Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

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今回長めです。もうそろ一章終わりかなぁ


第17話 再会、そして交渉

「フェルトの奴のねぐらか。そんなら、そこの通りを二本奥へ行った先だ」

 

「ありがとよ。助かったよ、兄弟」

 

「気にすんなよ、兄弟。――その、なんだ、強く生きろよ?」

 

そう言って、苦笑いしながら軋む戸の向こうに中年の顔が消える。

終始、そのひきつった笑みから同情の色が消えることがなかったのを思い返し、スバルは己の作戦が通じていることにそっと拳を握った。

 

泥まみれの埃まみれで、貧民街の住人から見ても酷い風体の状態で。

 

「初回と二回目の貧民街経験から割り出した策だったんだけど……効果覿面だな」

 

「まさかここまで効果があるとはね。正直、驚いたよ」

 

言いながら、スバルは乾いた泥でカピカピになったジャージの袖を払う。

返すのは、スバルと同じく仕立ての良い黒灰色のロングコートを泥や砂埃で汚し、顔や髪にまで泥をつけたエリオットだ。

貧民街に辿り着き、フェルトの行き先を突き止める過程でスバルが思いついた妙案が、このみすぼらしい姿の演出であった。

 

一回目の世界で、エリオットの姉(もう長いからエリ姉)と貧民街を回ったとき、トンチンカンにズタボロにされたスバルに対して、住人たちの対応はそれなりの同情的で協力的だった。

二回目、さしたるダメージもない状態での冷たくすげない反応とは雲泥の差である。それを思い返して、今回は多少、オーバーなくらい見た目ではっちゃけてみた。

 

「ま、なんの動物のかわかんねぇウンコとか踏んだけどな」

 

「髪についたらと思うとゾッとするね」

 

危うくその上で転がらなくてよかった、と戦々恐々したところだ。

スニーカーの被害だけで済んで、名誉も命拾いしたというところだろう。

残念ながらスバルがそう思っているだけで、その汚泥にまみれた格好には名誉もなにも残っちゃいなかったのだが。

 

「今ので四件目の情報だけど……今のとこ、三つは一致してんな」

 

「だね。信用できるかな」

 

スバル達に同情し、提供された情報は全部で四つ。今のところ、フェルトの所在を示す意見は三つほどが一致している。住民が結託してスバルをはめようとしているわけでないのなら、それらの情報はおおむね正しいとみて問題あるまい。

外れの一件も、かなり残念なくらい耳の遠い老婆の意見だから、こちらを騙そうという意図はきっとなかったに違いない。メイビー。

 

「これで寝床というかねぐらは掴めたと思うが……問題は戻ってくるか、だな」

 

「…僕なら戻る。万が一追っ手がまだ追いついてきていたならそのまま盗品蔵に行くのはお爺さんを巻き込む可能性がある。あの子がそんな危険を犯すとは思えないし、一度は帰って辺りを警戒してそこからかな」

 

「フェルトがそこまで考えるか?」

 

「……考えないかも」

 

フェルトの普段の住処の情報は掴んだが、逃走を図っている現状、逃げ込んでくるかはかなり五分五分だ。追跡者に居場所が割れるのを恐れる場合、むしろ自分のねぐらは避ける傾向にあるかもしれない。――その場合、運がないとしかいいようがないが。

 

「考えてもしょうがない。答えが出ないことは悩まない、オーライ」

 

「そうだね。これじゃ堂々巡りだ。どうしようか、スバル」

 

迷っても仕方ないことは迷わない。スバルの決断力がここでも光る。

固まった泥を叩き落としながら、スバルは小走りに貧民街の奥へと向かう。最初、ここへきたときは聞き込みどころか、エリ姉の後ろから出られもしなかったのに成長したものである。自分で自分を褒めたい気分だ。エリオなら褒めてくれないかな。言ったら褒めてくれるか?あ、エリオは知らないのか。

 

「頑張った自分へのご褒美……またコンポタでも開けるか、っと」

 

「あ、すいません」

 

ビニール袋に手を突っ込み、中身を漁っている最中に通りに差し掛かる。と、その向こうからふいに出てきた人影とぶつかりそうになった。

慌てて身をかわして、細い通りに背中からぶつかる。思わず「うぐ!」と息が詰まる。そんなスバルを見て、ぶつかりかけた相手はおっとりとした仕草で、

 

「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」

 

「だいじょびだいじょび。こう見えても俺って丈夫なのが取りぇぇぇっ!」

 

「スバル大丈夫?こちらこそすいませッ…!」

 

見栄を張ろうと顔を上げて、相手を確認したスバルの語尾がすっぽ抜ける。そんな甲高いスバルの声を聞いて、黒髪の女性は小さく「ふふ」と笑う。

 

「楽しい子ね。それで本当に大丈夫?」

 

耳にかかる髪をかき上げる。ただそれだけの仕草がどこか艶めかしく、相変わらず挙動の一個一個がやたらとエロいとスバルは内心で思う。

仕草がエロい艶っぽい美人のお姉さん――絶対に再会したくなかった相手だ。

 

