妖祓いとコズミックトンチキ野郎たち   作:紅乃 晴@小説アカ

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「エイジ オブ キャリー(3)」

 

 

 

キャリーの家は、郊外の外れ、まるで街の息遣いからも見放されたような場所に建っていた。

 

虫の音すら凍りついたように途絶え、空気は張り詰め、夜の闇がぴたりと張りつく。街灯はここまで届かず、ただ月の光だけが、屋根をかすかに照らしていた。

 

外観は古びていながらも妙に整っており、どこか「信仰」という言葉を彷彿とさせる荘厳さがある。だが、龍一の感覚はすでにそれを拒絶していた。

 

風に混じる鉄と血の匂い――そして、霊刀のかすかな振動。

 

「……ここか。負のエネルギーが、深く根を張ってやがる」

 

背後で肩を寄せたスーが、震える声で囁いた。

 

「気をつけて、龍一……キャリーがいるなら、きっと……助けを待ってる」

 

龍一は無言で頷き、錆びついた扉の取っ手に手をかける。

 

きぃ……。

 

軋む音が、まるで礼拝堂の鐘のように静寂を引き裂いた。

 

中に足を踏み入れた瞬間、息を呑む。壁一面に書き殴られた赤い聖句、無数に飾られた十字架。床に積まれた「異端」の象徴とされるモノたちが、供物のように祀られている。

 

それは信仰ではなかった。祈りの名を借りた、狂気の装飾だった。

 

その奥。

 

「……主よ……どうかこの子を救いたまえ……異端の穢れを……洗い流したまえ……」

 

龍一がゆっくりと、だが確実にドアを押し開ける。

 

椅子に縛られたキャリーが、うつむき、呻くように身をよじっていた。

 

そして、彼女の前に立つ女。

 

白衣をまとい、天を仰ぎ、血のように赤い口紅と、肌に刻まれた聖句。その姿は、もはや人間ではなかった。

 

「祈りの形をした呪い」――それが、マーガレット・ホワイトだった。

 

「主よ……この子は穢れました。異教徒と交わり、舞踏に興じ、罪を受け入れたのです……」

 

「やめろ!」

 

霊刀を抜いた龍一の怒声が轟く。マーガレットがゆっくりと振り返り、狂信の瞳が龍一を捉える。

 

「……また異端者か。貴様も、裁かれるべき存在だ」

 

その瞬間、空間が軋む。闇から湧き出す黒い靄が、マーガレットの周囲に渦巻き始めた。その背後には、まるで別の何か――神ですらない、もっと深淵の存在が、祈りを喰らい嗤っている気配があった。

 

「くっ……!」

 

龍一は霊刀を地面に突き刺し、即座に結界を展開。

 

「スー、キャリーを!」

 

「わかった!」

 

龍一がマーガレットを引きつけている間に、スーが飛び出しキャリーの縄を素早く解く。キャリーは涙に濡れた瞳を開き、震える声で呟いた。

 

「やめて……お母さん、そんなの……私のためじゃない……」

 

だが、その声は虚空に吸い込まれた。マーガレットの目は、もはや神しか見ていない。

 

「主の名において、汝を裁く!聖なる火よ、異端を焼き尽くせ!!」

 

光。爆発にも似た閃光が部屋を焼き尽くす。炎が走り、空間が歪む。

 

「まじかよぉ!」

 

結界で防ぎきれなかった龍一の身体は、壁へと叩きつけられる。

 

「龍一ィ!!」

 

スーの叫びが響くが、すぐに家全体が軋み始める。

 

壁一面の十字架が逆さに落ち、血塗られた聖句が滲むように輝きを放ち始めた。マーガレットの口から溢れる祈りは、もはや異言に近い。まるで神を通り越し、何か“それ以外のもの”に語りかけているようだった。

 

「私の信仰は、誰にも否定させない……誰にも!!」

 

(こいつ……こいつが、この街の負のエネルギーの根源だ!)

