妖祓いとコズミックトンチキ野郎たち   作:紅乃 晴@小説アカ

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プロローグ

 

 

2021年

アメリカ合衆国、メイン州。

 

ニューヨークから北に向けて進み、ボストン、ポートランドを超えた先にあるその州は、アメリカの最東端と最北端に位置していて、アメリカでは一番早く日の出を見ることができる場所でもある。

 

州の90%は自然に溢れているのだが、リベラルアーツ・ガレッジなど、メイン州には学習レベルの高いハイスクールが集まっている。

 

立地条件からここに留学し、ハイスクールに通い出して二年。

 

激動の一年と悪夢と言っても過言ではない「プロムパーティ」を超えて二年目。最初はどうなるかと思っていたハイスクールの生活だが、クラスメイトとの仲も良好だし、唯一無二の親友となる相手とも出会えた。

 

休みの日は「仕事」で暇は少ないものの、たまに借りているアパートメントにクラスメイトを呼んでパジャマパーティをしたり、日本料理をふるまったり、英語翻訳したアニメを鑑賞したり、ゲーム大会をしたりと充実した学生生活を送っていた。

 

そんなある日のこと。

 

「……緊急任務ぅ?」

 

国際電話越しに聞いた唐突な話。俺は顔を顰めつつそう答えた。

 

《上経由で大叔父様に話があったみたいで……悪いけど龍一が指名されてるみたいね》

 

はぇー。そんな間抜けた声が思わず出てしまう。電話を受けたのは学校が終わったタイミングで、ちょうどアパートメントで夕食の準備をしていたタイミングだった。

 

隣で夕食の準備を手伝ってくれる「親友」に割った卵に醤油とダシを入れてかき混ぜるようにお願いしつつ、俺は携帯をハンズフリーに切り替える。

 

「上って……本部長からの要請?」

 

《あら、話を聞いてたの?》

 

「話半分程度で話題には出てたけど……あの話マジだったのか」

 

アメリカに留学することになった最大の理由かつ、俺の休日を容赦なく潰しにくる本部長を思い返しながら、マーケットで調達した豚ブロックを薄切りにしていく。今日のメニューは親友のリクエストで生姜焼きを予定している。

 

《パパは今はヨーロッパで色々大変そうだし、対応できるのは龍一しかいないのよ》

 

「姉貴はどうなの?」

 

《あの子、引退して何年経ってると思ってるの?今は二児の母とバレエ教室の講師でそれどころじゃないわよ》

 

「ですよねー」

 

姉貴と俺は歳が10以上離れていて、異父姉弟だ。けれど俺にとっては良き姉で、とてもバレエが上手い姉だった。コンクールで賞とかもめちゃくちゃ取るほどバレエは上手かったけれど、あくまでそれは趣味で姉も俺と同じように父の仕事をよく手伝っていた。

 

まぁ、一昨年にずっと片思いしていたバレエ選手と結婚して、今は双子の女の子を産んで忙しそうにしているそう。今年送られてきた年賀状では家族四人で幸せそうな写真を載せてくれていた。

 

「親父が動けないなら俺が動くしかないかぁ。本部長もそのつもりだろうし」

 

《ごめんなさいね。振り回す形になっちゃうけど……》

 

「別に大丈夫さ。色々手続きがあるから戻るのは一ヶ月後くらいになるけど」

 

なら、そう伝えておくわね。そう言葉を交わして母との電話を終える。

 

俺の名前は平 龍一。

うちの家系は「妖祓い」だ。

 

父は日本でも屈指の妖祓い「平家」で、母と結婚してからも長期休暇と正月以外はほとんど国内か、海外を飛び回っている第一線の妖祓い師だ。

 

姉と違い、後継として色々と教育された俺も見習い期間を終えて、高校生から一人前の妖祓い師として活動している。

 

最初は日本を拠点に活動していたのだが、アメリカと縁がある平の本家からの要請で高校からアメリカに留学することになった。

 

年がら年中国内国外問わずに飛び回っている父の影響からか、俺は要請された海外留学を一つ返事で了承。本番英語の勉強もできると楽観視していたのだが……アメリカに来てからは怒涛だった。

 

妖祓い師の仕事は「集約した負のエネルギーの発散」に本質がある。

 

父も口酸っぱく言っていたが、妖祓いという行為は妖怪を殺すだとか、死者を成仏させるとかではなく、何らかの因果で集約した負のエネルギーを切り払い、それを削ぐことだ。

 

負のエネルギーはどこにでもあって、それは直接的には人に影響は出ないが、そのエネルギーが集まり出すと非常に厄介なものになる。具体的に言えば集団ヒステリックや、そのエネルギーがある場所で戦争が起こったりすることもある。

 

アメリカからの要請は、近年にたまりに溜まった負のエネルギーを発散……つまり、ガス抜きして欲しいとのことだった。

 

結果、アメリカに留学した俺の休日は妖祓いの仕事に潰されることになった。やばい時はハイスクール終わってから次の日の朝までかかったこともある。

 

本当に……もう、本当に大変だった。

 

ある夜は、霧の立ちこめる湖のほとりで、不死身のホッケーマスク男と朝まで斬り合い。

 

またある日は、夢の中にしか現れないという殺人鬼と、眠りの世界で命を賭けた決闘。

 

憎しみの念が宿ったおもちゃと、おもちゃ屋の地下倉庫で壮絶な追いかけっこ。

 

異界化した都市の中枢部では、原因不明の都市ごと悪夢のような空間に飛び込んで、そこでも斬って、斬って、斬りまくった。

 