二度にわたってスバル、ロム爺、フェルトの腸をぶちまけ、エリオとエリ姉の腸も一度ずつぶちまけた相手――エルザが立っている。

 

「――そんなに恐がらなくても、何もしないのだけれど」

 

「こわ、恐がってとか、恐がってとかねぇですよ? なにを根拠にそんな俺をビビり君認定ッスか? マジ超ビビるんですけどー、そういうの凹むわー、なあエリオ?」

 

「……ええ、スバルの言う通りですよ。人通りの少ない路地裏でいきなり人に出くわしたので驚いただけです。ただでさえ、その人が貴女のような美人となれば尚更です」

 

「臭い……」

 

 虚勢を張るスバルを無視して、エルザはその双眸を嫣然と細める。

 「臭い?」と首をひねるスバルと片眉をあげるエリオットに、彼女はその形の良い鼻を小さく鳴らして、

 

「恐がってるとき、その人からは恐がってる臭いがするものよ。あなたは今、恐がっている。そっちのお兄さんは怖がってはないけれど、強い敵意ーー。……それから、二人とも怒ってもいるわね。私に対して」

 

いっそ楽しげにこちらの内心を暴露して、上目で見上げてくるエルザ。

そんな彼女に無言の愛想笑いで応じながら、スバルは早鐘の鼓動を殺そうと呼吸を深くしていた。

 

彼女の言は事実だ。

スバルは彼女が恐い。今、この世で恐い人間はぶっちぎりで目の前の女だ。

そして、この世で一番憎たらしい人間も目の前の女だ。

殴り倒せるものなら殴り倒したいと本気で思うし、それ以前に今すぐにこの場から逃げ出したくてたまらない。

二度も殺された相手だ。心底から震え上がる、そんなスバルを誰が笑えよう。

 

エリオットもおそらくスバルと同様だ。怖がってはいないようだが強い敵意を持っている。スバルと同じように憎くも思っている。

きっと彼は自分を殺したことに怒っていない。スバルやフェルト、ロム爺。果てには自分の預かり知らぬところで最愛の姉までも殺したことを怒っている。

彼の優しさはそれほどのものだ。

 

押し黙るスバル達に対して、エルザの瞳が蛇のように細められる。その視線に射竦められながらも、しかし目をそらすような弱気だけはさらさない。

彼女はそんなスバルの虚勢、エリオットの虚飾に唇を舌で湿らせ、

 

「……少し気にかかるのだけれど、いいわ。今は騒ぎを起こすわけにいかないから」

 

「お、穏当じゃない発言だな。あんましビビらせると美人が台無しですぜ?」

 

「不穏ですね。僕達に手助けできますか?」

 

「あら、お上手。ありがたいけど手助けも要らないわ。――二人とも敵意が隠せればもっと上出来よ」

 

伸びてきた指がこちらの額を軽く押し、それだけで硬直していた体が解放される。

息を吐き、肩を上下させるスバルと触れられる前に一歩飛び退いたエリオット、エルザはスバルに触れた指を唇に当てて、

 

「それじゃ、失礼するわ。また会えそうな気がするわね」

 

「次は明るくて人がいっぱいいる場所だと、俺もリラックスできるよ」

 

「出来ればお洒落で明るいところで会いたいですね」

 

そんな皮肉を言うのが精いっぱいだ。

エルザは悩ましげな微笑だけを残し、黒い外套を翻して路地の闇に溶ける。文字通りに闇に消えた彼女を見送って、スバルはドッと疲れを感じながら壁に身をもたれた。

 

「よそ……予想外の再会だったな、いやマジに。盗品蔵の前はこのあたりをうろついてやがったのか……」

 

「押し殺したつもりだったんだけどね…、敵意は消せなかったみたいだ」

 

エリオットも疲れたような吐息を落とす。

予期せぬエンカウントに心がへし折られそうになった。

心の準備という意味では、エリ姉以上の衝撃をスバルに与えた存在だ。できる限り、彼女と会うのは今回が最後であるのを祈りたい。

 

「フェルトのねぐらってこの奥だと思うんだが……まさか、すでにエルザが暴れたあとって可能性はないよな……?」

 

「さすがに仕事の前に騒ぎになりかねなようなことしないと思うけど…」

 

人の腹をかっさばいて快感に浸る変態だ。

待ち合わせまでの暇つぶしに、ちょちょっと二、三人刻んでいてもおかしくない。ましてや場所が貧民街の奥地ともなると、嫌な想像を駆り立てられてやまなかった。

 

「だ、大丈夫だろ、たぶん。血の臭いも返り血も見えなかったし、メイビー」

 

「だよね…?」

 

生ごみと腐臭で血の臭いはわからないし、暗くて血痕なんて見極める余裕は持てなかったけれど、きっとなかったと思う。思いたい。

 

