目の前のモニターに映る自分のタスクに満足した私、小鈎ハレはマウスを握る手を離して近くに置いていたエナジードリンク、妖怪MAXを取ろうと手を動かし──。
「あ」
飲み終えた缶に当たる感触を感じ、今さら画面を見ながら妖怪MAXの缶を取ろうとした事に後悔した。
次の瞬間、カランカンカンカンカン!と連鎖するように積み重ねられた妖怪MAXパッションフルーツ味の缶で積み重ねられたタワーが崩れ落ちテーブルと床へと転がる。
「せっかく高く積めたのに……」
そう呟き、取りあえず飲みかけのエナドリを口にしてカフェインを摂取する。
それにしても、とそう呟きながら少女はゲーミングチェアを回転させ自身の部屋を見渡す。
床はエナドリの缶が転がり、棚やデスクの上にはエナドリの缶が並んでいる。
「うーん……まだ大丈夫かな」
そう口では言いながらも、そろそろ片付けなければ不味いと考えるダメな自分とそろそろ彼女に連絡した方がいいのかも知れないと考える自分がいる。
その時、自身のお腹が空腹であり胃が空っぽであることを知らせるような大きな音がなり、それは静かな部屋にやけに響いて聞こえた。
よし、彼女に連絡しよう。
これを口実に彼女を呼べばきっといつものように彼女は部屋を片付けるついでと言って私にご飯を作ってくれる。
そんなことを考えながら、先程までパソコンで行っていた作業を保存してからスマホでモモトークを開く。
「……?」
だが、開かれたモモトークには呼びたかった彼女の名前が……晴崎カリナの名前が存在しなかった。
一度モモトークを閉じてからアプリを再起動する、それでもカリナの名前がモモトークに現れることは無かった。
モモトークの連絡先をスライドしていくと、やがてアカウントが存在しませんと表示された名前と真っ白なアイコンがありタップすると以前の彼女とのやり取りがそこにあった。
「カリナ、もしかしてアカウントの引き継ぎミスった?」
カリナのスマホがそろそろ寿命を迎えそうだったなら買い替えることを以前に薦め、様々な機種のスマホをおすすめした事がぼんやりと思い出せた。
そこから導かれたのは、カリナがうまくモモトークのアカウントを引き継ぐことが出来ずアカウントが削除されることになっただろうという予測だった。
もし困っているなら、きっと私の家に来るだろう。彼女の友人の中で一番機械やデバイスには詳しい自信がある。
「仕方ないなぁカリナは」
そう思いながら、私はパソコンに向き直り先程までの作業の続きを始める。カリナが私の部屋を片付けてくれるようになったあの日のことを思い出しながら。
それはたまたまミレニアムに来ていた彼女が、私のデスクの上にならんだ妖怪MAX缶を見たことが始まりだった。今と同じような惨状の部屋を見たカリナは驚いた様子で目を見開くと、やばたにえん!と笑っていた。
『マージでやばたにえんwハレっちはこんなんで作業はかどるん?え、家もこんなん?マージマジマジーデ!?やばw、ウチで良ければ掃除いこっか?』
ミレニアムの皆みたいに、心配してくれたり掃除をするよう注意してくれるのとは違って、自分が掃除をと提案してくれたのは彼女が初めてだった。
部屋を片付けてくれる、そんな口約束をしてから少したった頃だったかな。
連休で家に引きこもって作業をしていた私は、徹夜で作業をしていたせいか、今が朝なのか夜なのか分からなかった、分かるのは部屋やデスクの上に積み重なる妖怪MAXパッションフルーツ味の缶が増え続けていることだけ。
ふと、部屋のインターホンが鳴った。何か注文していただろうか?そんな疑問を浮かべながら暫くぶりに椅子から立ち上がると、バキバキと体から音が鳴る。
いつもの事だと気にせず、玄関まで向かい扉をあける。
すると、部屋に外からの太陽光が差し込んでくる。どうやら今は朝と昼?の昼間のような時間帯らしい。
あまりの眩しさに片手で太陽光に片目を瞑る、そして扉を開けた先に居たのは何処かで買い物をしてきたのか大きめのトートバッグを肩にかけた晴崎カリナが立っていた。
いつとの連邦生徒会の制服ではなく、デニムのホットパンツに白いTシャツ着ておりその上から羽織った私服
