100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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一部でチャット形式ネタが出てきます。
苦手な方はご注意ください。


10話 ブレイキング

「むうう……悪い予感が止まらん」

 

 新島春男の渋い唸り声が、総督室にこもる。

 長老と修行中でケンイチ不在の今こそ、新白金連合を潰す絶好の機。

 新島がオーディーンなら、バーサーカーやフレイヤを動かし殲滅を図るはず。

 しかしラグナレクは今日も恐ろしい程に平常運転で、幹部陣は沈黙したまま。

 その静けさが、逆に新島へ言いしれぬ違和感を与えていた。

 予兆の正体は、直後情報部隊から明かされる。

 

「総督、報告いたします! まずは日次報告です。

 昨日検出されたセキュリティ攻撃は合計8件。全て未遂でした!」

 

「ご苦労上岡! フン、ラグナレク情報処理班の嫌がらせか」

 

 新島とてWEBサイトのセキュリティ対策は怠っていない。

 そもそもそれ以前に、侵入されて抜き取られて困るデータなどサーバーに無いのだが、それでも気味悪さは拭えない。

 

「次の報告ですが、ラグナレクがつい先程、youtubeのチャンネルでライブ配信していたようです!」

 

 上岡に言われるがまま、PCを開いた新島の表情が、動揺からあからさまに歪む。

 

「"【緊急企画】ラグナレクにケンカを売り続けてきた『新白金連合』と決着をつけます。"……これは?」

 

 アーカイブ動画のタイトルをクリックする。そこにはフリーのBGMと共に、ロキの顔をバーチャル化したアバターが映し出されていた。

 

『どうも、戦う参謀ロキです。今緊急で動画を回してるんですけれども……。

 実はうちが運営する武闘グループ『ラグナレク』と対抗組織の『新白金連合』がバチバチにやりあってましてね。

 今日も『ラグナレク』に決して少なくない被害が出ております。あー、それ自体を悪く言うつもりはないんですよ?

 ケンカ自慢同士がぶつかれば、こうなるのは当然ですからね。うちの下っ端も血の気の多いやんちゃ者ばかりで、痛い目見てもしゃあないっすわ』

 

 カラカラと笑いながらも、その間に送られた投げ銭にお礼するロキアバター。

 その頭身の下に、テロップが吐き出されていく。

 

『ただね、相変わらず連合は打倒ラグナレクにご執心のようで。

 お互いの幹部に損害出るくらいに事が大きくなった以上は、そろそろ決着つけようと思いましてね。

 この度、ラグナレクVS新白金連合の完全決着を有料イベントとして開催しようと思います』

 

 ロキの宣言と共に、チャット欄を激しい勢いでコメントが流れていく。

 

 チャットのリプレイ ×

 @user-12121: オーディーン様最強! 連合終了のお知らせ!

 @那須川天津飯: 金剛はオーディーンと戦うの?

 @乙骨ゆゆうた: 同接一万超えてえぐw

 @ねぎ玉牛丼: 元いじめられっこの白浜に頑張ってもらいたい

 @紀州のゴマ・ゾウ: ロキ様も総理大臣の名前のトークン始めそう

 

 連合の意思などお構い無しに、配信の同接は加速しスパチャが積み上がる。

 もはや空気は両者の激突必至と化していたが、それを見ていた隊員達も黙っていない。

 

「なっ……なんじゃあ! 格闘興行イベントを丸パクって、ワシらとの決闘を金儲けに使うつもりか!?

 こんなの新島総督が受ける筋合いなかろうが!」

 

「静かにしろ松井。最後まで目を通せ」

 

『いえーい、総督の新島サン見てますー? 正々堂々言い訳できない条件で決闘する覚悟があんたらにあったら――』

 

 挑発混じりにロキの言葉が続く。

 新島は隊員を黙らせると、眉一つ動かさずキーボードを叩き、テロップの内容をエディタに要約していく。

 

「北の廃校で1週間後……武器は殺傷力が低いものなら使えそうか。

 エントリー人数はこちらが設定可能。敵を全員降参または戦闘不能にさせた方が勝利……おかしなところはないな」

 

「そ、総督。先程松井も言ってましたが、別に奴らの土俵に立つ必要は無いのでは?」

 

 アーカイブを視聴し終えた新島は、上岡の言葉に小さく首を横にふる。

 

「それは無理だ。人数の指定という一番大きいアドバンテージをこちらは渡されている。

 ここまでお膳立てされた状況で逃げてみろ。奴らの子飼い配信者や、ゴシップ系インフルエンサーにオモチャにされた挙げ句、俺達の評判は失墜する。

 後日オフラインの場で勝っても、世間には卑怯な手を使ったと思われるのがオチだ」

 

 もはや新白金連合は、新島が私利私欲のために作った私設軍に収まる器ではない。

 白浜兼一という例外。金剛阿含という異物。

 対極なる2つの存在と出会ったことで、新島の人生と思想は大きく転換した。

 正義の武闘コミュニティとして、SNSや動画投稿サイトでも活動し始めたこの過渡期。

 イケイケ半グレ系にカテゴライズされる、ラグナレクからの譲歩ともいえる挑戦を蹴るわけにはいかない。

 

