8時間爆睡した後、早々に向かった巨大な円形闘技場。
昨日までの楽園とは完全に別物だった。
いや、これが本性なんだろうな。
客席を埋め尽くす富豪共の歓声と、品定めするような視線。
殺気を滲ませる武術家達の気迫。
孤島の中心点が、でけえ生き物のように脈打ってる。
いいね、このヒリついた空気。
欲望丸出しなのが逆に良い。中途半端に取り繕った雰囲気が一番しょうもねえからな。
ほどなくして、ケンイチ達が師匠達を引き連れて入場してきた。
「行こうみんな! もう心の戦いは始まっている!」
声を張り上げる
まあ無理もねえか。ラグナレクとの抗争がお遊戯に見えるぐれえ、流れてる空気そのものが違うからな。
にしても、ケンイチ君もまだまだだな。下っ端にケツ叩かれてるようじゃね。
全チーム揃ったことで、"DオブD"開会宣言が始まる。
ディエゴとフォルトナ(アバター姿)のオッサン達が、ルール説明やらなんやらしてたが、ほとんど耳に入らねえ。
それより、周囲の反応だ。
連合が入場した瞬間、好奇と悪意の感情が明らかに強まった。
昨夜乱入してきた、素人混じりの若造集団。
しかも梁山泊側と繋がりがある。
運営側からすりゃ、凄惨に潰させて、観客を盛り上げるのにもってこいだ。
お前らに期待されている"生贄"の役目――それを理解してないほど鈍くねえよなぁ、新島。
あとは――昨日パーティにいなかった、叶翔が美羽を物欲しそうにガン見してやがる。
絡んでこねえってことは、上から接見禁止の指示かなんか出されてんな。どんまい。
『これより1回戦が始まります! 実況は私、ディエゴ・カーロの自称筆頭付き人、ジェノサイダー松本が務めさせていただきます!』
ディエゴの隣に控えてた覆面野郎がヘッドセットを立ち上げ、センタースクリーンに映し出された対戦カードを指し示した。
『栄えある第一試合を飾るのは、昨夜DオブDに突如乱入した新白金連合!
そして……ブラジルの被支配層が生み出したとされる伝統格闘技、カポエイラチームです!』
ほらな……早速仕掛けて来たか。
不意打ち気味の選出にも新島は動じてねえ。
相手チームを
選ばれたのは、武田、元拳豪の3人――そして
んー? あ"ーそういうことね。
対するカポエイラチームは、早々にリング前に集まり"ジョーゴ"を踊る。
音楽に合わせリズムを刻む舞踊の様な動き。
遊んでいるようにすら見える。
だが、その実……隙はねえな。
他と比べて一枚どころか二枚,三枚落ちるメガネ君のエントリー。
それには思わず敵も釣られる。
「おいおい、ここは街のカラテ教室じゃないぞ兄ちゃん。降りて来た時の啖呵は褒めてやるから、お家帰んな」
シルビオとかいうカポエイラチームの一人が、薄っぺらい笑顔でシッシッと追いやろうとする。
ま、その反応はあながち間違ってはいねえか。
キザったらしい野郎だが、パッと見のスペックはザコじゃねえ。
武田達ともまともに戦りあえる奴からしたら、メガネ君は場違いな格下だしな。
「ケケ……だがチームリーダーの眼はそうは言ってないみたいだが?」
油断の"ゆ"の字も見せず、精悍な表情で構える中央の男を新島が指さす。
やっぱあいつが一番つええわな。
「アイシャ、なぜリーダーがわかったんだろうな?」
「しっ!」
シルビオが思わず横の女に話を振るが、すぐにシャットアウトされてた。
アイシャちゃんも悪くないねえ。
女性陣の顔面をヒソカみたいに採点しだしたら、何かが荒れそうな気がすっからやめとくけど。
「おやおや、シルビオ君はそこのアイシャが好きなのかな?」
「なっ……何をバカな!」
「落ち着けシルビオ。もうお前は奴の言葉に耳を貸すな」
新島の指摘に浮足立った所を、リーダーに釘を差されシルビオは赤っ恥かいて黙りこくる。
観客席から笑い声が飛んで来たところで、闘技場から重い機械音が唸り上がる。
