Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

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今話から第二章です!
これからも頑張っていきます!
総UA数も4000を突破!
皆さまありがとうございます!(土下寝

モチベーションがスバルからラインハルトぐらい上がるのでコメント、評価、どんどんしていってください!

それでは本編どうぞ!





……あ、そうだ。一章最後のフェルトとラインハルトのアレコレだとか、ロズワール邸でスバルが最初に起きた時のベア子とのアレコレはキンクリしてます。

知りたかったら長月先生の原作読みやがれください。


第二章 ロズワール邸編
第23話 スバル イン ロズワール邸


「あら、目覚めましたわ、姉様」

「そうね、目覚めたわね、レム」

 

眠りから目覚める感覚は水から顔を出す感覚に以下同文。

時間変わって再びの目覚めは、声質が同じ二人の少女の声から始まった。

 

やわらかな寝心地はどうやら同じベッド。

寝起きのスバルの瞼を焼いたのは、カーテンからわずかに差し込む日差しだ。眩い光の度合いは柔らかく、感覚的に朝だろうかと思う。

 

「出先で時間がわからない。そんなときに便利、無精ヒゲタイマー」

 

見えない誰かにセールストークをかまして、体を起こしつつ時間確認。

顎の無精ヒゲ時計に触れると、感覚的には先ほどの目覚めから四、五時間ほどだろうか。まだ多少、体にだるさは残っている。

 

「今は陽日七時ですのよ、お客様」

「今は陽日七時になるわ、お客様」

 

窓側を見つめて、時間を確認するアクションを見せたからか、声が親切にその疑問に答えてくれる。

陽日七時――よく意味がわからないが、字面からして明るい時間の七時だろうか。そもそも、この世界の時間が二十四時間なのかもわからない。

安易に朝の七時、と断定するのも難しいところだが、ついさっきのほんの数十分程度の目覚めをカウントしないなら、

 

「ほぼ丸一日寝っ放したか。まぁ、最高で五十二時間寝続けたひきこもりの俺には大したことでもねぇな」

 

「まあ、ろくでなしの発言ですわ。聞きました、姉様」

「ええ、穀潰しの発言ね。聞いたわよ、レム」

 

「んで、さっきからステレオチックに俺を責める君らは誰よ、姉様方!」

 

がばっ、と布団を跳ねのけて起き上がるスバル。

そのオーバーアクションに、ベッドの横でスバルを挟むように立っていた少女たちが驚く。彼女らはそのままベッドを大きく迂回し、部屋の中央で合流すると、互いに手と手を重ね合わせてスバルを見た。

 

ある程度予想はしていたが、指を絡めてスバルを見つめる少女たちの容姿は瓜二つ――双子の少女だった。

 

身長はおおよそ百五十センチ真ん中ぐらい。大きな瞳に桃色の唇、彫の浅い顔立ちは幼さと愛らしさを感じさせる。

瓜二つの顔をした二人は髪形もショートカットに揃えているが、髪の色は桃色と水色でそれぞれ違う。さらに髪の毛で片目を隠しているが、桃色は左目で水色は右目を隠しているというのも違いだ。

 

だが、そんな違いは些細なことでしかない。この瞬間、それらの特徴を踏まえた上でスバルの心をもっともかき乱したのは、

 

「馬鹿な……この世界には、メイド服が存在するっていうのか!」

 

黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上に乗せたホワイトプリム。メイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包む、双子の美少女。

――これぞ、メイド理想の体現といえる。

 

「大変ですわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています、姉様が」

「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが」

 

「俺のキャパシティを舐めるなよ。二人まとめて妄想の餌食だぜ、姉様方」

 

両腕を交差して宙で掌をわきわき。無意味な動作にメイド二人の顔に戦慄が浮かび、彼女たちは絡めていた指をほどいて互いを指差し、

 

「お許しになって、お客様。レムだけは見逃して、姉様を汚してください」

「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ」

 

「超麗しくねぇな、この姉妹愛! お互い売るとか、そして俺は超悪役か!」

 

きゃーこわーい、と再び手を取り合って逃げる双子。

ベッドから飛び出し、それを追いかけるスバル。

広い部屋の中、追いかけっこしながらぐるぐると三人は駆け回る。と、

 

「……もっと大人しく目覚めたりできなかったの?」

 

「もう元気になったみたいで何よりだよ、スバル」

 

とんとん、と開いた扉を内側からノックして、こちらを見る少女と背の高い美女がいた。

長い銀色の髪の美しさは陰りを知らず、今日は結びをほどかれて自然と背中へ流されている。服装は町で見かけたローブ姿ではなく、黒い系統が目立つ細身に似合ったデザインの格好だ。スカートは膝丈よりやや短く艶やかだが、その領域は腿の上まで届くニーソックスが隠している。

