TSしてる主人公からの目線が怖いです…… 作:加賀美 未来
「さて、それじゃあ次は私のお願いを聞いてもらう番ね」
「……そうですね」
幸蔌会長の高速回転を止めたのち、しばらくふらふらしていたが1分もしないうちに立ち直り、何事も無かったかのような立ち姿を見せた。
……この人さっきまで子供みたいな事してたんだよなあ。
「お願いというのはそこの段ボールの整理とかでしょうか」
「いいえ?違うわよ」
「そうでしたか。では何をすればいいんですか?」
「ふふ、まだ秘密」
彼女が悪戯好きな子供っぽく笑う。俺はその顔を見て嫌な予感しかしなかった。
「それで、ここで何をするんですか」
連れてこられたのは大きな運動場であった。ジャージに着替えさせられて、準備運動もしっかりとした。ここで運動でもさせる気だろうか。
「さて、これで準備完了ね」
「あの、そろそろ何をするのか教えてくれないでしょうか」
「そうね、今からやるのは……模擬戦よ」
「……もぎせん?」
「そう、もちろん異能力を使った、ね」
……まじで言ってます?
「まじで言ってます?」
「マジもマジ、大マジよ」
「いや俺Eランクですよ!?しかも使いづらい硬化!」
「大丈夫よ!私はSだから!」
「何が大丈夫なんですか!?」
そう、この頭のおかしい幸蔌会長はこの学園に3人しかいないSランクの一人なのだ。あくまでランクは政府からみた厄介度という指標ではあるが、能力が強ければ強いほど厄介度はもちろん上がる。この幸蔌会長はその極みに位置する人物だ。
なので、できればこの模擬戦は断りたい……。今からキャッキャウフフのランニングとかになりませんか……!
「興味があったのよ。あなたの硬化、傷がつかないのでしょう?」
「なんで知っているんですか?」
「学園全員分の能力とその概要は全て頭に入れたから」
「……化け物ですね」
「可愛い生徒会長に向かってその言い草は見逃せないわね」
「あの、そのこと含めて土下座するので今日のこと全てなかったことには……」
「だーめ」
笑顔で返された。そうですかあ。
「発動中は痛覚もないのでしょう?なら問題ないわね。少しずつ力を強めるからやばいと思ったらすぐに教えて」
「能力の使用についてはさっき承認もらってあそこで見てもらっているから、これで不安要素はなにもないわね」
考えていた言い訳はどんどん潰されていった。彼女は笑顔で木刀を振り出した。
「それじゃ、いくわ、よ!」
彼女は掛け声を言い終わると木刀を振り上げ、こちらにまっすぐ突っ込んできた。
掛け声と同時に体の動きを止めて、能力を発動させる。ドスン、と体の感覚が重くなる。
その直後に木刀が自分の腕に向かって降りかかる。カン!という木の音が鳴り響いた。痛みはない。
「やっぱり硬いわね。なら次は耐えられる?」
彼女がそう告げると一瞬にして姿が消え、つぎの瞬間にガン!という重い音が鳴り響いた。それが何度も何度も。
これが幸蔌会長の能力、高速移動。一瞬で加速し相手に襲いかかる。目の前でそれが行われているのを見ると恐怖しかない。硬化の能力のおかげで痛みはないが、何度も鳴り響く音はホラー映画さながらであった。
「あ、あの!これいつまばああ!」
一瞬だけ見えた太刀筋が口を捉えた。あの人喋った瞬間に口狙いやがった!
