクコク鳴らして飲んでいた。
夕日が差す帰り道、買い物袋を抱えて駅まで歩いていると、先程まで飲んでいた炭酸ジュースのカラボトルを持って歩いていたセイアさんが振り向きながら口を開いた。
「姉さん、今日の晩御飯はなんだい?」
「家までついてくる気ですか、そろそろ帰らないんですか?」
「おや、夕方。それも暗い時間帯に病弱な私に1人で帰れと言うのかい?それに帰ったらナギサやミカ、なにより救護騎士団からのお説教があると思うと、ね……怖すぎる」
「じゃあなんで抜け出したんです……」
帰った後の事を考えたのか両手で両腕を掴み震えるセイアさんに、思わずため息をつきながら言うと、セイアさんはどこか興奮した様子で話を続けた。
「仕方がないだろう!?こう、直感でそう出たんだ。獣の勘はバカにはできないだろう?」
「まぁ、勘については分かりますが………はぁ、明日には帰ってくださいよ」
深夜、晴崎カリナの部屋に泊まっていた(泊まらせるようにねだった)百合園セイアは部屋から聞こえてくる嗚咽のような圧し殺した小さな声に目が覚めた。
自分のベッドとは違う少し硬い敷き布団から体を起こすと自身にかけられた布団がずり落ちる、見れば私の少し横。ベッドの横に敷かれた百鬼夜行で良く見られるタイプの布団に横になっていた晴崎カリナ、彼女が閉じた目蓋から涙を流して苦しそうに泣いていた。
「違う、私は...私は...」
「……君は」
部屋についてから、違和感を少しだけ覚えたところがあった。それは浴室の前にある洗面所の鏡、それを張り付けていただろう場所に鏡は無かった。鏡を張り付けていたであろう四つの留め具の周りにはまるで、さわらないようテープが張られていた。鏡の中央には銃弾が撃ち込まれた後のような痕跡が残っていた。
つまり、彼女は何らかの理由で鏡に銃を向け引き金を引いたのだろう。
「もう、偽りたく……ごめんな、さ」
横になり悪夢に苦しむその姿が、何故か未来視の悪夢で魘されていた過去の私と重なって見えた。
気がつけば、私はベッドからおりていた。
そして彼女の枕元に座り彼女を起こさないよう頭をそっと持ち上げ、彼女の頭を自身の膝へと置いた。膝に彼女の髪の感触が僅かにくすぐったいが、耐えられる程度だ。
そんな状態で私は彼女の頭を優しく撫でる、シマエナガを撫でるよう優しく、傷付けないように。
「療養が必要なのは私より君じゃないか」
暫くすると苦しそうな表情はゆっくりとだが穏やかな物に変わっていく、だが相変わらず涙は流れたままだ。
「全く、これではどちらが姉か分からないぞ」
そう言いながら彼女の頭を枕へ下ろし、自分の枕を彼女の枕の隣に置く。そして彼女の布団に潜り込み彼女の手を優しく握り私は目を瞑った。
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