TSしてる主人公からの目線が怖いです…… 作:加賀美 未来
どうしてこうなったのだろうか。
俺は今、シングルベッドに横になっている。二人で、そう二人で。しかも驚くことなかれ。もう一人の相方は女の子である。女の子である!!
対面にはその女の子、丹霞の顔が映り込む。吐息が聞こえてくるほどに近い顔、呼吸をしてしまえば彼女の匂いが脳を刺激してくる。顔を見ないように下を向くと彼女の寝巻きが映り込む。着こなしが甘く、服の隙間からは彼女の柔肌が映り込み、見ちゃいけない部分まで見えそうになる。
上を向こうとするとそれに気がついた彼女の手が入る。こっちを見ないとダメと言い両手で俺の頭を包み込み、下を向くように優しくゆっくりと動かす。
目を瞑ればいいじゃないかと思うだろう。残念ながらこのお嬢様が満足するまでそれも出来ない。先ほど一度試したがそれをした瞬間、まだダメと言い放ちほっぺを思いっきりつねられた。
「暖かいね、要」
「ウン、ソウダネ」
平静を保つことに全集中し現実逃避のため、このシングルベッドの中、どうしてこんなことになったのかと思案する。
「おじゃましま〜す」
恐る恐ると部屋に入っていく。部屋に誘われた後、一応断ろうと色々言ったが押しが強く断りきれずに寮に帰り、制服から着替え、シャワーを浴びた後に丹霞の部屋に赴いた。
「ゆっくりしていって……え、えっと、お風呂にする?ごはんにする?それとも」
「ごはんで」
「……はい」
ぷぅと頬を少しだけ膨らませてそのままキッチンに入っていった。油断も隙もない。何回も思うが好きなのは分かるのだが段階を踏んでほしい。心臓に悪い……。
その後は出された夕食を一緒に食べた。朝食と同じく大変美味しかった。
「それで、一緒に遊ぶって言っても何するんだ?」
「うん、これ」
「うわ、懐かしい!」
棚から出されたのはトランプとボードゲームであった。ボードゲームはひと昔のものから最近のものまで年代はバラバラであったが、昔にハマり何度も何度も家族と遊んだことのあるものがあったため懐かしさから思わずテンションが上がってしまった。
懐かしいボードゲームを見て1つ思い出した。そういえばこのボードゲーム、何回か誰かの家に持ち込んで遊んだ気がする。
「どう、何か思い出せそう?」
「うーん、昔誰かと遊んだことは思い出したんだけど、それだけだね」
「いい調子。それじゃあこれで遊ぼう」
昔遊んだボードゲームの箱を広げてテーブルに駒を並べていく。昔の記憶からか並べるのはスムーズに出来た。
「ん、これ取るね」
「そーくるか。ならこれを」
終盤戦にかかってきた頃。ゲームに勝つため締めの行動を行なっていく。考えることが多くなり最初は雑談を行いながらゲームを進めていたが、今は二人とも盤面に集中していた。
「これは……あ」
「ん?……あ〜〜」
丹霞の直後に俺も気が付く。詰んでいる。こちらが常に最適行動を取れば丹霞に勝つことができた。
「ま、勝負の世界なんで」
「しょうがない」
あとは消化試合気味にゲームを進めていき、無事勝利を収めることができた。
「やっぱり強いね、要は。また勝てなかった」
「まあこのゲームは何回もやったことあるしね」
「……次はこのゲームをやろう」
「やったことないゲームだな。ルール見せて」
彼女が取り出したのは所謂ババ抜きに独自ルールを加えたものであった。その独自ルールにより二人でやってもかなり複雑にそして戦略性が生まれるようになっている、が。
「これ、かなり心理ゲーム寄りだね。俺が余裕で勝つよ?」
結局のところはババ抜き。大部分は心理戦に占めている。そして心理戦のゲームは大得意であり、対面勝負で負けたことは一度もない。
「うん、知ってる。だから私が勝てたらご褒美がほしい」
「ご褒美ね。たとえば?」
「今日1日私の言うことを聞く、とか」
「うわ重い。まあいいよ、負けないし。ただそれだと不公平だし、俺が勝ったら次の朝、俺の好きなもの作ってほしいかな」
「うん、いいよ」
俺は絶対の自信を持ってこの勝負に臨んだ。この勝負勝ったな。
「なん……だと」
「やった」
俺は手札に残ったカードをパラパラと落とし、項垂れる。俺が……心理戦に負けた……?いや違う負けてない。俺は彼女の嘘を殆ど見抜き的確にカードを抜いていった。だけども彼女はミスなく全てを的確にカードを選んでいた。まるでどこにほしいカードがあるのか分かるかのように。
「……くっ、殺せ!」
「殺さないよ、ずっと生きていて」
イカサマだと思ったが、イカサマの手口を見抜くことができなかった。終盤にイカサマを疑い、その手段を探すことに奮起して一手ミスをしてしまったのが敗因であった。
「これで今日1日は私の奴隷だね」
「……はい、なんなりとご命令ください才念様」
心なしか彼女の呼吸がどんどん荒くなっているのを感じる。
「あの、才念さん。言うことは聞くとはいいましたがなんでもとは言っていません。なので度が過ぎるものは拒否権を行使いたしたいのですが……」
「…………分かった」
何その間!?今の釘刺してなかったら何する気だったの!?
