良いよね、ギザ歯。
コンコン!
「エミリア姉さん、僕だよ。入るね」
姉の部屋に入れば、まだ心地好さそうに布団の中で丸まっている姉の姿が見えた。
「エミリア姉さん、朝だよ。起きて」
姉の肩を掴んで優しく揺すれば、可愛らしい声を上げて目を覚ました。
「んん…ふわぁ…おはよう、エリオ」
「おはよう、エミリア姉さん。良い朝だね」
「うん、今日も起こしてくれてありがとう。パックにも起きて貰わなくちゃ」
「おはよう、リア、エリオ」
灰色の小さな子猫のような精霊が現れ、銀髪の少女に挨拶をする。
「おはよう、パック。もう起きてたんだ。私、びっくらこいちゃった」
「おはよう、パックさん」
「エリオが扉をノックしたタイミングで起きたよ」
「起こしてしまいましたか?」
「いいや。ちょうど良かったよ」
「ねぇ二人とも、私だけ仲間はずれみたいでちょっと嫌だわ」
パックとエリオが会話をしていると、ヤキモチを焼いたようすでほおを膨らませたエミリアが割って入った。
「ごめんね、リア。そんなつもりは無かったんだけど」
「ごめんね、エミリア姉さん。悪気があったわけじゃないんだ」
「ふーんだ。二人のことなんか知らんプイプイなんだから」
「ごめんね、悪かったよ。なんでもするから許してくれない?エミリア
「…もう、ズルいわ。エリオったら。私がお姉ちゃん呼びに弱いからって」
すぉ不貞腐れたようにエミリアが言う。
「あはは、まあ、なんでもお願い一つ聞くからさ」
「しょうがないから許してあげる。そのかわり今日から一週間、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでね」
「わかったよ。エミリアお姉ちゃん」
「〜♪」
久しぶりのお姉ちゃん呼びがよほど嬉しかったのか、ぱたぱたと揺れる尻尾が幻視出来るほどにわかりやすく上機嫌になっていた。
「そうだパック、今日の髪型は?」
「(ーパックさん、久しぶりにハーフアップのエミリア姉さんが見たいですー)」
「(ー良いね、そういえば最近見てないやー)」
「今日はハーフアップにして貰おうかな」
「わかったわ。エリオ、手伝ってくれる?」
「任せて。エミリア姉さ」
「お・ね・え・ちゃ・ん」
「…エミリアお姉ちゃんの素材の良さを引き出してなおさらに可愛く見えるようにとびっきりに仕上げるから」
十数分後、エミリアの髪は丁寧に櫛で梳かれ、香油で香りづけされ、繊細な編み込みで飾られていつにも増して輝いていた。
「ー会心の出来」
エリオットが満足げに息を吐けば、
「素晴らしい、やっぱりリアの髪はエリオに整えてもらうのが一番だね」
と、パックが感嘆の息を漏らす。
「これだけはまるで敵いませんわ」
「本当に一体どれだけの研鑽を積めばここまで出来るんでしょうか…」
「もはや芸術といっても差し支えないかもしれないわね」
と、いつのまにか来ていたフレデリカ、レム、ラムの三人のメイドたちも賞賛する。
「ありがとう、三人とも。機会があればみんなの髪も整えるけど。特にフレデリカさん、君の長い髪は色んな髪型に整えられそうだしいつかやってみたいな。今の君も十分可愛いけど、きっともっと可愛くなると思うんだ」
「!?? ま、またっ、今度、お願いしますわ…///」
「姉様、姉様、エリオット様は無自覚なのでしょうか?」
「レム、レム、きっとあの朴念仁は自分が口説いてることにすら気づいていないわ」
「罪作りな息子だよ、まったく」
「エミリア姉さ…お姉ちゃん、何言ってるのか分かる?」
「ううん。私も分かんないわ」
顔を赤くしているメイド一人、同僚の心配をするメイド二人、息子に呆れる猫型大精霊一匹、なんのことやらまったく分かっていない双子の姉弟。
そんな朝から今日も新しい一日が始まった。
「おはようございます、メイザース辺境伯」
