Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

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第20話 親友。そして来たるはーー、

「さすがは“白”と言ったところかしらっ?」

 

「そこまで避けといてよく言うよっ!!」

 

盗品蔵の中を影が駆け回り、その影を追う様に白い光芒が幾条も降る。

影は露出度の高いぴったりとした服を着た黒髪の女。片手に大振りな内反りのナイフーーククリナイフを持って多少焦った様に、それでもなお楽しげに逃げている。

対して白い光芒を放つのは紺色の髪をした女性の様な顔立ちをした青年だ。髪は普段の下ろしている状態から掻き上げたオールバックの状態で、アメジストの双眸を細め端正な顔に猫科の大型獣の様な雰囲気を纏う。その指先で圧倒的な熱量を秘める熱線を幾条も操り攻撃している。

 

「マジかよ…」

 

「あっちの小僧っ子、あそこまで強かったんか……」

 

「当然よ。エリオはロズワールと打ち合えるぐらい強いんだから!私の可愛い弟は戦っても強いのよ」

 

愕然とするフェルトとロム爺に少女が返す。無理もない、なんならスバルもかなり驚いている。一応2回目でエリオットの戦いぶりは見ているがあの時よりも強く見える。

銀髪の少女も弟を褒められて自慢気だ。

 

「僕の腸を見たいんじゃなかったの?近づかなきゃ見れないよ?」

 

「近づこうにもあなたの魔法が邪魔なのよ。当たったら死んじゃいそう」

 

「死んでくれても構わないけど?」

 

「嫌よ。少なくともあなたの腸を見るまでは死ねないわ」

 

雨の様に降り注ぐ熱線の中、二人の男女はなんでもないかの様に会話をしながら戦っている。

と、エリオットが雨あられが如く降りそそがせていた魔法が止む。

そして薄く笑い、掌を上に向けて指を曲げ伸ばしして挑発し、

 

「君の得意でやってあげる。おいで」

 

「ありがたいわね。それじゃあ遠慮なく」

 

「完膚無きまでに叩き潰してあげるよ」

 

魔法の使用を止めたエリオットにエルザが襲いかかる。

腹部に向かって鞭の様に振るわれる黒い刃。一般人であれば一撃で腹を割かれて腸を晒していただろうそれは、半歩下がられた事で空を切る。

さらに返す刃が首を狙って逆袈裟に振るわれる、がエリオットが刃ごと腕を上に跳ね上げさせることで当たらない。

そのまま腕を跳ね上げられた事で出来た隙に叩き込まれるのは腰だめから放たれる正拳だ。

放たれた正拳はエルザの腹部に突き刺さり、彼女の体をくの字に曲げて吹き飛ばす。

 

「早く戻っておいでよ。もう終わりだなんて言う君じゃないだろう?」

 

「けほっ、女に対しても容赦無いのね」

 

「女性だからといって手加減するのは失礼だと思わない?」

 

「ええ、そうね。私も手加減なんてしていられないわ。ここからは本気でいかせてもらうわね」

 

「じゃあ僕も切り札の一つを見せてあげる。早く終わらせよう。僕は早く家に帰って姉さんを寝かせてあげないといけないんだ。健全な発育に悪いからね」

 

「私との蜜月の途中に他の女の話なんて連れないわね。ここからだっていうのに!」

 

エルザが新たにククリナイフを取り出し、両手にそれぞれ構え、エリオットに襲いかかる。

肉を割かんと振るわれる双頭の影。ほぼ同じタイミングで振るわれる二本の刃は、一方が防がれても次の瞬間もう一方が喰らいつく。先程までよりも攻撃後の隙がなく、避けようと防ごうと次の刃が襲いくる。相対するのがスバルどころかロム爺であっても、一秒と掛からずなます切りにされて血の海に沈んだだろう。

 

しかし、相対しているのはスバルでもロム爺でもない。

 

「あら、情熱的ね」

 

「君が殺しに来ないのならあるいは友達にはなれたかもね」

 

