TSしてる主人公からの目線が怖いです……   作:加賀美 未来

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学園生活初日は怖い

 

 

 軽く「アビリティ・ロボティ」の主人公、才念丹霞の説明をしよう。

 

 丹霞は幼少の頃に虐められていた。だけどもメインヒロインの薬 薊(やく あざみ)の手によって助け出される。

 

 彼女が医者になりたいと夢見ており、助けてくれた彼女への憧れから丹霞も医者を目指すようになる。

 自分が弱いものであったから同じ弱い人を助けたい。そんな青年である。

 

 持っている異能力はサイコキネシス。物を動かす力だ。だけど彼の能力の特質はちょっと特殊である。異能力には射程距離がある。射程距離範囲内で異能を操作するため、異能力者は異能に関するものならばある程度見えていなくても感知できるのだ。そしてサイコキネシスは物全てに干渉できる。

 

 そう、射程範囲内ならば全ての物を感知できるのだ。勿論個人差はあるらしいが。

 

 感知能力を活かしてソナーのようなことをして怪我の状態を把握し、サイコキネシスで細かい操作を行うことで医療器具を操作し傷を直す。

 

 異能力は人を助けることができる。だからこそ才念丹霞は異能力を怖いからといった理由で封じ込めようとする政府に反発し、有用性を示すことで考えを変えさせていくのだ。

 

 そして最後にヒロインと結ばれ、ハッピーエンドに終わる。そのはずなのだ。

 

 だが、今目の前にいる才念丹霞は女性である。どこからどう見ても女性なのだ。原作とは違う性別。

 

 どういうことだと混乱する。周りでは自己紹介をまだ続けているが話が入ってこない。

 

 誰なんだこいつは、主人公と同じ名前、同じ能力をしているこいつは。そして本来の主人公はどこにいったんだ……。

 

 疑問を持ち、隣の少女に目線を移す。髪色は主人公と同じ、顔の雰囲気も似ている。二次創作で主人公女体化の作品があれば同じような顔立ちになる気がする。

 

 ……考えたくないことだが、もしかしてこの世界では主人公は女であるということか?「アビリティ・ロボティ」の世界に転生だと思ったが、実はよく似た別の世界だとか。

 

 それだと前提が変わってくる。「アビリティ・ロボティ」はノベルゲーム。そしてヒロインのルート分岐以外に分岐はなく、全て一本道でありハッピーエンドで終わる。だから何も干渉しなければ問題ないと考えてた。

 

 しかしよく似た世界だとすればハッピーエンドで終わるとは限らない。どこかの裏話でアメリカはマー⚪︎ル的世界になっており、異能力者と異能力者のド派手なバトルを日夜繰り返しているとあった。日本もそうなる可能性は否定できないのだ。

 

 そして考えたいことがもう1つある。丹霞のことを見ていると彼女と視線が合う。そうすると彼女は嬉しそうに微笑むのだ。そして手を振ってくる。性別が違うから役に立たないかもしれないが主人公の才念丹霞はやれやれっていうクール系主人公だ。

 

 才念丹霞はそんな顔しない……!そんな乙女のような顔は……!まず性別が違うからするわけないけど……!

 

 あ、悲しげな顔をした。え、なんでだ……?

 

「これで全員自己紹介を終えたな。大多数はずっと同じクラスで過ごすようになるから仲良くするんだぞー。じゃないと学生生活地獄だからな」

 

 考え事をしている間に自己紹介の時間が終わったようだ。やばい、何も聞いてなかった。

 

「そんじゃ、この後はオンラインで全体朝礼をやった後に軽く校則とかの説明をやる。喜べ、正午には帰れるぞ」

 

 その言葉に全員がFooooo!と歓声をあげる。早く帰れるとテンション上がるよね。

 

 「はーい静かに、それじゃ画面映すから全員注目するようにー」

 

 裏目先生がリモコンのスイッチを入れると画面には壇上が映り出されていた。しばらく待っていると初老の男性が現れる。

 

「初めまして、この学園の理事長を務めます唯我 晴敏(ゆいが はるとし)です。おそらくですが私があなた達の前で話すのはこれで最後になるでしょう。だからこそ!私はあなた達に伝えたい!あなた達は選ばれたのです!異能力はこれからさまざまな国が活用していくことでしょう!だからこそ私は、いち早く、あなた達と共に生きたい!だからこそこの学園を創設しました!〜〜〜〜」

 

 唯我晴敏、アビリティ・ロボティの実質的なラスボスだ。政治界に多大な影響力を持ち、異能力を消し去る計画は彼が権力を強引に振るい周囲の意見を消し去ることで強引に進められている。

 

 だから彼への説得が物語のキーになる。そんな重要人物が画面上とはいえ堂々と話している。力強い言葉と発声に周囲の生徒もまじめに聞いている。

 

 言葉では君たちは重要だ、宝だといっているが実際はただのパフォーマンスだ。裏で異能力を消し去る研究を進め、完成したところで異能力はやはり危ない、封じ込もうとプロパガンダを放ち異能力を消す。

 だがそんな考えをもっているなど一切感じさせないような立ち振る舞いに、真実を知っている俺も騙されそうになる。この人についていけば安心できる、盲目的に信じてしまいそうになってしまういわゆるカリスマが彼に備わっていた。

 

「これにて終了とする。諸君、この学園を楽しんでくれたまえ」

「続けて生徒会長の唯我 幸蔌(ゆいが ゆきな)さんからの〜〜」

 

