先月急にケンイチ2が始まって嬉しいです。
1話 飛べ!金剛阿含
群れて弱者をなぶる悪党も。
信念に生きる正義も。
等しく、纏めてオレの才能に平伏せ。
「おいそこの金髪! 止まれ!」
友情,努力,根性――全て凡人への慰めだ。
才能を疑わないオレ、
「お前、こっちに転校してきた1年E組の金剛って奴だろ! 聞いてんのか!?」
「あ"ー?」
現に今、不良崩れ共に取り囲まれているわけだが。
オレにとっちゃ、雑魚スライムとのエンカウントに過ぎない。
しかしなんだこいつら。荒涼高校の奴か?
この前LINE交換した、インフルエンサーの読モ女と遊ぶとこなんだが。
承認欲求の塊みたいな女だが、見た目は文句無しの上玉だ。
邪魔すんな塵共が。
気分を害された苛立ちはある。が、優先すべきは冷静な状況判断だ。
6人中5人は武器持ち。残り1人のリーダー格くせえバンダナは素手だが、こいつが一番強え。
つっても、LV2~3程度の誤差だがな。
「ボクはケリの古賀太一。君、噂じゃケンカ強いんだって?
ボク達"ラグナレク"は強い仲間を探しててさ、ちょっとだけ付き合ってよ。
幹部のお眼鏡に叶わなかったら、軽くシメる程度で帰してあげるから、あんまりビビんないで」
バンダナがニヤケ顔で好き勝手ほざく。
転校してから今のとこ、大人しくしてやってたはずだが。
入学したての頃に、意味も無くケンカ売ってきたカスを何人かシメたのが、噂になってんのか?
にしてもラグナレクて……。 名付け親はどんなツラしてんだか。
「確かお前、双子の兄弟が別のクラスにいたよな」
チリリ――
瞬間、オレの全身から刺すような敵意が滲む。
カス共に対する
あーあ、お前ら触れちゃう?
ただ己のためにだけ生きる、オレの唯一の『例外』に。
「調査だとあっちは真面目そうな坊主頭らしいし違うんじゃね?
でもわかんねえし、めんどくせえから後でそっちの方も当たっとくか? それとも今お前が兄弟を電話で呼び出して――」
この時点で有無を言わさず動く。
スマホでカメラ回しながら、ベラベラ喋るカスAの鼻下、
振り向きざま、反応が間に合ってねえ背後のBとCへ一瞬で距離を潰す。
それぞれ喉と鳩尾に裏拳と掌底をお見舞いしてやった。
もらい事故で痛めるなんざ勘弁だからな、正拳は封印だ。
「てめえっ!」
背後からDとEが迫りくる気配。
ナメ腐った低能らしい奇襲だ。オレがBから鉄パイプを奪った事に、気付いちゃいねえ。
反転際にフィジカル差を活かし、カス共の武器の持ち手に鉄パイプを振り下ろす。
そのまま顔面に一発ずつかましてジ・エンドだ。
やっぱり武器の方が良いわ。カスの体液を一滴も浴びずに済む。
だが、最後に残ったバンダナは素手で掃除だ。
この方が後々都合いいからな。
「く、くそ……せっかくキサラ様から補充してもらった兵隊が!