 

龍一が立ち上がろうとするが、空間がねじれるような重圧に膝をつく。スーとキャリーも、倒壊しかけた床に転がるように避難する。

 

マーガレットが吠える。瘴気が爆発し、神への祈りは、すでに“神をも巻き込んだ呪い”に変わっていた。

 

「スー、逃げろ!」

 

霊刀を構え、襲いくる負のエネルギーを切り払いながら龍一は叫んだ。キャリーの手を引こうとするスーを制して、キャリーはふらつきながらも立ち上がる。

 

「お母さん……やめて……誰も、もう……傷つけないで……!」

 

「まだそんなことを言うの!?」

 

マーガレットが絶叫する。

 

「キャリー、奴らは異教徒よ!汚れた者たちよ!異端よ!断罪こそが救済なのよ!!」

 

黒い瘴気が爆発的に膨れ上がり、部屋を塗りつぶす。現実すら祈りの言葉で捻じ曲げられていく。

 

「……物理法則にまで干渉してるだと!?どれだけエネルギーを……!」

 

「異教徒めェェェエエエエ!!」

 

光の奔流が龍一を貫こうとした刹那。

 

「ちぃっ!!」

 

霊刀で跳ね除けるが、爆風が壁ごと吹き飛ばす。家が軋み、崩壊しかける。

 

「龍一!!」

 

その激闘の最中、轟音とともに家を突き破って入ってきたのは、ビリーが運転する巨大なトラックだった。

 

「ビリー!?お前、まさか――!」

 

「叔父のタンクローリーだァ!!保険は入ってるッ!!」

 

「お前、マジかよぉおお!!」

 

マーガレットに突っ込むトラック――だが、瘴気の防壁に阻まれる。しかしその衝撃で家はついに崩壊し始め、火花とオイルが飛び散る。

 

そして、崩れた柱がスーに向かって倒れはじめた。

 

「い、いやぁああっ!!」

 

キャリーの視線が揺れる。母と同じ力――だが、それを使えば、自分も母の言うような異端になるのではないか。そんな一瞬の恐れが、脳裏をよぎる。

 

(でも……もう、迷わない)

 

「もう……誰も……傷つけさせない……!」

 

手のひらに、淡く白い光が宿る。柱を止め、スーを包んだのは、母とは異なる守るための力だった。

 

マーガレットの顔が歪む。

 

「キャリー……お前までも……異端に……!」

 

「遅い!!」

 

瓦礫を踏み砕き、龍一は霊刀を弓のように引き絞る。その目には、迷いのない決意が宿っていた。

 

(俺は――この呪いの連鎖を、断ち切る!)

 

「飛燕閃――突!!」

 

霊刀が一条の閃光となり、闇を裂いた。マーガレットの身体が震え、呪詛が爆ぜ、空間がねじれる。

 

歪んだ空間の中、何かがマーガレットを“契約の代償”として引き摺り込み始めた。

 

「ソンナ……コンナノ違ウ……話ガ違ウ……ワタシハ望ンデ……アァアァァァァァ!!」

 

彼女の姿は、呪詛と共に霧散した。

 

……静寂。

 

燃え盛るトラックのそばで、ビリーが立ち上がる。

 

「ゲホッ……あぁ……死ぬかと思った……!」

 

スーも泣き笑いのような声を上げる。

 

「ン、フ……フフ……アッハハ……アッハッハッハッハ!」

 

キャリーはその場に立ち尽くし、頬を伝う涙を拭うこともせず、静かに囁いた。

 

「……ありがとう。みんな……ごめんね……」

 

ふと、朽ちた聖句の隙間から月光が差す。キャリーはそれを見上げ、小さく微笑んだ。

 

「母さんは……もう、苦しまなくていいよね……でも、私は……もう、母のようにはならない。私の人生を……私の意思で、生きていくよ」

 

龍一はその隣で、静かに霊刀を納刀した。

 

夜が、ようやく明け始めていた。

 

 

 

 

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