100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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すみません凡ミス1箇所あって修正しました
阿含が丸1日汗かきっぱなしになってました


3話 たった一つの異物は作品をあるべき姿から遠ざける

「ふむ……これは紛れもなく"気の発動"ね」

 

「まだまだ鼻息で吹き飛ばせるくらいに弱っちい気だな。

 だが美羽から教えてもらえなくて、やむを得ず独学で気を調べるたぁ面白えボウズだ」

 

 あらゆる中国拳法の達人、馬剣星

 ケンカ100段、逆鬼至緒

 

 2人合わされば大国の軍をも退けるであろう、高位の達人。

 練り上げた気を感心した様子で評するケンイチの師匠達に、阿含は外向け用の笑顔で応える。

 

「でも今日は美羽ちゃんも教えてくれるって言ってくれたので、お邪魔しに来ましたよ。

 好きな男にイタズラしちゃうタイプなんですかね、あはは」

 

「まっ、そんなんじゃありませんことよ!」

 

「ぐぬぬ……僕だって美羽さんに"ちゃん"付けできないのに……」

 

 阿含が辻を破壊せず見逃したことで、美羽とケンイチは彼を梁山泊へと招き入れていた。

 といっても阿含は、更なる"気"の知見を得るため応じただけで、武術道場自体に興味は無かったのだが――

 

「今の阿含くんが練っているのはプレーン状態の純粋な気ね。

 美羽の様に修行を重ねることで「動の気」と「静の気」どちらかに分岐進化するね」

 

「静か動の気を完全に制御し、強大な出力で身体に展開し続けるのが次のステージ、"気の開放"だ。

 こいつは修得難易度はさほど高くないが、気の発動以上に本人の基礎力が問われるぜ」

 

 "授けた知識を無秩序な暴力に悪用してはいけない"

 その条件のもと、師匠達が阿含へと気の知識を、次々と伝えていく。

 軒先で巻藁を突きながら又聞きしていたケンイチは、ふと疑問を浮かべ首をひねる。

 

「んん~? 静と動のタイプにどちらが上とか強いとかは無いんですよね?

 けど動の気だけは、修得の際に精神のリミッターが壊れるリスクが存在する。

 なら、静と動の両方に適性のある人間はそのリスクを考えたら、修得先は静の気一択ってことになりませんか?」

 

「ふむ、動の気には修得リスクに合った、静の気以上の()()()が無いのか? ということかね。

 確かに静の気とは一長一短であり、総合的に動の気の方が強いということは無いね。もしそうなら、皆動の気を選ぶはずだからね」

 

 師弟同士で繰り広げられるやりとりの横で阿含は師匠達に礼を言うと、立ち上がり帰り支度を始める。

 去り際、初めてケンイチと阿含の視線がまともに交わる。

 

「少なくともお前にはメリットがあるかもな」

 

 あ、師匠達の前では猫被ってちゃんと話してくれるんだ、と呟くケンイチへ、言葉を続ける。

 

「お前、スロースターターだろ。凡……普通の人間は、いざケンカが始まったからって、すぐに人をボコる"戦闘モード"に移行できねえからな」

 

 これはケンイチが遅いというよりかは、達人や美羽、阿含、闇の武術家が浮世離れしているといった方がいい。

 誰しもがすぐに心のストッパーを外せるようになれば、些細なことで抗争が止まらなくなり、世の治安は悪化してしまうだろう。

 

「そこで動の気とやらを学んで、心のリミッターを自在に外せるようになってみ。

 お前でも、必要な時に躊躇なく敵を叩きのめせるようになれるかもな」

 

 ケンイチの反応を待たずして阿含は梁山泊を去った。

 完全に気配が消えたところで、残った者達の話題が彼に移る。

 

「理屈は間違っていないけど、なかなか穏やかではない考え方ね」

 

「まあケンイチの弱点を強化できるっていうのは合ってるかもしれないぜ」

 

「しかし、阿含さんにあそこまで気の知識を教えてよかったんですの?

