100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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箸休めギャグ回です


19話 平穏な日々

 

 ラグナレクとの死闘から一週間後。

 武道の達人が集いし、梁山泊の一室で響き渡る激しい銃声。

 古風な武術道場に相応しくない、その音の正体は――

 

"GAME OVER 新たなAPEXチャンピオンが誕生しました"

 

「アパパ、また負けちゃったよ」

 

「難しな。エーペック……ス」

 

 梁山泊に新しく設営された、ゲーミングPCルーム。

 その一室でゲームパッドを握りしめ、オンラインFPSを楽しむアパチャイとしぐれ。

 たった今敗戦を招いたことで、ランダムマッチで組んだ味方から怒りのチャットが飛んでくる。

 

naoya-kun: ジブ使いのキミヘタクソ過ぎやん VCもアパパパだけ言って報告せんの何なん?

香川県にでも住んでて1日1時間しか練習できんの? 引っ越せやドブカス

 

「アパパ、ゲームやりすぎたら美羽や長老に怒られちゃうよ……」

 

 味方からの辛辣な批評に縮こまるアパチャイを、よしよしと慰めるしぐれにも、

 

naoya-kun : あと女の方はFPS向いてないから 女らしく三歩下がって索敵かサポートと飯炊きだけやっとけや 撃ち合うのは男でええんよ

 

「女の子扱いされちっ……た」

 

 平等に罵声を浴びせられ、がっくしとする。そんな2人の背後でドアがノックされ――

 

「あ"ー2人だけで楽しいことやってんなぁしぐれさん、アパチャイ」

 

「助太刀に参ったぞー」

 

 武術、勉強、FPS――全てにおいて競争の頂点を目指せる天賦が、遊熟者の相方ほのかを引っ提げ、救援に駆けつけた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 梁山泊の広い外庭、その軒先で達人は黄昏れる。

 ひたすら鍛え研鑽し幾星霜。あらゆる中国拳法を極めたが、コンプラとご時世というものには指一本抗えず、赤子のように屈するしかない。

 この数十年は一体何だったのか。このまま歯がゆく朽ちるしかないのか、と嘆く剣星を

 

「あなたの目の、"闇"のそれともつかない、不思議な暗さの正体……それは"憂い"ですね?」

 

 まるで無敵超人の奥義、"流水制空圏"を張り巡らせた様な眼差しが、診察(のぞ)きこむ。

 

「ただ健全に、婦女子の写真が撮りたいだけ。しかし世相はそれを許さない。あなたはただ時代の被害者となっただけです」

 

「……阿含くんや、わかってくれるのかね?」

 

 名を呼ばれた少年は武術、勉強、FPS、はたまた女遊びまでを網羅する己の天賦に誇りを引っ提げ、啓示を授ける。

 

「ありますよ。あなただけでなく、女性の望みすらも同時に満たせる方法がね……具体的には……」

 

「ふむ、なるほど阿含くん……しかし、個室を貸し切っておいちゃんと女の子が2人きりになるというのが、もうマズくないかね?」

 

「それが気付けるだけあなたは立派ですよ。だから……ゴニョゴニョ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「よう、阿含。また今度エペやろ……う」

 

「アパパ、阿含のおかげでゴールド2に上がれたよ!」

 

「あごん、今度はなっつん()とスプラやるじょー」

 

「阿含くんや、先日は世話になったね。気の運用でよければ、今度はおいちゃんが相談に乗るね」

 

「って、めちゃくちゃ金剛君が馴染んでるぅぅ! 月島さんパターン!?」

 

 趣味のDIYの域を完全に超えた、秋雨の修行マシーンにいたぶられ……もとい鍛えられながら、ケンイチは眼前の光景に全力でノリ突っ込む。

 新島よりもケンイチよりも容易く、電光石火で師匠3人+ほのかと打ち解ける阿含には、逆鬼もどこか面白く無さそうだった。

 

「へっ、アパチャイ達はともかく、剣星までボウズ一人に懐柔されて、情けねえ」

 

 だが、次の対象こそが缶ビールを不機嫌そうにあおるこの男であった。

 

「逆鬼さん……ワンパンマンの新台、負けた?」

 

「うっ……どうしてそれを!?」

 

 そりゃ駅前のパチンコ屋で、あれだけいつも騒いでればわかるでしょ……。

 と内心ケンイチが突っ込む横で、阿含は他所行きモードの笑顔で逆鬼の横に腰掛ける。

 

「今度一緒に、Re:ゼロ打ちに行きましょうや。オレが勝ったらマツエラークでご馳走しますよ」

(種銭もスパチャのあぶく銭だから、負けても被害ゼロだし)

 

「無限地獄の逆鬼も気安くなったもんだ! 逆に奢ってやるぜ坊主!」

 

「ああっ……この流れは……」

 

「うむ……(無限地獄?)」

 

 缶ビールを握りつぶし動の気を垂れ流す逆鬼に、何か美しいまでの前振りとフラグを察するケンイチと秋雨。

 ――翌日、阿含と肩を並べて酒盛りする逆鬼の姿がそこにあった。

 

「……ミイラ取りがミイラになってるじゃないですか! どう考えても金剛君、計算づくで師匠にすり寄ってますよね!」

 

「ああ、そうだね」

 

 阿含に強い二面性があることは皆とっくに周知している。

 ならばそれを鑑みた上で体良く扱っているだけかというと、そういうわけではないよと秋雨が付け加える。

 

「確かに金剛少年は我らへ打算的に近づいている。達人と交友を結ぶ利は計り知れないからね。

 それは事実だが、彼自身に独特の魅力がある上、言動と我らへ向ける内心には嘘がないのだよ」

 

