TSしてる主人公からの目線が怖いです…… 作:加賀美 未来
第一のヒロイン、操桔花と接触し彼女が原作と変わらないことを確認した後、残りのヒロイン2人とも接触をした。
操桔花の失敗から深くは踏み込めなかった。ヒロインに選ばれている以上、ヒロイン全員には物語の起伏を作る上での闇がある。そして人間の人格形成にはその闇が深く関わるのだ。だから闇を確認するのが原作との相違点を探すのに重要となるのだが。
闇に触れるというのは地雷に触れるということだ。上手く誤魔化す自信はあるが良い結果にはならない。そのことを思い知り、他の二人では確認することが出来なかった。
表面上は原作と異なる点はなかったと言えるだろう。だが1つ気になることが出来た。幼馴染ヒロインの
答えはノーであった。しかし才念丹霞という名前の
その時は思わずは?と声に出してしまったが上手く誤魔化し、深掘りした。
いわく夏休みの終わりにいじめの主犯格に対してはっきりと物言いをしたことで虐めてもつまらない、という理由からいじめはなくなったらしい。
これ以上詳しくは不審がられるので聞けなかったが、薊の記憶では才念丹霞は男であったということだ。
じゃあ今の才念丹霞はどうなっているんだ……?不可思議な点が増えつつも彼女自身にそれ以外原作と異なる点は発見できなかった。
現状は主人公以外に変化点がないようだ。これは最悪の事態を免れたと考えていいかもしれない。
だが一番重要な所がある。それを確認するために俺は生徒会室の扉の前に立っていた。
コンコンコンとノックを鳴らし、どうぞという女性の声が聞こえてきたので扉を開ける。
「失礼します。高等部1年Eクラスの石狩要です。
「いらっしゃい、ようこそ生徒会室に。私が唯我幸蔌よ。要くんね、用って一体何かしら。ああ、立ち話じゃ話しづらいわよね。座って、今お茶と茶菓子を出すわ」
「ご丁寧にありがとうございます」
部屋には一人の女性しかいなかった。腰まで伸びた黒い髪に整えられた前髪。キリッとした目元でかっこいいという印象を受けるがよくよく顔を見ると可愛らしいと思える小さな顔。
この学園の生徒会長、
彼女は立ち上がり、戸棚を開いた。コポコポとお湯を入れる音が聞こえ、少し待つと温かいお茶と高級そうな和菓子がテーブルに置かれた。上座に彼女が座りお茶を啜ってからこちらも出されたお茶を飲む。お、美味しい……。
「さて、どうしてここに来たの?生徒会といっても設立したばかりで何も行ってない場所なのだけれど」
「今日は生徒会にではなく、唯我会長、あなたに聞きたいことがあって来ました」
「へえ、私に」
彼女の瞳が一瞬に変わる。先ほどまでの来客を持て成すような優しいものではなく、こちらを値踏みするような、隅々まで観察している瞳に。
「……1つ条件があるわ。私の時間をあげるのだから、この後あなたの時間を貰うわ。それでもいいかしら」
「問題ありません」
交換条件で生徒会室の片付けの手伝いでもしろということだろうか。周りを見ると机と椅子周りは綺麗になっているがその他の部分が未だ整頓されておらず部屋の隅には段ボールが何箱か積まれていた。
「それと幸蔌会長でいいわよ。苗字じゃ学園長と被ってしまうでしょう」
「分かりました、幸蔌会長。それでお聞きしたいことですが……」
ごくりと喉を鳴らす。なぜなら今からいう言葉で場合によっては
「
唯我愛里花、学園長の孫娘であり、彼を説得するためのキーパーソンになる人物だ。
「っ……どうしてあなたがその名前を知っているのかしら」
こ、怖い……。顔は変わらず余裕な表情を崩していない。だが目に籠った疑心が突き刺さってくる。一瞬でもボロを出すとそこを突かれて不信感を抱かれるだろう。だからポーカーフェイスを崩さずに淡々と話を続ける。
「その問いには納得できないかもしれませんが、たまたまとしか言えないですね」
「そのたまたまを聞いているのだけれど」
「異変事変の際、さまざまな社会問題が起こりました。その中で一番深刻な問題として起こったのが、異能力者による異能力者の誘拐事件」
異能力者は高く売れる。裏社会の人間や外交問題なんて気にしない国にとっては強力な異能力者、最上位の例で言えばSランクを手に入れれば一個師団分の戦力となるため、多くの組織が求める。だが、そんな相手を誘拐しようとなると抵抗され、なんとか手に入れても足がつく。だから裏社会の人間も異能力者を使う。
当時、なにかしらの事件に異能力を使われたら現行犯以外では行方を追えないという問題があった。今は能力の残滓という概念が発見され、それを使うことで犯人を特定できるが。
だから誘拐に異能力者を使い、巧妙に隠されると犯人が分からず人海戦術しか手打ちできず時間を稼がれ、手の届かない場所に運ばれる。
さらに問題なのが異能力者を区別する方法がないため異能力に目覚めたかもしれない子供が片っ端らに誘拐されたことだ。その被害人数は日本だけで四桁を超えたと噂されるほどに。
