Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

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いやぁ〜嬉しいですねぇ!
アニメ三期も再開してね!
ガーフィール好きなのでガーフvsクルガンが楽しみです。

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第30話 王都での裏事情のあれやこれ

青と黄色、互いに色の違う双眸は真剣に向き合うと深みに思考を阻まれそうになる。息を呑み、その雰囲気に呑み込まれないよう歯を噛みしめる。

 彼は手をテーブルの上に置いて組み、その上に顎を乗せながら、

 

「周りが見えているねぇ、君。さぁっきから話の物分かりのよさといい、正直なところ市井の人間にしては尋常じゃぁない」

 

「お褒めにお預かり誠に光栄に存じます候ってなわけで、俺の質問に答えろや藍色ロン毛。さもなきゃ……」

 

「さもないと?」

 

 挑発的に問い返してくるロズワールに対し、スバルは悔しげに歯を鳴らし、

 

「俺はこのエミリアたんを撫でる手を、断腸の思いで……この子へのセクハラに費やす! アヒンアヒンしてチョメチョメってやる!」

 

「ひっ」

 

「そんな……!」

 

 唇を噛み切りそうなほど力を込めての言葉に、思わずエミリアがビクッと震えて後ろの弟にすがる。エリオットも姉を守るように抱き込んで姉と二人して怯えた様にスバルを見つめ、スバルのS心を揺さぶる。一瞬、今の発言を現実に移しても後悔しないかもしれない、と短慮が爆発しかけたが、それを遮ったのは手を叩く音だ。

 心の天秤が危うくセクハラに傾きかけたスバルの意識を引き戻したのは、その乾いた破裂音を立てたロズワールだった。

 

「あぶねぇ、助かったぜ」

 

「なぁんで私がお礼を言われてるの? ……まぁったく、君は不思議な子だねぇ。そんな手段で交渉なんて、聞いたこともない」

 

「ふ、一番この中で位の高い子を俺の手の届く位置に置いたのがお前の敗因だ。どんな手を目論んでも無駄だぞ。たとえ一瞬でも、ほんの刹那の邂逅でも、そのコンマを永遠にまで引き延ばす魔改造――それをする遺伝子が、俺の民族の中では息づいているのさ」

 

「刹那を永遠に……陰魔法の極地……!?」

 

「まさかスバルはベアトリスさんと同格以上の使い手だっていうの…!?」

 

 わかりづらい戯言のせいで、震える姉弟が絶句。

 なんだか時間操作系の能力者みたいな扱いを受けている感が否めないが、存外状況的には間違ってもいないので説明はあえてしない。

 『死に戻り』をしていたのも、一瞬の妄想をすさまじいクオリティで魔改造するアホ丸出しな日本人の民族性も、どちらも嘘ではないのだし。

 

 仰天しているエミリアの反応はさて置き、スバルはそんな内心を隠したままロズワールを睨みつける。不敵な笑みを忘れず、悪役まっしぐらだ。

 一方でそんな悪役面を受け止めるロン毛は柔和な面持ちを崩さない。感情の見えないやんわりとした微笑をたたえたままで、こちらも貴族様としての貫録は十分といったところだ。

 

 互いに互いを測り合う視線の応酬、火花が散るような無言の睨み合い。それを制したのは、ふっとロズワールに視線を下げさせたスバルだった。

 目をつむるのすら惜しんでドライアイ状態に陥ったスバルを見ながら、ロズワールは「降参降参」と小さく両手を挙げ、

 

「まぁいりました。君の視線に感服だ。そうだね、私の立場を明確にしておかないのは君にとぉってフェアじゃないよねぇ」

 

「痛い痛い、おめめ痛い。エミリアたん、ちょっと優しくさすって」

 

「それがご褒美の内容でいいの?」

 

「よし姉さん、撤回される前に早く」

 

「自分でやるよ! すげぇ危ねぇ! 意外と抜け目ねぇよ、この子!」

 

 交渉の優位性を危うく手放しかけ、飛びのいてスバルは両目をこする。目から痛みが遠のいたのをまばたきしながら確認し、それから仕切り直してロズワールと対面する。

 

「といっても、別に隠すようなことでもなぁいんだけどね。ちょっぴり口が滑ってたけど、私はエミリア様を女王候補として支援する立場。後ろ盾……まぁ体のいいパトロンってぇことだよ」

 

「パトロン、ねぇ」

 

 後援者代表、が目の前のロズワールということか。

 スバルはその長身の得体の知れなさを改めてしげしげと確認し、それからおずおずとエミリアに、

 

