100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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誤字指摘ありがとうございました


16話 大将戦-3 Utoposへ

「露骨にコソコソ避けてた割に、今更オレを呼び出すとは随分都合よくね? 茶坊主クンよ」

 

 人気のない階段上の空き地。

 ヘラヘラ笑いながら、実兄(雲水)のダセェ五分刈りをペチペチと叩く。

 数カ月ぶりに見たオレと瓜二つの顔は、辛気臭ぇ表情を浮かべて月下に照らされていた。

 

 オレがスポーツ留学だかなんだかを蹴って、共に荒涼高校を選んだこと。

 あの日ここで、

 "天才は凡人を踏み潰して進め。そうすれば俺が報われる"

 という置土産を残したこと。

 雲水は負い目に感じていたのか、許しを請うかの様、勝手にタブーとしていた話題に触れていく。

 

 元は奨学生に選ばれて大はしゃぎで行ったら、オレと取り違えてたとかで追い返されたのが発端だろ。

 あいつら(両親)からも露骨に冷遇されて、雲水チャンの価値観歪んじまうのもしゃあねえって。オレならキレて当事者の大人全員シメてるね。

 

「腐っても双子の兄だ。遠目にもお前が家を出てったここ半年が窮屈そうだったことくらい、わかるさ」

 

「……」

 

 あれから雲水が挫折(おれ)た分まであらゆる場所,競技で凡才をなぶった。

 違和感とわだかまりに目を背け機械的に。だが――

 

「でもここ最近は、何か明確な目標が見つかったんだろ? 阿含、眼と表情の輝きが前と全然違うぞ」

 

 初めて雲水の表情が和らぎ、頬が釣り上がる。

 オレだけじゃねえ。こいつも前とは違って、どこか憑き物が落ちた様だ。

 

「……荒涼高校、いいところだよな。

 ちょっと荒れてるけど、オレを阿含と比べて差別や冷遇するクラスメイトはいない」

 

 ノロマにチンピラに芋だらけの学校だが、中学と比べて確かにクズはそんないねえかもな。

 あのハゲ担任(安永)と、とれぇ副担(小野)も、オレと雲水を比較するような事は一度もしなかった。

 

「ここで生活する内に、ようやく俺も自分を少し好きになれそうなんだ。

 すまない阿含。オレの事は気にせず、未だ見ぬ強者や天才と本気でぶつかって超えて行け。

 お前は凡人を潰して満足するのに収まっていい器じゃない」

 

 雲水が頭を下げると同時、身体を縛る見えない最後の鎖が、静かに解けていった気がした。

 どこまでも頂の見えねえ武の深淵、オレの身一つでどこまで到れるのか。本気で完成図を思い描く。

 

 ここ数日、修行は停滞して初めて焦燥を募らせていた。

 ラグナレクとの決戦を前に控えたこの時、オレの気が突如――

 

 

 

 ***

 

 

 

 視界を侵食しかけた純白が晴れる。

 バーサーカーの一撃により、一瞬分断されていた意識が覚醒した。

 即座に後ろ足で踏みとどまり、ダウンを拒否し負傷度合いを点検。

 脳はそこそこ揺さぶられたが、足はまだ活きている。

 

「あれを耐えるか。そうこなくちゃ」

 

「ククク……」

 

 逆転され追い詰められた阿含が不意に苦笑い、バーサーカーが怪訝そうにする。

 生涯初となった、先程の走馬灯らしき光景。

 よりによって何故数日前の雲水との会話が蘇ったのか、自嘲が漏れていた。

 だがこれで今一度、輪郭を正しく知覚する。

 取捨選択の末辿り着いた、第三のルートへ。

 

「待たせちまったな。まだ慣れてねえもんで」

 

 気は通常各々の体内で蠢き、達人ともなれば体外で発動者を守護(まも)るように身体をコーティングする。

 だが阿含は、体表の内側に癒着させる様に放出を押し留めた。

 達人の気が服や鎧だとするならば、さしずめ皮膚を移植する様なイメージか。

 繋ぎ止めが弱ければ通常の発動となり、放出が足りなければ発動自体が空振る。

 弟子クラスとしては高度な配分バランスを両立させ、その領域に至る。

 

(雲水テメーの言うとおりだ。凡才なぶるのに固執して、ポテンシャルの二割も使えてなかった。

 こんなもんじゃねえ。テメーに代わって、全ての()()()()連中を食い尽くしてやるよ)

 

「気の運用 第二階層――"Utoposへの接続"

 

 

 トップチャット ×

 

 @デブナレク: すげえw二人とも界王拳キター!

 @user-97440: 今どき界王拳なんて、世代がバレるよオッチャン

 @中谷翔平 : いやゲームでリメイクされて実況もよくされてっから、今の若い子かなり知ってるよ

 @user-02859: 97440のがオッサンで草 つかレスバしてる場合じゃねえ!