散歩でもするかの様に近づいたエリオットが、エルザの両手首を掴んでいた。

 

「悪いけど、このナイフは折らせてもらうよ。というわけでお待ちかねの切り札だ。ーーウル・アクラ」

 

エリオットの体から白金の光が噴出する。それはまるで夜明けの太陽のようで、硝子細工のようなエリオットの美貌と相まって人外のような美しさだった。

他より見慣れているであろう銀髪の少女も含め、盗品蔵にいる全員が彼の美貌に目を奪われていた。

 

次の瞬間、エリオットの腕がブレる。

 

ブレた後、止まった指先には根本から折り取られたククリナイフの刃が挟まれていた。

 

「投降してくれるなら衛兵に突き出すだけで終わったあげるけど、どうする?」

 

その中性的な声が盗品蔵に響き、床に捨てられた金属が高い音を奏でて初めて、止まっていた盗品蔵の時間が動き出した。

 

「っっっ………!!!悔しいけれど今の私じゃ勝てないわね」

 

「投降してくれる?」

 

「残念だけどお断りさせてもらう、わ!」

 

エルザが脚を蹴り上げる。エリオットに向けられたものではない行動。相手も理解しているであろう力の差。圧倒的優位の状況が生む僅かばかりの慢心。故にエリオットの反応が、ほんの一瞬、遅れてしまう。

 

それだけで十分だった。

 

氷の靴で強固になったしなやかな脚で蹴り飛ばされた、今しがた折り取られ捨てられたばかりのククリナイフの刃。

それが未だ見惚れて惚けているフェルトの命を食い破らんと牙を剥く。

 

「フェルトォーーーーーッッッ!!」

 

エリオットは反応が遅れたせいで間に合わない。ロム爺と銀髪の少女はは距離を取っていたのが裏目に出て間合いが遠い。そしてフェルトは心を奪われたまま、迫り来る凶刃に気づかない。

 

「はいだらぁぁぁぁぁぁーーっ!!」

 

とっさにその小柄な体を抱きかかえて飛べたのは、すぐ傍らで縮こまっていたビビりがひとりだけだった。

 

 

 

 

 

 

腰あたりに飛びついて、軽い体を抱き寄せながら地面を転がる。

床にぶつかる寸前に、鋼が後頭部の髪を焦がしていったような気がして総毛立つ。も、腕の中の重みを理由に無理やり気のせいにして、転がるままに距離を取った。

膝立ちの状態で振り返ると、驚いた顔をして立ち尽くしているエルザ。彼女から一本取ってやったような気がして、してやったりとひきつる笑みで勝ち誇る。

 

そのスバルの笑みにエルザは動きかけたが、背後から迫るエリオットの裏拳に回避へ移行。

 

「フェルトちゃん、本当にごめん!気づくのが遅れた!スバル、ほんっっっとにありがとう!君がいなけりゃ終わってた!」

 

「おう!そっちの女は頼む!」

 

「っ!ああ!」

 

エリオットの援護に感謝しつつ、スバルは己の胸の中を見下ろし、

 

「大丈夫か!? 必死だったんだから、変なとこ触ってても大目に見ろよ!?」

 

「それ言わなきゃ素直に感謝したってのに。――っつか、どうして」

 

「知らねぇよ!体が動いたんだよ!マジ奇跡!メイクミラクル!しいて言うならお前は知んねぇだろうけど、これで貸し借りはなしだかんな! かんな!」

 

フェルトを解放し、スバルは拳を握りしめて自分の行動にどうにかGJ。

二回目の世界で、エルザの凶行から助けてようとしてくれたフェルト。その借りを彼女に返すことができた。この世界では意味のない記憶で、けっきょくはスバルもフェルトも彼女の凶刃の前に倒れることになってしまったのだが。

 

――それでも、受けた恩義は消えてなくならない。そして動けたのならば、このあとにしなくてはならないことも決まっている。

 

