演出上神が阿含を含め一部キャラを愛する様な演出はありますが
神様が特典を付与して阿含を転生させたわけではありません。
『谷本夏……さすがは拳豪鬼神殿の弟子ですな。技術もさることながら、何より思春期特有の精神的な弛みや隙、驕りが無い』
『こっちの娘っ子は良い足のバネをしておるわいのう。
しかしなかなか"えきせんとりっく"な言動と服装じゃが、動の気の制御に失敗しとるのかね?』
オンライン上の九拳達が、ラグナレクと連合の試合アーカイブに目を通しながら次々と所感を口にする。
時には自由気ままに、時には動画を停止しつつも。
闇の世界、その頂点に位置する存在でありながら、動画鑑賞を愉しむ学生達の様にも見える光景だ。
しかし各々が自身と武術への誇りを胸に、決して他のメンバーに気遅れしないオーラをモニター越しにも絶やさない。
そんなメンツに対し、緒方はプレゼンターとしての役割を全うする。
そして試合は終盤へ。
バーサーカとの死闘を制した阿含を、弟子クラスでありながらも特例で発言を許された翔が、小さく感嘆をもらす。
「いやはや、運動神経は中々だし技の品質は大したもんだよ。事前情報無しの初見で戦えば、確実に勝てるとはとても断言できない。それにおそらく、今この間にも更に有用な技をいくつか身につけていると見た」
「ではそれを踏まえどう対処する?」
師である本郷の問いに熟考し、答えを導き出す。
「直感だけど、未知の技でも効能や傾向の想像が多少付きます。開幕奇襲さえ対応すれば、あとは無の気相手だし地力で押し切れるかと」
概ね合格、の意味で本郷が無言を貫く。
「独自の気の運用を試みる彼は、実に興味深い素材です。この動画の時点で、武術を始めまだ二ヶ月という将来性も考慮して、是非とも闇に迎え入れたいと考えています」
後遺症を負ってしまったオーディーンの代わりとしては申し分無し。
緒方が面倒を見るなら良いのではないか、という温度感で他のメンツも同意する。
続いてはメインイベント。ケンイチとオーディーンの決着を見終えると――
『なんという歪で不完全な気の運用、バイオリズムだ。しかしその不均一さと荒々しさが、逆に彼の闘争を魅せる芸術に昇華している。これが梁山泊の弟子、白浜兼一……』
『なるほど。終盤に梁山泊の弟子の気が跳ね上がったのは、拳聖の弟子の身を案じ、早く戦いを終わらせるためか。我らと対極に位置する活人拳の思想とはいえ、加点に値するな』
「うーん、緒方先生の前で言いたかないけど、オーディーンが自爆して格下に負けたのは手痛い失点だね。終盤の白浜はまあまあかな。でも金剛とは違って開始直後が明確に隙だから、初弾で仕留めれば良い。仕留めそこねた場合は、奴の生命線である下半身を削ってから嬲ろうか」
満更でも無い九拳の評価。翔も負ける気こそさらさら無いが、酷評というレベルでもないようだ。
もしも動画という形で戦いが残らず、口伝で結果のみが伝えられていたのなら。
一影九拳とYOMI達は敗北したオーディーンを
所詮は九拳末席である緒方の弟子と、それに苦戦するレベル。
最強の弟子という称号の格としては、まだまだ物足りぬ。育ちきるまでは"見"に回ろう……と。
だが実際に戦いを目にした事により、皮肉にもケンイチは現時点で、供物としては悪くないという評価を得てしまう。
『代理の身ながら発言させていただく』
"月"のアイコンの男がふと疑問を投げかける。
『私は盲いているため、詳しいことは動画から読み取れなかった。皆の白浜兼一への評価は、終盤の尻上がりに強くなった状態なら及第点、と聞こえた。
スパルナの言う通り、開幕から全力で攻め立てれば我らの弟子は容易く、白浜兼一を倒せるだろう。だがそれでは"最強の弟子"の首級たり得るのだろうか』
誰ともなくふむ、と相槌を打つ。
ケンイチの真なる力を引き出すには、まずはギアが上がるまで、待たなければならない。
しかし上がる保証も無ければ、上がったと判断できる数値的な基準も無い。
案外面倒な条件になってきたのではないか。
『……見たところ梁山泊の弟子は、他者を守る時、傷つけられた時に最大の力を発揮する。ならばその条件を満たせば良い』
"水"のアイコンの女性が皆へ解を導くと、翔が割って入るべく小さく挙手する。
「ちょっといいですか櫛灘先生。要望とあらば白浜の一匹や二匹、踏み潰してみせますとも。
しかし、奴を怒らせる為。例えば白浜の家族とか、無関係の一般人を手に掛けるのはさすがに気が進みません」
『ならば簡単なこと。武人の中から白浜兼一の"急所"を見つけ出し抉りて、そして極限の怒りに達したところで仕留める……。これでどうじゃ』
樹上の果物を取りたいのなら、ハシゴを使って取れば良い。
櫛灘と呼ばれた女はその程度の感覚で物騒な提言をする。
清水の様に、どこまでも透明に澄んだ神聖なオーラを纏う声色が、逆に不気味さを増幅させていた。
