100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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22話 あいつこそが武術の王子様

 美羽と祖父さんに連れられ、辺鄙(へんぴ)な寺まで風林寺家の墓参りにやってきた。

 空気読んで拝んでるフリしてたら、美羽が隣で泣いてる。

 情緒もろすぎね。美羽の親が亡くなったのって、物心が付く前じゃなかったか?

 墓石にゃ――父親らしき名前がねえ。隣のケンイチも多分いっちょ前に勘付いてやがった。

 祖父さんから先に帰るように促されると、美羽が気丈に振る舞おうと表情を造る。

 

「お二人とも、わざわざこんな山奥まで着いてきてくれて、ありがとうございます」

 

「いえ、いいんですよ美羽さん。それにしても意外だなー。阿含君がお墓参りって、イメージつかないや。神様とか霊魂信じてるの?」

 

「いや全然? 墓参りとかしたことねえし、死人なんざどうでもいい」

 

 "残された側が心を整理して、悲しみを乗り越えるため――"とかあの辺の理屈も一々ナンセンスで寒いしな。

 

「……つっても、眼の前に居ない存在を考えたり、思いやる行為は獣の世界にはねえ。

 人として後天的にそういう能力を培う目的なら、墓参りもアリなんじゃねえの」

 

 オレには関係無いけどなって、付け加えたらケンイチが「素直じゃないなあ」とかホザいた。

 何となくケツ蹴っ飛ばしたら、それを見てた美羽から取り繕ったものが剥がれたように、笑みが溢れた。

 

「ケンイチさんが一緒にいると……辛い時でも何故か気持ちが楽になりますの。

 阿含さんの場合は、イタズラばかりする従兄弟を見張ろうみたいな感覚で、元気が出てくるというか……」

 

 だってよ、良かったねケンちゃん。

 その後3人で植物園周るとかありえねえ提案されたから、さすがに空気読んで園内で早々に単独行動(ナンパ)へ切り替えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あれっ、阿含くん! 美羽さん見なかった?」

 

 とりまLINE1件ゲットしたら、入口付近でケンイチがキョドってやがった。

 美羽とはぐれ、スマホもアプデ入っちまって呼び出せねえとのこと。

 しゃあねえ。オレが呼んで――

 

「あっ美羽さん!」

 

「ケンイチさん!? 阿含さんも!」

 

 鉄柵の外からオレ達を呼ぶ声。

 素肌にジャケットとかいう、アホな格好した青髪の奴にしがみつき、美羽がバイクに跨ってた。

 あいつ、身体付きがハンパねえ……まるでバーサーカーみてえだ。どっかの武術組織の奴か?

 美羽もメット越しに浮かねえ顔してやがる。

 誘拐じゃなさそうだが……脅迫、いや交渉か取引――

 

「待てぃこの誘拐犯!」

 

 オレが一瞬思考を巡らせてる間に、ケンイチが柵を飛び越えバイクを追いかける。

 チッ……この単細胞が。オレがぼーっとして出遅れたみたいじゃねえか。

 

 

 

「あーっ! オレのバイクがあー!」

 

「黙れ誘拐犯! 美羽さんを返せぽんぽこぴー!」

 

 住宅地をショートカットしたケンイチがバイクに飛びかかり、青髪を食い止めた。

 美羽と同じ、舞うような動きで奴も同時に着地する。体術も一級品かよ。

 

「いい加減にしないと……怒るよマジで!」

 

「っ!?」

 

 疾え。オレでなきゃ見逃しちゃうね。っと、この言い回しは不吉だからやめとくか。

 牽制の右ジャブ、ケンイチは認識すら出来てねえ。

 青髪が当てる気なら、顔面潰されてたな。これほどの差が――

 

「お前がどけえっ!」

 

 あ"ー? 実力差が理解できてねえのかこいつ(ケンイチ)!?

