Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

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第28話 お国の事情

「本当に不思議だぁね、君は。ルグニカ王国のロズワール・L・メイザースの邸宅まできていて、事情を知らないってぇいうんだから。よく、王国の入国審査を通ってこれたもんだね?」

 

「まぁ、ある意味、密入国みたいなもんだからな……」

 

 気付いたら入国してましたけどなにか? ぐらいの感覚だ。

 そんな気の抜けたスバルの答えにエミリア達姉弟が驚き、それからエミリアは幼子を叱るような義憤を浮かべて睨んでくる。

 

「呆れた。あっさりとそんなこと喋っちゃって、私たちがそれを管理局に報告したらどうなると思うの? いきなり牢屋に押し込められて、ぎったんぎったんにされるんだから」

 

「ぎったんぎったんて、きょうび聞かねぇな」

 

「茶化さないの。ねえ、スバル。ホントに大丈夫? スバルの周りってみんなそうなの? それともスバルだけ特別物知らずなの?」

 

 本気で心配してきてくれているエミリアに悪い気がして、スバルは頭を掻きながら自分の今までの態度を反省。

 

「あー、俺はちょっと特別物覚えが悪いかな。だから差し支えないなら、ぜひぜひご講釈頂けると幸いに存じまして候」

 

「そういう言葉づかいができるの聞くと、それなりの家の出に見えるんだけど……」

 

「いや、姉さん…?今の言葉使い正直酷かったよ?色々と混ざって変」

 

エリオットの言う通りだ。こんな適当な言葉づかいで社交場に出たら、その場でスバルの社交界人生は詰むだろう。そのあたり、上っ面に騙されてしまうエミリアも怪しい気がして、

 

「なんかアレな。意外とエミリアたんもこの手の知識深くない感じ?エリオの言う通り今のとか尊敬語と謙譲語入り乱れてぐちゃぐちゃだったぞ」

 

「う……否定できない」

 

 スバルの指摘にエミリアは体を小さくして答える。スバル的にはなんでも知っていそうな彼女のそんな一面に驚きだが、萎縮する彼女をフォローしたのは上座で黙っていたロズワールだ。

 

「エミリア様は今、そのあたぁりも勉強中だぁからね。もちろん、君の指摘もわからないでもないんだけどねぇ」

 

「勉強中、ね。そのへん、さっきの話にもひょっとして絡むん?出来ればエリオの方がそこら辺しっかりしてる理由もよろしく」

 

「あはぁ、優秀だ。君、考えてるね。考えてるからこそ、そうして考えていないみたいな発言がポロポロこぼれる」

 

「なんか考えて生きるのなんて当たり前だろ。手足だるくて鼻水ずるずるで、腹の中身が表に出てても、考えんのが人間の義務なんだから」

 

「恐い喩えなのに変に実感こもってるわね……」

 

「あーー、うん。そうだねぇ」

 

 それはもちろん、実体験からくる含蓄ある言葉ですから。エリオットは分かっているからこそどっちつかずの相づちになってしまっている。

 スバルの言葉に感銘を受けたのか、手を差し出すロズワールに双子が手帳とペンを差し入れている。さらさらと手短に今の内容をまとめて、それからロズワールは改めてスバルに向き直り、

 

「今のもいい。君といると色んな着想が湧いていいことだよぉ」

 

「その手帳って一日に何回ぐらい書き込まれんの? お前の人生で何冊目?」

 

「その質問は我がメイザース家の秘跡に関わる。ざぁんねん、教えたげない」

 

 いい歳した大人がぷいと首を背けるのを見てスバルはげんなり。

 いよいよ、自分よりキャラの濃い相手との接し方に戸惑うスバル。そんな彼に助け船を出したのは、咳払いして話の軌道修正を図ったエミリアだ。

 

「それじゃ、話を戻すけど、スバルは今この国――ルグニカ王国がどんな状況にあるのか知ってる?」

 

「全然まったくこれっぽっちもわかってない」

 

「そこまで言い切られると清々しいわね。スバルの生き方には驚かされてばっかりだわ。なんかホントに心配になってきた」

 