白浜といいこの前の風林寺とかいうおデコちゃんといい、どうしてボクの邪魔ばかり!」
あ"ー風林寺……? やっぱりあの女、ただ者じゃねえか。
「おりゃ! おりゃ!」
バンダナはやっぱ他のカス共よりはまだマシか。ちょうど良い。
漫画好きのクラスメイトから、昨日借りたストリートファイトマンガ。
そこで見た必殺技――こいつを実験台にしてみるか。
「この、この、当たれ!」
オレが本気ならもう10回お前死んでるから。
さっさとしびれを切らして、踏み込んできやがれ。
バンダナの必死な蹴りを躱す間に、技の起こりと出だしのタイミングはとっくに掴んでる。
無論、神速の
膝に飛び乗り、相手の推進力を利用しながら逆方向に飛ぶ。
空中でクロスした足に、バンダナの顔を挟み――
風を裂く鋭い死神の鎌音。
交差したオレの両脚が、首を一瞬で刈り取る。
また一つ、オレの才能で踏み潰してやったぜ。
「"エア・カット・ターミネーター"」
高速で首を拗られ、立ったまま気絶するバンダナ。
ぶっつけ本番で半分マグレだったが、イメトレだけで成功したな。
あえてオレが意識を残す程度に痛めつけたカス共が、ありえない光景に慌てふためく。
凡才共がこの先拝むことのない、"異常事態"を見せてやったからな。
「こ、古賀さんが脚技で完敗した!? 何も見えなかったぞ!」
「今あいつ空を飛んでなかったか!? まさか"八拳豪"クラスのバケモンか!」
三下の反応ご苦労さん。
さて――脳筋共はここで気を緩めるだろうな。
あいにくオレは
カス共が見ている前でバンダナを突き飛ばして寝かせ、関節技で躊躇なく軸足を折り曲げた。
コンマ秒遅れて、乾いた破壊音が奏でられる。
だがオレの心と耳は歓ばない。
あいにくオレは快楽破壊者じゃねえ。ただ必要だから作業をこなしているだけだ。
「ヒ、ヒイッ! こいつ、俺達を徹底的に壊す気だ!」
ビビった取り巻き共が、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。
さて……一番最初に逃げ出したのは、雲水を的にかけようとしてたAか。どっちにしろてめえだけは逃さねえよ。
他に目もくれず、我先へと逃げたAをあえて捕らえ、執拗にボコる。
「ぐ……ぎゃ……やめ、すみません……ゆ……ゆるして!」
残りの奴らは、助けることもせずに薄情にも散っていく。
代わりに前方から近づく気配。
『金剛さん(くん)!』
男女の同級生が、駆け寄りオレの名を呼ぶ。
「一体どうしたんですの?」
女の方は少し前に転校してきた、
容姿端麗、才色兼備、その上身体能力もハンパねえ。オレとは別軸の天才ってやつだ。
わざと地味なイモ女を演じてるのは、意味不明だかな。
この女は他と決定的に違う。スペックどうこうの話じゃねえ。
その原因、なんとなくわかってきたが――今はそれよりも、もう一人の方だ。
「こいつらは――ラグナレク!?」
元のアダ名はフヌケン(オレの脳内のアダ名は"モブ")。
イジメられっ子で、全パラメーターが平均以下。
長所が無さ過ぎて、逆に芸術性すら感じる典型的な凡才――
こいつに変化が起きたのは、風林寺が転校してきた頃。
ずっとLV1だった戦闘力を、LV10まで急激に上げやがった。
まあ精々LV15くらいで、頭打ちだろうとは思うがな。
「阿含でいいよ風林寺さん。実は――」
モブに今は用がねえから適当に流す。
外向け用の爽やかな笑顔と口調に切り替え、風林寺に状況を説明。
風林寺からもラグナレクとの成り行きや情報をゲットした。
「風林寺……いや美羽ちゃんもこいつらに狙われてたんだね」
「ええ……ところでさっきもう勝負は着いていたように見えたのですが、どうしてこの方に追撃を加えたんですの?」
Aのリンチだけ言及するってことは、バンダナを壊したとこは見てなかったのか。
まあいいや、それっぽい理由を話すか。
「前に似たような状況でチンピラを見逃してあげたら、直後に騙し討ちを受けてね。
それから戦った相手は確実に戦闘不能にしているんだ」
説明したら、追求はあっさりと止んだ。
お人好しのこいつらは、似たような状況に合った事があるんだろうよ。
あ"ーもちろんこれは作り話。
本当の理由は"兵隊削り"な。こいつら雑兵はサルだ。つまり学習能力が無え。
サルの面倒いところは、痛みを忘れた頃に再び歯向かってくるとこだ。
だが"痛み"は忘れても"恐怖"は忘れねえ。
もし真っ先に逃走を図った仲間が捕まり、執拗に痛めつけられたら?
逃げミスったら重いペナルティがある、とサルにインプットさせる。
そうすることで、オレに対して"兵隊"から"木偶"へ成り下がるってわけだ。
「それよりオレも美羽ちゃんに、ちょっと変な事を聞きたいんだけどいいかな?」
「はぁ……エッチな質問で無ければお答えしますわ」
「くっ……さっきから僕だけシカトされてる気が……」
横で少し悔しそうにする白浜を歯牙にも掛けず、オレは気になっていた疑問をぶつける。
「君の身体の周囲にさあ、たまに煙の様な光が纏っているのが見えるんだけど、これって何かな?」
美羽の瞳孔が一瞬小さく揺れる。神速のインパルスによる加護を得たオレの動体視力は、それを見逃さない。
この時のオレはまだ知らなかった。
美羽が纏う儚い光が極まった先。今のオレの想像を遥かに超える別次元、頂きに登り詰めた者達がいるということを。