「あら?動いた瞬間能力解除じゃなかったの?」
「動いちゃダメなのは四肢だけなんですよ」
「なるほど、でも本当に硬いわね。それにとても重い。微動だにしないのね」
「あはは、まぁこれをみた友人が地蔵って言ってたので」
「……ちょっと悔しくなって来た。次からちょっと本気出すから本当にダメだったらすぐに言ってね」
「え、ちょ、まだこれ本気じゃ」
言い終わる前に轟音が鳴り響く。ガガガガガガ!と音の途切れもなくブルドーザーが全力疾走で走っているかのような音が体から響く。
……あ、これやばいかも。初めてわかったことだがあまりに強い衝撃であると痛みはないが内臓に衝撃がくるようだ。それが絶え間なく響くせいで具合が悪くなってきた。これ以上されたら吐く……。
「y」
やめてください、と言おうとした瞬間に音が止まった。そして幸蔌会長は痛そうに腕を抑えてしゃがみ込んでいた。
「ちょ、幸蔌会長大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……反作用で衝撃が来ただけだから……怪我はしてないわ……。そして負けた……」
幸蔌会長の痛みが引くまで、腕を摩りながら看病を行った。
「こほん、協力感謝するわ。そしてやっぱり分かった。あの程度の能力検査じゃやっぱりダメね」
「あれで十分じゃないんですか……」
能力検査では嘘発見器を装着され、自身の異能力について自分から説明を行い実演をするといった形であった。能力について根掘り葉掘り聞かれたので秘匿なども不可能であるはずだが。
「全くよ。たとえばあなた、能力が硬化ってあるけど全く違うじゃない」
「え、違うんですか」
「あなたの能力を一言で表すなら固定ね。どんなに力を与えてもその肌は傷つかないし、その場所から動かない。まるで固定されているかのように。さらに効果範囲も自身だけじゃなくて服も入ってる」
「報告書にはここまで書かれてなかったのよ。こんな大事なこと見逃されている」
「……確かにそれは不十分ですね」
「ええ、本当に。異能力なんて初見殺しのオンパレード。事細かに把握するのが大事だというのに」
原作ではそのような問題取り上がらなかった。単純に見せる価値がないということで描写をカットされているかもしれないが、俺が知らない問題があるということだ。
考えてみればそれはそうである。異能力が突如として覚醒してそれを管理するなんて問題ばかり起こるに決まっている。原作で出ててきたのは氷山の一角でしかなかったということだ。
むむむ、原作をハッピーエンドに導くためには原作で起きた問題を解決すればいいと思っていたがそれ以外でも考えなければならない問題があるかもしれない……。そう考えると幸蔌会長の協力を得られるように動いたのはファインプレーなのでは。
「それに最後の……。あれは……」
「何か言いました?」
「いえ、なんでもないわ」
小声で何か言っていたが突然であり、こちらも考察を行なっていたので全て聞き取ることはできなかった。幸蔌会長がなんでもないと言っている以上聞き返すのも失礼だろう。
「付き合ってくれてありがとう。誰かに頼んで確認するのも難しかったから助かったわ」
「能力が自由に使えるって謳い文句を掲げれば何人も釣れますよ。俺みたいに乱暴なことをしなくてもデータ多く取れますし」
「信頼している人からのデータじゃないと意味がないでしょう?」
「……そうですか」
「ええ」
……なんというか、この人ずるい。なんで出会った数時間しか経ってない人に信頼しているとか言えるんだ……。そこに嘘偽りがないってわかるから見ているこっちが恥ずかしくなる。
「お迎えが来たようだし今日は解散にしましょうか」
「お迎えですか?」
「あそこにいる女の子、あなたの知り合いじゃないの?」
幸蔌会長が指を刺した方角を見るとそこには才念丹霞が居た。
丹霞は不機嫌そうな顔をして、こちらに向かってくる。
「どうしてここが、というかなんでここに」
「一緒に登下校するって約束した」
「え?あ、あぁ!ごめん!連絡入れるべきだったね」
用事が終わったら合流しようと思っていたが幸蔌会長に付き合わされて予定より大きく時間をとってしまった。それでなかなか来ない俺を心配して探し出したんだろう。……よくここが分かったな。
「……帰るよ」
丹霞に服を引っ張られ、付いてこいと促される。
「幸蔌会長今日はありがとうございました」
「ええ、暇な時生徒会室にいらっしゃい。歓迎するわ」
「わかりました」
最後に幸蔌会長に別れの言葉を告げる。そうすると丹霞はさらに不機嫌そうな顔をして俺の服を強く引っ張った。
「……要はああいった人が好みなの?」
制服に着替えて、丹霞と共に寮に帰っていると突然そんな質問をされた。
「幸蔌会長?あの人はそういうのじゃないよ」
「…………」
ジーっと見つめられる。彼女から見られることはよくあるのだが、心のうちを見透かされそうでちょっと怖くなる時がある。彼女に嘘を吐こうと思えないのはそれが原因かもしれない。
「……なら、さ、要は私のこと好き?」
おーーっといきなりぶっ込んできましたね。いきなり過ぎて返答に少し困る、が彼女に見つめられると誤魔化そうという気すら起きない。なので正直に話す。
「好きか嫌いかで言ったら好きですけど」
「やった、うん、私も好き」
「才念さんが聞きたいのってLoveの方だよね」
「……ち、違うよ?」
「分かりやすいなあ、正直に答えるけどよくわからないっていうのが答え。会ってまで2日だし」
「そっか……」
「だから、才念さんと俺の間で何があったのか思い出したいんだ。言える範囲でいいから教えてくれないか?」
「……それは嫌。だけど、うん。私も早く思い出してほしい」
「だから、一緒に遊ぼう。あの時のように」
「分かった」
「じゃあ帰ったら私の部屋に来て」
「はい、はいぃ?」
そうして、今夜女の子の部屋に突入することが決まった。
ちなみに暫くバトルはないです