「言い難いんだけどさ……エミリアたん、もっと人を選んだ方がよくね? エリオもしっかり姉ちゃんサポートしてやれよ。このままだとエミリアたんどっかで騙されるぜ?」

 

「仕方なかったの。王都で頼れる人なんて私にはいないし、そもそも私に協力してくれるなんて物好きはロズワールぐらいしか……」

 

「う〜ん……まぁ普通じゃあないよねぇ。こんな変わり者、王都どころか国中探しても二人といないよ。それでも頼れるのはロズワールさんぐらいしか居なくて……」

 

「なーる、消去法なのね」

 

「三人して、パトロンを目の前に恐いもの知らずもいいとこだねぇ」

 

 これだけ悪し様に言われても、ロズワールは不愉快そうに振舞うどころか柔和な表情すら変えない。器が計り知れないほど大きいのか、

 

「あるいは典型的なM」

 

「「えむ?」」

 

 両腕を丸く伸ばして、自分の頭頂点で合わせる『M』の形。

 この世界では誰にも伝わらない人文字を披露するスバルは、首を傾げる姉弟に説明しようとして、

 

「いや、落ち着いて考えたらこれって二度ネタだよな。鮮度が落ちるから、同じ相手にもう一回ってのはちょっと……」

 

「変に納得しないでよ、どういうことなの?」

 

「一人で完結されても…。僕らが置いてかれてるんだけど」

 

「昨日のエミリアたんは知っていた、以上。強く生きろよ」

 

 ぽむぽむと軽く慰めるように頭を撫でて、スバルはニヒルに笑う。そう言えば1回目でやったからエリオットも知らないのだ。

 意味がわからずぽかんとする姉弟を置き去りに、嘘は言っていないはずとスバルの心は晴れやかだ。

 もっとも、知っている世界のエミリアはどこにもいない。スバルの心の中で静かに、彼女への返し切れない恩義と共に眠りについている。

 

 不満そうに唇を尖らせるエミリアにサムズアップして、それからそのままの形の手をロズワールにも向ける。そしてひっくり返し、

 

「なぁんでかひっくり返しただけなのに屈辱的に感じるサインだね?」

 

「そうか? 俺の住んでたとこでは親愛の証だぜ? 『俺はお前に靴を舐めさせてやりたいほど愛してる』的な意味だ」

 

「スバルの故郷だと、靴を舐めるのって親愛の表現なの……?」

 

「そんな故郷だったらこんなにスバルが変わってるのもおかしくない……のかな……?」

 

「君を象る全てが愛しい、って最上の愛情表現さ。その気になったら俺だって、躊躇なくエミリアたんの髪の毛とか食べれるよ」

 

「お願いだから絶対にその気にならないでね?」

 

「ああ、なるほど。僕も出来るな」

 

「エリオ!?」

 ダメ出しされて肩をすくめるスバル。理解できてしまったエリオット。弟の狂言に愕然とするエミリア。三人のやり取りに思わず噴き出してしまったロズワール。

 四者四様ではあるが、さっきから話がまるで進んでいない。

 

「あのさ、真剣な話なんだから横道そらすのやめてくんねぇかな」

 

「スバルにだけは絶対に言われたくないこと言われたっ」

 

「君が言うの?スバル、脱線のほとんどは君が原因だと思うよ?」

 

 エミリアの嘆きとエリオットの指摘を「はいはい」と鷹揚に受け流し、それからスバルは何度も何度も仕切り直した視線を再びロズワールに向け、本題に入る……前にもう一回ちょっとだけ脱線。

 

「で、本題……の前にもいっこ聞きたいことがあんだけど?」

 

「なぁにかな?私に答えられる事ならなんでも答えてあげよう」

 

「おし。んじゃあ質問な? エミリアたんとロズっちの関係はわかった。それならエリオとロズっちはどういう関係なんだ?」

 

ずっと気になっていたのだ。盗品蔵でエリオットが言っていた“高位の貴族の友人”はロズワールのことで間違いないだろう。だがその友人は彼の姉であるエミリアの後ろ盾でもある。どちらが先なのか、どこで知り合ったのか、色々と謎のままなのだ。

 

「それはねえ、エミリア様のお願いが事の発端だよ」

 

「? どゆこと?」

 

「そうよ。私がお願いしたの。エリオだけ一人で置いて行きたくなかったし……」

 

「僕も絶対姉さんと離れたくなかったから頼み込んだんだよ」

 

「そういうこと。エミリア様のパトロンになるにあたってエミリア様にどうしてもって頼まれてねぇ。そこからゆっくり友人関係になっていったんだよ」

 

「ほへー。なるほどなぁ」

 

