筆者の前作を読まれている事前提で進みます。予め、御了承ください。
冬が過ぎ、春の訪れを迎えようとしている頃、ここ雄英高校でも、多くの前途ある少年少女達が集っていた。その中に、一際人目を引く一人の少女の姿があった。
身に纏うのは、飾り気の無い学校指定のジャージなれど、輝くような銀灰色の長い髪、引き締まってはいるが女性特有の丸みを帯びた抜群のスタイル、決意に満ちた紅い瞳、額の右側に生える角、そのどれもが彼女の魅力を引き立てていた。
『はいスタート』
そんな少女に見惚れ、欲の孕んだ若い妄想に呆ける男子諸君が、唐突に放たれた開始の言葉に反応出来ず、どこの会場よりも盛大に出遅れてしまったのは、まぁ語るまでもない事だろう。
それこそ、朝一番に「お姉ちゃん頑張って!!」と応援の電話をくれた、故郷で待つ弟の為にも合格するんだという決意に満ちた少女、島乃真幌には関係が無い。一番のライバルが、自身よりも三歩前を駈けり、最前線で待ち構えていたロボに向かって、腰の入った鋭い蹴りを繰り出している件の少女なのだから、他の有象無象に構っている暇も無い。まぁ、精々ライバルが少し減った事をラッキーと思う位である
「待ってなさいよ、活真。お姉ちゃん、絶対合格してやるんだから!!」
▼▼▼
「おはようございます、マグ姐」
「おはよう、光輝。あら、バッチリ決まってるじゃない。格好いいわよ、私がもっと若ければ、口説いちゃいたい位だわ」
「ガチで止めて下さい、俺にそっちの趣味はないです」
「んふ~、光輝がその堅苦しい言葉遣いをやめて、お母さんって呼んでくれたら考えてあげるわ。もうすぐ出来るから、お皿の準備をお願いね」
サングラスの奥で、バチコーンと見事なウインクをする保護責任者をスルーして、テーブルに皿を並べていく。あの暗闇から助け出され、親代わりとして、雄英高校に推薦入学出来る位まで育て、鍛えてくれた恩人ではあるけど、流石にお母さんとは呼びづらい。せめて、お父さんだったら一考の余地有りなんだが。
「壊理ちゃんや洸汰君と、一緒のクラスだったら良いわね」
「アイツラのイチャイチャを、三年間も側で見たくない」
「んふふ、貴方にも、きっと良い出会いがあるわよ」
「いや、別にそれ目的で雄英高校に行く訳じゃないですから」
「楽しみだわ~、光輝がどんな子を連れてくるのかしら」
「···マグ姐のせいでフラれる未来が来ない事を願います」
乙女の様に体をくねらせるマグ姐を尻目に、スクランブルエッグとサンドイッチを牛乳で流し込む。そろそろ、登校しないといけない時間だ。
「ごちそうさま。じゃあ、行ってきます」
「ええ、頑張ってらっしゃい」
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「おはよ、壊理ちゃん」
「おはよう、洸汰君」
駅の改札を出て、正面出入口に気持ち早足で向かうと、柱の側に佇む、制服姿の見慣れた銀灰色の髪の女の子が目に入った。その綺麗で可愛い姿に一瞬ドキッとしつつ、いつもの調子で声をかける。笑顔の返答にまたまたドキッとさせられた。
「あ、洸汰君、ネクタイ歪んでるよ。初日なんだから、身嗜みはちゃんとしておかないと」
「うえっ!!」
「もう、じっとしてて。余計に歪んじゃうから」
自然な感じで僕のネクタイに手を伸ばして、慣れた手付きで形を整えてくれる壊理ちゃん。思わず仰け反ってしまって怒られたけど、壊理ちゃんにズイッと近付かれたら、誰だってこうなってしまうのは仕方ない事だと、心の中で自己弁護する。
「はい、出来たよ。うん、格好良い」
「あ、ありがと。壊理ちゃんも、とっても似合ってる」
「ありがとう、洸汰君」
「朝っぱらからイチャイチャすんなよ、このバカップルが」
「うわぁっ!!!こ、光輝!?い、いつから??!」
「あ、おはよう、光輝君」
「お前が、デレデレしながら筒美にネクタイ直して貰ってる時だよ、洸汰。何が"あ、"っだ、最初っから気付いてただろうが、筒美」
「うぐっ、デ、デレデレなんて···ああもう、早く雄英行こう!!」
「フフッ。うん、そうだね、洸汰君」
「はぁ···先が思いやられる」
「何よ、アレ。私は、あんな浮わついた奴らに負けないんだから」
これは、筒美壊理·出水洸汰·照元光輝·島乃真幌の四人が、筒美壊理の因縁で巻き起こった事件に立ち向かいながら、立派なヒーローを目指す、ドタバタ学園ラブコメハートフルストーリーである。
おまけ「とある日の八斎會」
「火伊那の姐さん、最近頭の機嫌がめちゃくそ良いのはなんでなんすか?」
「不気味な位顔がにやけてて、下の奴らが怖がってるんすよ」
「正直、今の頭には、マスク着けといて欲しいぜ」
社長である廻が居ないヴィラン連合のオフィスで、黙々と書類仕事をしていると、幹部連中がコソコソと寄ってきて、ボソボソとそんな事を言ってきた。
「頭じゃなくて、社長って呼びなさい。もう八斎會は解散してるんだから」
「それは追々。それで、原因はなんなのですか?」
「単純よ、壊理が毎朝、あの人のネクタイを締めてくれてるから」
「そらにやけるわなぁ」
「んでも、なんでまたお嬢が?」
「雄英高校の制服、男子はネクタイでしょ?洸汰君のネクタイがアレだった時に、すぐに巻き直してあげられる様になる為に、あの人で特訓してるのよ」
「なるほど」
「頭は実験台って事っすか。逆にぐぬぬってなりそうな」
「そこは、もう考えないようにしてるみたいよ。一回駄々捏ねて、"じゃあ、次からパパにはしない。じいじに手伝って貰うから"って言われちゃって。あの時の廻は、本当に情けなかったわね」
「「「あ~~」」」
捜索掲示板に、成長した壊理ちゃんが出る作品として、"雪ほの"が紹介されてたのを見つけてしまったのが始まり。
そういや壊理ちゃん周りで、問題に出来そうだけど投げっぱにしてた設定あったなと思い、何か書けそうだと見切り発車でスタートしました。
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