駆け出す勇気はしばらく持てず、そろりそろりと忍び足で進軍を再開。

虫の羽音や中身の入った酒瓶に「ひ」とか「わひゃ」とか「ビビりすぎ」とか言いつつの捜索。

 

やがて小汚いボロ屋に行き着いたのは、エルザとの遭遇から五分後のことだ。

 

「情報じゃこれだと思うんだが……これ、人の住処か?」

 

「雨風凌げて寝られれば良いし。それに、普段は多分お爺さんのところに入り浸ってるんでしょ」

 

扉と思しき木の板の前に立って、スバルは思わず首をひねる。

目の前のボロ屋の大きさは、おおよそ工事現場などの仮設トイレ二つ分といったところだろうか。立って半畳寝て一畳を地で行く感じだ。

 

「いやまあそりゃ確かにそれこそねぐらっつーんだから、間違いじゃねぇと思うけどよ……」

 

それでも、あんな小さい女の子がここで暮らしているのかと思うと不憫に感じる。金にがめつい上昇志向も仕方ない、と許せるような気がしてきた。

 

「こんなとこで小さい体をよりちっちゃくして生きてるんだ。そりゃ性根がねじくり曲がってしまっても仕方がない。ああ、仕方ない。可哀想に。ああ、可哀想」

 

「人を憐れむのは良くないよ、スバル。それは相手を下に見る行為だから。…まああの子の性格が捻てるのは否定しないけれど」

 

「言いすぎだろ、胸糞わりーな。人の寝床見て、どんだけだよ、兄ちゃん。そっちの姉ちゃんもだ。性格のこととやかく言うんじゃねーよ」

 

と、可哀想+仕方ないの同情モードに入っていたスバルとなんだかんだ言いつつもどこか可愛そうだと思っていそうなエリオットも背中に声をかけられて振り返る。

視線の先、じと目でスバルを睨みつけるのは金髪の小柄な少女――フェルトだ。

格好、姿勢にはこれまでと違いがない。若干、いつも通りの小汚い格好がさらに薄汚れて見えるのは、よほど今回の逃走劇が熾烈を極めたということだろうか。

 

「なんでますます気の毒そーな顔すんだよ。そっちの姉ちゃんはちっさいガキでも見るような目ぇしやがって。薄汚い小娘だって舐めてんのか?」

 

「それとは別の感傷なんだけど……とりま、会えてなにより」

 

「立った状態で見ると思っていたより小さくて可愛いなって思って。きゃんきゃん吠える子犬みたいで」

 

「小さい言うな!それ褒めてねえからな!」

 

不快感を隠そうともしない少女に、スバルは思わず安堵に肩を落とす。

探していたフェルトの発見、それは素直に喜ばしいことだ。エルザとのニアミスがあってどうなることかと思わされたが、蓋を開けてみれば幸先はいいといえる。

 

スバルの呟きに対して、彼女は「はーー、なんだ、客か」と鼻を鳴らした。

彼女は油断ない姿勢でそのままこちらを見つめ、

 

「ここまできたってことは、アタシに用があんだろ? ……格好からして、ここの住人じゃなさそーだしな」

 

「お。俺を同類項扱いしないとは、見る目があんな」

 

「服装が変わってるって意味じゃない?」

 

「ここの連中でももうちょっと身綺麗にしてるっつーの。そんな汚してざーとらしすぎんだ。正直、うちの連中より小汚ぇよ今のアンタら。アタシ以上にな」

 

相変わらず、口の減らない小娘だなーとさっきの同情を早くも返上したくなる。が、彼女はそんな青筋立てるスバルの内心は無視して、「で?」と身を引き、

 

「用件は? 盗みの依頼なら前金出せよ。相手の質次第じゃ、追加貰うけどな」

 

「盗みの委託て……あこぎな商売してんな。手癖の悪さが自慢か」

 

「磨けば光りそうな気がするんだけどな。すごーく残念な生活してる」

 

「生きる手段の問題さ。これがなけりゃ、体でも売るしかねー。で、どーすんだ。それとも他の用事か? 場合によっちゃ……」

 

指を小刻みに動かし、手先の器用さをアピールしたフェルト。

その掌に、ふいに魔法のように小さなナイフが浮かび上がる。場合によっては、それを自衛の手段にするという戒めだろう。

実際、彼女とやり合う羽目になれば、刃物を持っている時点でスバルに勝ち目はない。足の速さで見失って、知らない間に『路地裏で刺殺BAD2』のルート回収だ。

おそらくエリオットも負ける。あれは優し過ぎてよっぽどのことがない限り女子供に手をあげない、いやあげられないタイプだろう。しかも彼の中で自分の価値が低い。スバルが刺されれば捕まえに動くだろうがそれだけだ。

 

「俺の用件はひとつ。――お前が盗んだ徽章を、こちらで買い取りたい」

 

「あっ…」

 

事ここに至って、余計な回り道は印象を悪くするだけだとスバルは判断。エリオットがやらかしたみたいな表情でいるのが気になるが。

近くをエルザが徘徊している危険も含めて、この商談を即行でまとめてしまいたい。その意図に反して、フェルトの警戒レベルは一段階上がってしまう。

彼女は徽章を仕舞っていると思しき胸元を手で押さえると、

 