「よし、どうにか動く。いっぺん死にかけて逆に覚悟決まったか。空元気でも元気、蛮勇も勇気。やる、やるとき、やらねば、やるべし、やったらんかい!」

 

「お、おい、兄ちゃん……」

 

「よく聞け、リッスンミー。いいか、フェルト。俺は今から、エリオットと一緒に時間を稼ぐ。どうにか隙の一個でも作ってみせっから、その間にお前は逃げろ。わき目も振らずに入口から全力疾走。エスケープだ、いいか?」

 

「――!よくねーよ!なんだそりゃ、アタシにケツまくって逃げろってのか!?」

 

赤い双眸が睨むように見上げてくるのを、スバルは顔を近づけて受けて立つ。

一瞬、こちらの気概にフェルトが怯んだような顔をするのを見逃さず、

 

「そうだ、ケツまくって尻尾巻いて逃げちまえ。本当なら俺がそれやりてぇんだぜ。こんな暴力空間、一秒だって長居したくねぇよ」

 

その金髪を力任せに撫でつけて、スバルは「でも」と息継ぎし、

 

「お前は十五で、俺は十八。たぶん、お前が一番年下ってことになる。したら、お前が生きる確率が一番高いとこを選ぶのが当たり前だ。当たり前なんだよ」

 

「な、んだよそれ……ふざけんな、さっきまでぶるってた癖に」

 

「さっきはさっき!今は今!今、ぶるってねぇからそれでよし!っつか、思い出して動けなくなる前にやるんだよ。っつーわけで、逃げろや」

 

まだ反論したがる額を押して黙らせ、スバルは屈伸しながら立ち上がる。まだ動くことは出来ない。考えろ、どうすればエリオットの手助けになるかを。

戦闘を続けるエリオット達に意識を向けるーー。

 

 

 

 

 

「……お兄さん、あなた、自分が狙われたときより遥かに反応が遅かったわね」

 

「…‥だったら何?」

 

「否定はしないのね。驚いたわ、あなたを殺すにはあなたを狙うんじゃなくて、他の人を狙って守りに動かさせた方がいいだなんて」

 

エルザは面白そうにエリオットの弱点を唄い、艶めかしく一息いれてもう一度口を開く。

 

「ごめんなさいね、お爺さん達。あなた達には彼を殺すための的になってもらうわ」

 

「……武器無しでそれが出来るとでも?」

 

「何のことかしら?」

 

エルザがどこからか新しいナイフをさらにひと振り引き抜く。

 

「……チッ」

 

「さしずめ第三回戦、といったところね。悪いけど今度からは周りの人達の命もベットしてもらうわ。手始めはあなたが大切にしているらしい銀髪の女の子から賭けてもらおうかしら?」

 

「……やってみなよ。傷一つつけられると思わないで」

 

「やってみないと分からないわ。さあ、あなたのはらわたを見せてくれる?」

 

腹立たし気に分かりやすく怒気を込めて応えるエリオット。心底愉快だとでも言うように楽し気に笑うエルザ。

二人の戦いが再び始まった。

 

 

 

 

「ッッッーーー!」

 

「やっぱりさっきよりもはるかに鈍いわね。でもあなたはみんなを助けないわけにはいかない。これなら“白”たるあなたとも戦えそうだわ!」

 

エルザの投げる小さな投げナイフがスバル達に牙を剥く。目にも留まらぬほどの高速戦闘、その中でほぼ無音で、なおかつ死角に近いところから放たれる小さな凶刃。小さいながら当たればかなりの負傷は覚悟しなければならない程の危険性を持つ凶刃は、認識してから回避や防御をすることは困難でその度にエリオットが弾きに走る。

 

その隙を突いて、機動力を落とそうとエリオット手足を狙って切りつけるエルザ。今のところきちんと回避し、迎撃の拳や蹴りを返すがヒットアンドアウェイに徹しているエルザに目立った外傷は見られない。

 