もう一人も同じく銀髪だ。肩を過ぎるほどの長さの髪は陽光にきらめき、アメジストの瞳は薄く濡れたように輝く。服装はゆったりとしたハイネックシャツとコルセットズボンだ。シャツはノースリーブで白い肌を惜しげも無く晒している。紺色のコルセットズボンは細い腰を強調するかのようで、シャツと共に装飾は殆ど無いが返って細い体に良く似合っていた。隣のエミリアに対して胸はないがその柔和な美貌も含めて大人のお姉さんのような魅力が醸し出されている。

総じて二人ともスバルの大好きな銀髪美少女/美女である。

 

「わかってる!選んだ奴はわかってるぜ、GJ!」

 

「……なんのことだかわからないのに、くだらないってわかるのってある意味すごーく残念なんだけど」

 

「……だね。まあ一応褒めてくれてるみたいだから」

 

拳を握りしめて思わず喝采するスバル。

そんな彼を少女と美女――エミリアとエリオットが部屋の入口で、呆れたような目で見ていた。

 

 

 

 

 

突然のエミリア達の来訪に、スバルは思わず心が弾むのを感じていた。

意外とアクティブな格好が新鮮で嬉しい驚きだが、それ以上に嬉しいのはこの場に彼女の存在があったことだ。

立て続けに知らない人間に嫌な目にあわされたなか、異世界召喚後に優しくしてくれた数少ない人の一人である彼女には格別な想いがある。

 

「もはやこの想い、刷り込みみてぇなもんだな。もう片時も離れたくないよ、母さん!」

 

「血が足りてないところにベアトリスから悪戯されたって聞いたから、ちょっと心配してたんだけど……するだけ無駄だったみたい」

 

「張り倒すよ、スバル。姉さんを母親だなんて姉さんが認めても僕が認めない」

 

「寝起きパネェのは生まれつきでな!で!さっきから思ってたけどそっちの馴れ馴れしい美女は誰だよ!会った覚えねえんだけど!?背が高い方が妹だとかボクっ娘だとかありがとうございます!」

 

「え…、分かんない?」

 

「え…、会ったことあります?」

 

「そんな……」

 

美女がスバルの言葉に崩れ落ちる。そんな彼女の頭を屈んだエミリアが優しく撫でて、

 

「しょうがないわよ、服装だって髪の色だって全然違うんだから。そんなに気落ちしないで」

 

「姉さん……それでも気づいて欲しかったよ…」

 

「よしよし、お姉ちゃんはエリオがどんなふうに変わっても絶対気づいてあげるからね」

 

「エミリア姉さん…!…好き…大好き……」

 

「私もエリオのこと大好きよ」

 

美女の方が姉のお腹あたりに抱きつき、エミリアが天女のような優しい笑顔を浮かべてその頭を抱きしめて片手で撫でる。まるで絵画か天国かのような光景だが、その姉妹のあたりから随分と湿度が上がっているように思える。さっきから双子のメイドからの視線が痛い。最初の原因はスバルにあるから仕方ないといえば仕方ないのだが。

 

「その、悪かったよ。ホント…‥。ん?エリオ?お前、エリオットなのか!?」

 

「やっと気づいてくれた!」

 

「良かったわね、エリオ」

 

美女…改めエリオットがぱっと顔を上げてスバルを見る。

真正面から見れば、なるほど、確かに親友と同じ顔だ。声も違和感がまるで無かったから気づかなかったが同じだ。

だが決定的に違い点がある。

 

「お前の髪紺色じゃ無かったっけ!?その服も何だよ!?美人のお姉さんかと思ったわ!」

 

「髪は染めてた。万が一でも絡まれるのイヤだったし。服は」

 

「私が選んだの。良く似合ってるでしょ?」

 

「動きやすいし気に入ってるよ、姉さん」

 

エリオットの答えを引き取ってエミリアが答える。

 

「いやまあめちゃくちゃ似合ってるけど…」

 

歯切れの悪いスバル。一転変わって上機嫌なエリオット。スレンダーな美女にしか見えない。だが男だ。

 

「そんでもって聞くのとかちょっと恐かったりするんだけど……」

 

訝しがるエミリアに対し、スバルは両手の人差し指をつんつんと合わせ、上目づかいにおずおずと切り出す。

 

「その……あの、俺のことってちゃんと覚えてる?」

 

「その仕草、すごーく嫌。それに変な質問するのね。スバルぐらい印象が強い相手って、そうそう忘れられないと思うけど」

 

