「あ、ありがとうございます。こんな素敵な浴衣、用意していただいて」
「いいのよ、真幌ちゃん。着付けなんて、トガちゃん以来だったもの。私も腕が鳴ったわ。あ、ちょっと目を閉じて」
「あ、はい」
私は今、照元光輝の家で、向日葵の咲いた浴衣を身に纏い、化粧机に座って、アイツの保護責任者であるマグネさんに、化粧を施して貰っている。
何故こんな事になっているのかと言うと、事の発端は一学期最終日。全員無事、赤点者を出す事なく期末試験を突破し、来る夏休みに心踊らせていた私達。そんな中、クラスのムードメーカー的立ち位置の男子が、皆でお祭り行こうぜと言い出した。夏合宿に向けて鋭気を養う為に、女子は浴衣必須なんて悪ノリに、何故か女子の大半が合意。私も、まぁ皆が着るならと反対はしなかった。
しかし、ここで重大な問題が浮上する。私、浴衣持ってないし、着方も分からないという大問題が。皆が、どんな浴衣にする?なんて、楽しそうに会話している中、こっそりと壊理に打ち明けると、私に任せてと、すっごい良い笑顔で返してきた。
で、お祭り当日。壊理に言われた場所に行ってみると、待っていたのは照元だった。予想だにしていない出来事にフリーズするも、照元を突き飛ばして現れた、サングラスにアロハシャツ姿の筋骨隆々マッチョオッサンに担がれ、家の中に連れ込まれて大パニック。照元が、そのオッサンを制圧して、私を落ち着かせて、改めて事情を説明してくれた。で、この人が照元の保護責任者で、私の着付けやらなんやらをしてくれる様、壊理から頼まれたのだと言う事を理解した。
そうして、浴衣の着付けが始まり、今に至るのである。
「はい、OKよ。やっぱり、若いからお化粧の乗りが良いわ。でも、ちょっとケアを怠り気味のようね。化粧品も、貴女の肌に余り合ってない、品質低めの安いのしか使ってないみたいだし、今の内からちゃんとしておかないと、曲がり角に来た時大変よ?」
「ありがとうございます。···その、私、余りそういうの詳しくなくて。色んな意味で、余裕もないですから」
「ンフッ、じゃあ今度良い所を紹介してあげるわ。さ、行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございました、引石さ「マグ姐」···」
「マ·グ·ね·え♥️」
「え、えと···」
「何なら、お義母さんでもいいわよ」(ウィンクバチコ~ン)
「お、おか?!」
「何気色悪い事言ってんだマグ姐!!!ほら行くぞ島乃」
「あ、ちょっ!」
「待ちなさい、光輝。その前に、真幌ちゃんに言うべき事があるんじゃない?」
「···似合ってる、綺麗だ」
「···あ、ありがと」
「ま、まぁ、もうちょっとボリュームがあれば、俺の好みなんだかなぁ」
「は、はぁ!?ば、馬鹿じゃないの!!?」
「もう、この子ったら、照れ隠しも程々にしなさい。ほら、時間に遅れるわよ、気を付けて行ってらっしゃい。後、送り狼にはなっちゃダメよ、光輝」
「ならねぇよ!!!」
▼▼▼
「なぁ、女子まだかな」
「焦んな、女子は色々時間が掛かるって良く言うだろ」
「筒美さんは出水、島乃さんは照元に売約済み。残る女子は五人」
「エントリーNo.1、学級副委員長にしてヒーロー科きっての秀才にして眼鏡っ娘、朱鷺乃英(トキノ エイ)」
「エントリーNo.2、のんびり気まぐれ賑やかし、かと思えば何気にオカン属性、猫又三尾(ネコマタ ミオ)」
「エントリーNo.3、B組美女の双璧が一、鋭い眼光は百獣の王、されど中身はラーメン好きの末っ子気質、獅白綿芽(シシロ ワタメ)」
「エントリーNo.4、B組美女の双璧が二、お前本当に同い年?どう見てもバリバリのキャリアウーマン。まぁ、割りとポンコツな所も可愛い、鷹音色葉(タカネ イロハ)」
「エントリーNo.5、そのパワーは無限大。ギュッギュッってされたらプチっとなっちゃう。天龍此方(テンリュウ コナタ)」
「入学して二ヶ月ちょっと。多少は仲良くなれたが、まだまだクラスメートの域を出ない関係性。ここで、少しでも距離を縮め、いずれはお付き合いを···」