フィールドセッティングが完了して、闘技場とリングサイドを繋ぐ渡し橋が自動設置された。手と金が込んでんなあ。
『さあ、何やらもう場外でエキサイティングしておりますが、いよいよ対戦を開始します! ルールは5対5のバトル・ロイヤル形式です。出場選手はリングインしてください! ……っと、いかがされましたが、ディエゴ様?』
松本を手で制しながら、ディエゴが立ち上がり新島達をマイクで指した。
『新白金連合の諸君、君達はこの笑う鋼拳とフォルトナ殿が無理矢理ねじ込んだ、いわば特別推薦。もしも1回戦負けでもして、あまつさえ大した怪我も負わずに逃げ延びて場を白けさせてみろ……その時はわかっているな?』
あえて皆まで言わず、そこでディエゴは言葉を区切り腰を下ろす。
一瞬の静寂から、発言の意図を理解した闘技場が湧き踊る。
下衆くて良いねえアンタら。
奴らが期待しているのは、身の程をわきまえぬ闖入者が無様に破れ、闘技場に血を捧げること。
その役割すらまともに務まらずしょっぱい負け方した日にゃあ……。
制裁のエキシビションマッチかなんかさせられんだろうなこりゃ。あーあ、オレ知らねえぞ。
……つっても、この戦いがどうなるか、もう結果は大体見えてるがな――
***
阿含の予想通り、勝負は
おおよその予想通り、最初に水沼が蹴りをまともに受け、吹き飛ばされる。
ギャラリーが歓声をあげる中、生じた数的差に慢心し、己の能力をアピールするシルビオ。
だがその時――
「オレとアイシャの関係をおちょくんじゃねえ!」
武田がアイシャのリーダーへの想いを示唆し煽り、激昂したシルビオが指揮系統を放棄し、単独先行する。
それが控え席で小さく笑う、新島の仕掛けとも知らず。
「うわああああっ!」
「なっ――!?」
リング際。突っ伏し気絶を装っていた水沼が、突如シルビオの脚へしがみつく。
そのまま二人まとめて、派手な水柱と共に場外の水槽へと落下していった。
「やるじゃなーい水沼! それじゃあボクも……"シーピング・スクリュー・ブロー"!」
武田の新たな拳が放たれた。阿含の"打震"を参考に編み出した螺旋浸透勁のブローに、チーム一の耐久自慢が一撃で崩れ落ちる。
「ワシも続くぞ! "波動鉄砲"!」
更にトールの巨大な両掌から放たれる、内部破壊と動の気をMIXした張り手が、チーム一を誇る相手の体幹を正面から破壊した。
観客達もようやく、眼の前の異変に気付くがもう遅い。
リング中央ではキサラが、チーム最速のアイシャを中距離の差し合いの末仕留め、そのままリーダーへと襲いかかる。
互いに一歩も譲らない高速蹴りの応酬の中、キサラが徐々に乱れていく。
獣状態と化したが、野性へ飲まれ始めていた彼女を――
「キサラ!」
後方で見守っていた、フレイヤの一喝が飛ぶ。
「お前は自分の道を行くと言っただろう! 全てを本能に丸投げする楽をするな!」
その瞬間。瞳から獣の濁りが消える。
「ニャア……」
「えっ?」
低く重心が沈み、次の瞬間いたはずの位置から消えた。
猫が気まぐれに獲物を弄ぶような、不規則でそれでいて研ぎ澄まされた挙動。
喧嘩と本能だけで生き残った野良猫の動き。新島命名、"ネコンドー"。
達人衆や阿含ですら、感心したように目を細める中、しなやかに潜り込みながら放たれた渾身の蹴りと、リーダーのカウンターが正面衝突する。
「ぐっ……ここまで成長して、やっと相打ちかよ……」
「……いや、お前はアイシャから受けたダメージがあった。ならばこの勝負……お前の勝ちだ」
轟音の直後、両者崩れ落ち――ダブルノックダウンを迎える。
「うわーっ、本当は僕は泳げないんだー!」
「バカヤローしがみつくな! こういう時は力抜いて仰向けになるんだよ!」