つまりはエリオットがシスコンだったから起きたことだということだ。ここまで仲の良い姉弟は少し羨ましい。

 

「んじゃ今度こそ本題だ。ロズっちがエミリアたんのパトロンってのはわかった。エリオとロズっちの関係もな。ま、ちょっち振舞いの端々からかっぺ的な部分が見え隠れするのがキュートなエミリアたんのことだ。王都での単独行動とか珍しかったんじゃねぇの?」

 

「……実質、初めてのことだろうねぇ。エリオット君が付いていたはぁずなんだけど」

 

「ぅ……」

 

 苦笑して襟をいじり、銀髪の青年に話題を向けるロズワール。スバルが親友に目を向ければ、「ふ〜…♪」と僅かに冷や汗を流しながら目線を逸らされる。

 

「口笛吹けてねえし。どうにか誤魔化そうと下手くそに足掻いてるてるトコが地味にイラッとくるな。一緒に居たんだから誤魔化せるわけ無えだろ」

 

「いや、でもね?途中まではしっかり一緒にいたから!リンガ買いに行く時まで一緒だったから!」

 

「その後結局はぐれたんじゃん」

 

「さっ、最後には合流出来たもん……」

 

「もんじゃねえよ!結果論じゃねえかソレ!」

 

 どうにか誤魔化そうとするエリオットとその穴だらけの理論を突く意味のないやり取りを経て、語気荒く怒鳴るスバルが肩を落とす。が、その怒声におずおずと反応したのはエミリアだ。

 彼女は気まずそうな顔で小さく手を挙げて、

 

「エリオが悪いわけじゃないの。その、私が……ちょっと好奇心に負けちゃってっていうか。ふらふらとエリオからはぐれちゃって」

 

「なんだその萌えキャラみたいな理由、鉄壁か。それはそうとして結局エミリアたん達の保護者はロズっちで、エミリアたんを守れなかったのは事実だろ? そこんとこ、ドゥーよ?」

 

 唇を突き出していい発音で問いかけ、ロズワールはそれに首をひねるアクションで応じる。彼は「一理あるね」と前置きして、

 

「確かに監督不行き届きは私の責任でもあるかもねぇ。でぇも、それはそれとして君はなにを言いたいのかなぁ?」

 

「簡単な話だよ。エミリアたんが帰巣本能忘れてふらふらしてたのに、付き人がそれをサーチできなかったのは痛恨の極み!「ゲフッ…」んでもって、つまるとこ俺はそこにつけ込んだ悪党キャラ。となれば絞れるところから絞れるだけ絞るのが正しい悪徳ってもんじゃねぇの」

 

 合点がいった、というように室内の全員の表情が変わる。

 エミリアが顔を強張らせ、エリオットが胸を押さえて苦い表情を浮かべる。双子が申し訳なさと敵意が同居した瞳でスバルを睨み、ベアトリスは我関せずの顔のままグラスを傾け、パックは卵料理の前で滑ったのか黄身に頭から突っ込んで大惨事。

 そしてロズワールが納得、とでも言いたげな微笑のまま何度も頷く。

 

「なぁるほど。確かに私財としては素寒貧に等しいエミリア様より、パトロンである私の方が褒美を求めるには適した相手だろうねぇ」

 

「だろ? そしてあんたはそれを断れないはずさ。な・に・せ! 俺ってばエミリアたんの命の恩人な上に、王選ドロップアウトを防いだ功労者! つまるところ王選でのエミリアたん陣営にとって救世主的ななにかだ!」

 

「認めよう、事実だからねぇ。で、その上で問いかけよう」

 

 ロズワールが席から立ち上がり、その長身でスバルを見下ろす。

 負けじと下から見上げ返すスバル。図式は初対面の不意打ちデコチューのときに近いが、二人がまとう雰囲気の重さはけた違いだ。

 はらはらと、エミリアが交渉の行方を恐れるように両手を組み、そんな彼女の肩をエリオットが支え、二人で行く末を見守る。そんな姉弟の不安げな気配を背中に感じたまま、スバルは頷き、

 

「聞くぜ、耳の穴かっぽじってな」

 

「君は私になぁにを望むのかな? 現状、私はそれを断れない。君がどんな金銀財宝を望んでも。あるいはもっと別の、酒池肉林的な展開を望んだとしてもだ。徽章の紛失、その事実を隠ぺいするためなら何でもしよう」

 

「へっへっへ、さすがはお貴族様。話がわかるじゃねぇの」

 

 うりうり、と肘でその薄い胸板を突いて、スバルは好色な笑みを作る。

 後ろでガンガン好感度が下がる音がするのが心苦しいが、それらも全てこのための伏線。悪ぶった態度のまま両手を広げて、

 