「覚えてないわけないだろう?僕を親友って言ってくれたのは君だ。スバル」

 

ささやかに口元をゆるめて名前を呼ばれて、スバルの肩が安堵に下りる。+して女の子から下の名前を呼び捨てされている事実に、スバル的には珍しいぐらい素で照れる。耳まで赤くなる勢いだ。

 

そんな若干、初々しいスバルの態度はさて置き、エミリア達の登場に追いかけられていた双子がその側へ駆け寄る。彼女らは二人してエミリアの後ろに回り込むと、左右から顔だけ出してスバルをうかがい、

 

「聞いてください、エミリア様。あの方に酷い辱めを受けました、姉様が」

「聞いてちょうだい、エミリア様。あの方に監禁凌辱されたのよ、レムが」

 

「あなたたちにそんな悪ふざけ……スバルならやりそうだけど、できるはずないじゃない。ラムもレムも、病み上がり相手に遊び過ぎないの」

 

「姉さん?さすがにそんなことしないと思うよ?」

 

「はーい、エミリア様。姉様も反省していますわ」

「はーい、エミリア様。レムも反省したと思うわ」

 

ラムとレム、と名前を呼ばれた二人は反省の欠片も見えない反省を宣言。そんな彼女らの態度に慣れているのか、エミリアはさして気にする様子もなくスバルを見やり、

 

「それで体の調子は大丈夫? どこか変だったりしない?」

 

「ん、お、そういや寝る前は全身火傷したみたいで死ぬかと思ってたのに、そんな感覚も全然ねぇな。逆に寝過ぎてちょっとだるいくらい」

 

「そうね。スバルと会ってからほとんど一日経ってるのに、その半分以上は眠ってたぐらいだし」

 

「そんなことないだろ」とこれまでの経緯を思い出しながら反論しようとして、グッとスバルは己の言葉に詰まった。

スバル自身の感覚としては、そもそも昨日を乗り切るまでにかかった時間の合計はおそらく二十四時間を超えるという矛盾。

彼女からすればスバルとの邂逅は小一時間にも満たなかったはずだ。交わした言葉の数も、決して多いとはいえないだろう。

ぐっすり眠れて満足、とかやってる場合ではない。本来ならば得ていたはずの彼女との会話イベント、それをこなさなくては。

 

「寝過ぎてだるいってのも考えもんだな。……しかも朝に起きてるなんて、俺的には超珍しいし」

 

「それってどんな生活送ってるとそうなるの……?」

 

「いやほら、夜の方が余計な雑音とかないからゲームとかはかどるじゃん? ぶっちゃけ、ひきこもってっと日の高い時間は完全に睡眠時間だわな」

 

「なんだか聞くだに残念な感じが増すのよね、スバルって」

 

「スバル、今日から君の生活を矯正していくからね?」

 

「うg…お願いします」

 

意味の大半は理解できなかっただろうに、本質は理解してくれたのかわかりやすく呆れをため息で表現してくれるエミリア。

彼女の反応のひとつひとつに小気味よいものを得ながら、スバルはふとラフな彼女の服装の方に話題を向ける。

 

「そういや、ずいぶん印象違う格好してんな。なにしてたんだ」

 

「あー、あんまり服のことには触れないで。私も不本意なの。……なにをしてたかって言われると、これから朝の日課に出るところだったんだけど」

 

「エミリア姉さん、どんな格好でも姉さんは世界一可愛いと思うよ」

 

額を押さえて言いづらそうに言葉を濁すエミリア。相変わらず全肯定の弟。口にこそ出さないがスバルは内心完全同意。彼女のはっきりしない態度も気にかかったが、スバルが追及したのはそちらではなく、

 

「日課って?」

 

「屋敷の庭を借りて、朝は少し精霊とお話を。それが私にとって、誓約のひとつでもあるから」

 

「僕はそんなエミリア姉さんの観察。見物?」

 

「エリオお前それ日課なのかよ。精霊と話し合いとはなんともファンタスティック。誓約ってのはイマイチわからんけど……」

 

精霊、と聞かされて最初に思い浮かぶのはやはり灰色の体毛の猫だ。

今回の世界だとあまり接点はないが、それでも彼との再会を心待ちにしている自分にスバルは気付いていた。主にモフモフ分の補給のために。

知らず、手をわきわきと動かしてしまうスバル。エミリアはそんなスバルの奇行を早くも無視する方向にシフトし、

 

「まあ、元気なのはいいことだけど、まだ寝てる人も多い時間だから騒ぎすぎちゃダメよ。ずっと寝てたスバルに大人しくしてなさいってのもひどいけど」

 