「ここにいる全員がライバルだが、敵ではない事を心に刻め。他者を貶める以外なら、どんな手を使おうと咎めはしない。悔し涙は仲間と笑って流せ。それが出来るなら、学級委員長の名に掛けて、ペア行動出来る様尽力する事をここに誓おう」
「「「オオーーー!!!」」」
「なんか、皆盛り上ってるね」
「···うん、そうだね」
壊理ちゃんと一緒に待ち合わせ場所に来たら、クラスの男子達が、とても気合いの入った禍々しいオーラを纏いながら集っていた。本人達は、自覚ないみたいだけど、どう見ても飢えた獣にしか見えない。
「もう、仕方ないなぁ。あれじゃ、英ちゃん達も可哀想だし、ちょっと宥めておこうかな」
「うん、それがいいかもね」
顔を見合わせて苦笑しながら、皆の下へと向かう。
「あ、筒美さん!!!」「え?筒美さん!!?」「筒美さん、綺麗だ」「髪上げてる筒美さん、新鮮だ」「可愛い」「清楚なのに、何処か、イケナイ雰囲気が」「ヤベ、俺鼻血出そう」
うん、そんな反応をしてしまうのは、健康的な男児として仕方ないよね。同じ男として、鼻の下が伸びるのは赦そう。手を出すなら、容赦はしない。まぁ、
「ねぇ、皆、そこに並んで」
「ッ!!!はいっ!!!!」
壊理ちゃんの、火伊那さん直伝の静かな威圧に、条件反射で軍隊張りの整列を見せる彼らに、そんな心配は無いだろうけど。
うん、やっぱり壊理ちゃんは可愛い。
「···何やってんだ?お前ら」
「あ、光輝。島乃さんもこんばんわ、その浴衣、とっても似合ってるよ。今、壊理ちゃんが皆に、獣じゃなくて紳士になる様お説教してる所」
「なんだそりゃ」
「こんばんわ、出水。アンタも説教して貰ってきたら?」
「は?俺はいつだって紳士的だったろ?」
「いっつもいっつも、人の事をからかってくるその口で、な~にが紳士的よ!!!」
「お前がもうちょっとお淑やかになれば、もっと分かりやすく紳士になれんだけどなぁ」
「なんですってぇぇええ!!!」
「ま、まぁまぁ、島乃さん。そうやって反応しちゃうから、光輝も面白がっちゃう所もあるから」
「あ、島乃さんだ!島乃さんの浴衣もすっごい可愛い!!」
「うわ、編み込みすっご」
「僕もして欲しいなぁ」
「三尾は、髪伸ばさないと難しいんじゃない?」
「ですね。皆さん、お待たせしてすみません」
「集合時間ぴったしだから、大丈夫だよ。後、皆とっても似合ってるよ」
「おお、流石彼女持ち。下心や邪な思い皆無褒め言葉を、こうもさらっと言われると、一人の女子として中々複雑な」
「ねぇ、此方ちゃん、それどういう意味かな?洸汰君にどんな思いを込めて欲しいのかな?かな?」
「げぇっ!!壊理!!いつの間に!!?べべべべ別に出水君がどうこうじゃなくてあくまで私の女子的プライド的なあれやこれやのうんたらかんたらで······申し訳ありませんでした!!!」
「そう···洸汰君に手を出すなら、覚悟しておいてね」
「い、いえすまむ」
後に発覚した事(具体的には壊理ちゃんとの結婚式の日)だけど、この時、洸壊理不可侵条約がクラスで結ばれたらしい。お陰で、壊理ちゃんにちょっかいかける先輩後輩が出てこなくて助かったよ。
因みに、俺と壊理ちゃん、光輝と島乃さんを除くメンバーで、厳正なるくじ引きを行い、女子とペアを組む権利を手にし、歓喜の声を上げる男子と、ガックリと肩を落とす男子達とで滅茶苦茶お祭りを楽しんだ。
合宿でまたチャンスが来るから、頑張れ男子諸君。
「あ、溶けたアイスが胸元に垂れちゃった。洸汰君、拭いてくれる?」
「壊、壊理ちゃん?!?」
今後登場するか分からないオリキャラ女子達の名前は、あんまり気にしないで下さい。大して意味はありません。
しっかし、洸壊理が正式に交際するのが、二年生の体育祭としちゃってる弊害で、気兼ねなくイチャイチャさせられねぇ。ぬぐぐ、過去の自分が憎い。
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