 カバーを……いや今は際どい。青髪の殺気が膨張するこの一点、ここだ。

 奴が突きを繰り出すタイミングを見極め、手刀で弾いて軌道を逸らす。

 同時に横っ飛びでケンイチを庇い退避したが、皮一枚だったな。

 

「阿含君……!?」

 

「相手を見てケンカを売れカス!」

 

 キョドるケンイチを足蹴にする。

 俺がいなかったら、潰されてたのがわかんねえのか。

 オーディーンとスパークに勝った功績、ほぼチャラにしやがって。このモブカスが。

 

「チッ……金剛阿含じゃん。よくオレの突きに反応したな」

 

 その後颯爽と現れた王子サマ(ハーミット)の機転で青髪――叶翔とかいう闇の武術家は、ケンイチへの追撃を諦める。

 ケンイチも必死に説得し、美羽もようやく叶の誘いを拒否った。

 まあ、このタイミングで闇の拠点に行くのは悪手どころか利敵行為だわな。

 にしても"闇"ねえ。オレの名前は知れわたってるようだな。

 美羽が着いていこうとしたのは、人物または物。あるいは情報を検めるためってとこか――

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦闘が中断したことで、阿含は臨戦態勢を解除し弛んでいた。

 状況の推察に気を取られる余り、最大の不覚を招く。

 

「今日はしかたない……じゃ」

 

 唐突に翔が美羽の頬に口づけを。

 ケンイチ、そして阿含が同時に凍り付く。

 

 

「……あ"?」

 

 

 金剛阿含は、女を性欲の対象としかみなしていない。

 だが能力を活かし結果を出す者には、一定の敬意を払う一面もあった。

 美羽はその極地。身体能力、才能、そしてたとえ反社の男達だろうが、退かずに身一つで戦う精神性――唯一対等と認めた相手である。

 だから手は出さずにいたのに――叶翔は容易くその一線を乗り越えた。

 ケンイチが血涙を流しながら、ハーミットを振りほどこうとしている横で、静かに阿含が動く。

 

「おい路上でナンパしてんなホスト野郎。迷惑防止条例違反でしょっぴくぞカス」

 

 美羽の背後から凄む阿含に、皆の意識が集中する。

 

「待て金剛……お前でも叶翔は!」

 

 珍しく顔色を変えるハーミット。その忠告は正しい。

 叶翔が他のYOMIと同じ程度の存在なら、阿含も即座にその狼藉を喝破していたはず。

 だが相手は、戦闘に特化した遺伝子を現代まで残し続けた暗鶚(くれみさご)一族。

 その最高傑作は、武の才能という一点において阿含をも凌駕する。

 だからこそ、有無を言わさず襲いかかりたい気持ちを抑え、冷静に戦況分析に努めていた。

 

「うう……阿含君……何を!?」

 

 地を這うケンイチ。その姿を一瞥し、阿含は確信する。

 ケンイチは過去二度に渡りマスタークラスと戦い、運良く生き延びた。

 そして今日も、勝ち目のない相手に勝負を仕掛け殺されかける始末。

 その判断力の無さに失望しかけた阿含であったが、本質はそうではなかった。

 信念やプライドに身を任せ、無謀にも格上に挑む。

 それは罪悪感の無い、甘美なドラッグのようなもの。

 ほんの一度という気持ちで生き残ってしまえば依存性になり、いつか運が尽きるその日まで、二度三度と繰り返すだろう。

 だからこそ、最初の一回を堪える精神力が肝心なのだ。

 つまり阿含が動く時は――

 

「おいおいせっかく見逃してやるってのに、空気読めっつーの。梁山泊関係者はともかく、お前に接触禁止令は出てないんだよ」

 

「だったらゴチャゴチャ言わねえで、さっさと逃げろって。闇ってのは口喧嘩養成所か何かか?」

 

 天賦の頭脳が導き出した、何かしらの勝算があるということだろう。

 ()()()を察した翔がクク……と低く笑う。

 

「わかりやすくお膳立てしてくれるねぇ。美羽、危ないから下がってるんだ」

 

「はぁ? 天下の公道でおっぱじめる気か? 一般常識も教えてくれない反社野郎の師匠に代わって調教してやるから、来な」

 

「オレはまだしも先生の悪口まで……素人相手に勝ち続けた程度で、君命知らずだね」

 

「一丁前に殺気飛ばしてんな。こっちはてめえの看板に偽り無しか、ちょいと味見してやるだけだ。すぐ終わらせてやるって」

 

「ああっ、阿含さん!?」

 

 舌戦もそこそこに場所を移すべく、静止する美羽へ構うこと無く両者が駆ける。

 追跡の最中に見つけた、人気のない空き地に両者辿り着いたところで――

 

「気の運用 第二階層 "Utoposへの接続"

 

 修行を経て発動時間という欠点を克服した阿含が、瞬時に気を身体へと癒着させると、翔が鼻を鳴らし身構える。

 

Utopos(ウートポス)ねえ。この世に存在し得ない理想郷をお前が見つけたってか?」

 