「そだよなー。あ、ってか庭ってことはちょい広めな感じ?」

 

「庭、というより庭園って言った方が近いくらいだしね。それがどうしたの?」

 

「んにゃ、それでエミリアたんが精霊とトークしてる間、俺が庭の隅っこでなんかしてても気にならないって条件が合えばだけど……」

 

「大声で叫び回るとかしなければ別に……え? 今、なんて言ったの?」

 

「おし、乗った。俺も行く」

 

「スバルも来るの?良いよ、一緒に姉さん見てよ」

 

「おう。俺は別にすることあるけど終わったら参加させてもらうぜ」

 

「ねえ、なんて言ったの? たんってなに? どこからきたの?」

 

慌てふためきながら問い質してくるエミリアをかわす。さっきの意趣返しに意地悪な態度をとり、スバルは体を大きく回しながらラム・レムに、

 

「へい、メイド姉妹。俺の服って知らない? いつの間にかだけど入院服みたいになってるし、たぶんここで預かってくれてると思うんだけど」

 

これまで言及してこなかったが、今のスバルの格好は赤茶けた薄い布地の作務衣みたいなものだ。入院服というには素材がごわごわしているが、見た目より涼やかで過ごしやすさはかなり優秀。

 

「でも、体動かすにはやっぱジャージに負ける。ってなわけで、どっかにないかな。ひょっとしたら血で駄目になってるかもわからんけど」

 

「わかるかしら、姉様。ひょっとして、あの薄汚い灰色の布切れ?」

「わかったわよ、レム。たぶん、あの血で薄汚れた鼠色のボロキレ」

 

「ラムさんもレムさんも言い過ぎだよ。確かにボロボロだったけど」

 

「かなり不敵だな、お前ら……その薄汚い薄汚れたボロだよ。無事なら持ってきてください。エリオもそのクセ直せよ。フォロー出来てねえからな、それ」

 

双子が了解を求めるようにエミリアを見る。エミリアが仕方ないと目で示すと、双子は頷いてとてとてと部屋を出ていった。

 

「ホントに体調は平気なの? 私から見ても、浅くないケガだったのよ」

 

「エミリア姉さんが直せたから良かったけど、そうじゃなかったか間違いなく死んでた傷だよ?」

 

「でも実際、もう完璧のぱーぺきに塞がってるしな。それに俺も体を怠けさせたくねぇんだよ。一日は筋トレサボってるし、取り返すのに三日はかかっかんなー。と、そういやそうだった」

 

思い出したように姿勢を正し、身綺麗にしてからエミリアに向き直る。彼女はスバルの様子に困惑した顔だが、そんな彼女にスバルは頭を下げて、

 

「ケガ、治してくれたのやっぱエミリアたんだったんだな。ありがとう、助かった。やっぱ死ぬのは恐いわ、実際。一回でいいよ」

 

「普通は一回しかしないと思うけど……ううん、そうじゃなかった」

 

定例的に突っ込みを入れてから、エミリアは首を小さく横に振る。

それから真剣な眼差し――紫紺の双眸でスバルを真っ直ぐに見た。思わず、その輝きに魅せられてスバルは押し黙ってしまう。

 

「お礼を言うのは私の方。あの場所で、ほとんど知らない私のことを命懸けで助けてくれたじゃない。ケガの治療なんて、当たり前よ」

 

「僕からももう一度。ありがとう、スバル。あの場で姉さんを守ってくれて。この恩は必ず返すよ」

 

真摯な眼差しでストレートに感謝を伝えられ、スバルは「あう」と思わず声を漏らすしかできない。

ここへきて誠実な返答のひとつもできない自分が恨めしい。茶化して誤魔化しながらでないと、彼女達と向き合うことなどできそうもなかった。

 

助けてくれた、という彼女の言に「そうじゃない」と言い返せればどれだけ楽だろうか。先に助けてくれたのはエミリアなのだと、もはやその世界の残滓はスバルの中にしか残っていないのだけれど。

 

「――んじゃ、お互いに助け合ってプラマイゼロってことで、どうよ」

 

「ぷらまい……?」

 

「互いに貸し借りなし! そんなわけで仲良くしようぜ、兄弟!」

 

貧民街の相手なら、ここで肩のひとつでも気安く組めたのだが、スバルにできたのは勢いで羞恥を誤魔化すことだけだ。

そんなスバルの虚勢にエミリアは小さく笑みをこぼすと、

 

「私、こんな変な弟はいらないかな。エリオ一人で十分」

 

「僕もいいや。兄弟はエミリア姉さんが一人居れば良い」

 

「わりと辛辣なコメントですね!?」

 

