100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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17話 大将戦-4 ケンイチ

 至近距離で始まったサドンデスの殴り合い。

 決着は直後、あまりにも呆気なく。

 だがそれまでの5秒は、確かに怪物同士の死闘だった。

 

「ぐっ……!? 身体が……?」

 

 増し続ける興奮と高揚により、理想的だったバーサーカーの緊張と緩和のバランスが崩れる。

 突如"ゾーン"が解除され、"ベルセルク・タスク"で無理矢理塞き止めていた負傷が決壊。

 全身を生まれて初めての強烈な不快感、吐き気、目眩が一斉に襲いかかる。

 脳内麻薬で痛みは消せても、内臓中心に刻まれ続けたダメージまでは誤魔化せなかった。

 まともに臨戦態勢も取れず、前かがみで致命的な隙を晒したバーサーカーの人中、気を集約させた一本拳が添えられる。

 

「気は済んだか?」

 

 寸止めでなければKOされていた。

 "お前もオレに比類する才能があるなら、この状況くらい理解るよな"

 拳を突きつける表情は、値踏みするようにそう語っていた。

 バーサーカーもすぐにそれを察し、たまらず口元を緩ませ力尽きたように膝をつく。

 偶発的な"ゾーン"発動により、ノーリスクで"静動轟一"の力を手にしたバーサーカー。

 この日武術の神は確かに彼に味方した。しかし――

 

「ああ、お前の勝ちだ」

 

 勝利の女神は金剛阿含に微笑んだ。

 

 歓声、いや喧騒とも言って良い声量が周囲から浴びせられる。

 満足した様に、そのまま仰向けに倒れ込もうとした身体が、不自然に宙で静止する。

 阿含が肩を掴み身体を引き寄せ、周囲に聞こえない程度の声で耳打ちしてきた。

 

「おい、気絶(オチ)るんならその前にさっきの力の要訣教えろよ」

 

「なに……?」

 

「オーディーンが勝ったら、この後生き残ってる奴全員と戦う。

 その事態に備えて、少しでも気で身体を回復させとくためだ。

 見せてやるよ。お前の代わりに全抜きしてラグナレクも連合も、全部総取りするところをよ」

 

 悪辣というよりかは、ガキ大将の様に邪な笑みを浮かべる阿含。

 バーサーカーもさすがに一瞬呆れたように固まり、心底愉快そうに苦痛を堪えながら声を漏らす。

 

「カカカ……そこまで唯我独尊を貫くと笑えてくるぜ。

 悪いな……ありゃ偶然目覚めた力で、オレにもわかんねえんだ。……だがこの戦いは最後まで見届けるつもりだぜ」

 

 振り向くその姿に釣られ、阿含も視線を移す。

 その先に映し出された光景――今まさに大勢が決まろうとしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 阿含とバーサーカーの決着より数分前のこと。

 もう一つの大将戦は、観の目を発動した龍斗優勢で進んでいた。

 しかしケンイチが梁山泊の師匠達の動きをトレースしたことで、制空圏をうまくすり抜け、形勢を五分以上に巻き返す。

 

「この猿真似野郎!」

 

「甘い! 武術の伝承とはすなわち模倣から始まるのだよ!」

 

 哲学する柔術家をトレースした、相手の勢いを利用した背負投げ。

 龍斗の身体は校庭の端へと、ギャグ漫画の様な勢いで飛ばされる。

 飛ばされた先、老朽化し板が鋭利に突出した木のベンチにぶつかりかけ、既のところで首を捻り回避する。

 

「ッッ……チィ!」

 

「い、今ベンチに首が刺さってたら、決着してたよねえ?

 それどころか、オーディーンの命がヤバかったんじゃなーい!?」

 

「投げられてる最中にあれを見切るなんて、すげえ動体視力だ。

 それにさっきもケンイチのリズムをスイッチする攻撃に対し、クリーンヒットは大して無かった。

 だが、オーディーンは観察眼こそずば抜けてるが、近眼には変わりないはずだが……」

 

 新島の疑問は直後晴れる。

 顔から分泌された粘着性の不快な汗を拭い、龍斗は自覚する。

 初めて敗北の恐怖が過った。傷つけられたそのプライドを誇示するかのように嗤う。

 

「ククク……まさか、対金剛阿含用の切り札をキサマ風情に使うとはな」

 

 憎しみを宿しながらケンイチを捉えるその両眼に、不気味な黒疸が走る。

 対峙するケンイチが思わずギョッと固まる中、全身の静かな気を正反対の荒ぶる気が纏わりつく。

 法則を無視するような潮流となってうねり、新たな力となった。

 

"静動轟一"!」

 

「りゅ、龍斗!?」

 

 己の力に飲まれ、完全に気を制御しきれていなかったバーサーカーのそれとは違う。

 気の発動どころか、その更に上の次元。"気の開放"を修めた者による、完全な静と動の同時発現。

 強大なエネルギーとなり身体を纏いて――

 

「加えて、オーディンのアナザー・アイ……"神謀のビレイグ"!」

 

 梁山泊の豪傑達が如き眼光を放ち、龍斗が跳躍する。

 

"神謀のグングニル"!」

 

「ぐわっ!」

 

 空中を飛びながら制空圏を容易く構築し、蹴りで突きと同等の精密な攻撃を再現しつつ、ケンイチを撃ち抜く。

 ふっとばされながらもケンイチはすぐに立ち上がり、再度攻撃の主導権を掴むため、アパチャイのリズムに切り替える。

 だが、ギョロリと急旋回した両眼が瞬時にその動きを捉え、またもカウンターの突きを浴びせる。

 