『やっほーハレっち!隈やばすぎwどんだけ起きてたん?約束通り、掃除に来た!』
『え?確か、家の住所って教えてない……』
『あー、それはねヴェリタスのみんなに、ハレっちの家掃除にいく約束してたけど住所知らんってことでモモトークで教えて貰った~』
『こ、個人情報……』
ハッキングが得意な私が言えたことではないけど、ヴェリタスのみんな……これがギャル陽キャのコミュ力、恐るべし。
流石にモモトークでそのことを教えて欲しいヴェリタスのみんな、そう思いながら彼女を家へと招く。
『やばw家まで妖怪MAXだらけじゃん!』
『カフェインがないと、ね?』
『だからってここまで飲んで健康診断大丈夫なん?』
『う"……』
そんな風に聞いてくる彼女に以前に健康診断でカフェインの過剰摂取について注意されたことを思い出して思わず呻き声が出る。
『さては、ご飯もエナドリなんでしょ?』
『………』
『え?まじで?流石にそれは……』
普段の笑顔とは違いひきつった珍しい表情のカリナが見れたことに少しだけ嬉しく感じるのは、何故だろう。
『取りあえず、ハレっちはシャワーかお風呂入ってきて。そのうちに缶とか片付けとくから』
『……匂う?』
思わず来ていた服を鼻まで持ってきて匂いを嗅ぐが、特に問題はない筈だ。念のためそうカリナに聞くと、カリナは私へと顔を寄せてきて鼻を動かす、若干体温が上がり顔が熱くなるのを感じる。
『スンスン……服までエナドリの匂いしてない?むしろエナドリの香水してるん?とにかく、ずっと徹夜ならお風呂かシャワーで気分変えてきなって。あ、風呂で寝たら笑えんからね~』
すると彼女はトートバッグから缶用のごみ袋を取り出すと、近くの空き缶を袋へと放り込んでいく。
『えっと、じゃあお願いねカリナ』
『おけまるー!まかセロリ!』
カリナが掃除してくれている音をBGMに、私はお風呂に入りながら、ふと先程の彼女との会話を思い出す。
妖怪MAXの香水か………いいかも。
体を洗い髪も洗った私は湯船に体を沈める、身体中がお湯に包まれて暖かい。体温が上がっていくのを感じながら、私は今更ながら襲ってきた眠気にウトウトしてしまうが、そんな睡魔を起こすように腹が空腹を訴えてきた。
睡魔と空腹に襲われているが、家に客人がいる手前すぐに眠るのは……。
そんなことを思いつつ暫くは湯船に浸かってから湯船から出て、タオルで体と髪を拭いてから浴室を出る。
部屋着に着替えて、洗面所の扉を開ければ長年冷蔵庫以外使っていなかったキッチンの方からいい匂いがして、少し落ち着きを見せていた空腹……ここまできたら飢えだろうか?が暴れてお腹が大きな音を鳴らす。
思わずお腹を擦り、匂いのする方へ行けばエナドリが大量に入った袋が何個か部屋の隅に置かれ、キッチンのコンロ前でフライパンを振るっているカリナの姿があった。
『お、あがったんだねハレっち!気分はどう?』
『いい感じだけどカリナ、なにしてるの?』
『いやぁ、思ったより早く掃除が終わっちゃって。ハレっち、ご飯もエナドリで済ませてたって聞いたからなんかお腹いれた方がいいかと思って、勝手にキッチン借りてた!』
『え、でも家のキッチン何もなかった筈……』
『え?くるときカバン見たっしょ?食材かってあれに入れてきた!もうすぐ出来るから座って待ってローヨ!』
キッチンから近くにあるテーブルの椅子に座ると、カリナはフライパンの横にある小鍋の蓋を開けると、まな板の上にあった葱を入れてかき混ぜる。
ふんわりと鍋から漂ってくる匂いに、思わずテーブルに顔を突っ伏してしまう。
『お腹空いた、もう限界……』
『アッハハ!本当に空腹なんだねハレっち!まじ秒で出来るからねー』
顔だけ横にしてカリナを見る、楽しそうにフリフリと揺れながら料理する、あんな人が近くにいたら毎日がたのしいだろうなぁ。
そんな事を思っていると、カリナはカバンから大きな紙皿を取り出すと、そこにフライパンで炒めていた物を盛り付ける。
ようやく食べられる、そう思っていると先程まで炒めていたフライパンに卵と調味料をいくつかいれ始めた。
お預け、エサを待つペットってこんな気持ちなのかな?