 呆れを通り越して幼子を見るような目になり始めるエミリア。保護欲をくすぐって母性本能に訴えかける作戦、を実行していたわけではないのだが、結果的には勢いあまって母と子ぐらいの精神距離が開いていた。

 どうにか開いた年齢差のすり合わせを行おうと、スバルはとにかく「それで! それで!」と椅子を揺らして先をせがむ。

 

「子どもみたい。えっと、今のルグニカは戒厳令が敷かれた状態なの。特に他国との出入国に関しては厳密な状態よ」

 

「戒厳令……穏やかじゃない響きだな」

 

「あはぁ、穏当とはいえないねぇ。――なにせ、今のルグニカ王国には『王が不在』なもんだからねぇ」

 

 結論を引き継いだロズワール。その言葉を吟味し、意味を理解してスバルは静かに息を呑んだ。

 ちらりと姉弟と双子、それからベアトリスとパックの様子をうかがう。そこに動揺の兆しはなく、周知の事実なのだろう。その上で、部外者に等しい自分にその内容が知らされた事実に警戒心が先立つが、

 

「心配、御無用! すでに市井にまで知れ渡った厳然たる事実だよん」

 

「さよけ。いや、危うく秘密を知られたからには生かして帰さん展開かと」

 

「こっちから教えておいてそれじゃ死ぬに死ねないなぁ。……ともかく、そんな状態だから国を挙げてピリピリしてるんだよ」

 

「戒厳令もその一環だねぇ。王不在のこの状況で、他国に火種を持ち込むことも、あるいはその逆も望ましくないってぇこぉと」

 

 なるほど、とスバルは納得。

 王不在、というのは王国という国の運営形態的には致命的だろう。病没かそれ以外か、理由がなんであれ突然の王の『死』に国が揺れている。

 

「んん? でも待てよ。そういうのって普通、王様の子どもが跡を継いで万事解決だべ? あんま若いようなら摂政とかつく感じで」

 

「ふむ、ついてくるねこの会話に。ともあれ、通例ならその通りになるよね。だぁけど、事の起こりは半年前までさかのぼっちゃう。王が御隠れになった同時期に、城内で蔓延した流行病の話にねぇ」

 

 特定の血族に発症する伝染病、と発表されたとロズワールは語る。

 それにより、王城で暮らしていた王とその子孫は根絶やしにされたのだと。

 

「じゃ、本気で王様不在じゃねぇか。そうなると国ってどうなるんだ? 王様の血筋いないし、民意優先で総理大臣選出するのか?」

 

「後半がなにを言ってるのかじぇんじぇんわかんないんだけど、現状の国の運営は賢人会によって行われてるよん。いずれも王国史に名を残す、名家の方々の寄り合いだ。国の政治自体に関しての影響はそこまでじゃぁない」

 

 そこで一度間を置き、「しかし」と息を継いでロズワールは表情を引き締め、

 

「――王不在の王国など、あってはならない」

 

「そりゃそーだ」

 

 たとえ運営に問題がないお飾りだったとしても、頭の存在しない組織など成立しない。ましてや国ともなれば当たり前だ。

 日本だって、どれだけ民意優先とささやかれても総理大臣というトップが存在する。それが責任を取る立場で、ホイホイと入れ換わるような事態が多発していようとも、だ。

 

「なら、王不在の王国は新たに王を選ばなきゃならない。でも血族はほぼ壊滅。なら国の誰もが納得いくような形で、王様を選び出さにゃならんと」

 

「――ホント、スバルって変な子。なんにも知らないのに、そうやって頭が回るんだから。まさに賢い愚者って感じなのよね」

 

「本当にねえ。常識なんてまるで知らないっていうのに、こういうところでは凄く賢いの。どこかの山奥で世捨て人みたいな生活でもしてたのかな」

 

「そう褒めんなよ。褒められ慣れてねぇからすぐ好きになんぞ」

 

 照れ隠しにそう言い捨て、スバルはエミリアから顔を背ける。

 顔を叩いてもみじを作り、赤面を正当化して向き直ると、ロズワールに向かって頭の中身を整理しながら指を立て、

 

「なるほど、段々とわかってきたぜ。つまり、王国は王不在な上に王選出のどたばたで混乱中。他国との関係も縮小中のプチ鎖国状態。だってのに現れる謎の異国人俺――俺超怪しいな!!」

