100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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龍斗が静動轟一を発動した時のサンデー本誌の煽り文句が
「憎しみは今極限へ――」だった記憶があります


18話 大将戦-5 Platinumは永久に輝く

 阿含によって投げられた地雷。

 普段ならば、下らない挑発だ、と軽く流すこともできた。

 しかし、"静動轟一"の発動により生まれた動の気の興奮が、龍斗から僅かに冷静さを奪う。

 あからさまに動揺する龍斗と訝しむケンイチだけに目掛け、空から予兆無しに声が落とされる。

 他の者には聞こえぬそれは、まるで天の啓示かのようだった。

 

『龍斗……私の思想は知っているな。君に気の運用と視力強化を無償で施したのと同じ事。

 武術界の発展となるならば、白浜君にも私の持てる技術の粋を喜んで伝授しよう。教えを請う者は皆等しく、そこに差別はない』

 

「こ、この声は……緒方さん?」

 

 龍斗は憤怒の様相を隠すこと無く、戸惑う一方のケンイチに矛先を向ける。

 

「キサマの様な平和ボケした亀が、私と同等の扱いを受けられるだとよ! 笑えるよなぁ!?」

 

 幼き頃ケンイチに敗れてから約10年間。凡俗共が遊びたい時に遊び、寝たい時に寝てる間も、死ぬ気で鍛え上げた。

 その末ようやく掴めた、闇の重鎮である拳聖の直接指導という機会。

 その特権をぽっと出が掠め取ろうとしている。恥辱と憎しみは、今極限へ――

 

「キエエエッ!」

 

 最大アクセルを踏み込み、"静動轟一"と"神謀のビレイグ"を起動させた純粋な敵意と暴力が、ケンイチを飲み込んでいく。

 この状況は阿含が描いた図面通り。冷静な判断力を奪い、力の温存を辞めさせることで自滅させる以外に勝ち目はない。

 だが、このペースではケンイチの限界が先に訪れるだろう。

 

「ぐああっ!」

 

 とうとうアバラを砕かれ、ケンイチは情けない悲鳴と血反吐を漏らしながらのた打ち回る。

 

「キサマはここで再起不能にしてやる! その後で金剛阿含を始末し、ラグナレクも再編しよう。使えない駒、逆らう駒は切り捨ててより忠実で強固な兵隊共を……」

 

 地に伏す仇の顔を足蹴にし、高らかに勝ち誇る龍を――

 

 

「このバカちんがーっ!」

 

 

 一滴の混じりもない、闇を穿つ純粋白の閃きが射抜く。

 

「ぐはっ!?」

 

『何!?』

 

 足に反動のバネを仕込んでいたかの勢いで、突如起立したケンイチが龍斗を吹き飛ばす。

 高みの見物と洒落込んでいた緒方も、思わず素の驚きを漏らし身を乗り出した。

 

「あ"ー? やるなら最初からやれってんだよ」

 

 バーサーカーよりも龍斗よりも、阿含()すらも凌駕する気の充実。

 それをただ一人待ち望んでいた天賦が、悪巧むイタズラ小僧の様にニヤつきを尖らせていた。

 

「勝利に飢えて、相手を潰す事、味方を使い捨ての駒としか考えられなくなったのか……。

 敗北と挫折に怯えてるだけじゃないのか? 負けたら自分は存在価値が無くなる、そう思い込んでるんじゃないか!?」

 

「だ、黙れェェッ! 不意打ち程度でいい気になるなよ!?」

 

(気だけじゃなくてレスバ力まで跳ね上がってるじゃん。やりゃあできるもんだね、ケンちゃんよ)

 

 呑気に構える阿含の眼前で、淡々とした追及に激昂しながらも、龍斗は"神謀のビレイグ"の動体視力で追撃を躱し続ける。

 ケンイチの豹変により実力差は縮まったが、それでもまだ一歩龍斗が上回る。

 だがそれも――

 

「ぐっ…… 眼が!?」

 

 両眼が高熱を帯び、充血と急激な視力低下を引き起こしたことで、格差は崩れる。

 

(しまった! 技術難易度が高い"静動轟一"の猶予がまだ少し残っていたから、気が緩んでいた!