……ただそれだけなら良い。問題は、少しずつ、本当に少しずつだがエリオットの息が上がり始めていることだ。

 

再生能力を持つエルザと違い、エリオットには体力の限界がある。

このままでは、いつかエリオットが凶刃に倒れ、一度目や二度目と同じ結末を辿ることになるだろう。

 

あがる土埃に紛れ、またエルザの手から凶刃が飛ぶ。

ロム爺の頸動脈を切り裂かんとしたそれを飛び出したエリオットが叩き落す。

 

「ぬぅ、すまん…」

 

「良いから出来るだけ小さくなってて!」

 

「残念ねぇ!守らずに放っておけばあなたは楽になるのに!」

 

「それは出来ない相談だ!」

 

 

正面、エリオットと戦うエルザの動きによどみはない。もともと、隙があるかどうかなんて実戦経験の皆無なスバルにはわかるようなものでもない。

意識がこっちから外れたと確信できるタイミングで、声も上げずに奇襲をぶちかますのが選択肢としては最良だろう。

 

しかしそれは簡単ではない。スバル達はエルザにとって大切な勝利へのカード。「()()()()()()()()()()()()()の致命のナイフ」がエルザにとって最も重要なカードである以上、一人の離脱も見逃すことはないだろう。

 

なら?「()()」を絞る事が出来れば?エリオットは動きやすくなり、フェルトの逃走の一歩になるのではないか?

結論にたどり着いたスバルの行動は早かった。

 

「エリオ!」

 

「何!スバル!今忙しい!」

 

「楽にしてみせるから気合入れてくれ!」

 

「頼む!」

 

「動かさせるわけにはいかないわ」

 

「っっーーーー!」

 

ナイフを銀髪の少女に投げた上で、スバルに対して振り下ろされる小さな投げナイフではないナイフの攻撃。峰打ちゆえに死にはしないが間違いなく深く気絶することになるだろう一撃がスバルを打つーー。

 

「戦いの最中に他の女の話だなんて無粋だって言ったのは君じゃなかった!?」

 

「ッッッーーーーー!!」

 

その寸前、投げナイフを叩き落としたエリオットがエルザをパックが空けた穴の方向へ蹴り飛ばす。

 

「スバル、お願い!」

 

「おう!爺さん、フェルト、こっちに来てくれ。そっちの君もだーー」

 

エルザが吹き飛ばされている内に、スバルはカウンター裏に全員を集め、一番大きいロム爺の影に隠れさせる。

 

「これで良し、後は…」

 

「これ儂が一番狙われやすいんじゃないか?」

 

「我慢してくれ爺さん。女の子達を危険に晒すつもりか?」

 

「むぅ…」

 

「俺は…あっちに瓦礫で死角が出来てる。あそこに隠れるか…。フェルト、俺が出てこの後隙を作る。その間に飛び出して大通りまで逃げろ。こんなかじゃお前が一番小さくて速い。全力で逃げろよ」

 

と、足下に転がっているのはロム爺の手を離れた棍棒だ。

えっちらおっちら持ち上げると、やたら重いが振れないこともない。

 

「牽制ぶちかますのに使えるな。……無駄にでかい素振り用の竹刀、毎日振ってて正解だったぜ。まさかこのときのためだったのか、やるな俺」

 

自画自賛して棍棒を振り、エルザが復帰する前にスバルは瓦礫の影に移動する。

背後で息を詰めたフェルトはまだなにか言いたげだったが、彼女の躊躇に付き合っている暇がない。

エリオットとアイコンタクトで通じ合い、準備は出来た。命を賭ける覚悟も出来た。今はただ、息を殺してタイミングを見計らう。

 

 

 

「お帰り。帰って来ずに死んでくれてても良かったんだけど」

 

「随分と吹き飛ばされてしまったわ。ーーああ、あの人達は一つに固まってしまったのね。お爺さんが一番前で他の子達を庇ってーー。失敗したわ。」

 

「持つべきは勇気ある友だね。僕に優秀な友達がいたことを恨むと良い」

 

