肩で呼吸をしながら、痛む体を無理やり動かし感覚のない左肩を押さえ片足を引きずりながら路地裏を歩く。
これまで、先生と共に様々な事件を駆け抜けてきた。
でも、それはあくまでも前線ではなく後ろからの援護射撃。飛んでくる銃弾こそあれど被弾することは少なかった。
「はぁ、は……」
全身には走る痛みに苦悶の声が漏れる、正義実現委員会そして怒った救護騎士団の団長ミネの攻撃、全てを避けるのは不可能だった。
『救護!!』
『グッ!?』
ライオットシールドによる突撃とシールドバッシュにより吹き飛ばされた。
『あがっ!?』
『急所をはずしましたか……』
そして吹き飛ばされた空中で左肩に強く大きな衝撃と鋭い痛み、見れば羽川ハスミによるスナイパーライフルの狙撃だった。
『っあ』
狙撃された肩を庇いながら着地した瞬間に片足が踏ん張れず横にずれ、足首を捻ってしまう。
『いい加減観念するっすよカリナっち!』
『ぐッ! アマノイワト、最大展開!』
『みんな!とにかく撃って相手のシールドが消え続けるまで撃って撃って撃ち続けるっすよ!ここで絶対に捕まえるっす!!』
知り合いで良かったのだろうか、そんな仲だった仲正イチカや正義実現委員会生徒による全方向からの射撃。アマノイワトの展開時間では防ぎきれず何度も何度も銃弾を体に受け、時には蹴りや銃による打撃を受けた。
長時間の戦闘でもう体の体力は尽きていた、朝起きてすぐにアマノイワトを試すために外に出た。そのせいで胃の中は既に空っぽ、今の私の失った体力を戻す為のエネルギーすらない。
足が縺れ左肩から地面に倒れこむ。
「っっっーーーーーーーー!!」
地面と体がぶつかった瞬間、左肩に激痛が走り思わず声にならない叫びが口から出る。
そして倒れた体を起こそうと右手に力を入れようとするが、からだ全体に力が入らない。
ただ自分の浅い呼吸音と左肩と足首が持つ腫れによる異常な熱に、倒れた地面の冷たさが心地よく感じてしまう。
どうして、こんなことになったんだっけ?
ボーッとする思考の中で、そんな疑問が浮かんだ。そうだ、私がみんなを騙していて…それが辛くて嫌で全部を捨てて自由になりたくて……私は全てを手放したんだ。
ゆっくりと目の前がボヤけていく、そんな中で脳裏に浮かんだのは私がまだ陽キャという仮面を被り周りを騙して利用し続けていたときだ。
『カリナ、例の書類ですが』
『おけまるリンリン!いま渡すね!』
そう言いながら働いてる七神リンさんに渡す、私以上に、下手したら一番書類を抱えているであろうリンさんが少しでも休む時間を作らせようと、私は自分に与えられた机から立って給湯室に入り部屋で仕事をしている人達にコーヒーを入れる。
スティックタイプの物だけど、コーヒーカップへ入れたインスタントコーヒーの粉にプラスして私が棚の中に密かに入れておいたもの達から選んだ粉……香辛料を取り出してそれぞれのコーヒーカップへと入れていく。
七神リンさんのコーヒーにはアップルミント、コーヒーの苦味をアップルミントの香りが和らげてくれるしリフレッシュ効果があってストレス解消や安眠効果があるから。
不知火カヤさんのコーヒーにはシナモン、風味に深みとスパイシーな感じが出て体を暖めてくれたり、心を落ち着かせてくれる効果がある。何処か必死というか、焦るような表情を見かけるから、彼女には良いかもしれない。
扇喜アオイちゃんには彼女のコーヒーにはレモンバーム、少し独特な風味がするけどリラックス効果があるし、レモンバームはレモンとミントを合わせたようなさわやかな香りが特徴的できっと常に数字とにらめっこしている彼女の良いリフレッシュになると思うから。
岩櫃アユムちゃんにはカルダモン、疲れた脳を休めてリラックスした気分にさせてくれる効果があるから常に書類を整理したり運ぶ仕事をしている彼女にはこれが良いだろう。
由良木モモカちゃんはコーヒーよりジュースが良いので冷蔵庫にいれてあったコーラをそのまま持っていくことにする。それぞれのコーヒーの入ったカップをティーワゴンに乗せて執務室へと運び、リンさんのテーブルにある空いた場所へコーヒーを置く。
『お疲れ様リンリン、コーヒー飲む?』
『えぇ、頂きます。いつもありがとうございます、カリナ』
『カリナ、私の分もある?』
『当然、私の分もありますよね?カリナ』
『もちもち!あ、アユムっちも一息入れなー?モモッチはコーラね』
『あ、ありがとうございますカリナさん!』
『流石はカリナ!わかってるー!』
必死に特徴と名前をメモして覚えた、常に笑顔で話し好印象を与えるようにしてきた。私を誰も虐めないように、虐められないように私は常に周りを見て行動した。
でもなんで?なんで記憶の私はコーヒーを入れるときこんなに楽しそうにしているの?なんでみんなのことを考えているときに幸せそうな、罪悪感を忘れたように笑っていたの?