少しすると、炒めていた物を盛り付けた皿の上にフライパンからとろとろとした卵がかけられる。別の鍋からお玉で掬った汁物らしきそれを底の深い紙皿に注ぐ。
『これでかーんせーい!』
その言葉に突っ伏していた体を勢いよく起こすと、カリナはこちらを見て可笑しそうに笑う。
『ハレっちヨダレ!ヨダレ!』
私の口許を指差すカリナの指摘に手で口許をぬぐうと少しだけヨダレがついていた。
思わず頬が熱くなるが、そんな私の前にカリナは持っていた紙皿を置いた。
フライパンで炒めていたのは炒飯らしい、更にはあんかけ卵がかかった炒飯と輪切りの葱が浮かび、ワカメとニンジン、水餃子らしきものが入ったスープが並んでいる。
『ウチ特製!五目どころか具沢山!あんかけ卵炒飯と水餃子スープの晴崎スペシャル定食!!おあがりよ!』
ドヤりと笑いながらカリナから渡されたレンゲスプーンを受け取った私は即座に両手をあわせた。
『いただきます』
そう言ってあんかけ卵と炒飯を掬って口に運ぶ。次の瞬間、口の中には熱々のあんかけ卵とパラパラとしたお米、小さく切られお米と食べたときに色んな食感を感じさせてくれるニンジンに葱、かまぼこ。大きくて食べ応えのある豚肉とプリプリとしたエビの旨味が口の中で広がる。
飲み込めば、まだ熱を持った食材達が喉を通って胃に届きじんわりと身体中が温かくなる。
『はふ!モグっはふ!はふ!モッキュ!』
『ふふふ、どうよ?ウチもいただきまーす』
そう言いながら自分の分を紙皿に持って私と反対側の椅子に座り、ニマニマと嬉しそうに笑うカリナを他所に私は炒飯を口に運ぶ。
熱い、当たり前だが出来立ての料理は熱い。
熱いのにもっと食べたいと言う欲が強くて炒飯を掬うスプーンの手が止まらない。
ふと、近くに置かれたスープが目に入りようやくスプーンを動かす手が止まった。
スープをスプーンで掬い口に含めば、温かくて胡麻油の匂いに鶏のだし汁を使った醤油ベースの味付けが更に食欲を刺激してくる。
皿の奥に沈んだ餃子を掬い上げて口の中で噛めばモチモチとした皮の中からは肉汁と一緒に餡がホロホロと崩れ出てくる。
美味しい、コンビニや冷凍食品とは違う温かい料理。
夢中になって食べていると、いつの間にかスープも炒飯も空っぽで大きな満足感と食事する前より増えた眠気に思わずボーッとする。
カリナが料理上手なのは考えたことがなかった、そもそも考えるほどに仲が良いとも悪いとも言えない感じの距離感であったから尚更だ。
それなのに、休日なのにこうして私の部屋を掃除しに来てくれた上にこうしてご飯まで作ってくれたの?
『アハハ、どうよハレっち?今回のはかなり自信作なんだけどぉ!?』
そう話しかけてきた向かい側のカリナの片手を気がつけば私は椅子から身を乗り出して両手で掴んでいた。
『結婚して』
『へ?は、ハレっち?』
あれ私、何をして?
『あ、ごめん。ぼーっとしてて』
『そういや、全然寝てなかったんだっけ?別にウチの事気にせず寝ちゃって構わんよ?』
『え、でも……』
『ウチの事は気にしなくていいから!ハレっちの体調が一番大事!料理の片付けだけして帰るから寝ちゃいなって』
『うん、ありがと……』
正直、眠気に勝てないし今すぐに布団へと潜りたい。睡魔に襲われながらも椅子から立ち上がって寝室に向かう。
暫く睡眠を取った私は目が覚めると、昼飯を食べてから5時間が経っていた。
そう言えばもうカリナは帰ったかな?そう思いながら寝室を出る、窓から差し込む夕日が時間の経過を視覚的にも教えてくれる。
キッチンの近くに置かれたテーブル、お昼にカリナが作ってくれたご飯を思い出し、グーッとまたお腹の音が鳴った。
『ちゃんとしたご飯……出前、それとも近くのお店に』
夕御飯をどうする考えていると、テーブルの上に一枚の紙が書いてあるのが見えた。
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ハレっちへ
これを読んでるってことは起きたってことだよね?おっはー!
ハレっちが寝てから追加で色々買ってきて勝手に作り置き色々作って冷蔵庫いれといたから、腐らない内に食べてクレメンス。
もしもの時は誰かにあげるのもアリ!
あんまエナドリばっか飲まないでご飯もしっかり食べなよ!
