100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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感想,評価ありがとうございます
結構鋭い先読みする感想多いです


11話 前哨戦-1

 新白金連合と決戦の会場として、ラグナレクが確保したレンタルスペースの廃校。

 正面に広がるだだっぴろい校庭は、決闘開始が迫り、人々と熱気で充満している。

 といっても客席を埋めるその多くは純粋な格闘技ファンではない。

 半グレ、ゴシップ系配信者、インフルエンサーもどきに夜の街の匂いを纏った女達が大半。

 刺激に飢えた物見遊山の空気を隠すこと無く、高みの見物を気取っている。

 

「フフン……いくら今回の決闘が興行だと言ってもねぇ。そこまで身体を張って、笑いを提供しなくていいよ新島サン」

 

 幹部用に設営された椅子に腰掛けるロキが嘲笑うと、周囲の臣下達がつられてニヤつきながら配信用のライブカメラを回す。

 この場に現れた連合のメンツは、総督である新島の他に武田.宇喜田.松井といった初期メンバーのみ。

 主力を軒並み欠いた戦力に、配信のチャット欄からも呆れ混じりの野次が飛び交う。

 

 

 チャットのリプレイ ×

 

 @デブナレク: 連合の人達バックレ? しょーもな

 @user-53361: 白浜君まだ?どんなショボくれた人なんやろ!どんな惨めな顔しとんのやろ!

 @既婚者トーマス: 試合流れるなら返金してください!

 @user-28510: バルキリー様来たら呼んで それまでvtuber観てる

 

 

 その時、連合に対し下卑た笑いを浮かべていた会場内が突如ざわつく。

 

「我が君、遅くなって申し訳ありません。先程浮かんだ、新たなメロディを書き留めるのに夢中になっておりました」

 

「ジークを待っておったら、ワシまで遅刻するところだったわい」

 

 不死身の作曲家、ジークフリートと実戦相撲の雄、トール――

 

「今回はロキの野郎への落とし前と、修行の成果を確かめるために特別に乗ってやる」

 

「私も宇宙人の下に付く気は無いけど、ラグナレクとのケジメはつけないとね」

 

 虚と実の狭間にいる者、ハーミット。そして我道を征くテコンドー少女、バルキリー。

 元拳豪4人が揃い踏みし、連合側に用意されたブースへと踏み入れる。

 それだけで雑兵を威圧するその光景は、上機嫌だったロキを一転歪ませるのに十分であった。

 

「ケケ、来ると信じていたぜ皆の衆よ!」

 

「バカな……ジークの寝返りは知っていたが、トールやハーミットまで!

 あの男(新島)にそれほど糾合させる力があるってのか!?」

 

 そして、背後から聞こえた軽薄な笑い声でロキのストレスはピークに達する。

 

「ほー、オレの才能をお披露目する大舞台をわざわざお膳立てしてくれて、ご苦労なこったよ」

 

「金剛阿含……来やがったか!」

 

 我が家の庭を進むかの如く、阿含は敵地を闊歩する。

 主役が誰か。己以外は物語の脇役である、ということを皆に周知するかのように。

 一見無造作だが、太く地に根を張るような体幹がその所作から垣間見えていた。

 大して興味を持たぬリミや連合側の仲間達を含め、その場の全ての者達を注視させる程であった。

 周囲を圧倒していることなど意に介さず、阿含はブースにたどり着くと、粗野に腰を下ろす。

 

「よぉ金剛。……なんていうか、金剛ってマイペースなキャラだと思ったから、こうして普通に来るってのは新鮮つーか意外だな」

 

 隣の宇喜田がおそるおそる声をかけると、阿含はあくび混じりにスマホを触りながら鼻で笑う。

 

「あ"ー? 主役が遅れてくるのはエンタメの都合だろ。()()()()者だからこそ、いざって時に時間はきっちり気を配らなきゃならねえんだよ」

 

 得意げに語る阿含の言葉を飲み込むように、オーディーンの張り詰めた声が会場を包み込む。

 

「静粛に! これより、ラグナレクと新白金連合の決戦を開始する!