その後、リング脇の水面でギャグの様な応酬を交わす水沼とシルビオが救助され、完全決着となる。
結果、水沼とキサラの負傷という犠牲だけで、連合は見事一回戦を突破したのだった。
「私の独断でキサラの覚醒を促すため、あいつを酷使させた。今後に支障が出そうか?」
キサラと挟み撃ちして、リーダーを仕留めることも出来た。
が、あえてキサラを焚き付け単騎で戦わせたフレイヤが、新島に問う。
「いーや、オレはあの戦いの指揮権をお前に委ねたんだ。現場判断が第一な以上、何も文句はねえさ」
些事とばかりに笑い飛ばす新島のスマホが、離れた控え席から発信された阿含の呼び出しをキャッチする。
『よぉ……メガネ君の犠牲は計算?』
『あいつの意思を組んだ上で、最適なパフォーマンスを発揮出来るように使っただけさ』
水沼少年の言葉は隊員の闘志に火を付けた。だがそれは一時的なものに過ぎない。
格上にも臆さず戦い抜くことで、それは絶えず猛り燃え盛ることになる。
『そっかよ』
『どした? 凡才がイレギュラーな動きをしたのが気に障ったか?』
『あ"ー? 実力が足りてねえのは課題だが、怖じ気付いて
一方的に通話は切られる。
直後送りつけられた、両面宿儺が上から目線で称賛するスタンプを見た新島は予兆する。
以前ならば、水沼の玉砕を鼻で笑っただろう。
いやそもそも、水沼の存在自体を歯牙にも掛けなかったはず。
ここ数ヶ月で阿含の精神に確実な変化が起きている。それが何を示唆するか。
今まで阿含が披露した気の運用の急成長ですら、ただの先触。
ただのデモンストレーションに過ぎないような、爆発的な進化を遂げようとしているのではないか。
ちょうど同じ気配をケンイチにも感じ取っていた。
もしもこの2人がシンクロするかの様に、大会中に覚醒したら。
独り誰にも悟られぬよう生唾を飲み込む新島の耳に、先程までと一変した周囲のリアクションが届く。
『ハーッハッハ! 見直したぞ新白金連合!』
ディエゴが満面の笑みで立ち上がる。
『笑いあり! 戦術あり! 成長あり! そして何より――魅せ方を理解している! 次もこのコロシアムを沸かせてみろ!』
『なかなか素養ある若人達ではないか……ワシも少々気に入ったわい!』
ディエゴとフォルトナの称賛に呼応し、つい先程まで、"生贄"扱いしていた観客も喝采を送る。
現金な掌返しと一蹴すればそれまでだ。
しかし、実力を純粋に認めた柔軟な対応とも言える反応を前に、連合のDオブDに対する嫌悪感は少し薄らいだ。
***
多くの予想を裏切った第一試合の余韻冷めぬ中、第二試合は更なる波乱を巻き起こす。
なんと51歳にもなるキックの達人、
「無敵超人の首級なら優勝の100倍価値があるぜ! 死ね……超時空飛びヒザ蹴り!」
異次元の飛びヒザ蹴りが、跳躍した五郎兵衛から対戦相手に放たれる。
本来ならば、出場選手を纏めて全抜きする程の大技。だが――
「違う! 100万倍じゃ!」
相手が"我流X"、もとい無敵超人 風林寺隼人では、飛び方,対峙相手,セリフ全てがただの美しい死亡フラグと化しあえなく一蹴、いや一デコピンされてしまう。
会場全体から興奮と無敵超人への畏怖、意識が集中する中、ただ二人だけ異なる反応を見せた者達がいた。
一人は、風林寺隼人からDオブDの優勝報酬として、美羽との交際許可を提示されていたケンイチ。
直前のウキウキ気分を忘れ、我流Xのやっつけコスプレを解除した隼人にガンを飛ばす。そして、
「ククク……」
デコピン一発で達人級を排除した規格外の怪物、風林寺隼人――ではなく、ディエゴの横で目を回している、今まさに生き恥を晒した年齢サバ読み男。
五郎兵衛を注視する阿含の眼が、玩具を見つけた悪童の様に煌々と光っていた。
1~2回戦でのカットした方が良い戦いとしっかり書いた方が良い戦いの見極めに模索してました。