「褒美は思いのまま! そしてお前はそれを断れない! 俺とロズっちの約束だ。破ったら針千本呑ますかんな」

 

「百本目までに死にそうなお話だねぇ。うん、約束しよう」

 

「男に二言はねぇな!?」

 

「スゴイ言葉だねぇ。なるほど。男は言い訳しないべきだ。二言はない」

 

 互いの男を差し出しての交渉だ。

 その上での約束事ならば信じるに値する、とスバルは偉そうに腕を組み、

 

「じゃ、俺を屋敷で雇ってくれ」

 

 長い長い前振りに反して、すっぱりあっさりと言い切ったスバル。

 そんな彼の申し出に、唖然とした顔をするのは背後の女性陣(+男性一人)だ。双子はその表情の変化の少ない面差しに困惑を浮かべ、ベアトリスはこれまた本気で嫌そうに顔をしかめ、エリオットが目を見開く。中でもエミリアは、

 

「わ、私が言うことじゃないけど、ちょっとそれは……」

 

 パクパクと金魚のように口を開け閉めして、目を白黒させるのに忙しい美貌。神秘性もそれだけ動揺が激しいと薄れて剥がれすぎだ。

 そんな彼女に振り返り、スバルは悔しげに肩をすくめながら、

 

「いや、正直、エミリアたんにとっては二度ネタだから面白くないだろうなってのはわかってたんだよ。でも俺の経験値だと、もう一回ぐらいはうまくいった方法に乗っかるしか方策がねぇなと……」

 

「そんな話してるんじゃなくて……っ。いえ、欲がなさすぎるの!」

 

 エミリアはまるで我が事のように怒り、テーブルを叩いてスバルに詰め寄る。突き出した指がスバルの胸を何度もつつき、

 

「いい? パックの件もそうだし、今の話も……違うわ。そもそも、王都で私の名前を聞いたときもそうだった」

 

 彼女は自分の知る限りの、スバルが褒美を得られそうだった場面を羅列。それらの成果の全てを知るエミリアは、本当に理解できないと頭を振って、

 

「こっちの感謝の気持ちがわかってないのよ。そんな……そんなことで、命を救われたことへの恩なんて、全然返せないのに……」

 

 語尾が弱々しくなり、こちらの胸をつつく指の勢いも衰えると、彼女はそのまま掌をスバルの胸板に当てたまま顔を俯かせる。

 そんな静かな彼女の慟哭を聞いて、スバルは自分の浅慮さを呪った。

 彼女はずっと、負い目を抱いていたのだろう。借りに対して求められた対価のその釣り合わなさに。

 しかし、それはスバルにとっても同じことだ。

 スバルだってずっと、彼女に負い目を抱いている。そして、それは二度と彼女に求めることのできない類の負い目だ。そしてそれはパックにも。

 

 無言で意思をぶつけ合う二人の傍らで、ロズワールがこそこそとベアトリスの方へ移動。というより、彼女の側にいるパックの方へ言って話しかける。

 

「なぁに? 大精霊様もあの子にご褒美をあげてるの?」

 

「うん。ボクの体を自由に撫でたいらしいよ。一流のモフリストなんだって」

 

「にーちゃの!? なんて憎たらしい奴なのかしら……追い出すべきなのよ」

 

 いらぬところでスバル追放計画が進展しているが、それを意識的に無視してスバルは正面の華奢な肩に手を置く。

 紫紺の瞳が潤んだ状態でスバルを見上げ、物問いたげに唇が震える。

 

 ――ヤバい、超可愛い。

 

 思わず勢いで唇を奪いたくなる衝動をフルボッコにして、奇跡的に自制。それからスバルは出来得る限りの真摯な態度で彼女に本音を告げる。

 

「エミリアたんはわかってねぇよ。俺は本気で心の底から、そのときそのときの本当に欲しいもんを望んでるんだぜ?」

 

「――え?」

 

「あのとき、俺は君の名前が知りたかった。マジと書いて本気と読んじゃうくらいに。メチャクチャ腹とか空いてたし、新天地で足下ガクブル不安でいっぱいいっぱいだったし、色々と得なきゃいけないもんはあったと思う。落ち着いて考えればだけど。――でも、俺は自分に嘘はつかない男だ」

 

 三度も死んだのだ、そのために。

 目の前の銀髪の少女の笑顔と、その名前を知るためだけに費やしたのだ。

 あの瞬間、それ以上の褒賞など望むべくもない。

 