「ぐっ……ボクの動きが読まれてる?」

 

「ククク、私の動体視力は過去より飛躍的に上昇した。我が師のお力添えで最新鋭の手術を受けたおかげだ。

 更に気を運用することで、一時的ではあるが通常視力すら遥かに高められるのだ」

 

 朝宮龍斗は生まれついての近視により、副産物として"観の目"を若くして発現した。

 その後視力を後天的に底上げし、"見の目"までも得たことで神の如き矛盾した力を手に入れる。

 知恵の代償に差し出したはずの片目を、神と世の理を謀り取り戻したようなもの。

 両眼となった完全無欠のオーディンが、かつての幼馴染を蹂躙する。

 一方、新島も友に迫り続ける危機を察しながら、龍斗の様子とこれまでの挙動を抜け目無く伺っていた。

 

「ビレイグ……古代北欧語で"オーディン"……か。ケンイチ、凌げ! そんな無敵の力なら、追い詰められる前にすぐ使ったはずだ!

 よくわかんねー気の力も眼の強化も、長時間使える代物じゃねえんだよ!」

 

 ケンイチを嬲り続けながらも新島の()()に小さく舌打ちする。

 

「ふん、やはりあの宇宙人顔は他の木偶とは違うか。

 確かに奴の言う通り、乱用すれば心身と網膜に多大な負荷がかかる。

 だが技のリスクなど既に伝えられてある。限界を超えて自爆するという愚など犯さぬよ」

 

 もしも龍斗が無自覚に力を奮っていたのなら、自滅していたのかもしれない。

 だが、金剛阿含を万全の態勢で迎え撃つべく、拳聖から直々に指導を受けたことで、"静動轟一"と"神謀のビレイグ"の危険性も周知された。

 ケンイチと距離を取っている間は、発動を抑えることでタイムリミットは大幅に伸びる。

 グングニルの突きと蹴りが刺さり続け、頑強さを誇るケンイチの耐久限界が迫ろうとしたその時――

 

「おーい、白浜クン! こっちは片付けといたから、気にせず戦うんだ!」

 

 戦いに水を刺す、わざとらしいほどに爽やかな声が響いた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その戦いの異常性はひと目で明らかだった。

 ()()()んなあオーディーン君よ。バーサーカーよりエグいことになってそうだな。

 外向けの爽やか笑顔モードでオレが声かけしたことで、思わず奴らの動きは止まる。

 

「こ、金剛君……バーサーカーさんに勝てたのか!?」

 

 あたりめーだろ、いいようにやられてるお前と一緒にすんな。

 

「まあね。君の仇はオレが取ってあげるから、気にせずそのままボコられちゃっていいぞー」

 

 煽りとかじゃなくてこれは本心。

 モブはうう……と顔をしかめ、オーディーンは周囲を見回しながら、憐れむようにモブを見下す。

 

「クカカ……金剛だけじゃない。この"神謀のビレイグ"は視える――いや、視え過ぎる。他の連中の顔をみればわかるよ。

 金剛阿含以外の皆が私に怯えている。キサマはこれほど必死に戦っているのに、私に負けると思われている。

 虚しいな。今この場に本当に存在しているのは、私と金剛だけだ。さすがに少しばかりに同情するよ、白浜兼一!」

 

「ぐっ……」

 

 そりゃこれだけ圧倒してりゃな。客席のパパ活してそうな女共でも、オーディーンが勝つってわかるわ。

 

「"神謀のグングニル"!」

 

「ガハッ……ま……まだまだ……」

 

 オレがあんだけ焚き付けてやったのに、結局おめーはモブで終わるのかよ。

 

 ――なんてな。

 バーサーカー以上の気に、常時展開しているあの制空圏。

 半端(ヌル)くねえよな。オレは果たして犠牲無しで攻略できるか?

 全身数十箇所に、気を纏った様な強烈な打撃痕――オレなら耐えきれたか?

 実績と成果を正しく評価できねえ奴はカスだ。

 オーディーンがチート使ったってことは、モブなりにやれるだけはやったんだろ。

 涙ぐましい凡人の頑張りに、オレ様も一肌脱いでやるかね。

 

「あと"拳聖"とかいう敵のバックが、君を迎え入れようと興味持ってるらしいからね。

 負けて期待外れだと思わせた方がいいんじゃね?」

 

「……? 迎え入れる?」

 

 わけわかんねって顔してやがんな。

 安心しろ、おめーに何か伝えようってんじゃねえ。

 ラグナレクの連中からちょいちょい出てた"拳聖"ってワード。引っかかってたんだよな。

 さっきバーサーカーから聞き出した話を総括すりゃ、オーディーンと拳聖の関係性は想像がつく。

 完全な支配者を演じるオーディーン、奴の本質と僅かな隙もな。

 

「な、何っ……拳聖様が!?」

 

 オーディーンが血相を変える。ククク……聞き捨てならねえよな。

 おっ、新島もなんとなく察したか? 半分賭けだが、刺さりゃ綻びになるはずだ。

 オーディーンが拳聖の力を借りたなら、お前も使えばいい。

 でもな、ドMみてえにボサッと待ってんじゃねえ。

 奪え。

 勝利も、仲間も、美羽も。

 死ぬ気で野蛮に掴み取って全部守れ――ケンイチ

 




あと2話で物語の前半部分が終わります
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