「ええ。きっとその子も綺麗なはらわたをしていることでしょう!」

 

エルザがまたエリオットに斬りかかり、エリオが迎撃の体制をとる。エルザの視界が完全にこちらを死角に入れた瞬間、スバルは瓦礫の影から飛び出して呼吸すら忘れて棍棒を振り下ろしていた。

 

「――ふし!」

 

火事場の馬鹿力が出たのか、振られる棍棒の速度は予想以上の加速度。

直撃すれば人間の頭部をスイカのように割り砕いたろう一撃はしかし、

 

「狙いは上々。でも、殺気が出過ぎてて見え見えなのが残念」

 

「殺気か! それの制御方法は知らねぇや!」

 

「そんなの感知されちゃあ敵わないな!」

 

真後ろからの打撃に対し、エルザは刃の峰で棍棒を叩き、軌道をそらして回避を実行。奇襲失敗の負け惜しみを口にしながら、しかしスバルは牙を剥き、

 

「今だ! いけよ、フェルト――!!」

 

「――――ッ!!」

 

スバルの叫びに弾かれるように、フェルトの矮躯が風に乗って駆け出す。

速度は一歩目からトップスピードだ。まさしく目にもとまらぬ速さで室内を駆け抜け、脚を引っ掛けかねない穴も凍結した床も踏破し、少女の体は出口を目指す。

 

「行かせると思う?」

 

それを真横から阻むのは、エルザが懐から抜き放った投げナイフだ。

通算何本目になるか分からないシンプルな装飾のそれは真っ直ぐに、逃走するフェルトの背中を狙い撃っている。が、

 

「行かせてほしいなってのが願いだ!!」

 

真横にあったテーブルを蹴り上げて、スバルはそのナイフの進路を阻んだ。

反射的な行動は結果に結びつき、ナイフは跳ねたボロ机に突き立つことで役目を果たせない。内心で自分のミラクルぶりに思わず喝采。して、

 

「すげぇ! でも思いのほかつま先が痛……ぶふがるっ!?」

 

長い足に側頭部を蹴り飛ばされて、自己賛美の言葉が中断、壁に激突させられる。

肩口からぶつかっておかげで頭は無事だが、予想外の威力に思考が停止。遅れてやってきた痛みと、口の中を再び盛大に切って血の味のリフレイン。

 

「珍しく、少しだけ腹立たしいと思ったわ」

 

「むかっ腹上等! ははーん、ざ・ま・あ・み・さ・ら・せ! まんまとひとり、逃がしてやったぜ! この調子で、レッツエンジョイ負け犬気分!」

 

立ち上がって気丈に振舞い、エルザの注意を惹くように挑発+煽りまくり。

性格的に大した効果は見込めない作戦だが、彼女はスバルの意を汲んだように微笑みを深く刻み、逃げるフェルトを完全に意識から外した。

 

「いいわ、乗ってあげましょう。その代わり、ダンスの退屈はさせないでね」

 

「言っとくが、俺と踊るなら覚悟しろよ。教養ねぇからバンバン足踏むぜ」

 

好きなあの子と繋げなかった、フォークダンスを思い出して若干の精神ダメージ。

口の中に溜まる血を吐き捨てて、手放していなかった棍棒を握り直す。

そう何度もチャンスのある武器ではない。それこそ、ロム爺と同じ運用など考えず、接近してくるエルザを迎え撃つのみに心血を注ぐのみ。

 

「ーー二回目だね。もう一度言おうか、僕を忘れるなんて心外だよ」

 

「ッッッーーーーー!!!」

 

スバルの正面からの相対。それに向かい合うエルザに、再び耳元で囁くように声がかけられる。

忘れて良いはずのない強者。後ろから囁かれた声にエルザが振り向く前に、エリオットの後ろ回し蹴りが肩口に突き刺さり、骨が砕ける音と肉が千切れるような音と共に吹き飛ばされる。