 ただ気を送り込むだけの、"神謀のビレイグ"の方が負荷が大きかったのか。私としたことがこんな初歩的な見落としを……!)

 

「恐怖を誤魔化すために他者を潰す……それを修羅道と言うんだ! キミが闇に堕ちかけているというならば――」

 

 美しいまでに完全に拮抗した実力。阿含がお膳立てした、最大にして最後の勝機を嗅ぎ取り――

 

「もう一度キミのために、キミを倒そう!」

 

 友のため仲間のため、そしてかつての幼馴染を守護るため。

 この光景を演出し待ち望んでいたはずの男が、思わず鼻で笑う。

 マンガの主人公が如きクサいセリフを小馬鹿にしたのか、はたまた凡人がまたもや想定外のバグを引き起こしたからなのか。

 渾身のラッシュが敗北の恐怖、支配の虚栄、勝利への飢餓で何層にも塗り固められた幻影を粉砕した。

 

「おの……れ……金剛阿含の言葉に惑わされなければ……!」

 

 ラグナレク第一拳豪の虚像を剥がされ、曝け出された朝宮龍斗の瞳に光が差し込む。

 白浜兼一の純粋な白の拳に、反英雄(アンチヒーロー)が如き金剛石の粒子が混じりて、新たな輝きを生んでいた。

 それは、混濁した意識が招いた幻覚だったのだろう。

 だが白銀の輝きを見たその眼から戦意が失われ、表情には久方ぶりの穏やかさが浮かんでいた。

 

「新白金連合……か。白金(プラチナ)が相手では……分が悪かった……な」

 

 

 

 ***

 

 

 

 祭りは終幕。

 二言、三言ケンイチと言葉を交わし、龍斗は意識をそのまま途切らせる。

 

 

 トップチャット ×

 

 @デブナレク: 嘘……だろ……? ドッキリかなんか?

 @自分の事を野原ひろしだと思い込んでる一般リスナー: しかし全マッチが名勝負だったな。まるでテーマパークに来たみたいだぜ。

 @user-53361: まだやれるやろ龍斗クン! なんで白浜があっち側に行っとんじゃ! ドブカスがぁ!!

 

 

 配信は荒れに荒れ、観客達もとりあえず騒ぎたいだけの者達だけがはしゃぎ、ほとんどのラグナレクシンパ達は放心したままだ。

 ラグナレク側で唯一戦闘可能なフレイヤが新島へ和睦を申し入れたことで、戦争は全面集結した。

 

「ふむ、これだから武術は面白い」

 

 新島を筆頭に連合員達がこぞって勝ち鬨を上げる中、突如白フードの男が何もない空から舞い降りた。

 あわよくばケンイチを引き入れようとした緒方であったが、失神した龍斗だけを回収して姿をくらませる。

 離れた場所から梁山泊の達人と思わしき、己への強力な複数の気当たりを察知したからだ。

 ケンイチに「"闇は動き出した"」と。

 阿含には「"気の技術の前借りになっていないか?"」と、それぞれに意味深な置き土産を残してはいたが。

 

 一方、緒方の介入を防いだ遠方の地に構える梁山泊の歴々。

 皆がこぞって一番弟子、ケンイチの偉勲を褒め称えていたが、やがてその話題はもう一人のMVPへと遷る。

 

「金剛とかいう坊主……技の使いこなしは悪くねえが、ありゃ早熟過ぎて俺達の領域まで届くとは到底思えねえな。なかなか面白え奴だと思ったのによ」

 