 ルールは至って単純。互いの代表6名が戦闘不能,降参,校庭外への逃走などで全滅するまで、1対1の決闘を行い続ける!」

 

 オーディーン直々の宣言により、一瞬の静寂から一変場は白熱する。

 連合側の代表達は各々覚悟を決めるが、意識の片隅に、この場にただ一人いない男を浮かべる。

 

「始まっちゃうけど、ケンイチ君はまだ来ないのかい? さすがに彼の代わりはボクでは荷が重いじゃなーい!」

 

「落ち着け。こればっかりはケンイチを信じるしかない」

 

 新島は武田を宥めながら、顔面の手前で両手を組む。

 小悪魔が神頼みする様な滑稽な構図だったが、それほどにケンイチを信頼しているという表れでもあった。

 

「負け犬の白浜は棄権か? まあいい、まずは元拳豪を下から順に料理してやる。

こちらの人選は四人の拳豪,アタランテー,クロノスの6名だ。

 バルキリー、トール。殺されたい相手を選びな」

 

 始まりが、近い。場に緊張感と殺気が充満する。

 それに呼応して配信側の勢いも加速していく。

 

 

 チャットのリプレイ ×

 

 @デブナレク: 連合公開処刑キター

 @お年玉母に預けて三千里: ラグナレク側にいるのって、リミリミにしてやんよチャンネルのリミちゃん!?

 @すげぇトークン出すらしいじゃん: ロキ様すげぇトークン出すらしいじゃん

 @user-53361: 白浜君来んな―。白浜君は時間感覚と顔があかんわ。

 

 

「フレイヤ姉、ここでケリつけようぜ」

 

「いいだろう。私の手でお前の目を醒まさせてやる、キサラ」

 

 ロキの挑発を意に介することなくキサラがフレイヤを手招きすると、隣でトールがクロノスを指さしながら四股を踏みしめる。

 

「ならばワシはそこの頑丈そうな男と仕切らせてもらう!」

 

「ふん、お主がトールか。俺に劣らぬ伊達男よ。受けて立とう」

 

「伊達男て……ただのデカめのおっさん対決やん。ジャンプだったら絶対途中で戦闘シーンカットされそー」

 

「アタランテー、慎みたまえ」

 

 オーディーンに釘を刺され、リミがヘコヘコと頭を下げる間にも4人は横の戦いと干渉し合わぬよう距離を取り始める。

 対面のフレイヤが懐から取り出した杖をねじ込み、構えたのを見計らったところで、キサラが膝のバネをしならせ跳躍した。

 

「いくよ!」

 

「!?」

 

 上下左右、乱舞するかのように旋回しながら繰り出される蹴りが、フレイヤの顔色を変える。

 杖のガードに阻まれクリーンヒットこそ奪えないものの、映画の様に派手な空中殺法が、見世物小屋気分のギャラリー達の目を醒ます。

 

「へえ……敵ながら見事なパフォーマンスだねバルキリー。会場だけでなく配信も大盛り上がりだぜ」

 

「あれはハニー(美羽)の舞うような動きじゃないか! どうしてキサラが!?」

 

 反撃の薙ぎ払いを後方へのバク転で躱しながら、キサラは自重を感じさせない足さばきのまま、投げかけられた仲間(武田)の疑問に応える。

 

「準備してたのはラグナレクだけじゃない。この決戦に備え、牛乳……風林寺と特訓をしていたのさ!」

 

 プライドを捨て美羽に頭を下げ、日々組手を続けたことでキサラは単純な技の練磨とは別に、美羽の動きを一部身につける。

 身体の柔軟さとバネを活かした元来の動きと美羽の動きは相性が良く、トレースすることで元の体捌きにも良影響を与えていた。

 

「腕を上げたな。ワルキューレも、しゃもじの達人とやらに出会って以来筋が良くなったが……今のキサラには太刀打ち出来まい」

 

「上から物を言うじゃないか。余裕のつもりか!」

 

 ギアを一段上げ、踏み込みを強めたキサラの蹴りが迫る。

 だがそれが届く前に、フレイヤにより地へ振り下ろされた杖が自重の加わりにより、生物の様にしなり上がる。

 