人間が食らえば肩口から逆の脇腹にかけて間違いなく裂かれてしまうだろうと思わせるほどの一撃。

 

されどスバルは知っている。エルザが高い再生能力を有していることを。

 

「ーーああ、今のはとても痛かった。あれほどの痛みは久しく感じていないわ」

 

土煙がはれれば、そこには頰を恍惚に染め、艶めかしい吐息を漏らすエルザが立っていた。

 

「勘弁してよ。どれだけ殴れば倒せるんだ…自信無くす……」

 

「これでも立ってくるとかマジかよ…。エリオ、なんかもっと纏めて消し飛ばすような技ない?」

 

「……一応無くはない…あと姉さんも持ってる…」

 

「おお!頼む!」

 

「使っても良いけど、僕の場合使うまでにかなり時間がかかるからその間耐えて貰う必要が。それと僕にしろ姉さんにしろ、まず使うと使用者以外は何も残らないかな」

 

「まだやれる!まだやれるよ!カード切るの早いって! なんでそこで諦めちゃうの!こっからこっから、まだまだイーブンだよ!ファイト俺!」

 

手足をばたつかせて健在ぶりをアピールし、エリオットが全てを諦めるのを必死で阻止。そんなスバルの必死の形相に、戦いの最中だというのに青年はわずか唇をゆるめ、

 

「やらないよ。まだこんなに一生懸命、スバルが頑張ってるんだ。足掻いて足掻いて足掻き抜く。――全部終わらせるのも、姉さんに頼むのも、最後の手段なんだから」

 

仕方なさそうに、そう語る友人の表情を見て、スバルの中でなにかが灯る。

らしくない感傷だと、今の自分の中に込み上げる感情を顧みてそう思う。

 

らしくない、まったくもって、本当にこんなのは自分らしくないのだ。

いつだって周りに無関心で、あらゆる事柄に影響を与えず、どんな問題が立ちはだかろうとマジメにぶつかることを選ばず、ただ漫然と雲かなにかのようにうつろう。

誰かに期待することも、逆に期待されることも、全部全てなにもかも、どうでもよかったはずなのに。

 

――今、期待してしまっている。期待したから、失望してしまっている。

 

どこか諦めたような顔で、思いつめたような顔で笑うこの世界で初めての友人(エリオット)が許せない。そんな顔をさせる殺人鬼(エルザ)が許せない。この友人は、もっと楽しそうに微笑むヤツなのだ。重度のシスコンで、お人好しで、初対面同然のスバルのために命をかけてくれるほどに優しいヤツなのだ。

 

そんな大切な親友が、姉やスバル達を守る為なら自分の命も捨て去りそうな気配を纏っている。

それがスバルはこれ以上なく嫌だ。

 

「ノーカウントだ……」

 

「――え?」

 

「さっきの俺の言葉はなし! 全部なし! マジ燃えてきた、バーニング!! やってやるぜ、クソだらぁ! 切り札なんざ、絶対に切らせねぇ!!」

 

指を突きつけて、この場の全員にに宣言する。

足を踏み鳴らし、唾を飛ばして、感情のままに吠えたける。

 

「んな面すんじゃねぇよ、エリオ!美人が台無し!姉ちゃんに良いとこみせるんだろ!そんでもって、そんな面させてんじゃねぇよ、空気読めや、サディスティック・オブ・ジ・イヤーが!美人が台無しアゲイン!」

 

「……元気が有り余っているようね」

 

「今回は一回も流血沙汰してないかんね! でも、今宵の棍棒『虎鉄』はお前の血に飢えてるぜ? ふん! ふん!」

 

その場で棍棒をバットのようにフルスイング。

重さに引っ張られておたおたとふらつくスバルに、エルザはククリナイフを向けて、

 

「おふざけはもうけっこうよ。踊りを始めましょう。ちゃんとついてきてね」

 

「お前の方こそ、早々に沈むんじゃねぇぜ。右投げ左打ち、舐めんなよ」

 