PS、妖怪MAX1本いただきまーす
カリナ
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冷蔵庫を開けば、妖怪MAXの他に作られたカレー、肉じゃが、にんじんシリシリ、ひじきの煮物、餃子、鶏ハム、モヤシのナムルなど沢山の料理が入ったタッパーが並んでいた。
『カリナ……すき』
あれから何度も家に来て貰った。
『また妖怪MAXだらけで草、仕方ないなぁハレっちは。でもこんなんで大丈夫?卒業して結婚とかしたら大変じゃない?貰い手いる?』
『う、別に最近は女性が働いて男性が家事するなんてのもあるし……それに、カリナがいてくれるじゃん』
『なにそれウケるwウチはハレっちのメイドか?それとも家政婦?』
『伝わらない……うーん、どっちも違うかな』
正直、言わせて欲しい。
生活力がなくて毎回任されたタスクをこなす頃には大量の空妖怪MAX缶を精製する私を、毎回掃除しにお家に通ってくれてご飯まで作ってくれて、更には数日分の作り置きを作って冷蔵庫にいれてくれる。
こんなの、すきにならない方が可笑しいよ……。
まぁ、まだ告白できてない私も私か……そう思っているとスマホの通知音が鳴り手に取るとセミナーのユウカからのモモトークがあった。
スマホを握る手と反対の手で妖怪MAX缶を口で運ぶ、そしてモモトークの内容に目を通した私は──。
「え?」
カン!という音が聞こえて我に帰る、先程までの手で持っていた筈の妖怪MAX缶はそこにはなく、慌てて床を見れば私の手からこぼれ落ちたと思われる缶が倒れ、中から妖怪MAXが流れ出していた。
普通ならすぐに拭こうとするが、何故か体が動かない。
モモトークの内容は、晴崎カリナが連邦生徒会とシャーレを辞め、更には愛銃であるあの白いサブマシンガンを売ったこと、髪を桃色に染めたことが書かれていた。
そして今、そんなカリナがミレニアムへと向かっておりそれをユウカと先生、ゲヘナ学園の生徒が追いかけているとの事だ。
「カリナが、なんで!?」
なんで連邦生徒会を辞めた?なんでシャーレも?それに髪を染めた?それに愛銃であるあのサブマシンガンを売った?なんで?
そんな疑問を浮かべつつ、慌てて床に流れる妖怪MAXをティッシュで拭く。
するとモモトークに追加でメッセージが来て、確認するとミレニアム学園周辺の監視カメラをハッキングしカリナが何処に行ったのかを探すことが出来ないかという先生からのお願いだった。
即座にモモトークですぐに行うことを連絡して、近くにあったモニターとキーボードに触れる。
「カリナ、絶対に見つけるから………」
なんでカリナがそんなことになったのかは分からない、とにかく今は彼女を探すこと優先しないと。
先生やユウカ、ハレが必死に晴崎カリナを探しているわけだが、そんな晴崎カリナはというと。
「ンアッー!!環境機体としかマッチングしません!ユズに全部任せて高跳びします!」
「フリーマッチなのになんで環境機体が来るわけ!?みんな自分の好きなの乗ろうよ!!」
「お姉ちゃん、そんなこと言ってるけど乗ってるの環境機体だよね?」
「仕方ないじゃん好きなんだから!それにこれ乗らないと勝てないんだもん!えぇい!機体の性能が勝敗の決定的な原因じゃないことをおしえてやるんだから!いっけぇぇええええー!やっぱフルバーストさいっこう!あ、ミドリごめん誤射」
「お姉ちゃん!!」
「……そこ!やっぱり初代のチャージ射撃しゅき♡あ、困ったら横格闘ふりゅ!」
「うわーん!アリスは完全にユズの足手まといです!もう考えるのは辞めて突撃します!」
「辞めなよアリス!スーパーアーマー突撃は避けられたら隙が大きいんだよ!?あ、ごめんミドリまた誤射」
「落ちた!?お姉ちゃん!!!次誤射したら、私自爆機体乗るからねお姉ちゃん!」
「ごめん私が悪かった!全面的に私が悪かったから自爆は!自爆だけは勘弁してミドリ!」
ミレニアムのゲームセンターでゲームをしていた。
五台並ぶゲーム筐体でずいぶんと賑やかな四人組を気にせず一人、ゲームのランク帯を潜って勝ち星をあげている。ちなみに、カリナが使用しているキャラは環境キャラでない上に技構成がトリッキーなプレイアブルキャラのせいか、先程から横でゲームする4人の内一人から凄いキラキラした目で見られているのだった。
……気まずい。
ご愛読下さりありがとうございます
報告でございますが、今回からサブタイトルを着けてみました。
そして皆様がこの作品をご愛読下さったお陰で、日刊ランキング2位に入ることが出来ました。
読者の皆様、誠にありがとうございます。
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