「なんで、アタシが徽章をギッたって知ってんだ? 依頼人以外にゃ漏らしてねーはずだし、盗んだのはついさっきだ。小耳にはさむにゃ耳がでかすぎんじゃねーか?」

 

「言われてみりゃその通りだ焦りすぎだよ俺マジ迂闊!」

 

「スバルのバカ。ほんとーにバカ。迂闊過ぎ」

 

「……もうちょい腹の中隠さねーと交渉とかできねーぜ?兄さん、ちょっと突かれたぐらいでボロ出しすぎだよ」

 

うっかり失言に頭を抱えるスバルに毒気の抜かれた顔のフェルト。

彼女はしゃがみ込むスバルに膝を曲げて視線を合わせ、「それで?」と前置きして、

 

「徽章を買い取る、っつーのはどーいうことだ? もともと、これを頼んできた姉さんとアンタは別口だろ? 商売敵かなにか?」

 

「商売敵っていやぁ商売敵と言えなくもない、かもわからないこと山の如し?」

 

「スバルは意味わかんないから僕が。厳密には違うけどそれで良いよ。お相手さんの手に渡っちゃったら都合が悪いんだ」

 

「ふーん。まあアタシにとっちゃどーでも良いんだけど」

 

どう言いくるめるかと頭を悩ませるこちらに対し、彼女はあっけらかんと笑う。その懐から取り出されるのは竜を象った徽章だ。

フェルトの手の中で、その赤い宝玉を光らせる徽章。彼女はそれを見せびらかすようにしてスバルの前にぶら下げ、

 

「アタシとしては買い取り価格が高い方に売りつけるだけだ。依頼反故で向こうの姉さんが怒る可能性はじゅーぶんあるけどな」

 

「そのキレ方が半端じゃない可能性もあるんですがー。いや、それはこっちの話だけど」

 

「万が一でも今度は油断しないから」

 

わざわざ交渉が難儀になるような話はさて置き、スバルは改めて咳払いしてから真剣な顔を作り、

 

「んじゃ、交渉には乗っかってくれるってこったな?」

 

「儲かる可能性のある話ならなんだって聞くさ。たりめーだろ?」

 

「たくましいこった。……こっちにゃ聖金貨で二十枚以上の価値があるものを用意してる。その条件で、お前の徽章を買い取りたい」

 

「必要なら更に上乗せする用意も出来てるよ。どう?」

 

ぴくん、とフェルトの白い耳が動き、その赤い瞳の瞳孔が猫のように細くなる。表情は動かなかったものの、尻尾をバタバタ振っているのが見え見えでむしろ微笑ましい。

彼女はその疑似ポーカーフェイスのまま腕を組み、

 

「へー、なるほど。けっこーな値段付けてくれんじゃん。アタシの苦労も報われるよ。……でも、アンタの商売敵もそんぐらいの値段できてるぜ?」

 

「嘘こけ、聖金貨十枚の取引きだろ。欲かくと死ぬぞ、いやマジに」

 

「知ってる子が死ぬのは嫌かなぁ、ほどほどで退くのが吉だよ」

 

実際、一回目の死因はそんな感じと予想される。死因:強欲だ。

正確な数字まで当てられては誤魔化せないと思ったのだろう。フェルトはスバルの言葉に軽く目を見開いたあと、仕方なさげに頭を掻き、

 

「んだよ、そこまで知ってんのかよ。……そーだよ、聖金貨十枚だ。といっても、交渉相手が出たと知れたらもっと出すかもしんねーけどな?」

 

「そっちは嘘じゃねーぜ?」と唇の端をつり上げる推定十四、五歳。

すれてんなぁ、とそのふてぶてしさに一定の感心をしつつ、スバルはこのまま優位の状況で交渉を進めようと意気込む。

 

「素直にこっちで手ぇ打っておけ、って言っても聞かないんだろうな」

 

「依頼主さんの五倍分ぐらい出すって言ってもダメ?」

 

「たりめーよ。…五倍っつったら揺らぐけどよ。ってか、そもそもアンタらのさっきの話も眉唾だ。アタシの耳は聞き間違えちゃいねー。アンタは聖金貨二十枚じゃなく、その価値があるものって言った。手札が一方的に知れてんのは不公平じゃねーかな、交渉としては」

 

「交渉までにどんだけ手札を用意できるかってとこに器量が現れるもんだと思うが……こっちの手札を切らなきゃ判断つかねぇのも事実だしな」

 

「んー、僕の方はここでカードを切ることは避けたいんだけど」

 

「俺が見せるからいいよ」

 

ごねられて時間が経過するのも避けたい。

スバルは結論して、その懐から交渉のキーアイテムである携帯電話を取り出す。

小型の機械の出現に、フェルトはほんのわずかに眉をひそめるだけだ。相変わらず、金銭に直結していないと薄い反応しかしない子である。

 