軽く身を前に傾けるエルザに、ホームラン予告のように棍棒を突きつける。

そんな余計なアクションのせいで、飛び込んでくるエルザへの最初の対処が遅れる。慌てて棍棒を構え直し、飛んでくる細身を迎え撃つアクション。

 

豪風は横殴りにエルザに襲いかかり、その側頭部を吹き飛ばしにかかる。

容赦ゼロのフルスイングは惨劇覚悟の渾身の一発、直撃すれば一部挽肉になってもおかしくない威力だが、

 

「そんな慈悲ってて勝てる相手か!」

 

状況の切迫さがスバルに手加減の心を忘れさせる。

致死性の高い打撃に対し、しかしエルザは慣れた動きでさらに姿勢を低くし、それこそ地を舐めるような移動でこれを回避してきた。

 

「蜘蛛女が――!」

 

「糸に絡め取られたのは間違いないけれどね」

 

伸び上がってくる刃が見えて、とっさに体を後ろへ倒す。が、追ってくる刃の攻撃範囲からはまるで逃れられていない。

瞬きすら忘れそうになる刹那の瞬間、スバルの脳裏をよぎったのは自分が初めて二本の足で畳みの上に立ち、両親が「この子は天才かもしれない」と手を叩いた記憶。

 

「走馬灯な上に今の状況顧みると申し訳なくなることこの上ない思い出――!!」

 

思い出を原動力に恥辱が膝を跳ね上げる。

狙いも付けずに放たれたそれが、真正面に滑り込んできていたエルザの胴体を打つ。

「ふぅっ」と艶めかしい苦鳴が聞こえて、刃の進路がわずかにぶれた。そこへ、

 

「エリオ!――ナイスカバー!!」

 

「ありがとう、スバル。心のどこかで諦めかけてた――君がいるなら僕はもう負けない」

 

「何お前無自覚!?口説いてんの!?」

 

突き出された凶刃がスバルの顔面を切り裂くーー寸前にエリオットがエルザの肘を下から蹴り上げ骨が砕ける異音と共に刃を妨ぐ。お礼を言いながら飛びずさるスバルにエリオットが止まっていた理由と思いを述懐。

直後のスバルの言葉に彼は疑問符を浮かべ、そのまま蹴り飛ばされた瓦礫と熱線がエルザへの牽制を再開する。

 

「羽虫がそろそろ目障りになってきたわ。――落とし所かしら」

 

「おうおう、虫けら舐めんなよ。刺されてかぶれても知らねぇぞ!」

 

「誰のこと言ってるのか分かんないけど僕らの心情の解説なら及第点だね」

 

弾幕避けに集中するエルザ、その集中を乱してやろうと挑発するスバル。瓦礫をエルザに向けて蹴り飛ばしながらスバルに続いて煽るエリオット。

本来ならばスバル弾幕に紛れてエルザの背中を狙いたいのだが、うっかり攻撃に混ざろうとするとフレンドリーファイアしそうでなかなか踏み出せない。

エリオットの援護が、スバルが攻撃に移った際に薄いのもそれが原因だろう。

いわゆる、即席チームならではのチームワークのなさである。

 

「しかし、そんな二人も共に試練を乗り越えることで互いの絆を深めていく。いつしか信頼は家族を紹介するまでになり、親友を超えて彼らは義理の兄弟に………」

 

「アクラのおかげで聞こえてるからいうけど、誰にも姉さんを渡すつもりはないから。少なくとも僕より弱い相手になんざ渡すつもりはない」

 

「女を前にして、別の女のことを考えるなんて、野暮なことこの上ないのだけれど」

 

「まさかの二人からのブーイング!!」

 

連撃の最中にもどこか余裕のあるエルザ。

瓦礫を弾くその動きを目で追い、たまに割り込んで一撃離脱を繰り返しながらスバルは思考することをやめない。

 