 その後も朝礼にて多くの人からの挨拶などが行われた。

 

 

 

 

「さて、次に校則の説明だが、染色とか制服の改造は度がすぎなければオーケー。バイトもいいぞ。あとは常識さえ守ってくれれば問題のないやつばかりだ。詳しく知りたい奴はこの資料を見るように。学校の行事とかも書かれている。質問あるやつはいるか?いないな、よし解散」

 

 全体朝礼が終わり、次に校則の説明に入ったのだが速攻で終わった。先生は足早と教室から出ていった。

 

「よーし!それじゃあカラオケ行こうぜ〜〜!」

 

 生徒の一人が黒板の前に立ち音頭を取る。他の生徒の大半は同調するようにおー!と手をあげた。

 

 一瞬遅れて俺も手を上げる。長く共に過ごすクラスメイトとは仲良くなっておきたい。

 

 俺よりも少し遅れて丹霞も手を上げた。

 

 

 

 

「盛り上がっていこ〜〜!」

「ふぅぅぅ!!!」

 

 さすがに30人が入れる箱はなかったため10人ずつで別れることとなった。広い部屋に案内はされたが10人となると少しだけ手狭に感じる。

 

 みんな思い思いに曲を入れていき、流れた曲に合いの手を入れ楽しんでいる。みんなノリがよく、一人が有名ではないアニソンを入れても盛り上げていた。

 

 この空間はとても楽しい。みんな楽しそうに歌って踊っている。そんな光景を見ていると自分も楽しくなる。

 

 だからこそ、気になった。隣でずっと無表情にタンバリンを鳴らす丹霞に。

 

 

 

 

「それじゃお疲れさんした〜〜!また明日学校で!」

 

 時刻は20時となっていた。二次会という話もあったが明日も学校があり、22時門限の人がいるということで解散という流れになった。

 

 同じ寮の者同士で一緒に楽しく話しながら帰っていってる。

 

 しかし、残念ながら俺には一緒に帰る人がいない……。とある事情があり自分だけ離れた位置にある寮に住んでいるのだ。

 

 みんなを見送り、一人になったところでスマホを見る。連絡がないことを確認して

 

「帰らないの?」

「うおっと!?危ねぇ!」

 

 いきなり声をかけられ驚いてスマホを落としそうになるが間一髪でキャッチする。

 

 誰だと声のした方を向くと才念丹霞がそこに立っていた。

 

「あ、ああ今帰るところだったよ。じゃあね才念さん、また明日学校で」

 

 急足で帰ろうとする。しかし丹霞も同じ道、同じ速度で隣を歩く。それがしばらく続き。

 

「えーっと、才念さんもこっち方向なの?」

「うん、年飼寮ってところ」

「き、奇遇だねー。俺もそこなんだ」

 

 お、おかしい。才念丹霞は別の寮のはず。年飼寮には住んでいない。やはりこの世界は自分が知っているアビリティ・ロボティの世界とは微妙に違うのだろう。となると原作知識がどこまで通用するのか分からなくなるな。

 

「……………」

「……………」

 

 沈黙が続く。お互い何を話せばいいのか分からなかったからだ。しばらくしてこの空気に耐えられなくなり声を発する。

 

「「あの」」

 

 声がかぶる。丹霞もこの空気に耐えられなかったのだろう。

 

「あ、ごめんね。先にそっちが話して」

「ん、あぁ。えっと才念さんは今日楽しかった?」

 

 話題としては今日のカラオケのことを選んだ。丹霞は無表情でタンバリンを叩いていたので楽しかったのか心配になったからだ。本当はなんで自分を見つめるのかなど聞きたいことは他にもあるがまずは軽い話題から選ぶ。

 

「うん。楽しかったよ。もしかして楽しくなさそうに見えた?ごめんね、昔から表情が分かりづらいって言われてて」

「ああ、楽しかったならいいんだ。ほら隣の席だし、この学園生活一緒に楽しみたいからさ」

「大丈夫だよ、私は今すっごく楽しいから」

「そっか」

 

 こ、怖いな〜。多分だが今の言葉は俺と一緒にいて楽しいという意味合いで言った。勘違いなら恥ずかしいけど確信できる根拠があった。

 

「しらない歌がいっぱい聞けて楽しかったな。今ってテンポがよく変わる曲が流行ってるのかな。難しそうな曲なのにあんなに歌えるって凄かったね」

 

 カラオケが楽しかったという言葉は嘘には思えなかった。昔の趣味で人の視線や声色から心を読み取るのがクセになっており、嘘を見抜くのは得意である。

 

 それに加えてもう一つの根拠を加えれば、俺に好意を抱いていると確信できた。

 

 それは彼女が楽しそうにカラオケのことを語っているのだ。そう楽しそうに。

 

 俺と二人でいるときは表情が出るのだ。意識的か無意識的にかは分からないが、どちらにせよ彼女が俺に何かしら好意を持っていることは察せられた。

 

 適当に相槌を打っていると、彼女の話が止まった。顔を見てみると、さっきまでの楽しそうだった表情は一変してこちらを観察するような、だけどもそれは愛おしい人を見つめるようにじっとこちらの目を見ていた。

 

「ど、どうしたの」

 

 いきなりのことで動揺して声が震える。

 

「要は私のこと憶えてない?」

 

 彼女は俺に向かってそう質問した。




毎日投稿期間中は12時投稿、18時投稿を交互にしていくと思います。
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