 利用価値があるから近づいたのではない。

 本心から彼らを認めようと思えたから、このタイミングで接触を図ったのだ。

 

 阿含は理解している。

 他者と関わる上で、無闇な二枚舌や面従腹背ほど愚かなものはない、と。

 サラリーマンが、バカな客やムカつく金持ちに平身低頭するのは、生活がかかっているから仕方なくそうしているだけ。

 そうでないのなら、最初から一定の距離を置いて割り切るか、きっちりと敬意を持って接した方が合理的。

 梁山泊の豪傑達もそれをわかっているから、阿含をすんなりと受け入れたのだ。

 そんな阿含の周囲を、複雑そうな様子でケンイチが眺める。

 おそらくはやきもちに駆られているであろう愛弟子を慰めるため、修行負荷を割増しよう。と秋雨は密かに心へ書き留めるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アパチャイは単純作業への集中力がすげえ。

 しぐれさんは銃器や投げ物の使い分けは完璧だ。

 射撃練習場で毎日トレーニングさせて、ほのかとランク回しゃプラチナ行けんだろ。

 馬っさんにはファンサイトに投稿する際のガイドラインと、演者の女の子へのキックバックをアドバイスだな。

 イベントの日は至緒ニキとバジリスク打ちに行って――

 

「ねえ金……阿含君、聞いてもいいかな」

 

 もう帰るとこなんだが……。

 名前呼びたぁ、ケンイチ君もオーディーンを倒して随分気が大きくなったね。

 

「灼熱地獄の阿含も気安くなったもんだ。1回3000円な」

 

「早速逆鬼師匠の真似してるし! てかお金取るの!?」

 

「歴代の女の子達は喜んで貢いでくれたけど、ケンちゃんはそれすらできないのかな?」

 

「うぐっ……うちは小遣い少なくて……」

 

 その1円スマホ見りゃわかるって。

 煽り甲斐ねぇやつだな。戦ってる間だけしかレスバIQ上がんねえのか?

 ケンイチを萎縮させるよう、大げさに音を立てて軒先に腰を下ろす。

 

「あ"ーこの前勝った奇跡に免じて、サービスしてやるよ。オレの気が変わらねえうちに聞けば?」

 

 その間ライブ配信の収益でもチェックしとくか

 

「阿含君は……梁山泊の師匠達を目指そうと、越えようとしてるの?」

 

「いや、美羽のじいさん越えだな」

 

 今月サボってたから12万かよショボ。ラグナレクから多めに搾り取っといて正解だったな。

 

「それって違う? 師匠達と長老ってそんなに差があるのかな?」

 

「じいさんが本気出したら、梁山泊の師匠達が5人総掛かりでも分が悪ぃ。

 それくらいの差があんだよ。しかしキミも大変でちゅね、才能カケラも無いのに、あの人達と張り合おうなんてよ」

 

 そろそろミミちゃんがメンエス退勤するころか。焼肉連れてってもらお。

 

「えええっ!? ボクは別にそこまで強くなろうだなんて……ただ美羽さんを守りたいだけで」

 

「だったら最低でも師匠達より強くなんなきゃ、意味ねえじゃねえか。

 世界のどこかに、じいさんと同じくらい強いやつが存在する可能性を考えろよ。

 そいつが美羽襲ってきたらどうすんだ?」

 

「う……それは!」

 

 え? めっちゃショック受けてる顔してんだけど。まさかマジで気付いてなかったのか。

 相変わらずオレがちょっと見直したら、すぐこれだ。

 いつになったら一人前になるのかね、ケンイチクンは。

 

「でも、長老越えって阿含君も大変なんじゃ……」

 

「だろうな。今試してる修行も半分バクチだし。大コケすりゃ、特A達人どころか並の達人も危ういんじゃね」

 

「えっ……阿含くんはそれでいいの?」

 

「オレが最強になるための、合理的な最適解がコレだったっつーだけだよ。手探りだろうがやるしかねえんだよ。しくじったらそん時は……」

 

 チッ……喋りすぎた。

 

 ――突如流れを断ち切る、ケンイチとオレのスマホ同時着信。

 連合幹部のグループ通話をスピーカーで立ち上げると、緊張を孕んだ伝令係の声が反響する。

 はっ、束の間の休息ももう終わりか。

 

『白浜将軍、金剛将軍、お休みのところ失礼します! 連合からの急報です!

 "スパーク"と名乗る武術家が連合本部に襲撃し、下位隊員達に被害が……。

 あと、奴は白浜将軍と金剛将軍を出せと要望しています!』

 

 あ"ー焼肉はキャンセルだな。

 

「……だとよ。怖かったら梁山泊に篭ってていいんだぜ、白浜将軍」

 

「まさか! 今から救援に行くけど、阿含君こそいいのか?」

 

 味方の被害を聞いた途端、あからさまに気の総量が跳ね上がるか。

 まだまだ、お前といると退屈しなさそうだな。

 これからもオレの予想を裏切るバグを起こし続けてみろよ。

 

「ククク……精々遅れずに着いてこいよ、凡人クン」

 

 途中で合流した美羽、新島、蓮華とかいう謎のチャイナ服娘と共に、オレとケンイチは駆け出す。

 途方もないはるか先、武術の極地へと旅立つかのように。

 

 

 あ"ーまだ終わんねえよ? もうちっとだけ続くんじゃ、ってやつね。

 




前半部分が終了しました。
ひとまずここまでありがとうございました。
次回から後半部分に移行します
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