Re.ゼロから始める姉弟生活   作:黎川暁明

43 / 44
短いですけどがんばりました!
出来るだけ早く更新したいです。


第43話

ーside エリオットー

 

 昨晩、僕は姉さんと姉弟水入らずで話に花を咲かせていた。半日も過ぎない前にスバルを送り出したこともあって、必然的に彼に関する会話が多かったように思う。短いながらもスバルとの思い出話を語り合って、これから先のスバルの幸福な人生をを願った。夜も更けてきたころ、いい加減寝ないと明日の予定に悪影響が出てきそうだったので、姉さんにおやすみと言って部屋から出た。そのまま一つ前のループと同じように屋根の上に登って、今度は姉さんの部屋がある方向を重点的に警戒を始めた。

 

 

 

 

 

 そして今朝、いつの間にか寝入っていたようで日の光で目を覚ました。頭の中に霧をかけたまま、着替えようとベッドから降りる。――と、ベッドの横にある机の上で、何かが日の光を受けて煌めいているのに気が付いた。ぼんやりとしたままそれに近づいて、それが何かわかった瞬間いきなり氷水を浴びせられたかの様に脳内の霧がかき消えた。

 昨日、スバルにあげたはずの、姉と同じ意匠の首飾りが、机の上で日の光を浴びて青く輝いていた。

 「なぜ?」で頭が埋め尽くされる。昨日スバルを送り出した時に、お守りとして渡したはずだ。なんでここにネックレスがある? なんで僕はここにいる? 昨晩は屋根の上にいたはずだ。もし寝てしまったとしてもベッドの中にいるわけがない。理由としてあり得る可能性は一つだけ。スバルが死んで世界何巻き戻ったとしか考えられない。ならなんで巻き戻った? スバルは屋敷から出て行った。襲撃者が王選候補者の姉さん狙いで、その一環で屋敷の人員全員、その中でも一番弱いであろうスバルを最初に殺していたのだとすれば理解できた。でも今回、屋敷への襲撃はなく、スバルのみが殺されて再度ループが始まった。襲撃者の狙いは王選候補とは関係ない? スバルを殺すことが目的だった? スバルはこのことに気付いていたのか? スバルは、分かった上で屋敷から出て行ったのか? 僕らを巻き込まないように? 自分の命を捨ててでも? なんで僕に相談してくれなかった?

 僕自身もも一度だけ経験したから分かる。“死”はこの上なく恐ろしい。ゆっくりと、だが確実に自分の体から熱が消えていく。寒くて仕方ないのに傷口は焼けつく様に熱い。痛みで気絶も出来ないほどなのに眠くてたまらない。

 あんな経験は一度だけでも心が激しく摩耗する。それをスバルは何度も経験して、それでもなお助けようとしてくれた。スバルがもう逃げたいと考えるのも当たり前のことだ。だからこそ、僕は昨日スバルを屋敷から送り出した。もうこれ以上巻き込まない為に、スバルが苦しむことが無いように。

 でも彼はまた殺されてしまった。自分が甘かったからだ。もっと他にも出来ることがあったはずだ。スバルについて行けば良かったんだ。そうすれば襲撃者にも対処出来た。スバルは魔法が使えない。戦う術も知らない。僕よりもずっと弱い。スバルと同じループを繰り返せる存在でありながら死を経験した数は圧倒的に少ない、僕は彼一人に背負わせすぎている。ならば答えは一つ。僕が、エリオット自身が命をかけてスバルを守る。スバルが、自身よりも先に死ぬことが無いように。

 

 

 

 

 

 

 椅子に腰掛け、顎に片手を当てて深く考える。今、僕はスバルのために何が出来る? まず襲撃者は何者だ? 最低でもスバルのことを知っている必要がある。知らない人間をわざわざロズワール邸まで来て殺す理由がないからだ。この条件に該当するのは、ぼく、姉さん、パック、ラインハルト、フェルト、ロム爺、そして“腸狩り”ことエルザ・グランヒルデ、居るとすれば彼女の仲間。あとはロズワールさん、ベアトリス様、ラムさん、レムさん。まず僕自身だけどはあり得ない。スバルを殺してなどいないし、殺したところで戻ることを知っているのだから意味がない。次に姉さん。姉さんもありえない。スバルは恩人だ、お礼こそすれ手にかけることなどあり得ない。パックも姉さんの意思に反してそんなことをするとは思えない。ラインハルトやフェルト、ロム爺がいるのは王都だ。ラインハルトならロズワール邸までやって来て僕に気付かれずにスバルを殺すことは簡単だろうけどする意味がない。エルザも恐らく違う。あのダメージは相当のものだ。いくら再成が早いといっても万全にはならないだろう。もし、実際に居たとしても彼女の仲間でもないと想う。エルザは自分がこの場の全員を殺すという旨の言葉を口にしていた。短時間しかあっていないけど、自分の獲物を誰かに渡す様な女じゃないと思う。ロズワールさんは同じように殺すとしても魔法を使うはずだ。カモフラージュとして別の武器を使うことが無いとは言えないけど、彼ならその程度の偽造は片手間にやってしまえる。ベアトリス様も同じ理由だ。

 なら必然的に残るのは……ラムとレムの双子姉妹になる。

 あり得ないと、否定は出来ない。というより、彼女たち以外にいないというのが現実だ。スバルの暗殺程度、彼女達からすれば簡単なことだろう。動機については、ロズワールがこれから先エミリアの障害になる可能性がゼロではないスバルを始末しようとした、といったところだろうか。じゃあそのロズワールがラムやレムに命令を下したとしたら? スバルは殺されることになるんじゃ無いか? 間違っている可能性もあるだろう。まだ命令が出されていない可能性も高い。なら今出来ることは出来るだけスバルのそばにいて、誰にも殺せないようにする事だ。見張るべきは襲撃者ではなく、狙われているスバル当人。常に近場に居てあらゆる事態に対処する。

