100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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CVがベジータVS野原ひろしで豪華過ぎる・・・


12話 前哨戦-2

「フシャッ!」

 

「くっ……!」

 

 ローアングルからの鋭い蹴りが、フレイヤの頬を僅かに抉る。

 キサラが一時的に動の気に目覚め、気の運用レベルは五分に。

 杖のリーチ差はスピードで相殺することで、両者の力量は拮抗していた。

 

 杖の攻撃範囲と自身の警戒領地は完全に見切られた。

 フレイヤはそれを悟ると杖のねじ込みを解体し、半分の二振りへと持ち替える。

 

「あれだけ私を慕っていたお前が、とうとう武器を持たずにワルキューレを抜け、あまつさえ反旗を翻した。

 裏切られた、とお前には失望さえしていたが……飼われるくらいなら、狐狼として道を進むのがお前なんだな。私の下で収まる器ではなかったということか」

 

「シャラアッ(サイクロン・トルリョ・チャギ)!」

 

 リーチが半減したことで本能的に勝機を嗅ぎとり、キサラは渾身の回し蹴りをフレイヤに叩き込む。

 焼け焦げつく様な衝撃音が響くと、大番狂わせが起きたのか、と思わず皆身を乗り出すが――

 

「はっ……が……」

 

 至近距離よりカウンターで打ち込まれた杖が、テンプルとみぞおちをそれぞれ的確に貫く。

 ケンイチですらKOされた致命打が二箇所に打ち込まれ、キサラを一瞬で戦闘不能へと追い込んでいた。

 観衆が息を呑む中、フレイヤは崩れ落ちたキサラを支え、地に寝かせる。

 遅れて拍手と歓声を浴びながら、自陣へ戻るとオーディーンがパチパチとささやかな拍手で迎え入れた。

 

「よくやった。だが君なら、あんな捨て身の作戦をしなくとも遠距離をキープすれば安全に勝てたはずだ」

 

 キサラの最後の攻撃は、フレイヤの左肋に楔となって刻まれていた。

 平静を装いすたすたと歩いてはいたが、オーディーンの眼は僅かな違和を見逃さない。

 

「あの状態のキサラと長引けば、再起不能になるまで潰しあったかもしれない。

 それにもしも私が敗れた場合、そのまま暴走してイベントを壊す恐れがあったからね。確実に仕留めたかったのさ」

 

「……」

 

 それは勝負を急いだ説明にはなっているが、最後に倒れるキサラを支えた理由にはなっていない。

 だがオーディーンはそれ以上追求することはなかった。

 

「くっ……何か一気に成長しかけてたキサラでも勝てないなんて、やっぱりスリーオーブカードはとんでもないじゃなーい!」

 

「武田よ、確かにキサラは敗れた。だが意外な奴に闘志が引火したようだぜ」

 

 ビハインドを負いながらも、新島が不敵に笑い指差す先。

 いつの間にか中央に現れていたハーミットが、腕組みしながらロキの手前で解説席に足を振り下ろす。

 順番に名を呼ばれるまでは、到底待ちきれなかったのだろう。

 

「そろそろてめえの処刑の時間だ。覚悟しろ、ロキ」

 

「フン、白浜に引き分けた分際で偉そうに。金剛の前にまずお前を始末してやる」

 

 一方のロキも懲戒こそされなかったものの、ハーミット離脱の失態を招いたことで、オーディーンからの人事評価は下がってしまった。

 ロキにしてもハーミットはいつか潰してやろう、と機を伺っていた相手だ。

 席から立ち上がり、実況解説の引き継ぎ指示を部下に送ると、懐から取り出した警棒(ロッド)を取り出し中央へと駆け出した。

 

「金剛……ロキは俺の獲物だ。貴様にシメるチャンスは無いぞ」

 

「あ……うん」

 

 声もセリフもまんまベジータじゃん。と呑気に阿含が構える間に、接近するハーミットへとロッドが振り下ろされる。

 

「おらあっ!」

 

 フレイヤ程ではないが、さすがにロキも拳豪だけあって武器捌きのレベルは雑兵と違う。

 どうするよ王子サマ(ハーミット)、と高みの見物にしゃれ込む阿含の視界に入ったのは、クロスアームブロックでロッドを防ぐという原始的な対処法だった。

 だがハーミットが常人とは異なるのはこの後だ。

 

「むっ……!」

 

 常人なら悶え苦しむ腕への打撲と衝撃に一切怯まず、ロッドを掴みロキの身体を一気に引き寄せる。

 

「ナメんな。こっちはガキの頃から硬気功の鍛錬で四肢を鍛えている。この程度、なんのことはねえ!」

 

 無防備な態勢となったロキの顔面へ、容赦のない手刀が迫り――

 

「"レフト・カーソル"!」

 

 直前で衝撃に阻まれ弾かれる。

 まるで手前の空間そのものにバリアを展開したかの様に、ロキの左掌が手刀をはたき落としていた。

 

「!?」

 

「ナメてんのはどっちだハーミット! このロキ様があれから遊び歩いてたとでも思っているのか?」

 

