100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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25話 2/9

「来る1月21日、YOMI幹部級が3人動き、白浜兼一君と無敵超人の孫娘を狙う。これは闇の決定事項だよ」

 

 ラグナレクとの決戦に使われた廃校。

 その屋上でオレ(阿含)と肩を並べ、街の灯りを見下ろす白フードの男。

 はー、こんな寒い夜にオッサンと夜景デートとか……。

 相手が拳聖 緒方一神斎の呼び出しでなきゃ確実に拒否ってたわ。

 オーディーンのアカウントから連絡来たし、さすがに無視できねえわな。

 

「……で、闇の大物がどうしてゴシップ情報のタレコミなんて、パシリをしてくれるんすかね」

 

「おや、その前に情報の真偽は検めないのかい?」

 

 回答内容でオレを試そうとしてんのか? 暴君風か知略家風、どっちで返してやろうかね。

 いや、だりーから正直に行くか。

 

「そんなことよりアンタが何企んでるかの方が面白え。アンタとはほぼ初対面だし人となりも知らねえが……盛り上がってなきゃ面白くねえタイプ?」

 

 オレと視線を合わせた両の眼がガキの様に輝く。オッサンにモテるとかキチーって。

 

「ハハ……やはり私の目に狂いは無かった。内心オッサン扱いはちょっと傷つくから辞めてほしいものだが……」

 

 ホイホイ心を読むなっての。まあ最初から隠すつもりもねぇがな。

 

「っと、もったいぶってしまったね。理由は単純だよ」

 

 オッサンが人差し指を一本立てる。

 

「白浜君、金剛君共にこれからの武術界を活性化させる存在だと、私は思っている」

 

 二本目。

 

「作戦のリーダーにして一番槍のナガラジャは、一国の皇太子であり武人の誇りよりも、勝利を重んじる気質だ」

 

 三本目。

 

「おそらく君はその場に居合わせれば、戦いに介入するだろう。……ここまで言えば利口な君にはわかるはずさ」

 

 オレの性質と言動を先読みしたような上からの物言い。

 誘導されたキショさに、思わず手元の缶コーヒーを握りつぶしちまった。

 とりま思考を巡らせるか――

 

「……ケンイチが真っ当に勝とうとしても、ちゃぶ台返しされちまうってことね」

 

「ああ、師の拳魔邪神は1対1で死合うとは言っていたが、口約束レベルの話だ。

 仮に邪神が公約を守るつもりだったとて、ナガラジャに目の届かないところで好き勝手やられてはどうしようもないね」

 

 集団リンチでボコったとしても「忠誠心の高い部下が先走りました」とかなんとでも言い逃れできるもんな。

 

「横槍入れようにも、オーディーン級の駒2枚とその手下共が確実に干渉してくんな。さすがにきびぃか」

 

「意外だね。わざわざ身体張って助太刀なんかするかよ、って否定すると思ったけど」

 

 ガキじゃあるめえし、情報量で上行かれてる相手にんな無駄なやり取りしねえって。

 

「叶翔とカチ合った時のオレの動きも知ってんだろ。くだらねえ化かし合いは趣味じゃない」

 

「ふむ、プライドを持ちながらも合理的で会話IQも高い。YOMIの子達と話してる気分だ」

 

 オッサンが年甲斐も無くケラケラと朗らかに笑う。

 闇の最高幹部にゃとても見えねえが――時折香ってくる動の気の力強さは本物だ。そのギャップもやっぱキショい。

 

「おっと話を脱線させてしまった。単なる奇襲程度の策なら何も言うまい。

 だが今回はYOMIが一方的に有利過ぎる。これで白浜君と金剛君を失うのは惜しいと思ったんだよ」

 

 オッサンの言い分はわかった。メリデメも筋が通ってる。後は――

 

「で、見返りは?」

 

「ん?」

 

「アンタはリスク背負ってまで情報提供して、オレらはデカい()を得た。

 一方的な構図は気に入らねえ。欲しい対価があんなら聞かせてくれよ」

 

 白いフードの奥で、かすかに口元が釣り上がる。

 

「ハハ、本当に16歳とは思えない立ち回りだなあ。……なら率直に本題に入ろう。私と盟を組まないか?」

 

「……師弟関係、じゃねえんだな」

 

「最初はそう思っていたが、君とはギブ・アンド・テイクの方が良い気がしてね。

 君が最初に気を癒着させた時は、気の運用を横着したのかと思ったがそうじゃない。

 今までに無かった新たな気の概念を、自分の身体を使って一から構築しようとしているのだろう?」

 

 肯定の意思を示す無言を貫くと、それを察したオッサンが自然と饒舌になる。

 

「君に私の人間性が好かれていないのは承知しているが、武術的な相性は抜群だ。

 互いの研究を支え、知識を交換しよう。それに加えて君は九拳とのコネ、"闇"の情報も得られる。

 もちろん理念や動機に干渉する気はない。好条件でオファーしたつもりだよ」

 

「はぁ……アンタ営業マンでも食ってけんじゃね。それに気の運用の意図を、正しく指摘したのはアンタが初めてだよ。梁山泊の師匠達が気づいてたかは知らんけど」

 

 梁山泊と比較して評価されたことで、オッサンが少し目元を緩ませる。

 へぇーそこがアンタのツボか。

 

「信用してくれたのかい」

 

「いや全く。逆にオレがアンタの望む通りに成長する根拠も無いよな?