「当時、新聞に行方不明者一覧も出たほどです。そしてその中に唯我愛里花の名前もあった。この学園の学園長もこの件にコメントされておりましたよね」
「よく知っているのね。当時はそれ以外にも様々な問題があって雑多な記事の中に埋もれていたはずだけど」
「だから、たまたまですよ。そして学園長はこの時に異能力者に対してかなり過激な発言を行いましたよね」
「ええ、そうね。姪の私がいうのもなんだけれど一部を見て全部を決めつけたような発言をして問題になったわ。当時は異能力問題も多かったから同調の声も多かったけれどね」
その言葉を聞き、心の中でガッツポーズをする。彼が異能力者に恨みを持つ理由は変わっていない。流石に事件についてとコメントは事前に確認してたので問題ないと思っていたが、身内からの証言で確信に変わる。
「ええ、なのに今では異能力者を宝だ未来だ、と言っていました。そこに違和感を覚えて。あの件から数年しか経っていません。私は心理学について齧っているから分かるのですが、大切なモノを奪われた憎しみは簡単に晴れません」
「つまり、私に学園長の真意を教えてほしいと」
「半分はそうです。もう半分は幸蔌会長に今の私の考えを伝えたかったからです」
ここでもう1つの目的のために探りを入れる。原作の通りならば今の彼女は異能力存続を望むはずだ。彼女の力はとても大きい。もし彼女の協力を得られるならば後のイベントを力技で解決することすら可能になる。だから彼女が原作のままの思考、経験で答えてくれることを祈る。
「残念ながら私でも晴敏学園長の考えは分からないわ。ただ私も違和感はあるの。一年前までは当時と変わらず過激な発言をしていて家でもちょっとした問題になったくらい。だけど突然異能力者は保護すべきだと言ったの」
「孫娘と同じ人を作らないようにって、それで一族は全員納得してこの学園設立を後押ししたの。でもあなたはそこに裏があると言いたいのね」
「正直な所自分でも半信半疑なところはありますが……私は異能によって命を救われたことがあります。その時から異能は今まで救えなかったものを救え、新しいモノを作り出すことができると思うようになったんです」
ちなみに異能によって命を救われたというのは嘘である。まぁ実際の事例もあるしバレないだろう。
「ええ、そうね。それは私も同じよ」
よっし!この言葉で幸蔌会長も原作通りの思考を持っていることが確信した。嘘をついている顔でもない。彼女は本心でこの言葉を言ったのだ。
「この学園が一種の実験都市で異能力者を秘密裏に消す計画なんてものが企てられているかもしれない、って陰謀論のような思考かもしれないですけど、どうしてもそれを幸蔌会長に伝えたかったんです」
「……それは飛躍しすぎている気もするけど、そうね。晴敏学園長が何か企てていることは否定できない」
「それなら!」
「ただ、証拠がないわ。私が調べてもいいのだけれど、残念ながら腹芸は得意じゃないの」
「だから、私を動かしたいならあなたが証拠を持ってくることね。あなたって人間観察が趣味なのでしょう?」
「え、いや、なんのことでしょうか」
「ふふ、バレてないって思ってるの?そんなに熱い視線を向けてたらわかる人にはわかるものよ」
「あはは、そうでしたか」
失敗したな。こちらが一方的に見る側だと盲信していた。今までバレたことはないのだが流石は唯我の一族ということか。
「あなたの観察眼と幸運があれば、証拠を捕まえられると思うわ。あればの話だけれどね」
「証拠を持って来てくれたら、協力してくれるんですね」
「ええ、約束するわ」
「ありがとうございます」
「それと、その演技っぽいのやめていいわよ。私、あなたのラフな姿を見たいの」
「え、あ、いや流石に先輩にそれは」
「なら私がそうさせてもらうわ」
彼女はいきなり机を蹴り、椅子をゆっくりと回し出した。
「は〜〜、堅苦しい話ってとっても疲れるのよ。なんで叔父様は私を生徒会長に任命したのかしら。ずっと堅苦しい姿を見せないといけないし」
え、え〜〜。彼女の子供っぽい一面を見て少し固まってしまった。原作からしてこのようなキャラではあったが実際に対面してこの落差を見ると信じられない。
「あら、どうしたのそんな顔して。あの美しい生徒会長の本性がこれで引いている?」
「……いえ、とても、可愛らしいですよ」
「そう?ありがとう」
半分お世辞、半分本心で答えを絞り出す。褒められた彼女は嬉しげにさらに机を蹴り、椅子の回転速度をあげた。一周するごとにさらに蹴り上げるのでどんどんスピードが上がっていく。
「……あの、お願いがあるのだけれど」
「はい、なんでしょうか」
「椅子を止めてくれないかしら。無理やり止めて床に傷を付けるのも怒られるからダメだし、そろそろ限界で吐きそうなの……」
「あーーはい分かりました!」
俺はゆっくりと、この子供会長の椅子を止めた。