 ロッドをハーミットへと投げ下ろし、怯んだ隙にフリーとなった右手で貫手をねじり込んだ。

 

「喰らえ、"ライト・ジャベリン"!」

 

 貫かれた左肩を抉る痺れと血のしたたりが、決してロキの技がハッタリではないと告げていた。

 想定外の負傷にハーミットは思わず飛び退き、阿含は見直したかのように『へぇ』と漏らす。

 

「ロキはこの一週間、拳聖様から授けられた技の訓練にひたすら取り組んでいた。

 左手の上半分……4分の1とはいえ、この短期間で制空圏を修得した学習力は目を見張るな」

 

 オーディーンが語るロキの成長はハーミットも痛感している。だからこそ、感心よりも憤りがより勝った。

 

「チッ……これが制空圏か。てめえ、これほどのモン(資質)がありながら、人質なんてくだらねえ真似しやがって!」

 

 虫酸が走る様なハーミットの反応を、ロキは鼻で笑い飛ばす。

 お前だけが悲劇のヒーローだと思うな。そう言いかけ言葉を飲み込んでいた。

 

 ロキは語らない。

 親友だった男に裏切られ、全てを失い頭を下げ続ける父の姿も、

 生計のため夜職に汚れ塗れ、かつての聡明,清廉さなど欠片も残らなくなった母の姿も、

 そんな悪の()()()()()など美学を汚す不純物だ。

 

 己だけが知っていれば良い。

 卑怯などとは敗者の戯言。この世は勝つか負けるかしかないと。

 

「こいつで腹を貫かれてもまだ減らず口が叩けるかな!?」

 

 ロキの跳躍により加速した鉄槍が、ハーミットの下腹部へと吸い込まれ――

 

 

 

 ***

 

 

 

 始発のバスから電車に数時間揺られ、地元の駅へと辿り着いた。

 少しでも早く弟子を戦地へ送るべく、ケンイチを抱え上げた隼人はバス停のロータリーから商店街のアーケード上にひとっ飛びする。

 そんな隼人とケンイチの視界に、同じくアーケード上を縫うように飛び交う影が映り込んだ。

 こんな芸当ができるのは――

 

「美羽さん! 師匠達も! 先に向かうはずだったのでは!?」

 

 梁山泊の住人が偶然にも駅前で一堂に会する。だが予定では、師匠達はとっくに現地に着いているはずだ。

 弟子クラスの喧嘩に干渉する野暮はしないが、酒の肴として楽しむには遠慮しない見世物好きな面々である。

 

「ケンイチさん! そのはずだったのですが……」

 

「アパパ……昨日遅くまで"ブイアール"をやりすぎて、目覚ましで起きれなかったよ!」

 

「わりい。さっき、からくりサーカスの新台で勝ちまくっちまって……」

 

「もう! 今度からパチスロと21時以降のゲームは禁止にしますわよ!」

 

 大して反省の色が見えないアパチャイと逆鬼を窘めながら、美羽はバッテリー切れにより状況を把握できていないケンイチに自身のスマホを差し出す。

 ここに来る間も、ラグナレクの有料配信を新島から借りたアカウントで、逐一チェックしておいた。

 

「スマホを見ながらの建物移動は……危ないからお止めくださー……い」

 

 しぐれが度々何かをつぶやくが、切羽詰まった様子でスマホの画面を覗き込むケンイチ達に届いていなかった。

 

「やはりもう戦いは始まってたんですね!」

 

「先程キサラちゃんが負けました。何かの要訣を掴んで、瞬間的に"緊湊"のレベルに届きかけていたようですが……。

 キサラちゃんを倒したあの方(フレイヤ)でも次席未満なのでしょう? 中々敵側の層も厚いですわ」

 

「くっ……早く皆のところに行かないと!」

 

 つぶやきを無視されて少し落ち込むしぐれの肩を叩くと、逸るケンイチ達を抑えるかの様に剣星と逆鬼が前に出る。

 

我が兄(槍月)の弟子や阿含君はそう簡単にはやられんよ。ケンちゃんが間に合うまで、きっと戦い抜いてくれるはずね」

 

「あのふてぶてしい目つきのガキ共か。確かにあいつらは見込みありそうだったな」

 

「谷本君……金剛君……そうだ、彼らならきっとラグナレク相手にも……!」

 

 かつて自身の命を狙っていた者と、二度までに生まれ持った才の差を知らしめ、絶望を植え付けようとした者。

 恨みこそ、劣等感を抱いてこそおかしくないはずの者達を耳にすると、ケンイチの瞳は輝きを増し、体を纏う静の気が強くうねる。

 そんな後ろ姿を、この場の達人で唯一ケンイチと同じく、虐げられていた側から成り上がった男が、過去の己と重ねていた。

 

(まるで長年の戦友のもとに駆け付けるみたいだな。

 20年前の私は柔術の腕前こそケンイチ君よりもあったが、敗北や挫折を植え付けた者に対する心構えはこの境地には達していなかった。全く、面白い弟子だよ君は……)

 




次回13話は土曜夜に投稿予定です
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