 オレはアンタの能力と地位を利用して、アンタはオレの将来に投資する。それでよくねえか」

 

 視線を合わさぬまま拳を突き出すと、しばらくしてオッサンの拳と思わしき物体が触れる。

 無骨で硬く――ひたすら鍛錬と洗練を繰り返し、研ぎ澄まされた逸品の様な感覚。

 こいつを手にするのにオレはあと何年かかるやらね……。

 

「そうだね、我々は仲良しでも無ければ師弟でもない。"武の究極、その深淵に立つ"――そのための"同志"だ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 拳聖 緒方一神斎の協力,調査もあり、YOMIの計画を事前に周知。

 先回りしてホテルに細工を施し、ジェイハンとその私設兵を纏めて無力化した。

 新島やハーミットとも連携し、その他の軍勢にも対応する。

 弟子クラスとしては、上々と評しても良い阿含の立ち回り。

 そんな尽力、万全の準備を一息で吹き飛ばし、嘲笑う程の圧倒的な力。

 緒方一神斎より、梁山泊の師匠より強大な、風林寺隼人にも匹敵するオーラに、闇人特有の凍て付き刺すような殺気。

 一影九拳・拳魔邪神 シルクァッド・ジュナザードが、阿含の鼻先まで迫る。

 

 

カカ――そう縮こまるな童よ。我は邪神なれど、1対5の戦いを切り抜けた者に連戦をけしかけるほど、鬼畜ではないわいのう

 

 

 自然災害にも等しい眼前の事象を前に、阿含はただ硬直することしかできない。

 かけられたその言葉は、死に怯える小動物を優しくなだめるかのようだった。

 

「おっと怖がらせぬような声色にしておくか。拳聖の小僧が褒めておった悪童……確かに面白そうな素材だわいのう。

 我の若い頃に少し似ておるやもしれぬ」

 

「アンタより……遥かに弱いオレが似てる……?」

 

 精一杯声色から恐怖を押し殺し、恐る恐る問う阿含。そんな心の中を見透かすよう、クツクツと煮えたぎるように一笑される。

 

「現時点の強さではない。人の到達点とされている"最高位の達人"と、それを超える"超人"。その間にある壁を壊そうと目論んでおるのだろう。

 弟子級でありながら軽々しい夢や妄想ではなく、現実的な算段を掲げその領域に挑む者は久しくおらなんだ。

 この種だらけの酸いブドウを、一代で糖の如く甘き大粒のマスカットへと改良する様な無謀よ」

 

 左手のブドウは、老人に一ふさ皮と種ごと頬張られ、丸呑みされる。

 

「心意気は買うわいの。我らは"人の限界を捨て去る"という共通の夢追い人になる」

 

 ヒタリ、と肩が触れる位置まで迫られ――

 

「お主が成り上がるまで、少なくとも我の軍勢は()()に回ってやろう。くれぐれも期待を裏切るでないぞ? 少しでも()()()とわかればその時は……のう」

 

 ポンと肩に手が添えられる。その手が、

 

「……さて、シラットに泥を塗った弟子の削除(デリート)とゆくか。巻き込まれたくなければ、早々に去ぬるが良い」

 

 阿含から離れる。神速のインパルスが触覚からそれを感知すると同時。

 

「~ッッ!」

 

 まさに脱兎。飼い主から()()を解禁された犬の様に、脇目も振らず阿含は全速力でホテルの外へと駆け出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 用意したスノーモービルに飛び乗ってから、正直ほとんど記憶はねえ。

 下山する途中、後ろからホテルに火の手が上がった気がしたが、確かめる余裕は残っちゃいなかった。

 振り返ったらあの仮面がすぐ背後に迫る気がして、とにかく離れることばっか考えてたな。

 

 YOMIの幹部を相手に大立ち回り、策でも武でも遅れを取らなかった――

 

 なんのことはねえ。達人が気まぐれ起こすだけで全部吹き飛んじまう、アリとダンゴムシの背比べでしか無かったってわけだ。

 あの後ホテルから奇跡的に逃げ延びた、配下のガキと麓で出くわした。

 ナガラジャはフルーツ仮面の制裁から配下達を生かすため、殿に残り続けて戻って来なかったそうだ。

 奴からブルって逃げ出すしか無かったオレとは大違いだな。

 

 現実を突きつけられたのはオレだけじゃねえ。

 ケンイチはボリスとかいうロシア野郎に、同じくオレと救援に向かったハーミットは、純龍とかいう中国野郎にそれぞれ追い詰められた。

 新島が捨て身で撹乱して美羽を救助しなきゃ――作戦失敗の合図で敵が撤退しなきゃ、ヤバかったそうだ。

 ……3人揃って、とんだ自惚れ野郎だな。

 

 際にナガラジャから言い残された言葉を、録音したガキのスマホから聴かされて、それが頭の片隅から焼き付いて離れねえ。

 

『生きるためなら、臣下を贄に差し出そう。忠誠を誓う護衛を捨て駒としよう。

 だが――詰みが確定した場面では、一人でも多くの民を救い、未来の子達のために命を繋げねばならん。

 最後は臣民の盾となる……何故なら余は――王だからのう』

 

 ……かっこよく勝ち逃げしてくれたな、王サマ。

 舐めてた。オレの才能に努力と時間を掛けりゃ、いつか届くと思ってた。

 そうじゃねえ、いつかじゃダメだ。

 奪いに行かなきゃ間に合わねえ。

 ケンイチに向けたセリフがブーメランで返ってくるとはな。

 

 

 

『……おや、君の方から連絡をくれるとはね』

 

「前置きは抜きだ。明日すぐ会わせてくれ、拳聖サマ(オッサン)

 

『それは嬉しいが――ふりがなからオッサンは取ってくれないかな』

 

 相変わらず人の心を読むなっての。

 だが今はそのキショさも頼り甲斐しか感じねえ。

 

 ……1日だ。オッサンと明日1日で、新しい気の運用の要件定義を纏めあげてやる。




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