「久賀舘流極意一つ "雷鳴"

 

 杖の反動を踏み台とし、棒高跳びの要領で疑似的なムーンサルトを生み出す妙技。

 頭上を完全に警戒していなかったキサラの腰に、強力なカウンターの鉄槌として膝蹴りが振り下ろされた。

 

「があっ! うう……」

 

 死角からの無防備な不意打ちは、痛みよりも衝撃を身体に植え付ける。

 一撃で呼吸困難に陥り、身動きの取れないキサラに、容赦のない振り下ろしの追撃が襲いかかった。

 数発の殴打を受けながら、なんとか後方へと飛び退くも――

 

「加えて、()()()()()()() "灰蛇"

 

 キサラの眼が辛うじて捉えたのは、避けようとした方角へ先回りするかの様に、蛇の如く唸り曲がる杖の軌道だった。

 左眉骨を突かれた衝撃は軽くなかったが、それよりもその前にフレイヤが放った術名に意識を奪われる。

 

「あうっ! 突きが……曲がった!? それに今緒方式って……」

 

「お前が特訓をしていたように、我らラグナレクも拳聖様に指導を受けていた。

 つまりは私本来の杖術だけでなく、拳聖様と共に創り上げた技が相手だということだ」

 

 早くも圧倒するフレイヤへと歓声が上がる中、いつの間にか中央まで足を運んでいた阿含が、運営席を背後から見下ろしていた。

 そのままロキの手下を足蹴で押しのけ、空いた一席に大股で腰を下ろす。

 

「ああ!? 何の真似だ金剛!」

 

()()()みてえな戦いなら昼寝するところだったが、今んとこは悪くねえ。

 出番まで素人共に解説してやっから、別報酬でギャラは振り込んどけよ」

 

 へらへらと配信画面に目を通す阿含へ、何をいけしゃあしゃあと、とロキは喝破しようとしてぐっと言葉を飲み込む。

 ケンイチと同じく拳豪達を撃破していった阿含は、悔しいがこのイベントにおける圧倒的キラーコンテンツだ。

 ワイプに映ったことで、ライブチャットの勢いは明らかに一回り盛り上がり始める。

 

「へっ……じゃあお前はフレイヤの技を見切ったとでもいうのか?」

 

「柄にあたる部分を手首でしならせて、突きの軌道を物理的に変えたってとこか。

 なまじ動体視力がいいだけに、直突きを何度か見せた伏線もあって杖が追尾した様に見えただろうな」

 

 初見で技のカラクリをおおよそ当てられ、フレイヤは表情にこそ出さないものの、阿含への脅威性を強めていた。

 

 技を見せすぎれば不利になるかもしれない。勝ち方一つにも気を配らなければ――

 

 阿含を侮らず、警戒するフレイヤの直感は正しい。

 しかし、だからこそ眼前の些細な異変を見落としてしまう。

 追い詰められたキサラに、一瞬獰猛な気配が宿ったのを。

 

「フシュウ……!」

 

 カッと開かれた瞳孔から理性は消え失せ、キサラは吠えながら再度跳ぶ。

 だが鳥のように舞う動きではなく、獲物と対峙した四足獣の様な飛びかかりだった。

 

「何っ……動きが変わった?」

 

 変わったのは動きだけではない。側面からの蹴りを防いだフレイヤの腕が灼ける。

 すれ違いざまにキサラが繰り出した腕の振りかぶりが、引っ掻き攻撃となり皮膚を切り裂いていた。

 

「おい……あれなんか雰囲気ヤバくねえか?」

 

 敵味方観客問わず、校庭にいた者達は何かの異変を察知する。

 だが具体的に一段深く踏み込めた者は、阿含を含みごく一部だけであった。

 

(あらら、動の気の発動まで始まってるよ。

 ただ()()ただけじゃねえ、追い込まれるとバケるタイプか。

 クク……セコセコ影で自主トレしてる場合か? 実戦で才能の芽が開花してどんどん追い抜いちまうぜ)

 

 主役(阿含)が嘲笑う。もう一人の主役(ケンイチ)に『何故お前は今ここにいない』と問うているかのようだった。

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