「ロズワールへの頼みだっておんなじだ。正直、俺ってば今のところは徹頭徹尾の一文無し! 一時の快楽と引き換えにするにゃ、ちょいと懐具合も頭の具合もよろしくない。俺にとって、ベストな選択肢だぜ?」

 

「……スバル、別に雇われなくても、食客扱いとかで良かったんじゃないの?」

 

「――その手があったか!? ロズワール!?」

 

 親友の反論に跳ねるように振り向き、一縷の望みをかけてロズワールを見る。が、彼は顔の前で両手を大きく×の形に交差して、

 

「最初の要求が有効です。男に二言はないからねぇ」

 

「うぉぉーい! そうだよね! 男は二言とかしないもんね!?」

 

 さっきの誰かの発言が跳ね返っていて泣く泣く却下。

 すごすご引き下がるスバルは今後の就労生活に思いを馳せながら、

 

「さっきの瞬間まで巻き戻って、『俺を養ってくれ』に言い直したい……」

 

「今、一瞬だけすごーく真剣に見えたのに……気のせいだった」

 

「ね。僕も一瞬スバルがすごーく格好良く見えたんだけど、もういつものスバルに戻っちゃった」

 

「おまけにエミリアたんからもエリオからもこの評価! 踏んだり蹴ったりだよ!」

 

 理想的な異世界ひきこもり環境の成立を、自分の失言によって失ったスバル。ついでに美少女と美女(※男)からの好感度も失ったとあれば拾うところがない。

 心境的には血の涙を流すような苦悶の中、スバルは唇を噛みしめてロズワールをいじらしく睨みつけた。

 

「ともかく……そういうこったから。ラムちーとレムりんだけで屋敷の維持も大変だろうし、下男的ポジションでよろしく頼む」

 

「差し迫った問題なのは事実なぁんだろけどね。……エミリア様の言う通り、やぁっぱり欲のないお話だと私も思うよぉ?」

 

 道化服の袂に手を入れながら、ロズワールはその柔和な面持ちに初めて苦笑めいた色の濃い表情を浮かべた。

 スバルはそんな彼に立てた指を振って「ちっちっち」と応じ、

 

「俺は超欲張りな男だよ。――だってそうだろ? 超可愛い超好みの超美少女とひとつ屋根の下を合理的に獲得だ。使用人の立ち位置を得たことで、ラッキースケベのチャンスにも恵まれるかもしんない。可能性が無限大で、俺の心は珍しく明日をウキウキウォッチングだよ!」

 

「……なるほど。それは確かにそうだ。好みの女性の側にいられる職場、というのはなかなか得難いものだねぇ。うまい話だよ、まぁったく」

 

「ま、それにだ」

 

 振っていた指を止めて、そのまま頭に持っていくと無造作に黒髪を掻く。視線を誰からもそらして天井を見ながら、

 

「俺みたいなわけわからん奴は、わけわからんまんま放置するより手元に置いておけよ。その上で俺がエミリアたんにとって有用か有害か見極めてくれや」

 

 なんの予防線も張らずに屋敷を出るような事態になっていれば、きっと碌なことにはならなかっただろうなと思っての発言だ。

 これは正直、予想の範疇を出ない上にロズワールの人間性を試しているようでもあって気が引ける。

 なんの心当たりもなければ絶句するような、言いがかりだったに違いない。だが、そんなスバルの気まずい感傷に反して、

 

「そうさせてもらうよ。――願わくば、仲良くやぁっていきたいもんだね?」

 

 即座にそう切り返したロズワールの、その左右色の違う双眸の奥の感情はまったく読み取れなかった。

 

 

 

 

 

 余談だが、思わず場の勢いで告白めいた発言をして内心赤面ものだったスバルだったのだが、振り返っておずおずとエミリアの表情を覗くと、

 

「仕方ない人だわ、スバルって。……どうしたの?」

 

「本当にね。でも、きっと悪い人じゃない……スバル?」

 

 と平然な態度で返されて若干の困惑を与えられた。

 さすがにこれだけ美少女だと、軽口や軟派な態度も含めて、口説かれるのなんて慣れ切っているのだろうと百戦錬磨ぶりに戦々恐々とさせられる。

 

「俺、これ以上、勢いに任せてエミリアたん口説けっかなぁ」

 

 前途多難さにため息が漏れるのが堪え切れないスバル。

 そんな、先の見えない異世界生活をだいぶ斜めの角度から不安がるスバルに対して、エミリアは小さい声でぽつりと呟いた。

 

「女の子と一緒の職場がいいなんて、不純よ。……ラムとレム、どっちがスバルの好みだったんだろ」

 

 唇に指を当てて、まったくの見当違いな想像に胸を膨らませるエミリアだったのだった。

 

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