「それが聖金貨二十枚か? アタシにゃ手鏡かなんかにしか見えねーが」

 

「これは巷で大流行の『魔法器』ってやつだ。時間を切り取り、凍結させる。さあ、受けて見るがいい――NATUKIフラッシュ8連射!!」

 

連続シャッター機能をオンにして、機械的な撮影音と光が連発。

白光が裏路地を切り裂き、まともに光を浴びるフェルトが音と輝きに「うわぉう!」と女の子らしからぬ悲鳴で反応。

前回よりまともなリアクションに気を良くしつつ、スバルは文句言いたげな顔を浮かべる少女に画面を突きつける。赤い双眸が驚きに見開かれる。

 

「これがこの『魔法器』の力だ。こうして精巧な絵を残すことができる。さらにPRさせてもらうと世界に一個だけの貴重品。さあ、どうよ」

 

「楽しそうだねぇ、スバル」

 

ドヤァ、と鼻を長くして見下ろすスバルに、フェルトは「ふむふむ」と鼻を鳴らす。しげしげと手の中の携帯電話を眺め、一通り見回してから納得の頷きを作り、

 

「……嘘、じゃなさそーだな。でも、これがアタシか? きれいに世界を切り取るって言うんなら、アタシはもっと美人だと思うぞ」

 

「素材はよさそうな気がするけど、こんだけ飾り付けが酷いと何とも言えねぇな。……身綺麗にして、ちゃんとしたおべべとか着せたら化けそうなヨ・カ・ン」

 

「だよねぇ。汚れが目立つし服装も良くない。似合ってはいるんだけど質が良くないな。髪も傷んでるし、スバルの言う通り素材自体はかなり良いんだけど全部台無しになってる。例えるなら料理に失敗して焦がしちゃったお高い良いお肉」

 

「上から目線なのと語尾が腹立つ……姉ちゃんに至っては兄さん以上にボロカス言うし……姉ちゃんはともかく兄さんにはなんかぜってー見せたくねー」

 

「あ、やった」

 

「ホワイ!?」

 

いらぬ反感を買ったところだが、フェルトの様子は好感触そうだ。

もっとも、そんなこちらの思惑に簡単には乗らないのが、この貧民街の住人のたくましさの所以でもある。

扱いの差に驚愕するスバルにフェルトは意地悪く笑い、

 

「ただし、物珍しさは認めるけどどんだけの金になるかは微妙だぜ? 言っとくが、交渉相手の意見を丸呑みして、これが聖金貨二十枚だなんて甘い蜜を信じてやるほど頭が空っぽってわけじゃねーんだ」

 

「……それはまぁ、当然だろな。俺としては脳みそスポンジでも全然構わねぇんだけど、第三者の意見は必要ですことよ実際」

 

「人数的には三人居るんだけどね」

 

ペースと勢いで持っていければ幸いだったが、そうもいかないだろうというのは予測の範囲内。問題は『善意の第三者』を誰にするか、なのだが。

 

「この貧民街の奥に、盗品蔵って場所がある。名前のまんまの場所なんだけど、そこにいる偏屈爺さんに聞くのが手っ取り早いだろーさ。物を見る目は公平だぜ? それなりに場数も踏んでっから、『魔法器』見ても判断つくだろーし」

 

「やっぱ、そうくるよなぁ……」

 

「それしかないしねぇ……」

 

そして、フェルトがそう提案してくるだろうことも予想されたことだった。

彼女からすれば盗品蔵はエルザとの待ち合わせ場所でもあり、荒事になった場合に頼れるボディーガードジジイのいる拠点でもある。

『魔法器』というカードの鑑定眼も含めれば、その選択肢以外はあり得ない。のだが、盗品蔵に到着する前に決着しておきたいのがスバルの心からの本音であった。

 

「そのジジイに見てもらうのはまったく反対しねぇんだけど……」

 

「会ったこともない相手をいきなりジジイ扱いとか、会って後悔するかもしんねーぞ? 意外とおっかねーんだよ、礼儀知らずには」

 

「きっと大丈夫。そのあたりスバルも当人の前で言わない程度には分別あるよ」

 

「子供扱い!?…まあいい、そのわりにはその爺さんも口悪い小娘にミルク出してやったりとか甲斐甲斐しいような……」

 

これは明らかに余談だが、やっぱり孫可愛がりみたいな気分があるんだろーなと予想。

ともあれ、問題は相手でなく場所である。

 

「呼び出せたりしねぇかな、外に。ほら、なんなら俺のケータイ使っていいから」

 

「精巧な絵の保存以外に何か出来るの?」

 

「って押し出されてもわけわかんねーよ」

 

「ですよねー。メモリにも家族とその他しか入ってねぇし」

 

あとは寂しいメモリ数の水増しに、警察署・消防署・救急車・時報・天気予報などのラインナップが並ぶ。思わず『ドヤァ』となってしまうボッチぶりだ。

 