「おはよう、ロズワール」
「おはよう、エリオット君、エミリア様。あーい変わらず君はわーぁたしを名前で呼んでくれないねーぇ、エリオット君?」
食堂に降りてピエロのようなメイクをした男と挨拶を交わす。
「僕はあくまでもエミリア姉さ…エミリアお姉ちゃ …姉の要望で食客扱いされているだけですので」
「そーぉかいそうかい、でもわーぁたしは君が名前で呼んでくれる日を待っていーぃるよ」
「エリオもそんなに意地張らずにロズワールを名前で呼んであげれば良いのに」
「そんなに簡単な問題じゃないんだよ、エミリアお姉ちゃん」
「さて、朝食をいただこう。ーー木よ、風よ、星よ、母なる大地よ……」
「「「「ご馳走さまでした」」」」
「とーぉころで、エリオット君」
「なんでしょうか?」
「うーぅちのメイド長の様子が朝から何処か変なんだけど君は何か知らないかなーぁあ?」
「だ、旦那様!?」
「フレデリカさんですか?特に何も知りませんが」
心底不思議そうにエリオットは言う。
「ふーぅむ、ラム?」
「その朴念仁…もといエリオットさまが朝からフレデリカを口説いていたのでそのせいかと」
「ら、ラム!」
「ラムはこう言ってるんだけど、なーぁにか心当たりはあるかーぁな?」
「強いて言うなら今度髪を整えさせて欲しいと言いました」
「ふーぅむ」
ちらりとロズワールがラムに視線を向ける。既にラムの隣に立っているフレデリカは赤くなり始めている。
「『今の君も十分可愛いけど、きっともっと可愛くなると思うんだ』と」
「なーぁるほどねーぇ。どうりで。エリオット君、うちのメイド長を口説くのはやめてほしいんだーぁがねーぇ」
「そんなつもりは無いんですが」
「じゃあどういうつもりで言ったのかな?」
「口説くも何も、普段から思っていることですし。フレデリカさん可愛いじゃないですか。長い金髪も綺麗だし、澄んだ緑の目も宝石みたいで。彼女は気にしているらしいですけど、高い背丈だって鋭い歯だって可愛らしいと思う。僕はフレデリカさんのこと好きですよ」
「フレデリカ様?大丈夫ですか?」
「何かおかしいことを言いましたか?」
そう言ってエリオットは小首を傾げて尋ねる。
それとほとんど同時にフレデリカは真っ赤になって倒れた。
「ぷっ、ふふ、あははははは!君はいーぃ男だねぇ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
「? よく分かりませんがとりあえずフレデリカさんを部屋に連れて行ってきます。このままだと風邪ひきますから」
そう言うが早いかエリオットはフレデリカの膝裏と脇に腕を入れて抱え上げた。
「失礼します」
そのまま大食堂から出て行った。
「ふふふ、あーおかしい。彼は本当に無自覚なのかなぁ」
「きっとアレは無自覚なのよ。半獣人の娘が不憫でならないかしら」
「ベティの言う通り、ボクもアレは無自覚だと思うなあ。自覚したら動けなくなるタイプと見た」
「ラムも大精霊様がたと同意見だわ。フレデリカが自分から押していけばすぐね」
「レムも姉様と同じです。フレデリカ様もエリオット様も押されると弱いタイプだと思いますます」
「まさかみーぃんな同意見とはねぇ。二人が進展するのはいつの日か」
「ねえパック、みんな何のお話してるの?私ちんぷんかんぷんなんだけど」
「んー、そう遠く無いうちにボクに孫が出来るかもしれないって話」
「えっ?エリオ赤ちゃん産むの!?」
「そういうことじゃ無いんだけどなぁ」
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「ん…ここは…」
「ああ、フレデリカさん。起きた?」
「え、エリオット様!?なぜここに!?」