しかもさりげなく目下扱いされているこのがっかり感。頼れる部分なんて欠片も見せていないから、仕方ない評価だと諦めるしかないが。

 

「ーー何より、僕らは「親友」だろう?」

 

「エリオ〜〜〜!」

 

喜びのあまり思わず抱きつきに行ったのは仕方ない事だろう。エリオットも苦笑しつつ受け入れてくれた。ビバ親友。ビバ男の友情。

 

「持ってきましたわ、お客様」

「持ってきたげたわ、お客様」

 

そうこうやっている間に、双子がジャージを持ってくる。桃色が上着、水色がズボン。幸い、鮮血の痕跡は残らず洗濯してもらえたらしい。

パッと見、変化のないジャージの帰還に安堵するスバル。と、駆け寄ってきた二人はいそいそとスバルの衣服を脱がそうとしてくる。

 

「おいおい! いいって、ひとりでできるもん! ちょっと嬉しいけど」

 

「まあ、恥辱より快楽が勝るなんて本音が出てますわ、姉様」

「あら、屈辱より幸福が勝つなんて心底から変態だわ、レム」

 

「微妙に桃髪の方が口悪いよな!着替えるから、HA・NA・SE!」

 

もみくちゃしてくる双子の手を振り払ってジャージを奪還。

いそいそとそちらに着替えようかと思って、ふとある事実に気付く。

 

「そういえば、俺をこの服に着替えさせてくれたのって?」

 

「安心して。僕だよ。ラムさんとレムさんが出払ってて、手当て出来るのが姉さんだけだったけど、着替えの時には何とか出て行ってもらったから。あ、軽くだけど体もちゃんと拭いたよ」

 

「マジありがとうエミリアたんとかそっちのメイド姉妹に着替えさせられてたら死んでた。……待てよ」

 

何とか社会的死亡を回避。エリオットががいてよかった。

ふと気づいてスバルはそっと履いている下履きの中を覗き、下着まで取り替えられている事実を確認。その場に崩れ落ち、顔を掌で覆う。

 

「もうお嫁にいけない……」

 

「ま、まぁ僕だから。その、元気出して?」

 

困ったような顔で笑ってエリオットはスバルの肩を叩く。

最悪は回避したが結局見られた事に変わりはないのだ。精神的ダメージがあるのは推して知るべしである。だがもう考えていても仕方がないので忘れることにした。

美女に着替えさせてもらって(見た目だけだが)、全てを見られた。いいじゃない、いつか一緒に風呂に入ることがあれば結局は見られるのだ。最悪も回避した。ポジティブシンキング。

 

そっと心の涙を拭いて、スバルは己の足で立ち上がる。

衣服を持って目配せすると、着替えの意図を察した女性陣がいそいそと部屋を出ていく。

双子が先に部屋を出て、最後のエミリアの銀髪が扉に遮られる。と、彼女のその姿が扉の向こうに消える寸前、ふとその白い横顔が振り向き、

 

「スバル、大丈夫よ。――立派だったから。小さい時のエリオットのしか見たことないけれど」

 

「姉さん!!?」

 

ぱたん、とそれだけを残して扉は閉められた。

 

部屋の中に残され、とりあえず服を着替えるスバル。作務衣っぽい服はイマイチ構造がわかり難く手間取ったが、どうにかこうにか着替え完了。

きれいに作務衣を畳み、ベッドの上に置く。それから数時間ぶりに袖を通したジャージの感触を確かめ、「んー」と体を伸ばして準備も完了。

 

「さて……」

 

腰を大きくスイングして骨を鳴らし、スバルは部屋の窓を見る。

軽くカーテンを引いた外、まだ早朝の世界を昇り始めた朝日が祝福しているのが見えた。そんな陽光の温かさに目を細めて、それからスバルはベッドの方へと歩を進めて、倒れ込む。

 

「もうお嫁にいけない」

 

「ごめんスバル……ウチの姉さんが……」

 

枕に顔を押し付けて、今度こそスバルは男の子として泣いた。

最後のフォローが一番、心に痛かった。死ぬかと思った。いっそ死んでやり直してくれればと思ったほどだった。

 

でも心が痛いくらいでは死ぬことはできず、スバルはしばらくの間、男の子的な事情で女々しく泣き続けたのだった。




エミリアがスバルのスバルを見てしまったのは偶然です。
エリオットがスバルの服を脱がせて体を拭いてあげている時、運悪くドアが開いていました。
エリオットがスバルを抱き起こした時、「そろそろ終わったかな」と、エミリアが部屋を覗いてしまったゆえに起きた悲(喜?)劇です。

合掌
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