じり貧の状況に変化はなく、瓦礫がなくなりエルザの自由度が上がれば、スバルが一度目や二度目のようにあっさりと撃沈されるのは火を見るより明らかだ。

 

こうしていくらか『打ち合えて』いるのは、彼女側が自分を超える強者であるエリオットを警戒しているからにすぎない。+スバルのビビり思考があと一歩、致命的な範囲への侵攻を躊躇わせているのも要因のひとつだ。

もしもスバルが勇猛果敢など素人なら、一太刀でこの均衡は終わっていたろう。

 

とはいえ、そんな小心っぷりが有効に働くのもそう続きはしない。

次第に斬撃の苛烈さは増し、スバルの緊急回避も間に合わずに切り傷が増える。

二の腕、ふくらはぎ、脇の下、かろうじてうなじと浅い傷が増え始め、灰色のジャージにも止まらない出血で血痕が目立ち始めていく。

 

「切れるの痛ぇ! 超痛ぇ! こんなにしょぼい傷で泣きそうになるわ!」

 

「――やっぱり駄目かな。スバルにも下がって貰って僕一人で」

 

「あ、ごめん!嘘!今のなし!だか下がらせようとするのやめて!まだやれるよ!全然マジマジ超余裕ッス!」

 

手を振ってエリオットにかっこつけ、その直後に回し蹴り。

これまでの棍棒パターンから一転、奇をてらうのが目的の格闘技だ。が、

 

「はい、掴んだ」

 

「げ」

 

「スバルッ!」

 

蹴り足がゆうゆうと避けられ、おまけに通り過ぎる前に軽く掴まれる。振り上げるククリナイフはスバルの上がった足の付け根を狙っており、勢いはばっさりと足を切り落として余りある速度と鋭さ。

大腿部切断による出血と痛みのショック死――BADEND4の文字が見える。

 

「ぬおおお! 燃え上がれ俺の中のなにかーーー!!」

 

とっさに利き手が掴む棍棒をガードに回すが、重いのと片足立ちのハンディキャップで間に合わない。

エリオットが駆け出し始めるが一歩間に合わない、斬撃が容赦なくスバルの足に到達。

激痛と鮮血の予感に文字通りに血を吐く絶叫を上げ――、

 

「――そこまでだ」

 

屋根を貫き、盗品蔵の中央に燃え上がる炎が降臨する。

焔はすさまじい鬼気でもって室内を席巻し、エルザの蛮行すらもその動きを止めた。

 

足が解放され、たたらを踏んで下がったスバルは思わず尻もちをつく。

そして眼前、もうもうと埃と噴煙をたなびかせる中に、真っ赤な輝きを見た。

 

「危ないところだったようだけど、間に合ってなによりだ。さあ――」

 

「お、お前は……」

 

「君は……」

 

炎が揺らぎ、足を前に踏み出す。

向かう先は大きく飛びずさったエルザ。彼女はククリナイフを握り直すと、その表情から余裕を消して、正面の存在に相対する。

その圧倒的な威圧感の前に、もはや戦いを余興として楽しむ余裕などあるはずもない。

 

スバルも、エリオットも、彼の姉も、エルザすらも表情を凍らせる威容。

室内の視線を一身に集めて、なお欠片も揺らがないその端正な面持ち。

ただひたすらに純粋な、『正義感』を空色の瞳に映した青年が、かすかに微笑み。

 

「舞台の幕を引くとしようか――!」

 

紅の髪をかき上げて、イケメンが高らかにそう謳った。




エリオットにとってスバルは割と本気で大切な親友だったりします。種族のこともあってこれまで心から信頼できるような人が極めて少なかったので。
外出時に染める髪色は面倒ごとを避けたいという願いと、根底で人を信用出来ていないという理由があります。
後者は本人も気づいていませんが。

そして、「エミリアは何やってんの?」という質問ですが、弟に頼まれたのもあって、頑張って手出ししないようにしています。パックがいないためかなり弱体化していますし、弟を信頼しているのもあります。
そういうことにして下さい。
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