 

「さぁらに付け加えちゃうと、エミリア様とエリオット君に接触してメイザース家とも関わり合いを持ったわけだしねぇ。気が早ければそれだけで……」

 

 ロズワールが目を瞑り、首に手刀を当ててギロチンアピール。

 そんな仕草を横目にして、スバルは嫌な予感に冷や汗を止められず、

 

「うおーい! 今の変態の発言でおおよそ予想ついてきたついてきたぞ!? メイザース家ってのは見た感じ通りのいい家柄で、ひょっとしちゃったりすると賢人会関係かあるいはもっと核心の可能性――!?」

 

 今の話の流れからして、スバルに想像できる最大の可能性はそれだ。

 種明かしするのを楽しむような話の運び方といい、今の話の流れの作り方といい、状況を外から俯瞰している人間の話す内容とは思えない。

 となれば関係者であるとしか考えられず、これだけ大きな屋敷の主ともなれば自ずとその家柄の程もかなりのものだと考えられて、

 

「ふ、不敬のお詫びにせめて小指……小指を収めることで許していただければ」

 

「恐い想像に走ってる君に朗報だ。安心するといいよぉ? 私は賢人会の構成員じゃぁないし、さしあたって王国の玉座に関わる立場じゃないかぁら。――ねぇ、エミリア様」

 

 テーブルの上に小指を差し出すスバルを、ロズワールが極上のジョークでも聞いたように笑い飛ばす。彼はそのまま同意をエミリアに求め、彼女はそれに対して渋い顔の沈黙で応じた。

 一瞬、思わせぶりなロズワールの態度に噴火しそうになったスバルだが、すぐにはたと違和感を認めて思考が停止する。

 

 そう、さっきから、たびたび、気にはなっていたのだ。

 

「なんで……屋敷の主が、エミリアたんを様付けで呼ぶ?エリオは君付けだよな。そこの違いは何だ?」

 

 屋敷の中で一番の地位にある人物が、最大限の敬意を払う間柄だ。

 自ずと不安が芽吹き、早々に黒い花を咲かせ始めるのを見届けながら、スバルは確かめるために視線をロズワールへ。そして、

 

「当然のことだよ? 自分より、地位の高い方を敬称で呼ぶのはねぇ」

 

 意地悪く微笑み、机の上で手を組んだロズワールはそう告げる。

 唖然と、口をぽっかり開けて硬直するスバル。ぎぎぎ、と音がしそうなほど機械的な動きでエミリアを見ると、彼女は観念したように吐息して、

 

「騙そうとか、そういうこと考えてたわけじゃないからね」

 

「僕も姉さんも、悪意があって言わなかったワケじゃないからね?」

 

「――えっと、エミリアたんてばつまり」

 

 まだ懲りずに「たん付け」するスバル。

 そんな現実を否定したがる彼にトドメを刺すように、

 

「今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」

 

 告げられた言葉に、スバルはハードルが軌道エレベーター並に高さを増したのを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 ――好きになった人は、女王様でした。

 

 そんな一文が脳裏をかすめる。正しくは女王様候補、だが。

 

「なんか女王様候補って言葉、エロティカルな雰囲気があるな」

 

「よくわからないけど、マジメに話してるわよ」

 

「くっ、その冷たい眼差しもちょっとゾクゾクする……さすがだぜ、女王様。下賤な豚を見るように俺を見ないで」

 

「そんな意地悪い目つきしてないでしょっ。目つきのことでスバルには言われたくないわよ!」

 

 至近距離の美貌の叱責に身悶えして、スバルはテーブルに身を倒して小さく震える。顔をうつ伏せにして表情を隠し、しかし内心は心臓バクバクだ。

 とにかく、今の自分が浮かべているだろう情けない顔だけはエミリアに見られたくない。

 

 女王候補――はっきり言って、独裁主義を知らないスバルにとっては頂点に王様がいる世界、というのは漫画やゲームを除けば馴染みの薄い感覚だ。

 それでも、国家元首たりえる可能性のある存在が、一般大衆からすればどれほど手の遠い存在なのかはわかる。

 ましてやスバルはこの世界においては戸籍すら持たない身。一般大衆のカテゴリー入りさえ疑われる立ち位置でしかない。

 

