「すまない。これは、僕の落ち度だね」
「いいえ、貴方の所為ではないわ。私も、リストには目を通していたもの。斑目清十郎(マダラメ セイジュウロウ)、福祉系の会社を経営し、あの蛇腔病院と提携して、自身が運営している介護施設や孤児院に人々を受け入れていた」
「AFOに差し出す個性持ち、それらを手の内に納めておく為の箱として、奴らに利用されていた被害者の一人。当時はそうカテゴライズしてしまった」
「ヒューマライズ事件で、彼らとの繋がりも発見されたけど、何も知らない一般信者が運営する児童施設と関わりがあっただけで、その時も事件に関しては無関係との判断」
「その後も、摘発に足る怪しい行動はしてこなかった。流石に、今更AFOやヒューマライズの件で動けはしなかった」
「そうね。さて、反省はここまでよ。産まれてくる孫の為にも、やり残した仕事をキッチリ済ませてしまいましょう」
「ああ。平和の象徴、一日限りの復活だ」
▼▼▼
「それで、私に何をしろと言うんですか?」
「あらあら、実の母親との対面なのに、なんとも薄情な。流石、実の父親を消滅させただけはありますねぇ~」
「話が進まないから黙って。で、何をさせたいのですか?」
カプセルの中の母親から目線を切り、男達に問い掛ける。まぁ、私の役割は言葉にしなくとも予想は出来るけど、ちゃんと言葉にして貰わないと困る。
「君には、母親に代わって子を産んでもらうよ。君と同じ個性を持った子をね」
「···ハァ、申し訳有りませんが、お断りします。もし私に手を出すのなら、受精卵まで戻る覚悟をしておいて下さい。私、初めてを捧げる人は決めていますので」
「フフッ、君の個性については調査が済んでいるよ。君の個性は、人体にしか作用出来ない。しかも、個性使用には時間経過で貯まるエネルギーが必要。その額にある角の大きさが、貯まっているエネルギーの量を示している。つまり、君がエネルギー切れを起こすまで、何度も挑戦すればいいのさ。何も知らない、無関係な人間を使ってね」
「本当に、下衆」
「褒め言葉として受け取っておこう。ああ、ついでに私の妻を直してくれると助かる。彼女には、大分世話になったからね。出来る事なら、まだまだ頑張って欲しいのだよ」
「······」
「それと、このカプセルは内部電池で動いていてね。後数時間で電池は切れる。そうなれば、彼女はすぐにその命を散らすと言っておくよ。我々も心苦しいが、廃品を保管しておける程、余裕はないのだから」
「······ッ」
「さぁ、どうするのかね?義娘よ」
本当に、本当に屑。
縛られた私の前に移動してきたカプセル。その蓋が開き、手と上半身の拘束だけが解かれ、手を伸ばせば触れられる様にされた。
目は乙窪み、頬は削げ、窶れた全身にくっきりと残る、人の手の形をした青アザ。極めつけは、何度も何度も行われたであろう、腹部にある帝王切開の痕。
「···ごめんね、お母さん」
私は、ゆっくりとお母さんの手を両手で握り、個性を発動した。
▼▼▼
「おお!」
「これが」
「素晴らしい!!!」
目の前の光景は、正しく奇跡だった。片足処か、首まで死に浸かっていた女が、文字通り、映像を巻き戻している様に生気を取り戻していく。息子らの実験で付けられた、見るも無惨な様相も消えた。
この力があれば、我々に巨万の富と不老不死を与えてくれるに違いない。そして、儂がこの世界の王となる。
「······終わりましたよ」
角が殆ど無くなった小娘が、怒りを隠さずに儂らを睨んで告げる。幾ら睨んだ所で、何も出来ん事には変わらん。母親も、歳の割りにはそそる体をしておったが、この娘も中々の器量だ。どの様に啼いてくれるのか、これから組み敷くのが愉しみよ。
「お母さんを、解放してくれませんか?」
「フッ、妻を路頭には迷わしたくないのでね。それは無理な相談だな」
「ヒハッ!!巻き戻った人体という貴重なサンプルを、手放すなど出来ませんよねぇ!!」
「そうですか···」
「ククッ、自分の事を心配した方が良かろう。お前さんも、母親と同じ目に合うのだからな。さぁ始めようぞ、息子よ」
「ええ、総帥。おい、準備をしろ」
「ああ、楽しみだ楽しみだ!!」
「キャァ!!!」
娘の上半身を再び拘束し、椅子が変形していく。例えるなら、分娩台。儂らに見える様に、M字に大股開きしている格好で固定され、真っ白な下着がお披露目となっている。
羞恥に顔を染め、無様に踠く姿は、なんとも良い眺めだ。
「その角の長さでは、儂を多少若返らせる位しか出来まい。さぁ、儂らの野望の礎となれ!!」
ビー!!ビー!!ビー!!