 考えるのに時間を使ってしまった。大丈夫だとは思うけど、早いに越したことはない。さきほど考えている間にも叫び声が聞こえた。早くスバルのところに行こう。

 

 

 

 

 

 スバルの部屋の前に着いて、ドアをノックしようとしたところで、部屋の中から話し声が聞こえた。どうやらスバルと姉さんが会話をしているみたいだ。今のとこお付き合いだとか結婚だとかを許すつもりは全く無いけど、スバルが姉さんのことを好きなのは知ってる。今のスバルは相当に精神を疲弊させているだろし、少しの間くらい、二人きりでいさせてあげても良いかもしれない。

 

「……少しでも、スバルが元気になってくれると良いな。じゃあ僕は…」

 

 スバルと話す以外にも出来ることはある。ロズワールさんのところに話しに行こう。考えていることをさぐれるかもしれないし、もしかしたらスバルの暗殺についてヒントが見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 歩き出して十何歩か歩いたころ、ふいにそれは訪れた。

 

 音が無い。一切の音が聞こえない。風に小さく揺れる窓の音、屋敷の中に反響する靴音、微かに響く生活音、果てには僕自身の心臓の鼓動の音までもが聞こえない。世界から、全ての音という音が消失していた。

 

 あり得ない。そんな魔法は聞いたことがない。水中でも、耳を塞いでいても、風の魔法を使っても一切の音を消し去るなんてことは出来ないはずなのに、世界は完璧な静寂に支配されている。

 ただそれだけで全身を悪寒が駆け巡り、嫌な汗が背筋を流れるような感覚がする。一度だけ経験した死の恐怖に相当する様な怖気が全身を駆け巡った。

 

 そして続いて気付いた。踏み出そうとしている足が動かない。身体が思い通りに動かないなんて生優しいものじゃない。踏み出した足が床につかない。宙に浮いたまま固定されている。足も腕もほんの僅かたりとも動かせない。視界の中で微かに揺らぐものすら無く、精巧な絵画の中に入り込んでしまったかのようだった。

 

 何が起きてる? 魔法? 犯人は? 襲撃者か? 屋敷の人間とは関係ない? 襲撃を早めたのか? 犯人は誰だ? 魔法だとしてここまでの使い手なんて聞いたことも無い、一体誰が何の目的でーー、

 

 ふいにやってきた理解を越えた現象。出来ることといえば唯一動かせる思考をまわすことだけだ。しかし、知識と思考の全てを費やしてもなにが理由でこうなったのか。それの見当すらつけられない。

 

 そして、その不変の世界は唐突に変化を迎えた。

 

 視線の先、それは廊下の先の虚空から滲み出す様にゆっくりと何かが現れ始めた。見た目は黒い靄のようだ。他の全てが凍結した様に動かない静寂の世界の中、唯一動きを見せていた。

 そしてその靄はゆっくりと少しずつ形を変えていく。

 

 なにもかもが停滞した世界の中、両手の上に抱えられる程度の大きさの靄はその輪郭を少しずつはっきりとさせていき、体感で十数秒ほどたったころ、遂に目的の形を成した。

 

 ――エリオットにはそれが、黒い掌のように見えた。

 

 形を変えた靄は腕の形状を取っていた。

 五指を備え、肘の先ほどまでの長さしかない浮遊する黒い腕。肘から上は存在せず、ただ、前腕部のみが虚空に浮いていた。

 そしてソレは己の形を確かめるように指先を震わせると、迷うことなくエリオットに向けて移動を開始した。

 僅かに身じろくこともできず、近づいてくるそれを見送る。

 そしてソレは至近距離まで近づき、静かな水面に手を差し入れるが如く、一切の抵抗も無しに黒い指先はするりとエリオットの胸へ忍び込む。そして、はっきりとその指先が内臓を撫でる感覚がエリオットの脳を揺らした。

 内腑に触り、肋骨を撫で、さらに奥へと掌は進み、やがて人体においてもっとも重要な器官へとその指先を届かせる。

 

 ――ま、まさか…。

 

 最悪の未来を予感し、声にならない声を上げる。まるで動くことも出来ず、一切逆らうことのできないまま、黒い掌のされるがままになっている。

 次の瞬間、思考の全てを塗り潰す様な衝撃が全身を襲った。

 内臓を傷付けられることが何故痛いのか、説明できる人間はいるだろうか。それの答えは簡単で、そんなことは考える必要はない、の一言で済む。

 その瞬間、エリオットを襲った激痛には理由付けの必要性など欠片もない。

 ただひたすら純粋に、心臓を容赦なく握り潰される激痛がエリオットの全身を貫いた。

 

 叫び声を上げることはできない。痛みに身を震わすことすら禁じられている。

 痛みを誤魔化す手段もなく、ただ痛いとしか感じられないことの痛みだ。初めての死が子供のお遊びに思えるほどの痛み。灼熱感も寒気も一切なく、ただただ純粋な苦痛だけがあった。

 

 痛みに思考も自分自身も真っ黒に塗り潰され、唯一残っていた視界すらも失って――。

 

 

 元に戻った世界に、エリオットが倒れる音と鼻をつく濃い鉄錆の匂いが広がっていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。