「まーな。入場料は身体で払え。……"風の拳"

 

 おもむろに阿含が腕を横薙ぎに振るう。前方の空間がうねり一瞬翔の目が見開かれるが――

 

「ふふ……空気を飛ばすなど今のオレにも出来ない。だが玩具止まりだ」

 

 覚醒状態のバーサーカーすら食らった初弾をあっさり片手で払われても、阿含は気にも留めず次の手に移行する。

 叶翔は、ネットにアップロードされた阿含の戦いをチェックしているはず。

 つまりこれまでの全ての技は、旧兵器ということだ。

 

"瞬歩"

 

 高速のバック走で後ろに飛び退き、そのまま背後のビル壁と堤の間を交互に蹴る。

 パルクールの達人が如く駆け上っていくが――

 

「気を足に纏わせたか……器用だが、それくらいオレも素で出来る」

 

 悠々とその後を翔が追跡する。しかしそれも、

 

「FPSだったらカモだぜお前」

 

 先に登頂していた阿含の誘いであった。

 肩がけカバンから取り出したエアガンの引き金を、翔目掛け躊躇無く引く。

 

「っとと! まさかここで銃かよ!」

 

 虚を突かれさすがの翔も少し驚いた。

 が、アトラクションを楽しむ程度の感覚で、とっさに身体を大きくひねる。

 神速のインパルスに見劣りしない反射神経も活かし、逃げ場のないはずの空中で悠々と弾を躱す。

 

(おいおいこれも避けるか……いくらなんでも今勝つ気はねえ。だが一発は入れる)

 

 阿含が登った先は、高台に建てられた公園のフリーコート脇。そこに放置されていた()()――

 

「……ラケットだと?」

 

 一振りのテニスラケットに手を掛け振りかぶると、黄緑色のテニスボールを勢いよく追跡中の翔目掛け、親の敵の様に叩き込む。

 

「ハッ! こんなものに頼るとはよっぽど必死に……」

 

 失笑しかけた翔であったが、阿含が何かボールに細工しているかもしれない、とすぐに気を引き締め直す。着地と同時、横っ飛びにボールを避けるが……。

 

 

「おふっ!?」

 

 

 臀部に走る不意の衝撃。

 ボールが逆回転にバウンドし、背後から翔へと見事に命中していた。

 

「出た! 阿含くんの"ツイスト・サーブ"だ! ……って、ボクは一体何を言ってるんだ?」

 

「だがラケットヘッドがああも傾いていては、バレバレだ。二度目は……はっ、口が勝手に!?」

 

「まあ、テニスお詳しいんですねケンイチさん、谷本さん」

 

 後から追いついたケンイチとハーミットが、何故かとっさに口から出た言葉に首をかしげた。

 その間にも恥辱を味わった翔が阿含を追おうとする。が、公園の方から近づいてくる野次馬の喧騒を聞き、即撤退に切り替えた。

 

「……チィ、パンピーに撮られてネットにでも上げられたら、マジで先生に殺される……!

 たかだか一泡吹かせるために、ここまでやるかよ。面白えじゃん金剛阿含。

 あと美羽……くれぐれも闇の襲撃には気をつけるんだ! お互い生きて必ずまた会おう!」

 

 ワープと見紛う速度で、名残惜しむ様子の叶翔が消え失せる。

 さすがの阿含も内心でわずかに一息つく。ほんの数十秒で、翔という武人のポテンシャルを突きつける攻防だった。

 

「くっ……くそっ!」

 

 ケンイチは己の不甲斐無さを噛み締め、膝をつき拳を握り締める。

 憧れであり、淡い気持ちを抱く女性(美羽)を汚された。

 武術家として今の翔に手も足も出ない事は、薄々気付いていた。

 終始口を挟む権利すら無い。なんという屈辱――

 

あいつ()のニヤケ面が消えておもろかっただろ。笑えって」

 

「ハハ……」

 

 だが阿含が悪事の共犯者の様に呟くと、少しだけ気が晴れた。

 悪夢の様な出来事を忘れるかのように、その後合流したほのかとピクニックを楽しむのであった。

 

 翔が美羽を守るべく、置土産で残した忠告。

 そのタイムリミットが迫るとも知らず――




ラグナレク編で阿含が百錬自得の極みを使ってワルキューレを脱がせて撃退するシーンを考えていたのですが速攻ボツにしました。
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