「では……総督には勝算があるのですか?」

 

 もっとも肝心な問いに対し、策を巡らせ続ける新島は沈黙を貫く。

 総督室を支配する息苦しい静寂は、唐突なLINEの着信音によりかき消された。

 

「この忙しい時に誰から……!?」

 

 待ち受け画面を見た新島の目が見開かれる。

 その意外な相手に驚きながらも、すぐにコールをキャッチした。

 

「どうした……阿含?」

 

『よぉ()()。見ただろあの配信』

 

「さっき目は通した。どう感じた?」

 

『奴ら、()()()()()()。まともなコマも補充したか?』

 

 あえて要領の得ないあいまいな問いに対し、ふてぶてしい声で阿含が応える。

 その回答は新島に、阿含の戦術IQが自分に近いレベルだと確信させる。

 

「俺もそう思う。あとハーミットの話では、奴らのバックに拳聖という達人がついている。

 何かしらの接触があったやもしれん」

 

『連中がすぐに仕掛けてこなかったのは、そういうことか。で、当然受けて立つんだろ?』

 

「ああ。決闘はライブ中継される以上、奴らも不正行為はできまい。

 ケリをつけるなら今だが、問題はメンツ決めだな……」

 

『オレの枠は空けとけよ。後はまあ、お前なら言われなくてもわかんだろ』

 

 必須戦力の一人である阿含の方からの、参戦申し出。

 新島にとってはまさに渡りに船であるが――

 

「そっちから切り出すってことは、なにか対価を差し出せってか?」

 

『わかってんじゃねえか。勝ってラグナレクを吸収しちまえば、奴らの資産が丸々こっちに転がり込むだろ?

 ぶんどった総額の3割で手打ってやるよ』

 

 ラグナレクが得るはずだった決闘のライブ視聴代もふくめて、そっくりそのまま全てを奪う。

 そんな新島の意図を見越した上で、取り分を確保するつもりなのだろう。

 現金なヤローだ、と新島が呆れ混じりに苦笑する。

 

「ケケ、それくらいなら許容範囲だが……作戦立案は俺に全部一任して良いのか?」

 

『あ"ー? こういうでかい祭りは、事前準備と事後処理が肝心だってお前ならわかるよな。

 戦略面で唯一オレと()()ができる、お前がやるしかねーだろ。

 オレは最後の調整があるから切るぞ。白浜(モブ)の野郎も、今頃半ベソかきながら追い込み中だしな』

 

 一方的に言い終えられ、通話は切られる。

 直後、獰猛な笑みを浮かべる範馬勇次郎のスタンプを一個送りつけられてから、阿含からの連絡は途絶える。

 丸投げに近い対応であったが、それを阿含なりの賛辞,叱咤と受け取った新島の眼光は鋭く輝く。

 

(そうだ。実際に戦うのはケンイチや阿含だが……お膳立ては俺がやるしかねえ。

 連合が潰れてもあいつらには"先"がある。失敗した時の全ての責は俺一人の手に……)

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうしたケンちゃん。レベル5の修行まであれ程休憩を挟みたがっておったのに、ここ数日のやる気が見違えるようじゃ。

 それに空き時間も何やら、別の技の型を試しておったようじゃが」

 

 神秘的な雰囲気と静寂が包む山中深く、闇ヶ谷の地。

 無敵超人、風林寺隼人は別人の様に制空圏の修行に勤しむケンイチに問う。

 

「明日、友人が……仲間達が決戦を迎えます。それにどうしても間に合わせたくて……」

 

 先日スマホが偶然電波を受信したことで、ケンイチも新島から決闘の仔細を知らされていた。

 全世界にリアルタイムで自分の戦いが有料で配信されるなど、考えたこともない。

 新島からは、無理なら修行を優先しても良いとさえ言われた。

 それでもケンイチにとって、自分だけ戦わないという選択肢は思考に浮かびさえしなかった。

 オーディーンに完敗した己に代わって、ラグナレク打倒に動く仲間達と共に戦う。

 今はそれしか頭にない。

 

「ふむ……まだ制空圏の修行は完全ではないが、致し方あるまい。そこら辺の不良なら束になろうと相手にならんレベルだしのう」

 

 梁山泊でケンイチを誘った時に、己を注意深く凝視していた金髪の少年(阿含)

 彼レベルの使い手が敵にいたら話は別――と言いかけて隼人は言葉を飲み込む。

 強敵に挑むのは、今に始まったことでは無いからだ。

 

(しかし、友への加勢を決意した途端、みるみる修行の進捗が捗るとは……。

 ケンちゃんを梁山泊の弟子に迎えて正解だったわい)

 

 敵がこちら側の修行の都合に合わせて待つ道理も無い。

 勝てばケンイチの手柄。負ければ、仕込みが間に合わなかった()の所為。

 その時は更なる指導で弟子を導くまで。

 そう心に近い、隼人は身内以外で生涯初となる弟子を背負い下山するべく、身支度を始めるのだった。

 

「時にケンちゃんや。麓のバスは夕方には最終便が出るから、今から発っても到着は明日の昼になるぞい」

 

「え"っ」




松江名先生とBDネタが被ってちょっと嬉しかったです
11話は火曜日の夜に投稿いたします
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