100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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アイシールド21のキャラは今後アメフトに関わらないところで数人登場しますが
アメフト部分は劇中劇となっております。


2話 阿含「"氣"付きました」

 梁山泊(りょうざんぱく)。ここはあらゆる武術を極めた達人が集いし武術道場。

 その座敷の一室に、阿含と別れ帰宅した一番弟子のケンイチ、そして道場主の孫娘である美羽が。

 そして2人の向かいに、哲学する柔術家――岬越寺秋雨が座している

 (ケンイチのみ空気椅子状態)。

 秋雨は口元に手を当てながら2人の話を聞き届け、考察を巡らせる。

 

「どうやらその"あごん"君とやらは、美羽の『気』が視認できるのかもしれないね」

 

「僕もよくわかっていませんが、『気』とはそもそもなんでしょうか?」

 

「生物が持つ生命エネルギーだ。ケンイチ君にも、動物にも誰にでも存在するよ」

 

「僕の周囲にも気があるんですか?」

 

「いや、気は練り上げ"発動"や"開放"をさせなければ、体内に眠ったままだ。

 うまく目覚めさせれば、武術家にとって莫大なアドバンテージとなるだろう」

 

「ええっ、そんなに凄い力なら教えてくださいよぅ、"気の発動"を!」

 

「ふむ……今のケンイチ君は、そのための下地を身体に用意している状態なのだが。

 気の鍛錬を今から、となると同時進行でなくては意味がない。日々の修行量は倍以上になるがそれで良いのかな?」

 

「い、いやー、やっぱり横着は良くないですよね! ちゃんと順番にやりましょう!」

 

 いくら気が練られたところで、身体鍛錬をしていない幼児が大人を倒せるような、そんな都合の良い代物ではない。

 梁山泊もまた、今のケンイチにはまず気よりも基礎力を身に着けさせるべき、という教育方針だった。

 

「私も同感です。まずは新島さんがおっしゃっていた、"八拳豪"と難なく渡り合えるくらいになる必要がありますわ」

 

「話を戻そうか。"気の発動"は一般人がおいそれと出来る代物ではないが、美羽はその段階に至っている。だから彼は気が見えたのだろう」

 

「なるほど……しかし、どうして美羽さんは金剛君にさっきその話をしてあげなかったんですか?」

 

 阿含の問いに、美羽は何故か答えを濁していた。

 期待する解答が得られないと知るやいなや、阿含はゴネずにあっさりと引き下がりその場は収まっていた。

 

「先ほど阿含さん、既に戦意喪失した相手にダメ押ししようとしていたでしょう。

 あれが私には、少し引っかかっていますわ」

 

「でも、あれは反撃を喰らいたくないからって言ってませんでした?」

 

「私も現場を見たわけではないが、戦い慣れていない者が攻撃をうまくセーブ出来ないのは珍しくない話だよ。

 現に子どもの空手で、試合中断中に背後から追撃をした事件がネットで炎上していたしねえ」

 

 ケンイチと秋雨はそう言ったものの、美羽は直感から湧いた疑念を払拭できずにいた。

 

「あの方、既に相手が無力なことを、冷静に判断した上で追撃していた気がしますの。

 遠目に少し見ただけでしたので、現段階では根拠の無い偏見ではありますが……」

 

「つまり美羽さんは、金剛君に気の知識を教えるのが危険だと思ったってことですか?」

 

「ふむ、力のある者が悪意を以て気を運用すれば、より容易に破壊が行えてしまう。

 知識を授ける対象は選別すべきだが、その決定権は美羽にある。

 教えるべきでないと判断したのなら、我々はこれ以上何も言うまい」

 

 まるでこの前マンガで読んだ能力みたいだなあ――

 などと呑気に考えながら、ケンイチは雑談により発生した、つかの間の休息(それでも空気椅子状態)を味わうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 美羽は昨日、阿含(オレ)の問いに答えなかったが、収穫はあった。