「うむ。確かに彼の技量は、気の開放習得者以上だが、気の掌握には届かない。

 気を自在に扱える者達は、肉体と気の接続をせずとも彼の技術を、より高い精度と威力で揮える。

 一方で金剛少年は目先の技開発を急くあまり、静動のタイプ修得機会を見送ってしまった。少々惜しいな」

 

「さすがに静動の気両方……学ばぬのは無謀すぎる……か」

 

「静か動の気を肉体に繋ぐのは、やはり難しいのでしょうか?」

 

 美羽が師匠陣に真っ当な質疑を投げると、剣星が深く帽子を傾け頭を振る。

 

「それも出来なくはないが、動か静の気を取り込むのはあまりにも無謀ね。

 例えるなら、宿主のエネルギーを延々吸い続ける微生物を、全身無数に飼い続けるようなもの。いずれ彼の体は喰い付くされてしまうかもね」

 

 静動の気は、そのものが一つの意思を持った生物の様な性質を持つ。

 阿含もそれをわかっていたからこそ、無の気のまま癒着を試みていた。

 

 緒方とは武術的思想も相性も正反対のメンツだが、金剛阿含に対する評は概ね同じ見解であった。

 才能溢れる阿含が静ないし動の気を順当に極め、血の滲む鍛錬を重ねたのならば、将来特A級の達人に至ることも不可能ではない。

 しかし無の気しか扱えぬ現状は、それもまた夢だろう。

 今から静か動のタイプに鞍替え出来なくは無いが、そのためには気の癒着という技術を丸々放棄しなければならない。

 技の修得に消費した才能をドブに捨てる上、身体に馴染んだ無の気を創り変える作業にも、しばしの時を要する。

 致命的とまでは言えないが、手痛い出遅れをどう穴埋めするか――

 

「ふむ、どうやらあの少年は歪な気の育成を行ってしまったようじゃが、彼なりの挑戦と試行錯誤を決して笑うまい。

 若い頃の無謀と失敗は財産になる! そして願わくばその才能をうまく開花させ、ケンちゃんのよきライバルと目標であり続けて欲しいのう」

 

 皆が阿含のお手並みを拝見しようと意思統一を図る中、この場でただ一人会話についていけない男がいた。

 

「アパパ、皆の話難しくてよくわからなかったけど、これから無の気でいっぱい勉強するなんて、金髪君すごい勤勉よ!」

 

 確かにな、と適当な相槌を打ちながら、逆鬼がビールを煽りガハハと一笑する。

 だがしかし――このアパチャイこそが、阿含が企てた真の意図に対し、皮肉にも現時点で最も核心に迫っていたのだ。

 

(金髪君は今皆が使ってる気の運用に代わるモノを生み出そうとしてるよ?

 ってことは、金髪君の気は()()()()()()2()()()()()()()()よ! だってそうじゃないと新しく創る意味が無いと思うよ!)

 

 この後しばらくの時を経て、他の達人もアパチャイの推理に追いつき、衝撃を受けることになる。

 そこできっと新たな疑問を呈するだろう。

 

 "今までに無い概念、今の技術を上回る力を一から生み出したいのなら、静か動の気で試みれば良いのではないか?

 その方が先人達の前例やアンチパターンも豊富で、合理的かつリスクが少ないはず"

 

 

 

 

 ――その謎が解けた時、アンタらはようやくオレの真なる意図に気付くんだよ。

 アンタら達人級は強い。今のオレなんかより遥かにな。

 ()()()()()この第二階層はアンタらにぶっ刺さるってわけだ。

 

 雲の上に存在する達人も

 突然変異の怪物も

 血統書付きの天才も

 最新式の生成AIも

 全ての予想と思考をぶち抜いてやる。

 

 観てるんだろ、オレを天才に()()してこの世界に産み落とした神サマも。まだまだ退屈させねえよ?

 

 どこかで悪童が小さくほくそ笑んだ。

 

 

 第二部 ラグナレク編 完




次回は月曜日に投稿予定です
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