 悪用しないという条件も、所詮口約束でしょう?」

 

 美羽の懸念にどこ吹く風といった表情で、逆鬼が酒をあおりながらカラカラと笑う。

 

「心配ねえよ。あのボウズは内心で俺達との格付けしてたようだしな。あの感じじゃ、背中にちょっと汗もかいてたぜ」

 

「あの子は賢く洞察力が高い。ひと目見ただけで、おいちゃん達との力量差を理解したね。

 おいちゃん達との約束を反故にして敵に回すことは損だと判断していたはずよ。

 汗だけでなく、呼吸も少し荒くなっていたね」

 

「アパパ、さっきちょっと眼が合った金髪の目つきが悪い子、心臓がバクバクしてたよ!

 まるでアパチャイと試合する前の人達みたいだったよ!」

 

 裏ムエタイ界の死神、アパチャイ・ホパチャイ

 

 いつの間にか遠くで様子を見ていたアパチャイがやってきて会話に混ざる。

 師匠達の人間離れした感知能力により、心中を丸裸にされてしまった。

 そんな阿含に対し、ケンイチは僅かに同情を覚えるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「オーディーン様! 金剛阿含を連れてきました!」

 

 阿含(オレ)を連れてきた下っ端の、緊張を孕んだ声が木霊する。

 人の寄り付かぬ廃墟、その奥地。

 四方を廃ビルに囲まれただだっ広い空地で、ラグナレクの本隊がオレを待ち構えていた。

 

 今はネット全盛時代。ラグナレクも情報処理班を使いオンライン上で、配信サイト、SNS問わず幅広く活動している。

 オレは事前にDiscordの非公開サーバーに乗り込み、今日のアポを取付けていた。

 廃材の上に座している8人……あいつらが"八拳豪"か。

 確かに周囲の雑魚とはレベルが違うな。それに何人かは"気の発動"を修めてやがるだろう。

 

「ちょうど本隊会議と新幹部の選別作業が終わったところだ。

 君が分隊長の古賀と下級幹部の辻を一蹴した金剛阿含か。さっそく用件を聞こう」

 

 中央の一番高い位置に構えている白スーツのメガネ――この猿山のボスか。多少は雰囲気あるじゃねえか。

 白スーツに対し、オレは条件を簡潔に提示する。

 ラグナレクとの戦闘の経緯、敵対意思は無いから2度と関与するな、という内容だ。

 これだけ譲歩してやるとは、オレ様も甘っちょろくなったもんだね。

 

「ふむ、君を連れてくる際に無礼と不手際があったことは認めよう。君の要求も合理的ではある。

 だが、交渉とは同等の力を持った者同士が行うものだ。

 ならばこれは交渉ではなく、選択権とアドバンテージを持つ我々が話を進めるべきだと思わないか?」

 

 気取った様子で静聴していた白スーツがパチン、と指を鳴らす。

 気付けばオレを囲う兵隊共の戦意と目の色が変わる。背後で見えちゃいないが、おそらく退路も絶たれただろうな。

 お前らがそう来るなら、オレの回答はこうだ。

 

「確かにその理屈だと交渉は成立しねえか。戦力としてはオレ一人でもお前ら全員より上だからな」

 

 ワンテンポ遅れて、オレの挑発を理解した兵隊達から挑発と怒号が飛び始める。

 予想通りの展開だ。

 雑魚共の何人かがオレに近寄ろうとした気配を察知。頃合いだな。

 オレは肩がけのカバンの中から()()を取り出し――

 

『ッッ……!』

 

 その場の流れと空気を一変させる。

 中学の時にオレがつるんでた、"ヒルマ"っつー悪魔みてえな奴が好んでいた手口だ。

 人類が人類たらしめる発明と道具の極北――"銃"を前にして、ニンゲンはむき出しの本性を晒すしかねえ。

 だがオレがヒルマと違う点は、単なる脅しの道具じゃ終わらせねえところだ。

 

 廃墟に木霊する、炸裂音三閃。

 オレが躊躇なく、左脇にいたザコの足を打ちぬいた銃声だった。

 

「ギャア! いてえよー! おかーさーん!」

 