 

 

 共に異次元の領域に突入。

 それは武術経験者達だけでなく、一般の観客達にもオーラとなって伝播している。

 阿含の準備を手ぐすね引いて待ち構えていたバーサーカーが、ジリと重心を前に傾ける。

 

「よく攻めなかったな。さっき、発動の隙突かれてたら多分負けてたぜ」

 

「そりゃさっきの俺の時もそうだろ。これで貸し借り無しでフェアに行こうや」

 

「……お前、顔に似合わず義理堅いな」

 

「お互い――な!」

 

 ニヤリとしながら言うやいなや、バーサーカーが翔ける。

 一部始終を抜け目無く観察し、阿含の気と肉体に強い紐づき(リンク)が生まれたことを理解していた。

 だが所詮、動でも静でも無い気をどうこうしたところで、己の気に勝るわけがない。

 そう見立て、今一度追撃を試みる。

 

「"風の拳"」

 

 阿含が拳を振るうと同時、手前の空気が一瞬揺らぐ。それは次の瞬間、左目に走った不可解な衝撃の予兆であった。

 ペットボトルの空気砲を、眼前で放たれたのに近い感覚か。

 

「グッ!? ……まさか空気を……飛ばしたのか!?」

 

「"風の拳 二連"」

 

 メカニズムはわからない。しかし、阿含が飛び道具を手にした現実は把握しなければ。

 バーサーカーの直感は、振るわれる両腕が空間を歪ませると同時、警告を告げる。

 一度距離を取ると、顔面をガードした腕を見えない衝撃が叩くが、眼球でも無いためダメージには繋がらない。

 

「見切ったぜ……!?」

 

 一度で新技を攻略した安堵から生じた、一瞬のディレイ。

 その隙が生まれた事により、腕を下ろした時には、阿含の姿は跡形もなく消失していた。

 

「"瞬歩"」

 

 耳元からの声に超反応し、振り返るも――

 

「"打震"」

 

「ゴハッ……!」

 

 臓器が体内でのた打ち回る。

 左腹部に打ち込まれた波紋が、バーサーカーの全身を波の様に駆け巡っていた。

 人体の3分の2は水分という理論に沿い、相手の水分を衝撃材として利用し、内臓を直接攻撃する掌打が突き刺さる。

 先程まで完全無欠とも思われたバーサーカーが一気に崩れ始め、周囲のざわめきは歓声と喧騒に様変わり。

 それでも何が起きたか、素人衆はまるで理解できていない。

 

「Utopos……"理想郷"と"存在しない場所"の2つの意味を併せ持つ場所か。未知への到達を成し遂げるとは、素晴らしいじゃないか」

 

 屋上より俯瞰視点から見下ろしていた緒方が、達人の眼力と技量も相まって仔細全てを把握していた。

 阿含が披露した芸当のカギは、肉体に接続した気の全身への自在移動と形状変化であると。

 まずは手の甲に連なり、空気弾を直線上に放つ形状に。

 その次は足の裏に気が集まり、加速する足場となった。それにより無音の高速移動を成立させる。

 一時的に視力低下した左目側から背後を取り、最後は掌に集約。

 相手の生理反応を利用した合気と浸透勁を組み合わせた、内部破壊の一撃へと。

 

 だが、妙技の数々に輝いていた緒方の双眸には険しさが浮かんでいく。

 

(技術レベルは妙手上位~達人末席級が要求される気の操作、技の数々を弟子クラスながら手にしたのは賞賛に値する。

 ……しかしながら金剛少年、君はミスを犯した。それに気付いているのか?)

 

 鋭く品定めする眼光が見守る中、天賦を宿す少年達の戦いは後半戦に移行する。

 

「なかなかヤルナ……!」

 

 "打震"のダメージと痛みに怯むこと無く、振り向きざま全力の肘打ちが顔面に放たれた。

 負傷の度に脳内麻薬が増加し、集中力と冷静さを維持したまま興奮と凶暴性が増していく。

 

(こいつの耐久力も未知数だし、チンタラやるのは得策じゃねえ。インファイトでケリつけるか)

 

 とはいえただの短期決戦では芸がない。やるなら互いの才能を存分に格付けし合いながら、だ。

 

「"追唱する黒龍"」

 

 左頬に着弾した肘打ちの衝撃が起点となり、阿含の身体がオーバーリアクションな程に右旋回。

 衝撃の軸がそのまま反転し、カウンターの右手刀となって襲いかかる。

 

「チイッ……"レフト・パリィ・カーソル"!」

 

 それもまた、打ち込まれた裏拳の制空圏により弾かれ阻まれる。

 攻撃こそ不成立に終わり、衝撃の反動により追撃も途切れた。

 だがその攻防はジークフリートとハーミット共に驚愕させるのに、十分な内容といえる。

 

「なんと! 私の"輪唱アタック"をなんとスラー(なめらかに繋げる)に……」

 

「俺の"烏龍盤打"と組み合わせたのか……それに硬気功のパワーまで再現してやがる!」

 

 互いに仕切り直すにはちょうどいいタイミング。だが一歩も引くこと無く、惹かれ合うかのように近距離に足を固定して離れない。

 

「お前が技の強化コピーをするなら、俺は技の合成コピーだ。このまま一気に終わらせる前に、オレの才能も魅せとかねえとな」

 

「クク……そこまで徹底的にこだわるかよ。ヤハリ面白いなオマエ、気ニイッタ!」

 

 素質だけで敵を踏み超え続けた無敗の天賦達が、入念な準備を経て迎えた戦い。

 同じ()は2人要らぬ、と互いを否定し合う気持ちを乗せ、至近距離から拳を重ねる。

 

「金剛の奴、テンションなんかバグってねえか? あいつが合理的にやりゃ、もっと楽に勝てると思うんだが……」

 

「あいつもケンイチやら梁山泊の達人やらと出会って、自分の本質に気付いたのさ。

 格下狩りなんかより、真っ当に自分の才能をライバルと比べ合う方が、よっぽど性に合ってるってな」

 

 宇喜田の問いに応える新島の眼にも、両者は明らかに愉しんでいた。

 たとえ敗れようと、後遺症を負おうとも決着後に相手へ遺恨は持ち込まない。

 そのつもりで共に残された力を絞り、最終局面を迎える。

 




バーサーカーのベルセルク・タスクの気の馬力は龍斗の静動轟一よりは少し劣るイメージです
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