「なにを問題にしてんのかわかんねーけど、急ぐならとっとと盗品蔵に行こーぜ。ホントはちょいちょいやりたいこともあったんだけど」

 

「やりたいことって?」

「やりたいこと?」

 

「いや、意外と持ち主が根性入ってて、逃げ切るの大変だから妨害工作。ちょっと金渡せば喜んで周りの連中がやってくれっからさー」

 

「よし行こうすぐ行こうパッと行こうちゃちゃっと行こう」

 

「そうだねすぐ行こう今すぐ行こう時間がもったいない絶対追いつかれないようにしないと」

 

歩き出すフェルトの肩をスバルが、フェルトの背を押すスバルをエリオットが後ろから押して、強引に盗品蔵への道を急ぐ。

「なんだよー」と頬を膨らませる彼女を急がせながら、スバルは無駄な被害が減らせたことに自分で自分達にGJ。

徽章を追いかけるエリ姉の邪魔など、小銭目当てで貧乏くじ引くにも程がある。氷塊ぶつけられて悶えるくらいなら、空腹抱えて家で寝てる方がマシだろう。

 

「ただし、ちゃっと見てもらってスパッと終わらせてバシッと出るかんな」

 

「うん、一瞬で見てもらって秒で取引して早く解散しよう」

 

「兄さん達、なんでそんな焦ってんだよ。汗ダラダラだぜ、強く生きろよ」

 

「貧民街だとみんなそれ言うんだけどなんか合言葉なの!?」

 

強く生きろ、じゃなくて強かに生きろ、に言い直した方がいいと思う。

そんな思惑も置き去りに、四度目の世界で三度目の盗品蔵へ。

 

――すぐに出る。もうダッシュで出る。ワンチャンエリオットを置き去りにしてでも出る。

 

胸中をそんな決意で燃え上がらせて、スバルは強く目の前の背を押した。

 

「いてーっつの」

 

「痛い!」

 

「いてっ」

 

 蹴られた。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「大ネズミに」

 

「ホウ酸団子ってどこで売ってんの? 毒」

 

「ホウ酸団子って何?毒」

 

「スケルトンに」

 

「意外と掘るのって労力いるよな。落とし穴」

 

「僕は使えないけどドーナ系統使えれば楽だよ。落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「ファンタジー世界だから実際いるんだろうけど、マジ直接対面したらなんにもできないこと請け合い。でもロマンだから会いたいのも事実。そんな曖昧な自分の心に嘘をつくこともできなくて、ところがそんな自分がやっぱり嫌いじゃない。クソったれな気分」

 

「一応ルグニカに住む国民としては言わない方が良いんだろうね。というより姉さんに怒られちゃうから僕はパス」

 

「余計な枕詞つけんと合言葉も言えんのか! 余計に腹立たしいわ!」

 

扉が内側から蹴破られるように開かれるが、それを予期していたスバルは素早く後方に飛びのいてノーダメージ。エリオットは心配するまでもなく最初から当たらない位置にいる。

悔しげに喉をうならせるのは、入口の高さに身長が噛み合っていない巨人――こちらも見慣れたハゲ頭のロム爺だ。顔を真っ赤にして、血圧が高そうな有様。

 

「あんま頭に血ぃ上らせてると血管切れるぜ。現代医学でもかなり危険」

 

「強いお酒たくさん飲んでるみたいだしもう手遅れじゃない?」

 

「体に悪いとわかっとるなら怒らせるんじゃないわ!酒じゃって余計なお世話じゃ!なんじゃお前ら!今日は人払いしなきゃならんから入れんぞ!入れんぞ!ざまー見さらせ!」

 

大人げなく地面を踏み鳴らすロム爺。だが、そんな彼のしてやったり顔を覆したのは、

 

「あー、悪い。コイツらもアタシの客なんだ。入れてやってよ、ロム爺」

 

スバルの背後に隠れていたフェルトだった。

彼女はがっくりと肩を落とすロム爺を同情的な目で見て、それからしらっとした顔で口笛など吹いているスバルを横目に、

 

「アンタ、かなり性格悪いな。控えめに言って最悪だ」

 

「なんかからかいたくなる性格なんだよな。いじられてこそ光るタイプというか……Mだと発覚したはずなのに、俺はやっぱりSっ気もあったのか……攻守万能だな!?」

 

「えむとかえすとか、スバルが何言ってるのか分かんないけどきっとくだらないことなんだろうな」

 

「知らねーし知らなくてよさそーだから深く聞かねー。上がるぞ、ロム爺」

 

うなだれるロム爺の横を抜けて、フェルトが当たり前のように盗品蔵へ。

説明を求める視線を無視され、ロム爺は困惑顔をスバルに向けた。そんな皺だらけの顔にスバルはうんうんと頷きかけて、

 

「マイペースな奴はこれだから困る。俺らみたいな一般人は置き去りだぜ、なあ?」

 

「僕らを一般人だなんて言うなら世界から一般人じゃない人は一割未満になるんじゃないかな」

 

「言葉の定義付けからやり直したいとこじゃの……とっとと入れ」

 