昼食を食べ、眠くなったと眠りだしたハレに布団を掛けて風邪を引かないようにする。
『アハハ、気持ち良さそうに寝ちゃって。ふふ、仕方ないなぁハレちゃんは……私がこうして掃除したりご飯を作らなかったら、どうやって生活するするのさ』
そう口で
『カレーは定番……でも少し食材が足りないか……作り置きを入れるタッパーも少ししかないしこれは買ってくるしかないかな……ふふ、ハレちゃん喜んでくれるかな』
突如として先程まで見たハレの家でキッチンを借りて
『ライブの直前のメッセージとはいえ、話してみるものだなぁ』
そう思いながら私はライブを終えたブラック・デス・ポイズンの人達から貰ったサイン付きCDを胸に抱き締める。
便利屋68という仕事の都合でカヨコちゃんはいつこういったライブに行けるのか分からない。
更にライブまで向かうとしても警官のロボットに職務質問を受けてしまってライブに間に合わないかもしれない、そんな彼女を少しだけでも助けたくてはじめて連邦生徒会としての権限を使って彼女が職質されないよう呼び掛けた。
そんな彼女の職場は常に事務所を変える、鞄にいれたりと簡単に持ち歩けそうなCDを彼女の誕生日のプレゼントにしたいと思った。
『思いきってお願いしてみるものだね。ブラック・デス・ポイズンの皆さんいい人達だったし……ふふふ、カヨコちゃん驚いてくれるかなぁ』
そう言いながら、どんなラッピングで渡そうかと
また、目の前の光景が変わり私が噴水に座る浦和ハナコさんに話しかけている姿が映る。
『ウィースっ!浦和っち今日はどこ行く?また噴水にダイブしちゃう?制服の下には水着着てきたからいつでもうちはダイビングできちゃうウェーイ!』
『ふふふ、今日はそんなことよりもっと♡いいこと、しませんか?』
『いいねいいね!やっちゃおやっちゃお!!人生やったもん勝ち!!』
そう言いながら彼女と共にトリニティ総合学園を歩く、雑談に花を咲かせ私は笑っていた。
なんで今さらこんな記憶が脳裏に浮かぶの?
私がみんなを騙したから? これが私の罪だと神様は私に教えようとしているのだろうか?
でも、なんで、なんで?なんで!?
なんで私は苦しかった筈なのに、私はこんなにも楽しそうに笑っているの?
なんで、自分が良ければそれで良い。自分を中心に考えていたのが私な筈なのに、なんで周りと過ごす私は笑ってるの?
あんなに楽しそうで、嬉しそうなの?
虐められないように周りを利用してるだけなのに、演技で友達のふりをしてるだけなのに?
気が付けば目の前の光景が路地裏に戻り、静かな路地裏に私の呼吸音だけが木霊する。
あぁ、これで全部……全部を捨てられる。
ごめんなさい、騙してごめんなさい、利用してごめんなさい。
「あ、いた!」
霞む視界に黒い服を着た誰かが映りこむ、黒い服なら正義実現委員会だろう。
「酷い怪我……ねぇ、聞こえる!?返事してよ、みんな!こっち!!」
何を言っているのか、分からない。
「コハルちゃん、見つけたんですね!」
新しい音が聞こえる、もしかして彼女が仲間を呼んだのか? 耳まで可笑しくなったのか、何を言っているのか分からない。
「早く車で治療できる場所に運んだ方が良いんじゃないか?」
「今は救護騎士団には頼れませんし、きっとセイア様の誘拐犯ということでミネ団長が動いている筈ですから、きっとすぐに飛んできちゃいます!」
「アズサちゃんは先生に車を回して貰えるよう連絡をして下さい、コハルちゃんは包帯と腫れた肩と足を冷やすための氷を!カリナ、すぐに助けますから!」
どうやって矯正局に運ぶか相談しているのだろう。
あぁ、私は……自由に生きたかっただけなのに。
そんな思いを最後に私は意識を失った。
ご愛読ありがとうございました
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続きは続きはグレゴリオが演奏しています。