 あえて伏せていたが、オレは美羽のことを前から知っている。

 転校当初に路上でチンピラ共を撃退したとこを、偶然見てたんだよな。

 その時、美羽が纏う光は確かに普段より強まっていた。

 

 そして昨日の美羽のオレへの対応――

 逆算して考えれば、おのずと答えは開けてくる。

 

「おめーが昨日古賀を倒した金剛ってやつか! やるじゃねえか!」

 

 あの光は使いこなせれば、強力な武器となり得る。

 そして知識さえ手に入れれば、他人でも……少なくともオレは使えるようになるってわけだ。

 力の発生源はおそらく各々の体内――

 

「おい、無視すんな! オレはラグナレクの幹部、辻だぞ!」

 

「あ"ー?」

 

 さっきから変なモジャモジャ頭と取り巻きが絡んできてしつけえ。

 昨日とは違う下校ルート選んだっつーのによ。

 

 ――どうやらオレは、ラグナレクの正式な敵対者になったらしい。

 んで身内になれば狙われねえから、部下になれっつー誘いのようだ。

 仕方なくテキトーに話を聞いてやったのに、とんだ時間の無駄だ。

 昨日のカス共よりは相当マシな用件だが、当然鼻で笑って一蹴。

 

 予想通り、激昂したモジャモジャ(なんかアダ名のセンスが被っちゃいけないヤツと被った気がした……)との戦闘が始まった。

 二十秒も攻撃を避け続けたところで、正確な力量察知が完了。

 戦闘技術は昨日のバンダナと大差ねえが、フィジカルと経験値は上だな。

 よし――去年から借りパクしてるアメフトマンガに面白え技があったから、試してみるか。

 

「おめえにいいもん見せてやるよ」

 

 言い放つやいなや、反動をつけるために10Mほど距離を取り――

 

「っ……おい逃げるのか!?」

 

 そのままモジャモジャ向かって一直線にダッシュ。

 

「バカが、カウンターの餌食だ……なっ、消えた!?」

 

 モジャモジャの眼前で緩急のフェイント。左に回り込むと判断させておき右から回り込む。

 反応できねえモジャモジャの背後に回り込み、後頭部に肘打ち一閃。

 奴の意識は一瞬で、闇に落ちる。

 凡人の眼球運動(サッカード)にゃ、オレの残像すら追わせりゃしねえ。

 邪魔くせえ髪で視界が狭まっているヤツからしたら、オレの姿が一瞬消えただろうな。

 確かこの技の名前は――

 

「"デビルバット・ゴースト"」

 

 なんかよくわからねえが、この技をキメると異常に気分がいいな。

 あのマンガの主人公やってる冴えないチビにしてやった気持ちになるからか?

 

「う……辻隊長が秒殺!?」

 

「今あいつ、辻隊長をすり抜けなかったか……!?」

 

 よし、周りの取り巻き共にも格付け完了。さてモジャモジャにトドメを――

 

「阿含さん、そこまでです!」

 

 モジャモジャの足に手をかけたところで、美羽が白浜(モブ)とよくわからねえ宇宙人顔の男(ニンゲンかこいつ?)を引き連れて現れた。

 

「その方がもう戦えないとわかっていて、更に破壊するつもりでしたでしょう?」

 

「倒れた人間を攻撃するのは、それはただの暴力だよ!」

 

 鈍臭そうなモブも、一丁前に険しい表情を浮かべてやがる。

 ――さてはオレを影で観察してやがったな?