なにもかもを諦めたように投げやりに、ロム爺は巨体を小さくして中へ戻る。その背中に続いて、埃っぽい盗品蔵の空気に歓迎されながらスバルとエリオットも中へ。

ちらりと警戒しながら視線を中に送るが、幸いにもエルザやエリ姉が先に待ち構えているというような事態は起きていないようだ。

呑気にカウンターの上に腰掛けて、フェルトは他人の住居で自分の家よろしくミルクを勝手に傾けている。視線に気付き、

 

「なんだよ。冷えてんのはこれ一本だ。やんねーぞ」

 

「ふてぶてしすぎて神経ぶれねぇな、お前。俺は酒でいいよ、爺さん」

 

「じゃあ僕もスバルと同じものを貰えると嬉しいな」

 

「お前さんらも相当図々しいな!分けん!分けんからな!」

 

のしのしと床を軋ませて巨体が走り、カウンターの向こうの酒蔵らしき木箱を視線から守ろうとする。憐れみさえ誘う動揺に、スバルは「冗談だよ」と小さく笑い、

 

「なるほど、酒はそこか。場所さえわかればこっちのもんだぜ……」

 

「スバル、盗むのはダメだよ、飲みたいなら買わなきゃ。一本いくら?」

 

「本音が漏れとるぞ!盗品蔵の主から酒を盗もうなぞ、極悪の下をいくな!?そして小娘!いくら積まれても売らんからな!?」

 

「そんな……照れる。それに盗むときは自力じゃやらねぇよ。フェルトに依頼する」

 

「そうだね。フェルトちゃん、一本いくらでやってくれる?」

 

「ゴメンな、ロム爺。依頼されたら断れねーわ。あんま難しくなさそうだし一本銀貨三枚でいいぜ」

 

「味方おらんのか、ここって儂の家じゃなかったかの!?」

 

そろそろ本気で血管が気にかかるので、ロム爺いじりはここまでとする。

興が乗り始めていたらしきフェルトは不満げだったが、スバルは愛想笑いだけで彼女に応じてカウンターへ。

固定椅子に座ると、時間も惜しいとばかりにさっそく本題へと入る。

 

「さて、爺さん。横道それたけど、本題に入りたい」

 

「だいーぶ脇道走ったのは自爆な気がしてならんが……なんじゃい」

 

「頼みたいのは鑑定、って感じになるかな。俺の持ってきた『魔法器』に値段をつけて、それをフェルトに対して保障してもらいたい」

 

「後で僕が切れるカードの方も鑑定お願いするね」

 

話が商談ともなれば、ロム爺の灰色がかった瞳が真剣味を帯びる。

彼は確認するようにフェルトを見やり、彼女の肯定の頷きを見ると視線を戻した。

その瞳が鑑定品を求めているのが伝わり、スバルも懐から携帯電話を取り出す。メタリックな見た目がまずその興味を惹き、大きすぎる手の中にあってはまさしく玩具のような機器を繊細な指触りが確かめるように撫でた。

 

「これが魔法器。さしもの儂も見るのは初めてじゃが……」

 

「たぶん世界に一個しかない。あと、わりとデリケートな機械だから扱いには注意。ぶっ壊されるとマジで死ななきゃいけないレベル」

 

「壊されちゃったらマズイね。取引だけならどうにかなると思うけど」

 

やり直し的な意味で。エリオットに全頼りになるのもなんかイヤだ。申し訳ないような感じがする。

しげしげと外装を確かめるロム爺が、折り畳み式のケータイをゆるやかに開く。起動音がして最初の驚きを誘い、さらに待ち受け画面が二発目の驚きを誘発。

 

「この絵は……」

 

「タイミング的にちょうどいいかと思ってな。効果のほどを見せつける意味で、フェルトちゃんの一日――を待ち受けにしてみた」

 

待ち受け画像は先ほど撮影したフェルトの画像の中の一枚だ。

一番可愛く撮れたと思えるものをチョイスしたので、画質の良さもあってそれなりに見れる絵になっていると思う。

ロム爺はその画像とすぐ脇でミルクをすするフェルトを見比べ、

 

「これは驚いた。こんだけ精巧な絵を描けるもんはおらんじゃろうな」

 

「時間を切り取って、そこに封じ込める魔法器さ。人の手によるもんじゃ、到底できない綺麗さだろ? なんなら爺さんも撮影するけど」

 

「興味はあるが、おっかない感じもするのぅ。命とか取られんか?」

 

「やっぱどの時代のどの世界でも、写真見て思うのはそういう迷信なんだな……」

 

大正以前みたいなリアクションのロム爺。その傍らで寿命関連の話題に耳を尖らせるフェルト。彼女らを安心させるように「撮影されても八十まで普通に生きる」と答えて、そのカメラ機能でロム爺を撮影。

出来上がった画像を見て、「ううむ」とうなるロム爺。

目の前でこれを見せられれば、ケータイの性能実験としては十分だろう。もともと、このケータイに対するロム爺の好感触は、実体験から保障されたものなのだし。

 