「私は今、弟子のオーディーンを動かせません。簡単とおっしゃる櫛灘殿が先陣を切りますか?」
『いいや。調査によれば
つまり我が弟子相手には飛車角落ち。それで勝ってものう……』
『なにぃ、それでは我が弟子カストルもダメではないか! 価値観をアップデートするんだ白浜兼一! 今は女性が総理大臣をだな……』
「鋼拳殿、手短にお願いします」
『調べによれば、こやつは武術家である梁山泊の孫娘を慕っておるとか』
わちゃわちゃと弛みかけた空気は、その一言で即座に絞まる。
"王"のアイコン。仮面を纏いし老人と思わしき男が言葉を発す度、不動,無敵を貫く九拳達のオーラが僅かに揺れる気がした。
『ならばその孫娘を狙えば一石二鳥だわいのう。我が献策、いかがかな"一影殿"?」
わざとらしく話を振られた一影に、皆の意識が集中する。
しばし沈黙の後、男がそれに応じた。
『……武人として最低限の立ち振る舞いさえ守れば、手段は問わぬ。ただし内輪揉めを避ける為、立候補した者は全員参加とし意思統一を計れ』
『カカッ。言われずとも梁山泊の弟子を穫る際は、武人以外は手に掛けず、一対一を貫いてやるわいの。他に乗る者は?』
『我が弟子、
『私も会議に一石を投じた身として、必要とあらば弟子を送ろう』
"氷"と"月"が参画を表明すると――
「降りさせてもらう。弟子クラスを人質にする企みなど、あんたらで勝手にやってくれ」
『今回ばかりは人越拳に同感だ。こんな方法は私の趣味に合わない』
『船頭多くしてなんとやら、ですな。あまり寄せ集め過ぎても混乱をきたすかと』
本郷と"炎"、"無"が辞したことで総意が取れた。
白浜兼一を――梁山泊を討つための謀略が、闇で鳴動を始める。
***
「久しぶりだな……阿含」
ちょっと見ない内に
半年ぶりに戻った実家は、記憶よりも大分ちっぽけだった。
平凡な収入のサラリーマンと、平凡な器量の主婦。あんたらにお似合いのウサギ小屋だ。
「で、用件は?」
一応はリビングのテーブルに腰下ろしてやるけどよ。
一言目がゴミだったらわかってんな?
「ゴメン。雲水、阿含。俺達が間違ってた」
罰を受ける前のガキみてえなツラした父親がオレと雲水に頭を下げる。
「何がどう間違ってたって?」
「あ、……阿含が奨学推薦を受けた時、露骨に阿含だけを優遇して雲水に辛い思いをさせてしまった。いや、それ以前から俺達は二人を差別していた。親失格……だ」
へえー、反省できる程度の知能はあったんだ。
あんたらに言われてオレもフラッシュバックしたよ。オレを見る雲水のあの目をな。
「阿含……あなたが特待を断って荒涼に行ったのは、雲水に気を使ったからなの?」
あ、思い出してきた。オレと取り違えられた雲水が、まともに謝罪もされず追い返されたんだった。
連中のとこ乗り込んで、首根っこ引っ掴んで水ぶっかけたんだっけ。
んで家まで来て取り違えたこと謝罪に来い、って言ったら推薦取り消されたわ。
「あ"ー? 奴らが信用できなかっただけだよ。双子取り違えるとか、肝心なとこで手抜くクズはいつかやらすからな」
「そうか……俺達のことは今後も許さなくて良い。だが、雲水がもしも阿含に対してマイナスの感情や言葉をぶつけていたとしたら、それは流してくれないか。
全ては阿含の才能に焼かれてしまった俺達の……周りの大人のせいなんだ」
うんそうだね。オレが家出てってやっと気づけたか。
「父さん、母さん、オレはもう気にしてない。オレの心が弱かったせいで、阿含に呪縛をかけてしまった……悔やんでも悔やみきれない」
「雲水とは何度も話して、謝って……今こうして昔みたいに暮らせているわ。荒涼高校の生徒さんが、思いの外雲水に良くしてくれるのもあるけれど。今すぐでなくてもいいけど、阿含もまた
雲水、てめーがそんな顔すんなって。うぜえ空気。
昼に主婦が観てそうなメロドラマをオレ達でやれってか?
ククッ、と笑い飛ばしたら母親が露骨にビクッとする。
これだとオレがいじめてるみたいじゃねえか。
「あのな、あんたらには最初から期待してねえ。
元々の評価が低くて、これ以上下がりようがねえから許すもクソもねえんだよ。だから本当に気にすんな。それより書類は?」
今日来た一番の目的。こいつを受け取るために話だけは聞いてやった。もう十分だろ。
何かを言いたそうなツラで母親が差し出したファイルを取り出し、中を改める。
未成年の住所変更同意書、住民票のコピー、よし足りてんな。
「じゃあな。
荷物を纏めて、背後からの未練がましい声に耳を貸さず、早々に立ち去る。
雲水だけにゃLINE教えてるし、まあ何かあったら連絡してくんだろ。
"闇"がどう動くかわからねえ。気休めに過ぎねえが、これで連中がオレ目的で雲水を付け狙う可能性は減るはず。
もしも連中との戦いでしくじっても、無頼の男がただ一人、ひっそりと消えるだけだ。
ん――美羽からDMか。明日、両親の墓参りねえ……。
あのセリフ言ったのってラフマンさんですよね・・・