 海外製エアガンの連射――ザコが情けねえ悲鳴を上げ、地面に転がりまわる。

 くっ……セリフが一々三下過ぎて、シリアスにしなきゃいけねえとこでツボっちまう。

 まだ笑うな、こらえるんだ……。

 

「……改造したエアガンか何かか? ありゃ当たったら痛いねえ」

 

 網メガネの拳豪(声がまんまひろしやん)が他人事の様に呟くと、白スーツがやれやれとかぶりをふる。

 

「"交渉"に来たのでは無かったかな? 君は不良向けの武器商人か何かかい」

 

「今撃ったこいつは"ぶっ殺す"とオレにヤジで宣戦布告してたが? それにこれが"交渉"ではないって言い出したのはお前だろ。

 銃は下っ端にこさえさせたようなもんだ」

 

 これはもちろんテキトー。

 雑兵共のヤジの内容なんざ憶えてないし、オレに手下なんていない。

 だがその真偽を確かめる術が無い以上、白スーツもそれを頭の隅に置いた上で話を進めるしか無い。

 

「なるほど、武力だけでなく兵法と虚実も君は立つようだな。

 この場で全員で襲いかかれば君を倒せるだろうが、こちらも多大な犠牲が出る上、控えている戦力も未知数だ。さてどうしたものか」

 

「少しは状況が読めてきたじゃねえか。ようやくここから"交渉"が始まるってわけだ。

 雑魚共含めた全員の相手はダルいんで御免被るが、八拳豪とのタイマンってんなら逃げも隠れもしねえ」

 

「ほう、それはどういった心境の変化だい?」

 

「お前たちは一人一人が強さへの自信と、一騎打ちなら負けない自負を持ってるんだろ?

 オレはそういう奴らを正面からプチッと叩き潰して、才能の違いを教えてやるのが好きなんだよ。

 万が一にもオレが負けたら、仲間になってやってもいいぜ。まずあり得ない話だがな」

 

 オレに対し呆れる者、無表情の者、不敵に笑う者、拳豪共はバラバラの反応だ。

 だがほとんどの奴らのプライドに火が着いたのは間違いないだろう。

 連中の意見を総括するかのように、白スーツが柏手を打つ。

 

「いいだろう、私は敵とはいえ強く誇り高い者は好きだ。この場での戦いはフェアではないから、今日の所は帰りたまえ。

 決闘の段取りは情報処理隊に追って通達させよう」

 

 宣言通り、その場を後にするオレに奴らは手出ししてこなかった。

 

 ラグナレク……か。確かに捕食者を気取るだけの戦力はある。

 特に首魁の白スーツは別格。パッと見本気のオレでも手を焼きそうだ。

 

 あ"ー別に焦ったとかホッとしたとかはねえよ。

 梁山泊にいたちっこいオッサンと傷のオッサン――あの化け物共を、さっき見たばかりだったからな。

 身体スペックも、気の質量も文字通りケタ違いだ。

 その上オレの一挙手一投足、体内情報まで精密医療機械の様に見抜いてやがった。

 

 モブの不自然な強化イベントにもようやく納得がいった。

 あんな怪物共の弟子になって揉まれてりゃ、そりゃあ凡才でもそれなりに強くなれるわな。

 今日使ったエアガンは便利だが、銃器は保管と維持管理に気を配らなきゃならねえ。

 なにより梁山泊の怪物を基準に考えたら、いつまでも依存はできねえな。

 

 ――認めてやる。今のオレはあの怪物達には届かない。

 だが、才能はオレの方が上だ。

 まずはラグナレクの連中を()()()()てやるとして、いつか必ず全員ゴボウ抜きでブチ抜いてやる。

 

 ……背中の汗が冷えてきやがった。

 まあいい。

 あの程度の()()でオレの本心を誤魔化せるなら安いもんだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってのも新鮮な体験だったしな。

 

 あのマンガ……面白かったのに、不祥事で打ち切られちまって、もったいねー。

 




今調べたら原作者の方、別名義で連載してたんすね……
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