「これは確かに恐れ入ったわい。もしも儂が取り扱うなら、聖金貨で十五……いや、二十枚は下らずにさばいてみせる。それだけの価値はある」

 

売人としての職人魂が刺激されたのか、やたらと瞳を輝かせるロム爺。

盗品を売りさばく職人、という甚だ誇りに思うべきか微妙な職業ではあるものの、その太鼓判は素直に心強い。

スバルはフェルトに顔を向け、思わずわき上がるドヤ顔で鼻を鳴らし、

 

「とまぁ、俺の手札はこんな感じだ。宣言通り、聖金貨で二十枚以上の品物。これでお前の徽章との物々交換を申し込みたい」

 

「その顔、ちょいちょい挟むけどムカつくなぁ」

 

こちらの思惑通りに事が進むのが面白くないのか、フェルトは不満げな顔つきだ。が、それでも自分の懐が温かくなる事情には代えられないのだろう。

彼女の視線はロム爺の掌の携帯電話に向き、

 

「ま、それが金になるって保障がついたのは素直に嬉しいさ。聖金貨二十枚ってのも疑わないで済みそーだし。アンタの手札は了解した」

 

「だろ!? んじゃ、交渉成立ってことで。うまく売るのはそっちのやりようだ。ガンバ! それじゃ俺らは急ぐんで、ここらで失礼させてもらおうかと……」

 

そそくさとフェルトに歩み寄り、「ん」と手を出して徽章を求める。

しかし、その掌は上からやんわりと取り下げられた。

眉を寄せるスバルに、至近まで顔を近づけてフェルトは、

 

「ちょっと待て。なんでそんなに急いでんだ?」

 

「急いでるとか、そんなこと別にねぇですよ? あ、あとあんま顔、近付けんな」

 

「なんだよ。女の子の顔が近いと照れちゃうタチか?」

 

「いやお前、何日か風呂とか入ってねぇだろ。目に沁みる刺激臭がする」

 

顎を真下からブン殴られる。

のけ反って、舌を噛んだ激痛にスバルは涙目。

続けてエリオットにも横っ面を引っ叩かれる。

 

「女相手に容赦ねーな!?」

 

「お前もちょっとした軽口に容赦ねぇな!?エリオもだ!殴ることねえだろ!早くも流血沙汰だよ!」

 

「スバルが悪い」

 

わりと盛大に口の中を切って、鉄の味に嫌な感覚が呼び起こされるスバル。

割と本気で怒ってそうなエリオット。

フェルトは顔を赤くして、自分の肩にかかる金髪を顔の前に持ってきながら、

 

「そんな臭うかな……」

 

「大丈夫だよフェルトちゃん、全部このバカ(スバル)が悪い」

 

「照れ隠しの口先、って言ってやりたいけど。俺って自分に嘘はつけないっ」

 

ぽんぽんとフェルトの頭を撫でるエリオット。

涙目のまま顔を背けて、その場に膝から崩れ落ちて女々しい泣き姿のアクションをするスバル。その芸の細かさにフェルトは怒りを通り越し、軽く指で額を支えながら深呼吸。

 

「わかった、ちょっと待て。話を戻そう。落ち着いて、冷静にな」

 

「話を戻す、か。そうだな。とりあえず、寝床の環境を整えるところから始めるのがいいと思うぜ。あそことかちょっと生ゴミ多いから、寝てるだけで臭いが染みつく……」

 

「アタシの臭いの話から離れて、もうひとつ戻ってみよーぜ!?」

 

「……お前、も……足が、出るの、早いよ……エリオ、も…追撃……要らねえ、だろ……」

 

照れ隠しに出た前蹴りが、位置的にしゃがんでいたスバルの顎をクリーンヒット。舌こそ噛まなかったものの、二度目の衝撃に止まってすらいなかった血が再出血。そして再び炸裂するエリオットの追撃。

 

「血ってあんま飲み込んでると、すっげぇ気持ち悪くなんだぞ……」

 

「それに懲りたらもっと真剣にアタシとの対話に応じろよ。んで、話を戻しに戻した上でもう一回聞くけど、なんでそんなに急ぐんだよ」

 

表情から怒りの感情を消して、努めて冷静な顔つきで問いかけてくるフェルト。

空気を読んで無言のロム爺に助けを求めるも叶わず、スバルは仕方なく肩をすくめて、

 

「人生ってのは有限なんだ。一秒一秒を大切に、無駄を極力省くことで……」

 

「あー、はいはい。そーゆーのはいいんで。つかさ……」

 

語尾を濁らせて誤魔化そうとするスバルをフェルトが流す。

彼女はその赤い瞳を細めると、淡々とした態度でついに核心を突いた。

 

「そもそも、なんで兄さんらはこの徽章を欲しがんだよ?」




エリオットは基本女性…というより大抵の人に優しいです。子供ならなおさら。
ただし姉を傷つけるような人間は速攻排除しますが。
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