 分不相応な恋心だと早々に挫かれていた感情が、エミリアの美貌だけでなくそれ以外のステータスを知ったことでより打ちのめされる。

 まさしく、気分は軌道エレベータの頂上を素手で登り詰めるが如しだ。

 

「おう、ジーザス、なんてこった。俺の恋路の前途多難さに我ながらビックリだ。ジュリエットを愛するロミオすら俺に同情するぜ」

 

「ちょっと、スバルってば大丈夫? 急に静かになって……」

 

「スバルって割といつもこうじゃないかな」

 

 涙目で顔を上げると、ぼやけた視界にエミリアが映る。心配そうにこちらを見下ろす紫紺の色はアメジスト。処女雪のように白い肌に、薄い桃色の唇が銀鈴のような美しい音を漏らす。

 それがどこまでいっても手の届かない、そんな遠い存在に思えて、

 

「――えい」

 

 たまらずスバルは、そのすぐ傍にいた少女の体を抱きしめていた。

 

「――――え?」

 

「うわぁ、ちっちぇぇ。そんでもって柔らけぇ。すげぇいい匂いする」

 

 一瞬、抱きすくめられたことが理解できていないエミリア。

 彼女を胸の内に抱きながら、スバルはその感触を思うさまに堪能。

 対人関係の経験値が少ないスバルにとって、女の子を抱きしめるなんて体験はまさしく絶無。盗品蔵でフェルトを庇った際のことは、残念ながら堪能する時間がなかった上に肉付きが貧相すぎてカウントしていない。

 ともあれ、遅れてその体勢に気付いたエミリアは顔を赤くして暴れ始め、

 

「ちょ……なに!? どうしたの!?」

 

「いや、目の前にこられたら急に獣の本能がむらむらと。それに落ち着いて考えたら手が届かないのなんて元からだし、そんな気にすることでもねぇなと」

 

「なにを言ってるのか全然わかんないっ!?」

 

「まぁ、待てよ。落ち着いて自分を分析してみる。――そう、つまり手が届くとか届かないとか考えてるうちに目の前に見えたもんだから、ちょうどいい手が届くかどうか確かめてみよう的な発想から脊髄反射で俺の中の男の子指数がリビドー噴出して抱擁に至り、その上でやっちまったからにはこれはできる限り堪能しておかねぇともったいないし死ぬに死ねないなって結論を得たばかりに巻き起こってしまった俺的にはハッピー、エミリアたん的にはアンハッピーなサプライズな一枚が完成しちまった……ってことさ」

 

「詳しく説明してくれたのに意味がわかんないっ!?」

 

 長話で時間を稼いで抱擁時間を延ばすスバル、腕の中で暴れてついにハグから脱出するエミリア。

 ハグから脱出されてさびしいスバル。そんな彼を赤面状態のエミリアが涙目になりながら指差し、

 

「急に女の子を抱きしめないのっ! 相手が私だったからそんなでもないけど、普通の女の子だったら本気にしちゃうんだから」

 

「俺だって別に狙ってやってねぇよ? そう、まさに誰かに命令されたかのように。まさか、エミリアたんが魅了の魔法で俺を……? 悪女だな!」

 

「やってないわよっ、濡れ衣だわ。あと、その親指立てるのやめなさい!」

 

 力強いサムズアップが否定されて、すごすご右手を下げるスバル。

 とはいえ、体が脊髄反射で動いてしまったのは事実だ。その後に言った言葉も嘘ではないのだが、改めて言葉にしろと言われたら恥ずかしくて死ねる。

と、()()()()エリオットの声が響く。

 

「………ねぇ、ナツキ・スバル君。僕は出来たばかりの親友を減らすなんてことはしたくないんだけど、君はどうなのかなぁ」

 

その温度のない底冷えする様な声にぎぎぎと首を回して顔を向ければ、スバルの肩に手を置き、目から光を消したエリオットが端正な顔立ちに暗い笑みを浮かべてスバルを眺めていた。

目がまるで笑っていない。なんならエルザに相対したときよりも今のエリオットの方が怖い。

 

「申し訳ございませんでしたぁ!!!」

 