そんな、濃密で、過密で、過酷な――日々だった。

 

最初の一年なんて、「これ絶対、過労死ルートだろ……」と本気で覚悟した。でも、それでも耐えられたのは、学校で出会った友達たちや、いつも気にかけてくれる親友がそばにいてくれたからだ。斬り合いの翌朝でも、眠い目こすって一緒にパンケーキを食べて笑い合えた。そういう日常が、なによりの救いだった。

 

ワシントンD.C.の地下に封印されていた“それ”を再び縛り上げる任務の時なんか、生きた心地なんてまるでなかった。

 

最後の封呪が決まったとき、全身から力が抜けて膝から崩れ落ちたのを今でも覚えている。なのにその数日後――非公式ながらも合衆国大統領から直々に感謝状と勲章を授与されることになって、あっちはあっちで別の意味で生きた心地がしなかった。

 

そんなこんなで、血と汗と霊力にまみれたアメリカ留学生活も、いよいよあと一ヶ月で終わりを迎える。

 

元々、今回の留学は要請によるものであり、期限付きの特別派遣。任務は解除された……が、帰国を前にして、また新たな要請が届いた。

 

本部長名義、それも本家を通じての正式要請。つまり、そういうことだ。

 

やばい案件が来る予感しかしない。

 

妖祓い師という存在自体、世界に数えるほどしかいないレア職だ。だからこそ、いくら断りたくても、お上からの依頼には逆らえない。ある意味、これは宿命でもある。

 

母との通話を終えた俺は準備途中の生姜焼きの調理に戻る。

 

さて、ここからやることは多い。まずはアパートメントの退去手続き。家具は全てレンタル品なので荷物はキャリーケースと段ボール数箱で収まるはずだ。そしてハイスクールの転校手続き。こちらは手続きは仕事先が色々と手配してくれるだろうが、問題はハイスクールで出来た学友たち。

 

おそらく……というか、確実にお別れパーティをしでかす。二ヶ月という長期間出張の時も盛大に送り出してくれたのだ。転校となるとどうなることやら……。

 

よく家に遊びに来ていたトミーやビリー、クリス。そして親友の友達であるスーにも話をしないと……。

 

そんなことを考えながら薄切りにした豚肉を生姜焼きのタレに絡めていると、隣から熱烈な視線を感じた。全くもう、我が親友は食い意地が張って大変よろしい。しかし甘いことは言えない。これは必要なことだ。

 

「こちらの豚肉、しっかりタレに漬けないと味が染みないから我慢な?」

 

「いや違うそういう意味の視線じゃないから」

 

即答で違うと言われてしまった。解せぬ。チベットスナギツネみたいな目つきでそう答えた親友だけど、一年生の頃にあった「プロムパーティ」での一件以来、ほぼ毎日ウチで晩飯を食うようになったんだからそう勘違いしても仕方ないと思う。

 

「私の味覚は龍一に掴まれてるからいいとして、さっきのお母様だったよね?」

 

「ほんとに日本食好きだよなお前……まぁ、はい、そうですけど」

 

「日本に帰るの?」

 

そう淡々と聞いてくる親友に俺は肯定で返す。

 

「妖祓い師の宿命だしな。まぁアフリカとか中東に放り込まれなかっただけマシだと思うけど」

 

「私もついていくから」

 

「え゛」

 

思わず作っていた卵とワカメの味噌汁を準備してくれている親友の顔を見る。ついてくるとは?日本の仕事に?ハイスクールどうするつもりなの。

 

「私、プロムパーティの件から天涯孤独なんだけど?責任とってくれるって言ったよね?」

 

「いや、それはまぁ言ったけど、お前もこっちの生活とかいろいろ」

 

「言ったよね?」

 

「……ッスーー……はい、言いました」

 

「じゃあついていくということで、よろしく」

 

なんという傍若無人ぶりか。ハイスクールで初めて出会った頃の儚げな雰囲気はどこにいったのやら……まぁ原因は俺にあるっちゃあるけど。

 

「母さんになんて説明するかなぁ……」

 

そんなことを一人ゴチる俺に、となりにいる親友は不機嫌そうな顔から少し微笑む様な表情に変わっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺と親友である……キャリー・ホワイトは、クラスメイトたちから盛大な送別会を受けて、アメリカから日本へ旅立つのだった。

 

 

 





【登場人物】
平 龍一 17歳
妖祓い師である平 照英の息子であり、父と同じく妖祓い師。
忙しい父を支えるために妖祓い師となり、本家の要請でアメリカに留学。
アメリカの怪異と戦う日々を過ごしていたが、急遽日本に帰国することになった。

キャリー・ホワイト
超強力な超能力者の少女。
元々は弱気な性格と芋くさい格好でいじめられているだけでなく、母マーガレットからの虐待にも耐えてきた。
転入してきた龍一は、キャリーがいじめられていることや、街全体の不穏さの原因がキャリーの母、マーガレット・ホワイトの抱える負のエネルギーであることを看破。クラスメイトたちの負のエネルギーを発散させつつ、プロムパーティの夜に大激闘を繰り広げる。
結果的にキャリーは超能力者として覚醒し、負のエネルギーを信奉する母と決別。クラスメイトたちと協力して母の負のエネルギーを発散させた。
母はどこかの世界に連れ去られ、キャリーは天涯孤独の身となるが、龍一と同じアパートメントに住むことになる。
超能力者としての才能を買われ、龍一と同じ職場の本部長にスカウトされるが、龍一はその事実を知っていない。

元ネタは映画「キャリー」の主人公。
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