突如鳴り響く警報。
「何事じゃ!!!」
「この警報は、侵入者!!!?おい!どうなっている!!」
『ヒ、ヒーローです!!し、しかも!!来ているのは『私が来たーー!!!!!』ゴバァアアアア!!』
通信機から聞こえてきた声に、体が固まった。あのお方が敗れ、あのお方の協力者が次々と捕まっていく中、テレビから聞こえてくる奴の声に、いつ自分の番が来るのかと日々絶望に震えていた。
「な、何故、ここがばれた···」
「クッ!!筒美壊理に付けられていた発信器や、掛かっていたサーチ等の個性は、完全に解除したんじゃ無かったのか!!」
「フグッ!!く、苦し···そ、その筈。何度もワープさせて、その都度、電子機器を破壊する個性持ちや、人に作用している個性を打ち消す個性持ちに!!」
「では、この状況はどう説明する!!?」
「ケヒヒッ、闇に潜むのが、お前達悪党の専売特許じゃないって事さ」
「誰だ!!」
「ヒーローだ」
儂が最後に見たのは、漆黒だった。
▼▼▼
「壊理ちゃん!!」
「洸汰君!!」
ツクヨミとペンタブラックが、ヴィランの相手をしている間に、壊理ちゃんを助けに動く。それなりに扇情的な格好をしてるけど、もうこの程度で動揺する程、壊理ちゃんに鍛えられてない。
壊理ちゃんを傷付けない様に、金属の拘束具を水流で切断する。
「ゴメン、恥ずかしい目に合わせちゃって」
「ううん、気にしないで。見られたの、アンスコだもん」
「でも、」
「オイッ!イチャつくのは後にしろ!!」
「アンタの産みの親も確保したわ!!さっさと逃げるわよ!!」
「あ、うん。歩ける?壊理ちゃん」
「ごめんなさい、ちょっと力が入りづらいかも」
「分かった、乗って」
壊理ちゃんを背中に背負い、壊理ちゃんの実のお母さんが乗ったカプセルごと個性で持ち上げている光輝と、それを護衛している島乃さんと共に、ツクヨミとペンタブラックに合流する。
「貴様ら、いつの間に!!」
「最初からだ」
「ケヒヒッ。俺の個性で、ずっと彼女の影に隠れてたんだよ。ツクヨミ達を圧縮した玉を持ってな。ついでに、俺に掛かっているサーチは消えていない」
「この者のお陰で、貴様らの様な薄汚いヴィランを倒すには十分な闇が蓄えられた。観念して、大人しく捕まれ」
「クッ、だが、こちらにもまだ手はある。一緒に売り込む予定だった、戦闘用のデモンストレーションにしてやれ」
「ヒハッ!!"脳無"とかいう物のデータを参考に、僕が作った最高傑作達の力、思い知れぇぇええ!!!」
ゴゴゴゴゴッと、奴らの後ろの壁が収納される様に下に擦れた。ヒンヤリを超えて凍える様な空気に警戒を強める。コツコツっと、ヒールの独特な足音が耳を打つ。
そして、奴らの首から下が一瞬で氷に覆われた。
「なっ!!!」「ヒョエッ!!!」
「申し訳ないけど、アレに比べたら、まだまだお子様の図工レベルですよ。お疲れさまです、ツクヨミ、ペンタブラック。さぁ皆、帰りましょうか」
「···もう少し、元教え子に花を持たせてくれても良いと思いますが、アイスメイカー」
「あら、ごめんなさい。壊理ちゃんのご両親が、我慢しきれず突撃してくる前に終わらせないとと思って。だって、勝手に肉達磨にされて、的当ての的にされても困るもの」
「「「ああ、やりそ~」」」
「それに、ツクヨミとペンタブラックには、皆の応援に行って貰わないといけないもの。日本のピンチをよろしくね」
こうして、僕達の長いようで短かった一日が終わった。
本当は、洸汰君達にもそれなりに良い勝負をさせようと思ってたんだけど、どう考えてもオールマイトとアイスメイカーがさっさと終わらせる展開しか思い描けんかった。
因みに、何で洸汰君達を連れてったかは、壊理ちゃんの個性の秘密を、余り知らしめない様にする為。ツクヨミ達は、ホークスから事前に説明を受けて、誰にも話さないという誓約書を書いた上で参加してます。
ついでに、書類上の壊理ちゃんの個性は、"対象の生物の時間を、最大十分前まで戻す"となっています。
ヴィランの用意していた脳無もどき(?)について
:壊理の実母に産ませた、壊理ちゃんになれなかった子供を使った生体兵器。発現する個性を調整する技術で、狙った個性強度を持つ個体にして、無理矢理急成長させ、機械を埋め込んで此方の指示しか聞かない様にした。
ただし、誰も戦闘訓練なぞさせられていないので、実際は個性をブッパするだけの固定砲台。面倒臭くはあるが、命令されなければ不動の置物なので、命令される前に、サクッと氷漬けにされましたとさ。
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