「……なら今は普通に遊ぼう。全力で。次は何をやりたい?」
「ならこれかな」
そうして俺は新しいボードゲームを手に取り箱を開けた。
その後は全て俺の全勝にて終わった。彼女の神がかった読みはあの一戦のみしか見れなかった。やっぱりイカサマをされたっぽいな。見抜けたなかった俺の責任か。
「ん〜、疲れたな。しばらく休憩したい」
「……あ、もうこんな時間」
時刻を確認すると22時を過ぎていた。帰ってきたのが18時だったことを考えると4時間近くぶっ通しでやっていたことになる。
「……そういえばシャワー浴びてなかった」
「あ、入ってなかったんだ。ならいい時間だし俺はもう帰るか」
帰ろうとして立ち上がるとガシっと腕を掴まれる。掴まれた腕を見ると丹霞が両腕で俺の片腕をしっかりとホールドしていた。
「今日1日私の言うことを聞く約束」
「……そういえばそうでしたね。帰るなと」
「それだけじゃない。私と一緒にお風呂に入ろう」
「拒否権を使用します」
清々しい笑顔でそう言った。ダメだこのジェット機……ブレーキが壊れている。
「……言うこと聞いてくれるって言ってくれたのに。じゃあ一人で入ってくる」
「行ってらっしゃい……」
彼女が部屋からさった後ため息を吐いて身体を床に預ける。改めて周りをよく見る。部屋はきちんと整理されており、ボードゲームやトランプ以外は生活必需品以外ほとんどのものがなかった。
なんというか女の子らしさを感じない部屋だなと思う。自分が知っている女の子らしい部屋のサンプルが少ないので根拠に乏しい直感的な感想だが。
もう少し詳しく見るとトランプが目に入る。懐かしさのあまり手に取ってみる。
「ん?これ」
トランプの中身を見ると普通のトランプと違うことがわかる。一部のカードに切れ込みが入っていたり、マークがしてあったり。所謂マジック用のトランプだ。原作では主人公はマジックが好きという設定はなかった。
これを見て前に考えた推察を思い出す。やっぱり俺が彼女の虐めを救ったのだろうか。
才念丹霞は小学生時代に虐めから救われることで、救ってくれた人物に対して憧れを持ちその人と同じ道を歩もうとする。
そして俺の小学生時代はマジックにハマっていた。小学生のテンションについていけなかった俺は自分で流れを作り、皆を楽しませることのできるマジシャンの真似事を行なっていた。
だから俺が彼女を虐めから救い、憧れることで当時の俺が進みたかったマジシャンの道に歩もうとしたのではないかと。
ここは原作と完全に一緒ではないと思い込んでいたが実は一緒なのかもしれない。主人公周り以外で変更点がなさ過ぎる。
俺が幼少期の頃に主人公に接触をしてしまい、彼女を変えてしまったことで主人公周りだけ設定が大きく変わってしまった。そちらの方が自然である。
一番の問題は性別が変わっていることだが、幼馴染の薬薊の証言で彼女は男であるという証言を得ている。つまり何かしらの異能力で男性から女性に変わったと考えらる。
これが今まで探った情報を統合しての結論であった。つまり主人公以外変更している部分がないという確証を得られるため、これ以上原作との差異を探す必要はない、ということになる。
……いやバタフライエフェクトという言葉もある。少しの出来事が大きな出来事を生むきっかけにもなりうる。俺の行動によって原作から変わっている部分が他にもあると考えて警戒はしておいた方がいいだろう。
そんなことを考えていると扉が開く。お風呂から上がったのかと視線を向け、衝撃を受ける。
「お、おま……」
「うん?どうしたの?」
大きめの上着を羽織った彼女の下には何も履いていないように見えた。大事な部分は大きな上着のおかげで見えないが彼女の細い太ももが露出されており、彼女が少しだけ動くだけでフリフリと服が動いて大事な部分が見えそうになる。