思わず椅子から跳びのいてそのまま土下座に直行。アレはヤバい。マジに殺されかねない。

 

「次は無い」

 

「肝に銘じて置きます!」

 

なんとか助かった。死ぬかと思った。二回目のときにエルザに腹と目を割かれて暗闇の中死んでいったときよりも怖かった。やはり普段優しい人ほど怒らせると怖いのだ。特にエリオットにとって姉関連は逆鱗の様だ。気をつけないといつか死ぬ。

 

「はぁ…エミリア姉さん……」

 

スバルから視線を外してエリオットがエミリアのもとへと歩いて彼女を後ろから抱きしめる。

 

「エリオ、どうしたの?」

 

「上書きしてる。さっきのヤだった」

 

「もう……エリオったら大きくなっても甘えんぼなんだから」

 

「姉さんにだけだよ…」

 

先程とはうって変わって穏やかに子供の様に姉に甘えるエリオットと、それをちょっと困った様に、だが嬉しそうに受け止めるエミリア。エリオットが羨ましいと思ったのは秘密だ。

でも、

 

 ――君の瞳に心を奪われたのは事実だ、なんて。

 

「やだ恥ずかしい。そんなの言われたら、『素敵、抱いて!』って俺なっちゃう」

 

「なぁんともまぁ、恐いもの知らずだよねぇ、君」

 

 頬に手を当てて「いやんいやん」と腰を振るスバルに、今の三人のやり取りを傍観していたロズワールが笑いを堪えた顔で言う。

 彼の言い方にエミリアがまだ赤い顔でキッと睨みつけ、エリオットが底冷えした目を向けるが、笑い過ぎで涙の浮かんだ瞳を拭うロズワールは素知らぬ素振りだ。

 

「相手は未来の女王様候補なんだよぉ? ひょぉっとしたら、今の不敬を長々と執念深く覚えていて、いざ王座に就いた際に君を処断するやも……」

 

「なにが起きるかわからん明日のために、今の幸せを後悔しろってのか? 刹那の快楽主義であるゆとり教育の被害者を舐めんなよ」

 

 中指を立てて行儀悪く言ってのけ、スバルは空いた手でエミリアを示し、

 

「たとえ未来の女王様だろうと、今この瞬間のエミリアたんはひとりの女の子。そして俺はひとりの男だ。ひとりの男と女が、どんな行きずりで爛れた関係になろうと文句を言われる筋合いはねぇ! だから――!」

 

 椅子に足を乗せて拳を握りしめ、高々とスバルは宣言する。

 

「たとえ明日処刑されるとしても、俺はエミリアたんを抱きしめて、髪の毛くんかくんかして、その余韻を糧に生きていくぜ――!」

 

 血を吐くようなスバルの断言に、食堂の中を静寂が埋め尽くした。

 誰もがスバルの剣幕に言葉を失い、荒々しくも誇り高く言い放たれた言葉を飲み込んで、ごくりと喉を鳴らす。そして、

 

「悪かったな、朝食の邪魔して。さあ、みんな、食事に戻ろう。団欒をやり直して、今の諍いを忘れ……」

 

「ただの助平発言に、ずいぶんと仰々しいお題目を並べたもんなのよ」

 

 髪をかき上げて爽やかを気取り、場の空気を勢いで持ち直そうとしたスバルの意図が唐突に崩された。

 崩したのは離れた席で、退屈そうにこちらを眺めるベアトリスだ。行儀悪くも食卓に乗せたパック、彼女はその灰色の体毛を撫でつけながら、

 

「けっきょくは、そこの小娘の色香に騙されたってだけの話なのよ。それをまぁよくもあれだけ口が回ることかしら……」

 

「お前、本当に俺の天敵だな……」

 

 呆れ切ったベアトリスの言葉に、スバルは肩を落としてそうとだけ答える。

 鼻を鳴らして応答したベアトリスのそれを皮切りに、他のメンバーも続々と正気を取り戻し始める。

 それはつまり、さっきのスバルのセクハラの糾弾の始まりである。




エリオットは他キャラと同じくヤンデレの素質があります。
世界の進み方によってはアヤマツスバルと同等までヤンデレになります。
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