あまりの驚きに淑女らしからぬ声が出てしまいました。顔が、お顔が近いです!掛け布団で顔を隠し…このお布団の匂い、いつもわたくしが使っているものと違いますわね。
それに…わたくしはなぜこんなところにいるのでしょう。朝食の準備を終え、大食堂で配膳を終えたあたり以降の記憶が曖昧ですわ。
「ごめんね?大食堂でフレデリカさんいきなり倒れちゃってさ」
…思い出しましたわ。わたくしは、フレデリカ・バウマンは、まるでなんの臆面もなく大勢の目の前でわたくしを好きだと言ってのけた
このいっそ女性的なまでの線の細い美貌を持った男性が、、顔のせいで恐れられることはあれど異性として見られることなどついぞなかったわたくしをあそこまで褒め、好きだと言ってくださったのです。しかも表情一つ変えず当たり前のことであるかのように、自分が気にしている鋭い歯のことも可愛いなどと。喜ぶなという方が無理があります。わたくしだって一人の乙女なのです。褒められれば嬉しいに決まっていますわ。
「最初はフレデリカさんの部屋に運ぼうとしたんだけど、未婚の女性の部屋に許可もなく上がるのは良くないよなぁって思って」
つづく言葉で思考の海から現実に引き戻されました。わたくしを運ぶ?どうやって?アーラム村のどの女性よりも背丈の高いわたくしを?担いで?背負って?抱えて?まさか、まさか恋愛小説にあるような「お姫様抱っこ」というもので!?
それにここがわたくしの部屋でないことが確定してしまいました。ではどなた様のお部屋でしょうか?
「も、もしかして…」
「本当に悪いとは思ってるんだけど、僕の部屋に連れてきちゃった。イヤ…だったかな?」
「いえ、そういうわけでは…」
予想が当たってしまいました。嬉しいやら恥ずかしいやら。この感情はなんと表現すれば良いのでしょうか。
「ホント!?良かったぁ〜、フレデリカさんに嫌われちゃったら悲しいから」
そう言って笑顔を浮かべたエリオット様が、とても眩しく見えました。彼は普段はからよく微笑んでいる方です。ですが、今の浮かべられた太陽のような、輝くような眩しい笑顔を見たのは初めてでした。胸の奥をぎゅうっと掴まれたような気がいたしました。
「あのさ、フレデリカさん、もっと食べた方がいいと思うよ?抱き上げた時に思ったけどちょっと軽すぎると思う」
「ッッッ〜〜〜〜〜!! 女性に体重のことを言うのはマナー違反ですわ!」
「あぅ…ごめんよ…」
まったくこの人は…!口説いているかのような言葉を並べたかと思ったら今度は変なところで抜けてますわ!
よく見てくれている人だとは思っていました。しっかりお礼を言ってくれる人であることも分かっていました。。でも、ここまでまっすぐ褒めてくれたことはありませんでした。異性から好きだと言われたことも…残念ながらわたくしの記憶の限りではございません。自分でもチョロい女だとは思います。
でも、ああ、きっとわたくしは、この人に恋をしています。今彼がわたくしに向けてくれている「好き」はきっと親愛の意味なのでしょう。でもいつか、必ず恋愛の意味で好きだと言わせてみせますわ!
「あ、言い忘れるところだった。フレデリカさん、今日は寝てて良いってラムさんとレムさんから許可とってきたから。その代わり明後日の買い出し二人で行くことになったから、当日はよろしくね」
「えっ!?」
恋心を自覚したら逢い引きが決まってしまいましたわ。
双子のメイドにお礼を言った方が良いのでしょうか?
フレデリカ好きです。
巨女、ギザ歯、くせっ毛、メイド、巨乳、癖詰まってるよね。
スバル君の初見の反応から考えるに女の子扱いされたことも少なそうだし、押されると弱そうなところも好きです。
というわけで今作のヒロインはフレデリカちゃんです。
主人公が朴念仁の天然ジゴロなのでフレデリカちゃんにはさっさと惚れてもらいました。
付き合い始めたら甘々になるぜ。ウヘヘ…