さらに大きい上着を着ていてサイズが合っておらず、片肩だけで服を支えている。そのせいでもう片方の肩も大きく露出している。
「いや、男の俺がいる中でそれは……」
「いつもこれだし」
「それじゃ、一緒に寝るよ」
「え、いやここベッド一個しかないししかもシングルじゃ……」
「嫌なの?さっきも断られてこれも断る。何もしてくれない」
「……はい」
押し負けた。さっき一緒にお風呂に入ろうという大きな要求のせいで感覚が鈍っているなと答えてから冷静になって気がついた。ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる手法だな……。つまり本命はこっち……。
そうして最初に戻ってくる。1日彼女の命令に従わないといけないために一緒にベッドの上で向かい合って横になっている。そして彼女は俺を寝かせる気がないのである。
「……要はもうマジックやらないの」
平静を保とうと心の中で念仏を唱えていると彼女がふと俺に問いかけた。
「マジックはもういいかな。皆飽きちゃったみたいだし」
異能力が覚醒したことで、不可思議は日常になった。マジックが見せていた不思議な体験は異能力を使うことで簡単に再現できる。裏側を知っている身からしたら全然違うと言いたくなるが観客は興味を示さなくなった。
そのため現在マジックショーやサーカスなどの非日常を与えるコメディショーは一部の神技を披露できる天才を除き廃業に追い込まれた。
アマチュアの俺も例外ではなく、マジックをやっても誰も興味を示さなくなった。元々皆を楽しませたいからといった理由で始めたため、マジックをやる理由もなくなり辞めたというわけだ。
「……私はまだ続けてるよ。あの時の要よりも下手だけど、何度も何度も練習している。夢を諦めたくないから」
「夢を否定なんてしない。実際、一部のマジシャンはまだ仕事あるしね」
「私の夢は!要と一緒に、隣でずっと誰かを勇気づけたかった……!あの時の私みたいな人を……なのに、なんで要……」
「……ごめん」
謝罪の言葉しか出なかった。ポロポロと泣いている彼女を見てそれしか言えなかった。
「……ねぇ、要。私、要のこと好きだよ……世界で一番好き」
「……だろうね」
「……今日1日、私のいう事を聞いてくれるんだよね」
「うん」
「だったら、そこを動かないで」
彼女は俺のお腹の上に座り込んだ。
そのまま俺の方に倒れ込む。そのまま少しずつ彼女の顔が俺の顔に近づいてくる。彼女の肌のきめひとつひとつが見えるほど近くに。
「……キス、しよ」
彼女をそう告げ、さらに近づく。俺は動けずにその様子を呆然と見続けていると。
プルルルという音が鳴った。
「……え?」
音によって彼女の動きが止まった隙をついて彼女を少し乱暴に横に動かし、ベッドから脱出する。そして音の出所である俺のスマホを手に取った。
「ごめんね。もう1日過ぎたからさ」
スマホの画面から時刻を見せる。時刻は00:00を示しており日付が変わっていた。
「今は才念の気持ちには答えられない。帰り道でも言ったけど、俺は才念と何があったのか思い出せてないから」
「え、え……?」
「それじゃあ不誠実だ。才念の気持ちは痛いほどに分かった。だからこそ、俺はお前の気持ちに全力で応えたい。それが肯定でも否定でも、才念の全てと向き合って応えたい」
「だから、今は、うん。逃げさせてもらうね!」
俺はそのまま早々と丹霞の部屋から出ていった。後ろで待ってという声が聞こえたが、振り向かず、そのまま一直線に自分の部屋に戻って行った。
ここからは1週間に2話投稿のペースで投稿していくと思います