 昨日の会話から疑念を持っていたとしたら、意外にしたたかだな美羽。

 そういう所は嫌いじゃねえが……猫被るのは仕舞いだ。

 外向けモードは解除して本音で行くか。

 

「あ"ーそうだよ。確かにオレはこいつを潰すところだが、理由がちゃんとある。

 ラグナレクはオレ達を屈服させるまで、何度でも襲ってくる。それは美羽ちゃん達が一番よくわかっているはずだ。こいつらはこのまま放っておけない」

 

 ここでオレはあえて、実兄(雲水)まで的に掛けられるところだったという情報を伏せる。

 そこまで言っちまったら、ぐうの音も出ない論破になっちまうからな。

 完璧な正論つーのは、ホイホイ使えばいいってもんじゃねえ。

 

「ふーむ……あんたの目的は自分の手で直接危険なラグナレクを壊滅、または脅威性を知らしめてTOPを引きずり出し、手を引かせるってとこか?

 指揮官クラスの駒を復活できないように削る理由として、筋は通っているな」

 

 聞いてもねえのに、宇宙人が訳知り顔で勝手に割って入ってきやがった。

 だが言ってることは当たってる……こいつ察し良いな。

 美羽もなかなかオレを咎められねえでいるが、完璧に納得まではしてないようだ。

 

「……事情はわかりましたが、やはり見過ごすわけにはいきません。

 そのモジャモジャさんが、また襲ってくるとは確定していませんから。

 その代わりと言ってはなんですが、昨日の問いに……"気の発動"についてこの場でお答えいたします」

 

 とっさに反論とオレを納得させる餌を用意したか、やるねえ美羽。でもな……

 

「ああ、それならいいよ。もう()()したから」

 

 怪訝な表情を浮かべる美羽達の前で、戦闘直後で逸っている心を鎮め研ぎ澄ませる。

 オレはもう、己に宿っている"気"を自覚できている。

 確信を得た上で、改めて美羽を直に見たことでな。

 感覚は血液に近くて――常温なのはちと意外だな。あとは練るだけだ。

 ――前に読んだマンガでやっていた、オーラの修行を参考にしてみるか。

 両手を胸の前へ、無重力のボールを浮かべるイメージで、不可視のボールとオレの気とリンク。

 全身に纏わせ、循環するように緩やかにめぐっている想像……。

 これ、イケてるか? 美羽は目を見開きながら、オレの全身を凝視していた。

 

「……微弱ではありますが、"気の発動"に成功したのですか!?」

 

「ええっ、そんなに簡単に学べるものなんですか?」

 

「いえ……たった1日で修得というのは私も聞いたことがありませんわ」

 

 モブがめっちゃ驚いてる。

 こいつ、美羽に鍛えてもらってるらしいが、まだ気を教わってねえのか? 凡才過ぎて同情するぜ。

 まあいいや、それよりも肝心なのはここからだ。美羽の様子からして()()()()()()()()()()()()()だからな。

 現に今のオレの"気の発動"とやらはこけおどしに近い。

 なんせ気を練ってる間は集中力を保つために、一歩も動くことができねえからな。

 

「うう……どうなっちまったんだ?」

 

 ベラベラ喋っていた間に、地に伏していたモジャモジャが意識を取り戻す。

 取り巻きから状況を説明されると、ヤツを見下ろすオレと視線が交差した。

 オレに対する最初の一言が、お礼参りの示唆や脅しだったら有無を言わさず破壊してやろうと身構えるが――

 

「クソっ……完敗だ! もう()()()()()として手は出さねえよ。

 だが……一から鍛え直して、次は男同士の決闘を挑む! 白浜にもな!」

 

『はい、辻隊長!』

 

「んだそりゃ……おめー不良向いてねえよ」

 

 敗北を認め、取り巻き共と勝手に舞い上がるモジャモジャ。

 予想外の反応に毒気が抜かれ白けたオレに、美羽がクスクスと笑いかける。

 

「ふふ。ほら、止めておいて良かったでしょう?」

 

 初めてオレに対する警戒が僅かに解れた――そんな気がした。

 この美羽に出会って"気"を知ってから、まるでオレが住む世界が変わったみてえだ。

 おもしれー女。――この後美羽に招かれた場所で、オレは更なる衝撃を受けることになる。

 

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